くらしとバイオプラザ21

ニュース

サイエンスカフェ 「メッセンジャーRNAって何だろう? byモデルナ」 第2回 質疑応答

2023年8月4日、三鷹ネットワーク大学の主催でサイエンスカフェ「メッセンジャーRNAって何だろう?byモデルナ」がオンラインで開かれました。

スピーカーは、モデルナ・ジャパン(株)メディカルアフェアーズ本部本部長 向井陽美さんです。質疑応答では多くの質問が寄せられ、向井さんからも丁寧な回答がありました。本記事では、質疑応答の内容について紹介します。本編の内容は、別途、以下の記事でレポートしていますので、こちらも併せてご参照ください。

ポスター

ポスター

質疑応答

なぜ1回の接種で済むワクチンと、何度も打たなければならないものがあるのですか?

抗体がどのくらい維持できるかによって、変わってきます。病原性を弱めた病原体そのものを投与する生ワクチン(BCG, 麻疹、風疹、水痘など)は一生で一回投与とされていますが、個人個人で抗体がどれぐらい保てるかは違ってきます。新型コロナのワクチンの場合、多くの人で約半年で抗体価(※)が下がってくることが分かっているので、年に1~2回程度の接種が推奨されています。新型コロナや季節性インフルエンザのように、ウイルス側少しずつ変わっていくため、それに合わせて更新していく必要があるという側面もあります。

※抗体価:血液検査で測定できる中和抗体の量。ウイルスを失活させる作用があるものを特に中和抗体と呼ぶ

猛威を振るった新型コロナウイルスですが、最近では重症化が収まりつつあります。これはひとえにワクチンの効果なのでしょうか。さらに集団免疫が進んだからでしょうか?

ウイルス側の要因とヒト側の要因があると思います。ウイルス側の要因としては、変異株による体内の感染部位の違い(肺の奥まで入りやすいウイルスと、そうではないウイルスがあり、各変異株により体の中のどこまで行くかは異なります)や、増殖能力があります。変異株のタイプによっては重症化しにくいものがあるということです。

ヒト側の要因としては、ワクチンの効果と集団免疫の両方が考えられます。ワクチンの効果により、中和抗体をはじめとする免疫が活性化されて、重症化を防ぐことになります。実際にコロナウイルスに感染した人も同様に、免疫が活性化され、活性化した状態が続いている間は、重症化を防ぐことができるようになります。

日本が「ワクチン後進国」と言われる理由は、何だと考えますか?

一つは、ワクチンというものが、そのメリットを直接実感しにくい点にあると思います。

病気になった時は、皆さんも薬を使うと思います。血圧の薬なら、数値が改善したり、解熱剤なら熱が下がったりと目に見えて効果を実感しやすいです。もちろん、高血圧などの薬にも、副作用がないわけではありません。それでも、実感できるメリットがそれを上回れば、治療を継続されると思います。

一方で、ワクチンの効果は実感しにくいものです。自分がワクチンにより感染症にかからずに済んだのか、あるいは感染しても重症化せずに済んだのか、推察できても実感できません。でも、発熱やだるさ、接種部位の痛みや腫れといったワクチン接種後の副反応は、明らかに実感できるものです(ただし、この副反応として現れる炎症反応も、抗体をつくる上では必要なので、完全になくすことは難しく、そのバランスが重要となります)。

こうしたワクチンの特性とも言える治療薬との決定的な違いが、「ワクチンは嫌だな」という気持ちにつながるのではないでしょうか。そうした気持ちが強くなると、ワクチン忌避につながってしまうことになると思います。。いろいろなことに安全第一を考える日本の文化的な背景もかかわっているかもしれません。

従来に比べ、新型コロナのワクチンで副反応が強いと感じる人が多かったのはなぜでしょうか?

直近の経験の中で比較すると、そう感じるかもしれませんが、一概にコロナのワクチンが他のものに比べ、副反応が強いとは言い切れません。

前述のように、炎症反応が起こらないと、抗体もうまくつくれるようにならないという一面もあります。ある程度、刺激がないと抗体も増えてきません。特にコロナのワクチンが作用する過程では、インターフェロンという炎症性のサイトカイン(タンパク質の一種)が、免疫細胞から出されることが重要な反応となるため、結果として、発熱などの炎症反応が現れやすいということになります。

副反応の程度と抗体量の相関を示すデータはありますか?

ワクチンの副反応の程度と、体内でつくられる抗体の量には、一般的に相関があると言われています。また、若い方の方が高齢者に比べると、免疫応答も強く(つまり抗体価も高く)、副反応も多い傾向にあるようです。データについては学術論文のほか、自施設の研究結果をホームページで一般に公開している機関があります。

実際のウイルス感染により体内でつくられる抗体と、ワクチン接種によりつくられる抗体に違いはありますか?

全く同一ではないと思います。感染した場合はウイルス全体が体に侵入するのに対し、成分ワクチンや核酸ワクチン(詳しくは本編のレポート参照)は、ウイルスによる感染の一部を疑似的に再現しています。体内にある抗体が過去の感染でできた抗体なのか、ワクチンによってできた抗体なのか、検査で見分けることもできます。

mRNAは壊れやすい物質ということでしたが、PCRの検査でRNAを増やすことはできないということでしょうか?

RNAそのままですと、とても壊れやすいので、RNAを増幅して調べたい場合は「逆転写」を行います。まずmRNAから 相補的DNA(cDNA)を作成します。こうするとRNAと違って壊れにくくなるのでcDNAをもとにPCRで増幅することが可能になります。このような方法をRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)と呼びます。

mRNAワクチンの細胞や遺伝子に対する影響が心配です。安全性を調べる長期的な評価は行われているのでしょうか?

ご心配はもっともだと思います。弊社で初めてmRNAワクチン(コロナワクチンではなく、インフルエンザワクチンの候補)が臨床治験でヒトに投与されたのは2015年です。それから8年になります。10年、20年経ってどうかということは現時点ではまだわかりませんが、今のところ重大な懸念は報告されておりません。弊社としては長期の安全性評価として今後も治験に参加していただいた方のフォローアップを継続して行ってまいります。

今後、mRNAワクチンがよりリーズナブルに提供できるようになった場合、新型コロナ以外のインフルエンザ等にも置き換わっていく可能性は?

そうですね、あり得ると思います。mRNAワクチンの特徴としてLNP(※)という膜の中に包むmRNAは自在に変えることができるので、mRNAのインフルエンザワクチンもすでに開発されています。さらに、何度も予防接種を受ける手間を省くために1つのLNPの中に、例えばインフルエンザ、新型コロナ、RSウイルスのように複数のmRNAを入れた混合ワクチンの治験も始まっています。

※LNP:リキッドナノパーティクルの略。詳しくは、本編のレポートをご参照ください