サイエンスカフェみたか「プラスチックと人類および地球環境の共存を目指して」
2025年4月24日、サイエンスカフェみたかが開かれました(主催 三鷹ネットワーク大学)。お話は、東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻高分子材料科学研究室 教授 岩田忠久さんによる「プラスチックと人類および地球環境の共存を目指して」でした。

ただいま配信中(写真提供 岩田忠久さん)
主なお話の内容
プラスチックを作ること、捨てること
現在、使われているプラスチックはほぼすべて石油を原料としている。プラスチックは成形しやすく、軽くて丈夫で長持ちし、人々の生活を快適にしてきた。原油に含まれるナフサを原料として、エチレン、プロピレンなどの石油化学基礎製品がつくれる。これが集まってポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子になって利用される。
1100万トン作られるプラスチックの4分の1がポリエチレン(柔らかいフィルム)とポリプロピレン(少し硬くて、成形できる。ペットボトル、ストロー)。ポリ塩化ビニルは15%ほどで光に強く水道管などとして野外で使われることが多い。ポリスチレンは7%で発砲スチロールになる。ポリエチレンテレフタレート(PET)は4%で、ペットボトル、衣類の繊維になる。これらが5大高分子といって75%を占める。ゴミとしてだされるのも5大高分子のうち1000万トン/年。
日本人ひとりあたり、毎日、110gのプラスチックを捨てていることになる。500mlのペットボトルは35gでリサイクルしやすいが、紙おむつは20~30gのプラスチックを使っていてこれはリサイクルしにくい。1回のお弁当のトレイとふた、ペットボトルで80g。一人一人が捨てるプラスチックを減らさなくてはならない。これは、原油500mlから125gのプラができるから、日本人は原油500mlを毎日燃やしている計算だ。
プラスチックの回収
ペットボトルは8割が回収できていて、この回収率はかなり高い。ドイツでも回収率は50%、アメリカ20%余。
回収プラの20%が埋め立てか焼却。58%がサーマルリサイクル(燃やすときに出る熱を利用)。15%がマテリアルリサイクル(ペットボトルにしたり繊維にしたりする)。6%がケミカルリサイクル(高分子であるポリエチレンからエチレンに戻して使う)。海外ではサーマルリサイクルはカウントしないので、その計算方法だと日本でのリサイクル率は20%となる。
プラスチックはつくる工程で二酸化炭素が出て、処分するときも二酸化炭素が出る。
プラスチックごみは捨てられると、光で劣化して小さくなって川を通って海に出る。東アジアから多くのプラが海洋にでている。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム スリランカなど。海に出るとマイクロプラになって問題になる。
バイオプラ
化石燃料を大事にするために、植物を使えば二酸化炭素をとりこみ、光合成しているから長い目で見るとカーボンニュートラルになる。バイオマスからつくるのが「バイオマスプラスチック」。「生分解性プラ」は微生物の酵素で低分子化合物になり、水と二酸化炭素に分解される。この二種類をバイオプラスチックと呼ぶ。生分解性プラは石油からつくっても、バイオマスからつくってもよい。つまり、コンセプトが違う。
今、トウモロコシやサトウキビからバイオエタノールを作り、そこからつくるバイオポリエチレンがブラジルで作られている。これは環境中では分解しない。例えば「バイオマス30」マークがついていても分解しない。バイオマス30とは石油からつくったポリエチレンにバイオプラを30%混ぜたという意味。
石油からつくっても生分解するポリカプロラクトンもあるし、バイオマスから作ってもバイオポリエチレンは生分解しない。ポリ乳酸はバイオマスからつくられて生分解もする「生分解性バイオマスプラ」と呼べる。
バイオマスからつくった生分解しないプラをつくった場合、石油を使っていないから燃やしてもカーボンニュートラルになる。
新しいバイプラスチック
それでは、バイオマスからしか作れない新しいポリマーを作ろう!非可食原料(木材など)から作る。例えば、サトウキビの搾りかすは非可食原料。
石油合成ポリマーと同じポリマーをバイオマスからつくる技術はできているが、バイオマスプラはコストが高い。
バイオマスからつくられているが、石油合成ポリマーと似た性質を持ったポリマーをつくればよい。トウモロコシのでんぷんを酵素で加水分解し、グルコースを乳酸発酵してポリ乳酸をつくる。これは食品の包装資材やパソコンの部品、フロアマットに使われている。ポリ乳酸はコンポストで分解する。コンポストとは、微生物の入った土で、生ごみを入れると発酵して「たい肥」にする。温度は60度で、湿度も60%以上。愛知万博ではポリ乳酸のトレイを使って、牧場でコンポスト分解した。
今年のゴールデンウィークから、スターバックスのストローは微生物が生産するポリエステルで作られたものになる。これはコンポストでなくても、どんな環境でも分解する。「おーいお茶」紙パックのストローも完全分解ストロー。
カネカは2万トンの微生物産生ポリエステルをつかった食器などを製造している。強度が強い糸なのに、海だと分解する、釣り糸や漁網も開発中。伸縮して切れない繊維も作っている。体の中でも生分解するので手術用縫合糸など。
虫歯菌が酵素を出してつくる歯垢は高分子だから、虫歯菌で砂糖水からプラスチックが作れる。
生分解性プラスチック
環境中にはいろんな微生物がいる。プラスチックを作る微生物も、分解する微生物もいる。酵素によって分解されてモノマーになり、それを微生物がとりこみ代謝する。使った後でコンポストに入れなくても自ら分解するような酵素を、プラスチックの中に入れることも考えている。
私は洗濯機や冷蔵庫につかうものに生分解性プラを使う必要はないと思っている。農業のマルチフィルム、肥料の被覆材、ゴルフのティー、釣り糸など自然環境で使い、回収しきれないものに使うべき。生ごみがついて分別できないファーストフードのトレイもコンポストがいい。
生分解性プラスチックといってもどのくらいの期間で分解すればいいのかなどの問題があり、ISOの基準作りをしている。海洋で分解する生分解プラスチックの基準をつくった。海底に沈んだプラは嫌気的環境で分解されるのか、分解する微生物はいるのかも考えなくてはならない。
基準をクリアすると日本では、「生分解性プラスチック」「生分解性バイオマスプラスチック」のマークをつけられる。日本で開発してマークをつけたプラスチックをアメリカに輸出したら、アメリカでのマークをつけられ、アメリカでのテストをしないでよくなる。
問題点
鳥がプラスチックを食べてしまったり、釣り糸がからまったりするのは目に見える被害。日本の洗濯機には繊維くずを回収するネットがついていて、繊維くずを回収できるが、他国ではそのようなネットはついていない。従って、多くの繊維くずが環境中に流れ出ている。歯磨き粉、化粧品には5-10ミクロンの微粒子の研磨剤(ポリエチレンなど)が入っていて洗面所から流れて海底にたまる。
使っているときには分解しないが、生分解プラスチックに自分を分解する酵素をいれることで数十日で分解する。酵素が入っているので、小さい破片になっても各々が分解していく。
プラスチックは成形しやすく、丈夫で軽くて使いやすく、用途によって使い分けていけばよいと考えている。バイオマスからつくり出して自ら分解するプラスチックが広まれば、カーボンニュートラルになり、マイクロプラスチックも出なくなる。
質疑応答では、「野外で使うプラスチックをすべて生分解性プラスチックにする場合、どのくらいあればいいのか」「海底の高水圧で暮らしている微生物が分解できるプラスチックがデザインされるといいと思う」「プラスチックには添加物が入っているというが、生分解がうまくいかない添加物はあるのか」「生分解性プラスチック普及はどうしたらいいのか」などの質問や意見がでてきました。欧州は規制から入って一気に進める傾向があるそうですが、日本は異なる立場の意見を聞いていてなかなか実用化に向かっていないようでした。アメリカは砂漠の真ん中に埋めているといい、国によって対応の仕方が異なることもわかりました。