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ブレンダーのつぶやき

2025年4月12日、三鷹ネットワーク大学で第12回「ブレンダーのつぶやき~蒸溜酒の造り方・楽しみ方」が開かれました。講師はサントリーブランデーの元主席ブレンダー 冨岡伸一さん。冨岡さんは現在、昨年立ち上げた川島酒造・琵琶湖蒸溜所で日本発のウイスキーに挑戦されたり、今回のような蒸溜酒を楽しむセミナーを開催されたりしています。今日は10種類のお酒のテイスティングをしながら、楽しみ方、歴史、科学的な根拠などについてお話をいただきました。

富岡伸一さん

富岡伸一さん

設営の第一段階完了。これからお酒が並びます。

設営の第一段階完了。これからお酒が並びます。

お酒のテイスティング
お酒のテイスティング

お話の主な内容

おいしい飲み方

常温で水と1:1で混ぜて「トワイスアップ」にするとアルコール度数は約20%になる(蒸溜酒製品は普通40~43%なので)。「トワイスアップ」にすると香りも味もとてもよく分かり美味しさが楽しめる。世界中のブレンダーは「トワイスアップ」でテイスティングする。トワイスアップで最も香りが立つことには科学的な根拠もある。(20%のアルコールで、エタノールの体積が最小になるため)
まずはストレートでグラスに蓋をしたまま軽くステアしてグラスの中のお酒を混ぜる。蓋を少し開けて香り(トップノート)を聞く。一口含んで息を吸い込みながらお酒に空気を通しながら口中香を聞く。次にグラスのお酒の等量の水をいれて蓋をしてステアする。この「トワイスアップ」でストレートと同じ動作を繰り返す。トップノートの香りを何度か楽しみ、一口含んで口中香を楽しむ。飲み込んだ後のアフターテイストを楽しみ、時にはおなかから戻ってくる香りを楽しむ。いいお酒はおなかに入ってあと匂いがもどってくる。

お酒の造り方

ウイスキーはオオムギの麦芽の酵素を使って糖化してから発酵させる。日本酒は米を麹で糖化する。穀物のでんぷんから醸造酒を造るには糖化が必要。ブドウやリンゴから造れば果汁は糖を含むので糖化のプロセスが不要になる。
できた醸造酒を過熱して冷やして結露を集めたのが蒸溜酒。ワインからブランデーが生まれる。ビールからウイスキーという関係になる。ただし日本酒から焼酎とはならない。連続蒸溜という方法が開発され、アルコール度数は94%まで上げられるようになり、ピュアなお酒が得られるようになった。

ウイスキーの歴史

13世紀にアイルランドでウィスキーらしきものができた。欧州で蒸留酒の消費が増大し、15世紀、密造時代には樽貯蔵による熟成効果もわかってきた。当時のウイスキーはピートの香りが強いお酒で上流階級には好まれなかった。1826年、連続蒸溜機が発明され、アルコール度数を上げられるようになった結果、ピュアなグレーンウイスキーができた。これによりブレンディッドウイスキーという飲み易いウイスキーが発明された。またフィロキセラという病気で欧州のブドウが壊滅的状態になり、ワイン・ブランデーが入手困難になった。飲みやすくなったブレンディッドウイスキーの出現により、ウイスキーが世界的に広まった。

ブランデー・コニャックの造り方

フランスのブドウからつくった醸造酒(ワイン)を蒸溜するとブランデーができ、コニャック地方で単式蒸溜を2回行ってできるのがコニャック。アルマニャック地方で半連続蒸溜機や単式蒸溜器を2回使ってできるのがアルマニャック。フランスでできるブランデーには、男性的な「アルマニャック」、女性的な「コニャック」、「マール」(滓とりブランデー)などがある。

試飲した10種類のお酒

第1番 コニャック(フランス)ヘネシー社「VSリースター」

コニャック地方は景色が美しく、おいしい食物がたくさんあるところ。8月にフランスにいってブドウの目利きをして、ブランデーを瓶に詰めて12月に帰るまでフランスに4か月滞在する生活を何年も続けていた。

第2番 アップルブランデー(日本)サンクゼール社「いいづなアップルブランデー2020」

久世福商店(長野県)で樽にいれずに瓶詰する作り方がユニーク。日本のカルヴァドスを目指している。

第3番 ブランデー・ピスコ(ペルー)ピスコ1615社「1615プーロ・アチョラード」

ペルーとチリでピスコが造られ、どちらが「元祖ピスコ?」という論争もある。
ピスコにはプーロ(単一のブドウ)、アチョラード(2つ以上の品種ブドウをブレンド)、モストベルテ(糖分が残っている果汁を使う)がある。

第4番 テキーラ(メキシコ)オレンダイン社「テキーラ オレンダイン レポサード」

テキーラは「アガベ」というリュウゼツランの根茎(でんぷん)を蒸して糖化した糖液を発酵させる。これに対してプルケは、異なる種類のリュウゼツラン(マゲイ)の芯を抜くとそこに甘い樹液がたまり、そのまま発酵して醸造酒になる。プルケを蒸溜したものがテキーラという俗説はフェイクであり、テキーラの条件にはずれたリュウゼツランから作られた蒸溜酒はメスカルと呼ばれる。
トワイスアップせずにチェイサーで1口ずつ交互にいただく。
チェイサー「サングリータ」は冨岡さんのお手製。トマトジュース、柑橘類のジュース、タバスコ、コンソメの素、レモン汁で作ります。

第5番 フルーツブランデー(フランス)マスネ社「オー・ド・ヴィー。ポワール・ウイリアムス」

洋ナシの香が特徴。洋ナシの実ができ始める前に瓶をかぶせてしまうので、洋ナシの入ったフルーツブランデーをつくれる。

第6番 モルトウイスキー(日本)川島酒造・琵琶湖蒸留所「ニューポット」(未貯蔵)

蒸溜直後の本溜液でアルコール度数は68度。水で3倍に薄めて、約20度にしてテイスティングする。

第7番 モルトウイスキー(日本)川島酒造・琵琶湖蒸留所「“ミズナラ”フィニッシュ」

バーボンの樽は木を切って最低3年間、外でさらしてから組み立てる。樽は内側を真っ黒になるまでチャーリング(こがす)する(コニャックなら、樽はあぶり“トースト”、焦がしたりしない)。バーボンは3年貯蔵すれば製品化できる。その樽は1回しか使えない。そこで、琵琶湖蒸溜所では、バーボンで使った樽で熟成させてから、別の樽で熟成させて「フィニッシュ」した。これはミズナラの樽でフィニッシュしている。

第8番 モルトウイスキー(日本)川島酒造・琵琶湖蒸留所「“サクラ”フィニッシュ」

サクラの樽でフィニッシュしている。

第9番 バーボンウィスキー(米)ビームサントリー社「クラフトバーボン・メーカーズマーク」

バーボンというとジムビームが有名だが、今日のメーカーズマークの方が柔らかい。ちなみにジャックダニエルはバーボンではなくテネシーウイスキー。

第10番 シングルモルトウイスキー(日本)ビームサントリー社「シングルモルト白州」

冨岡氏は、現在見学できる白州の工場の設計・建設から、立ち上げまで行い、最初のウイスキーをつくるところまで携わった。今の白州工場は1982年に誕生した。シングルモルト「白州」や「山崎」は、店頭に置くと買い占められて転売され、高値がついてしまうので、原則として飲食店・バー・レストラン・クラブにしか出していない。