くらしとバイオプラザ21

ニュース

令和7年度 遺伝子組換えイネの第一種使用等による栽培に関する説明会

2025年5月13日、標記説明会が農研機構観音台第二地区観音台西第3本館大会議室で開かれました。この遺伝子組換えイネは、花粉症の治療に用いる米の研究を行うために栽培されます。栽培にあたっての安全管理体制、根拠になる実験指針、昨年の栽培結果と今年の実験計画について説明がありました。最後には栽培予定の圃場を見学することができて、交雑防止・混入防止対策がどのように行われるかが説明されました。

説明会 会場

説明会 会場

「農研機構における安全管理体制」
農研機構企画戦略本部新技術対策課長 古澤 軌氏

第一種使用規程承認を受けた遺伝子組換え作物は、承認を受けた第一種使用規程の他、農研機構では農林水産省農林水産技術会議事務局が定めた「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」(以下「作物栽培指針」)、茨城県やつくば市が定める方針に従って管理・実験を行う。これに対して、閉鎖系で試験を行う「第二種使用等」は「研究開発第二種省令」に従う。
栽培試験は安全管理と実験推進の二つの独立した体制で支える。安全管理には管理責任者と管理主任者をおき、実験推進には栽培実験責任者、作業管理主任者 情報提供主任者をおく。安全管理部隊側の指導・助言のもと、実験推進側部隊が作業に当たる。農研機構内の遺伝子組換え安全委員会では第一種使用等の審査(作物、カイコ)と第二種使用等の審査も行う。また、緊急時においては、内部だけでなく自治体、農協、農水省、環境省、文科省への連絡体制も整えてある。

「第一種使用規程承認組換え作物実験指針」
農林水産省農林水産技術会議事務局 研究企画課イノベーション戦略室 岡里良平氏(オンライン参加)

第一種使用規程により承認された組換え作物はカルタヘナ法に則って、国民の理解を得ながら試験栽培を進める。
交雑防止措置:作物ごとに隔離距離が定められていて、イネは他のイネ栽培のほ場とは30m以上の距離をおき、開花期の平均風速が3m以下の地域で栽培することになっている。台風等の強風が想定される場合は袋掛け、除雄(雄しべを取り除く)するなどして花粉飛散を防止する。また、研究所外部で栽培されている同種作物との交雑の有無も調査する。
混入防止:栽培準備から収穫・保管までの分別管理を徹底し、使用した機械の洗浄を行う。作業は隔離圃場内で行い、収穫物を実験室に運ぶときは密閉容器を使う。
情報提供:実験計画書公表、説明会開催だけでなく、栽培の各段階での情報提供を行う。
栽培実験は栽培実験責任者、作業管理主任者、情報提供主任者をおいて管理体制を整え、農林水産技術会議事務局が実施状況を確認する。

「令和6年度栽培実験結果と令和7年度栽培実験計画~スギ花粉ペプチド含有イネの栽培」
農研機構作物ゲノム編集研究領域長 高原 学氏

(1)スギ花粉ペプチド含有イネ

アレルゲン免疫療法(減感作療法)では、微量のアレルゲンを摂取し続けてアレルゲンに馴らして症状を緩和する。花粉症の減感作免疫療法には皮下免疫療法(注射)と舌下免疫療法がある。減感作療法を受けた7~8割の人に効果があり、4~5年後も8~9割の人に効果が持続するとの報告がある。
私たちは遺伝子組換え米を使って副作用がより少ない療法を開発したいと考え、約20年前から取り組んでいる。米のPB-I(難消化性タンパク質顆粒)に有効成分を高蓄積させる。PB-Iは腸管に届き、腸管免疫によって高い効果が期待される。
今年度栽培試験を行うスギ花粉ペプチド含有イネは、キタアケというイネ品種(生育期間が短い、研究用イネの品種)に、土壌の微生物であるアグロバクテリウムを使った方法によって2つの遺伝子カセットを導入している。1つは、2種類のスギ花粉アレルゲンであるタンパク質(Cry j 1とCry j 2)の花粉症症状緩和に重要なエピトープと呼ばれるペプチド領域7か所を連結したハイブリッドペプチド(7クリップ)の遺伝子である。もう1つは、遺伝子組換え体選抜のために必要なハイグロマイシン(抗生物質)耐性遺伝子である。遺伝子導入後、ハイグロマイシンの入った培地上でうまく遺伝子が導入されたカルス(細胞の塊)だけが生き残る。このように組換えが起こった個体をカルスの段階で選抜し、再生させてからイネの苗として育てる。

(2)令和6年度試験栽培の結果

目的は、栽培特性の調査と、医薬品として剤型などの検討に用いるため。11アールの隔離圃場で6月3日播種、12日田植え、9月5日収穫。10月2日残渣鋤き込み。12月16日にひこばえの枯死を確認。1月9日に再度漉き込み完了。収量は約450kgだった。
交雑防止措置
隔離圃場はフェンスで囲まれている。その中では、遺伝子組換えイネの比較対照として、組換えイネの元の品種であるキタアケも栽培。農研施設内の他のイネからは30m離し、外部の水田から500m離れている。
開花期に低温になったり、台風で強風が吹いたりすると、他の圃場で栽培しているイネとの交雑するリスクが高まることがわかっているが、そのようなことも起きなかった。
農研機構敷地外部への花粉飛散がないことを確認するため、指標作物「はくちょうもち」のポットを農研機構敷地と外部との境界において栽培したが、交雑は認められなかった。なお、モニタリング調査は、乳白色のもち米が半透明のうるち米と交雑すると半透明になるため、交雑の有無がすぐにわかる、ということを利用して行う。
拡散防止措置
播種から収穫まで種子は密閉容器に入れ、使用した機器は洗浄し、収穫・脱穀は隔離圃場か実験室で行った。調査終了後の種子はオートクレーブして不活化する。

(3)令和7年度計画

目的、栽培規模(11アール)、栽培スケジュールは令和6年度と同じ。交雑防止措置、ハクチョウモチを用いたモニタリング調査も同様に行う。実験終了後も同じように混入防止措置を行う予定。

質疑応答

2023年6月の「花粉症に関する関係閣僚会議」でスギ花粉米の実用化に向けた臨床研究等の実施が決まり、2024年1月、農林水産省では「スギ花粉米の実用化に向けた官民連携検討会」が設置されました。それらの検討をふまえて2024年度から栽培実験が行われています。
質疑応答では「医薬品はいつできるのか」「機能性表示食品になるのか」に質問が集中しました。医薬品として剤型などの検討に用いる材料となる遺伝子組換え米を供給することが、当面の目的とのことでした。また、そのための製薬企業との連携を目指して、有効性、安全性に関するデータ取得を進めるとのことでした。去年と今年は同じ規模での栽培ですが、実用化に向けたスケールアップについても将来的には検討されていくことが期待されます。

隔離圃場の見学 観音台第2事業場 隔離圃場

栽培予定の隔離圃場。奥に見える白い建物に器具や収穫後の種子等を格納している。

栽培予定の隔離圃場。奥に見える白い建物に器具や収穫後の種子等を格納している。

フェンス上にはセンサー、フクロウ模型の見張りを設置している。水は隔離ほ場内敷地の地下に設置した浸透桝に集めて、圃場内で処理。<br>
光る糸が水平に張ってある(矢印のあたり)。

フェンス上にはセンサー、フクロウ模型の見張りを設置している。水は隔離ほ場内敷地の地下に設置した浸透桝に集めて、圃場内で処理。
光る糸が水平に張ってある(矢印のあたり)。

現在、遺伝子組換えイネを栽培する予定の水田はきれいに鋤き込まれて、乾いた状態でした。ここに水を入れてもう一度鋤き込んで、6月11日に田植えが行われるそうです。遺伝子組換えイネや米は圃場から持ち出されると困るのでフェンスで囲まれています。また、セキュリティシステムが作動しています。これまで鳥の侵入でセキュリティシステムの誤作動があり、担当者が現地にかけつけることがあったのですが、今年はフクロウの人形を付けたり、フェンスの上端のすぐそばに光る糸を張ったりして、鳥によるセキュリティシステムの誤作動侵入はほぼなくなっているとのことでした。排水桝にはこぼれた種子も集められますが、腐ってしまうので、隔離ほ場の外に出て発芽することはないそうです。
こうして、圃場の外で、自然に遺伝子組換えイネが生えたりしないように厳しい管理、ダブルチェック、トリプルチェックが行われます。作業者の皆さんが細心の注意をはらってカルタヘナ法を順守されていることが伝わってきました。