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サイエンスカフェ 「メッセンジャーRNAって何だろう? byモデルナ」 第1回 質疑応答

2023年7月22日、港区立みなと科学館にて、サイエンスカフェ「メッセンジャーRNAって何だろう?byモデルナ」が開かれました。

スピーカーは、モデルナ・ジャパン(株)メディカルアフェアーズ本部本部長 向井陽美さんです。お話の前後では質問タイムが設けられ、多くの参加者からさまざまな質問が寄せられました。本記事では、その質疑応答について紹介します。本編の内容は、別途、以下の記事でレポートしていますので、併せてご参照ください。

参加者の質問に答える向井さん

参加者の質問に答える向井さん

質疑応答

「セントラルドグマ」のお話がありました。最終的につくられたタンパク質は何になるのでしょうか。また、栄養成分として接種したタンパク質は、体内でどうなるのでしょうか?

私たちの体を構成する成分の約2割がタンパク質です。その中には、さまざまな機能のタンパク質があります。例えば、酵素もタンパク質の一種です。よく聞く消化酵素は、食べ物を分解するために胃酸に含まれています。

お肉を食べると、その肉に含まれるタンパク質を、胃で分解するのが、ヘプシンという消化酵素です。栄養として接種したタンパク質は、アミノ酸に分解され、やがて細胞の中でタンパク質を合成する際の原料として供給されるのです。ちなみに、タンパク質を構成するアミノ酸のうち、ヒトや動物が体内で作ることができず、食事からの摂取が必要なものは、特に「必須アミノ酸」と呼ばれています。

ワクチンは免役に病原体のことを“予習”させる、というお話でした。一方で、スズメバチに2回刺されると危ないと聞きます。何か関係はありますか?

抗体は、病原体のような異物をやっつけるために免疫細胞がつくる“飛び道具”です。異物によって、つくり分けているので、初めての異物が体内に入ってきたときには、抗体をつくるのに時間がかかります。一方で、2回目に外敵が侵入してきた時には、すでに戦う準備ができているので、すばやく抗戦することができます。しかし、ときにそれが重い反応として全身に現れるのが、アナフィラキシーショックです。

ワクチン接種でも、初回よりも2回目以降の副反応が重いことがあります。副反応は抗体のでき方にも関係しており、年齢や個人差によるところが大きいです(※次の2つの質問に続きます)。

「副作用」や「副反応」と言ったりしますが、何が違うのでしょうか? 

おそらく「副作用」の方がよく耳にする言葉だと思います。これは、薬が体に作用する過程で、本来の目的とするはたらきとは別に起こってしまう症状のことです。例えば、ある薬を飲んだことで、胃の調子が悪くなってしまった、という場合です。

一方で、ワクチンを打った後に起こる健康上の問題のうち、ワクチンが原因であるものを「副反応」と言います(ただし、ワクチンを接種した後に起こったすべての有害事象が、ワクチンの副反応とは限りません)。

副作用も、副反応も、完全になくすのは難しいものですが、治療薬の場合は、副作用があっても、それ以上に薬の効果を実感しやすいと思います(例えば、降圧剤を飲むことで血圧の数値が下がる、解熱鎮痛剤で熱や痛みが和らぐなど)。

しかし、ワクチンの効果は、なかなか実感しにくいものです。複数の感染対策をしているでしょうし、ワクチンを接種していても、感染することはあります。ただ、罹患したときに、ワクチンのおかげで軽症なのかどうかは、自覚しにくいと思います。これが、ワクチンを避ける理由の一つにもなっているのだと思います。

ワクチンの副反応をなくすことはできないのでしょうか?

ワクチンを打つと、免疫細胞が抗体をつくることに伴い、炎症反応が起こります。これが副反応として現れます。ワクチンにも、さまざまなタイプがあることをお話しましたが、どのワクチンでも、抗体をつくることを目的としていて、そのためには、ある程度の炎症反応も必要となってきます(※)。

もちろん、効果があって、副反応が小さいものが理想です。抗体の生成量と副反応のバランスが鍵になります。新型コロナを受けて開発したモデルナ社のワクチンはmRNAワクチンです。mRNAを体内に摂取することで、細胞の中でウイルス特有のタンパク質を再現してつくり、抗体の産生を促すというものです。同じくコロナを受けて開発された他社のmRNAワクチンに比べると、mRNAが多く含まれているので、副反応の程度も大きかったかもしれません。現在、ワクチンとしての効果を維持しながらも、mRNAの量を減らすための研究を進めています。

※副反応と抗体価の関係については、こちらのレポートでより詳しく解説しています。

そもそも、注射が苦手です。どうにかならないでしょうか……?

たしかに、そういう方は多いですよね。麻酔効果のあるテープを予め貼ると、痛みは改善します。新型コロナのワクチンで早急に投与経路を変更するのは簡単ではありませんが、吸入薬タイプのワクチン開発も行われています。

まだ撲滅できていない感染症にはどのようなものがありますか?

これまでに人類が「撲滅できた」と言えるのは、天然痘だけです。感染症全体のうち、ワクチンがある感染症の方が少なく、ワクチンのない感染症の方がまだ多いのです。例えば、都内でも感染事例が報告されたデング熱もその一つ。デング熱は蚊が媒介するので、蚊に刺されないようにすることが今のところ最善策となっています。

免役の話に関連して、自己免疫疾患についても教えてください。また、mRNA医薬が応用できる可能性はありますか?

免役は、本来、外部から体に入ってきた病原体や、がん細胞のように正常な細胞とは異なる「異物」を排除するためのシステムです。ところが、誤って自分自身の正常な細胞まで過剰に攻撃してしまうのが、自己免疫疾患です。潰瘍性大腸炎や、関節リウマチといった病気は、皆さんも聞いたことがあると思いますが、これらも自己免疫疾患です。遺伝性の疾患や、根本的な治療法が見つかっていないものも少なくありません。

一方で、mRNA医薬の特徴としては、どんなタンパク質でもコードできる点、つまり、病気の原因となるタンパク質をなくしたり、機能的なタンパク質を作らせたりすることができる点が挙げられます。自己免疫疾患については、mRNAによりPD-L1を発現させることにより過剰な免疫反応を抑えよう――――といったアプローチが考えられています。

新型コロナのワクチン以外で、すでに世界で開発が進んでいるものとしては、がんワクチンを含むがん免疫療法、遺伝的に酵素が欠損している疾患に対し酵素のmRNAを投与することにより自らの体内で酵素ができるようにする治療法や心血管疾患などに対するものがあり、今後さらに活用の幅が広がることが期待されています。