「『世界の遺伝子組換え作物』の現状に関する最新報告会」
~日本はなぜ、いまもGM作物は栽培されないのか~
2025年9月4日、日比谷図書文化館セミナールームで「遺伝子組換え作物の映画実行委員会」が主催する「『世界の遺伝子組換え作物』の現状に関する最新報告会」が、食生活ジャーナリストの会 小島正美さんの司会により行われました。講師の国際アグリバイオ事業団(ISAAA)執行役員 ロードラ・ロメロ・アルデミータさんから、2019~2024年の世界の遺伝子組換え作物・ゲノム編集作物の状況について報告が行われました(逐次通訳 NPO法人北海道バイオ産業振興協会 名誉会長 冨田房男さん)。

アルデミータさん(右)と逐次通訳の冨田さん(左)
主なお話
国際アグリバイオ事業団は、世界への情報提供、政策、能力の構築、連携するための知識の共有を行っている。市民にどうしたら理解してもらえるかについても触れたい。
1.遺伝子組換え作物
遺伝子組換え作物の栽培面積は2019年から10%増化した。発展途上国で59%、先進国で41%の増加。31か国で栽培され、32か国で栽培することが承認されている。新しく加わったのはマラウィ、ケニヤ、ガーナ。アフリカが加わった意味は大きい。アフリカではダイズ、ササゲ(カウピー)などのGM豆類が栽培されている。
アメリカだけで、トウモロコシ、ダイズ、ワタ、アルファルファ、ナタネ、サトウダイコン、ジャガイモ、パパイアなど14種の作物が栽培されている。
アメリカが作っていないナスは、バングラディッシュが1位で、フィリピンが2位で栽培されている。ブラウンマスタード、バナナ、サトウキビ、サトウダイコンなど、作物の種類は本当に増えた。
栽培面積が最も大きい国は、第1位がアメリカ、2位がブラジル、アルゼンチン、インド、カナダと続く。アジア・太平洋地域をみると、中国、オーストラリア、インド、パキスタン、インドネシア、バングラディッシュ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマーで栽培されている。
栽培されている作物のうち、最も多いのはワタで22か国において栽培され、トウモロコシは18か国、ダイズは12か国。
承認された形質は全部で167種類。最も多いのは、除草剤耐性と害虫抵抗性の両方を持つもので、除草剤耐性だけのもの、害虫抵抗性だけのもの、収量増加などと続いている。品種の数は全部で534。そのうちトウモロコシが209、ワタが74、ダイズ53、ジャガイモ51、ナタネ41となっている。
直近の5年間で新しく栽培されるようになった作物は、TERE(干ばつ耐性・害虫抵抗性)トウモロコシ、ゴールデンライス(カロチンを強化)、TR-4(熱帯の土壌伝染性親近性疾患)抵抗性バナナ、収量の高いユーカリ、早く育つペチュニア(花き)、空気を浄化するポトス(観葉植物)。
日本では遺伝子組換え作物の商業栽培は行われていないが、アメリカに次いで世界第2位で多くの種類の遺伝子組換え作物を承認している国である。
遺伝子組換え作物のメリットは、収量を増やす、農薬の使用量の削減、単収増加により森林伐採を止めることができて環境保全への貢献、二酸化炭素排出量の削減、貧困と飢餓の救済(14か国1700万人の貧しい生産者の救済)。
傾向としては、インド、パキスタン、バングラディッシュでは、ワタが増えている。カナダは褐変しないリンゴ、アルファルファ。中国では、一番多いのはワタだが、遺伝子組換え作物の種類が増えていることが特徴。グリーンペッパー、トマトも登場している。
また、フィリピンでは、ゴールデンライス、ワタ、ナスの種が農家に行き渡っている。しかし、今は反対派が訴えで勝訴し商業栽培中止になってしまった。
2.ゲノム編集作物
遺伝子組換えとみなされないゲノム編集作物は遺伝子組換え作物の課せられる規制から外れ、環境影響評価が不要になり、申請が簡単になる。
実用化されているものでは日本が最も早く、高GABAトマト、肉厚のタイ、成長の早いトラフグ。フィリピンの高タンパク質ダイズ。アメリカの種なしベリーがある。
遺伝子組換えとみなされないゲノム編集作物への考え方は、日本、オーストラリア、フィリピン、タイ、インドが同じ。最もよく使われている技術はクリスパーキャス9。クリスパーキャス9の研究が進んでいるのは、中国、アメリカ、そして日本の順。
ISAAAでは、実用化されたゲノム編集動物のデータベースを作成した。アルゼンチンでは高温に強い牛、日本ではマダイ、トラフグ。アルゼンチンではテラピア、牛、豚(含 申請中)。形質ではウィルス抵抗性の牛、成長の早い魚などがある。
11月2-7日ゲノム編集動物の会議をベルギーで開く。日本からも招待したい。
質疑応答の後、「なぜ日本では組換え作物が栽培されないのか」というタイトルで、北海道産業振興協会 名誉理事長 冨田房男さんより、全国の自治体における遺伝子組換え作物野外栽培への規制、第一種使用(野外ほ場での栽培)、大量に輸入されている遺伝子組換え作物の生産分別流通管理と表示の状況などについて説明がありました。ことに、北海道は日本の中でも貴重な広大な耕地に恵まれているのに、申請手数料が32万円もかかるなど、厳しい規制によって実質的に遺伝子組換え作物の栽培ができない状況であることが報告されました。会場からも多くの発言があり、冨田さんからは、日本政府に農政のことを深く考えてほしいという呼びかけがありました。
9月5日アルデミータ博士と富田博士がくらしとバイオプラザに来られました。そこで、遺伝子組換え作物やゲノム編集食品をめぐるリスクコミュニケーションについて意見交換を行いました。アルデミータ博士は、くらしとバイオプラザ21の実践例に関心を持たれ、ISAAAで収集している遺伝子組換え作物やゲノム編集食品に関する情報を大いに活用してほしいといわれました。
