TTCバイオカフェ「知っておきたい肝炎のこと~肝炎の“正体”を知って、しっかり予防!」
2024年11月20日、オンラインTTCバイオカフェを開きました(主催:東京テクニカルカレッジ、共催:くらしとバイオプラザ21)。お話は、東京大学医科学研究所附属病院 教授 四柳 宏さんによる「知っておきたい肝炎のこと~肝炎の“正体”を知って、しっかり予防!」でした。肝炎の予防の呼びかけをよく見かけますが、まずは、どんな病気なのか? ワクチンはあるのか?というところから幅広くお話し頂きました。
![四柳 宏さん](/img/topics/topics935_01.jpg)
四柳 宏さん
主なお話の内容
肝臓
肝臓は右のあばら骨の下の方にある。息を吸うと横隔膜が広がり肝臓も下がり、あばらの下で肝臓の下の部分に触れることができる。脳と並んで重い臓器で働きが多様。「沈黙の臓器」と呼ばれ、ちょっとやそっとではへばらない臓器だが、これがへばると黄疸、意識障害などが起こる。その役割はまさに化学工場。食物の栄養素を吸収しやすい形にし、古くなった代謝物を排せつする。
肝臓はウイルスに感染する
肝細胞がウイルスに感染するとウイルス肝炎になり炎症が起きる。経口感染するのはA型とE型で一過性。これに対して、血液感染(針さし、輸血、性交渉など)するのは、B型、C型、D型。慢性化すると肝硬変や肝臓がんになる。
感染して肝臓で炎症が起きると細胞が壊れ、酵素が血液に出てきて炎症が起きていることがわかる。このときに漏れ出すのがGTP(ALT)。急性肝炎とは、怪我してかさぶたができて終わるイメージ(炎症で壊れた肝細胞が再生する)。慢性肝炎は生傷が絶えない状態で炎症が長く続き、肝硬変になってしまう。
患者数
がんの死亡率の推移をみると、肝臓がんは男性で第4位、2012年の5位から少し上がっている。女性では6位。
毎年、新しく肝臓がんになる人は6万人で、そのうちで亡くなる人は3万人。だから肝炎はしっかり治す必要がある。女性の割合は全体の約4分の1。日本は肝臓がん対策を早くから始め、2010年ごろから減少している。年齢補正をすると1995年くらいからゆっくり減少していることになる。これは日本が肝臓がんを重く見て治療してきた結果。海外では増えている。
肝炎には届け出義務がある。その結果をみると、A型は4年周期で増加・減少を繰り返している。E型は増加中(経口感染する)。B型とC型はコロナで減っている。
A型肝炎
A型肝炎が少ない国は、アメリカ、カナダ、西ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、日本と韓国。これ以外の国は食べ物からA型肝炎をもらう恐れがある。日本はA型肝炎が少なく、2003年に45歳未満だった人はほとんど罹っていないことになり、ウイルス保有者もいない。
口から入ったウイルスは腸に行き、腸の血管から吸収され、肝臓に運ばれ、広がる。 潜伏期は1か月。免疫がウイルスという異物を持っている肝臓を攻撃するのが「黄疸期」。肝炎が起こり、血液中の抗体もこの時期に上昇する。A型肝炎の原因の3割は生カキと魚介類(2000~2014年)。
ウイルスが肝炎の人の腸から便に出る。汲み取りトイレのときは便が井戸水に入ったりして口に入った。海外には汚水処理場の汚水を含んでいる場所でカキを飼育して所もあり、食べると肝炎になる。便中のウイルスが手についた母親が調理して家族に広がった例もある。
2018~2019年に大流行があった。男性同士の性的接触によるもので、若い男性患者が多かった。A型肝炎にかかると症状がきつくて高熱がでる。慢性化は少なく、割と予後がよいが、1%は劇症肝炎になる。
A型とB型にはワクチンがある。A型肝炎ワクチンはとてもいいワクチン。A型肝炎が安心な国は先進国だけと考え、アジア、アフリカに行く時はA型肝炎ワクチンを打って出発してほしい。生水だけでなく、果実、過熱が十分でない肉にも注意が必要。
E型肝炎
E型肝炎の流行地域を見ると、危なくないのは、カナダ、オーストラリア、北欧、アフリカの一部だけ。
今、問題になっている感染症を見渡すと人畜共有感染症であることが多い。A型に罹るのはヒトとサルだけだが、E型は様々な動物と共通。gt1とgt2という遺伝子型の肝炎ウイルスはアジア、アフリカの人が罹る。gt3とgt4という遺伝子型は人畜共通で先進国に多い。また、E型肝炎患者には年配者が多いという特徴がある。
精肉店の豚レバー、ホルモンを調べたところ、22点中3点で陽性だった。豚肉、レバーの生食はしないこと! 十分に加熱すること! 豚を飼育している農業県で生レバーを食べる習慣のある地域にE型肝炎が多いことも分かっている。
日本の40~50代の10~15%は既にE型肝炎に感染していると考えられる。東南アジアの雨期、ガンジス川での沐浴などもE型肝炎の原因になっている。潜伏期1か月。E型は一般的には慢性化しないが、肝移植を受けた人(免疫不全)は慢性化する場合がある。中国にはE型肝炎のワクチンができているが、日本では使えない。
B型肝炎
B型・C型は慢性化して、最後は肝硬変、肝臓がんになることがある。肝臓は強い臓器だから、3分の1が健康なら耐えられるが、それ以上に病変が広がると黄疸、意識障害、水がたまるようになる。
急性肝炎はウイルスを排除しようとする生体の反応だから、ウイルス排除を遅らせるような治療はしない。したがってA,B,E型は慢性化しにくいので、抗ウイルス薬は投与しない。
B型肝炎は法律で届出することになっている。年間に200人ほどの届け出があるが、実際には1000例くらい感染しているのではないだろうか。感染経路は、輸血、性的接触などが多い。1か月潜伏し、肝臓に広がり、肝炎の臨床症状が出る。この間はHBs抗原は陽性。HBs抗体は肝炎が治ったときに出てくるタンパク質。ワクチンを打って肝炎にならないようにしてください。
B型肝炎の経過をみると、慢性肝炎100人のうち、無治療だと5人が肝硬変に、2人は肝臓がんになる。
1998年、ウイルスの増殖プロセスを止める働きをもっている薬、核酸アナログ製剤ができた。これは肝臓がんになる割合を下げる。肝硬変になってからでもこの薬を飲んだ方がいい。薬を飲んでも7%の人はがんになるので早く飲むことを進めたい。男性だと40歳で薬をのんでも肝臓がんになってしまう。ワクチンを打ってB型肝炎にならないことが大事。
2016年以降に生まれた子どもは国の費用でワクチンを3回打てる。B型肝炎ワクチンについて、日本は導入が遅かった。パートナーが感染している場合、体液に触れるような機会のある場合も打っておいた方がいい。副作用が少ない良いワクチンで、若いときに接種した方が抗体獲得も高い。
C型肝炎
ウイルスを排除する薬ができ、C型肝炎は減ってきている。日本のウイルスキャリアは160万人。高齢者にキャリアが多い。輸血による感染は減ったが、ピアス、刺青、静脈注射で感染する。
C型肝炎ウイルスはRNAウイルスでコロナと同じ。診断ではウイルスの遺伝子型をみて、ウイルスの存在を確認する。
手術をするときはC型肝炎検査を必ず受けてもらう。医療従事者の安全にも関わるため。治療で抗原は消えても抗体は数年、消えない。精密検査でウイルスの遺伝子を確認する。
C型肝炎ウイルスにかかると、1か月の潜伏期があり、20%は治癒するが80%は慢性化する。C型にはワクチンはない。
感染経路は、医療行為、性的接触、麻薬静脈注射、針刺し。リスク行為を知って回避しなくてはならない。
C型肝炎のウイルスがいると、肝臓にはかさぶたが重なって線維化していく。初めの10年は線維化がないが、10~20年後に症状が加速し悪化する。AST、ALTが上がり、急速に肝硬変になってしまう。それは血小板の数でわかる。血小板の数は多くの健康診断で調べており、10万は肝硬変の診断の目安で、15万になると肝臓に痛みがひどくなってくる。慢性化した人の4人に1人は肝硬変か肝臓がんになる。
まとめ
今は、治療すればほぼウイルスを消せるようになった。C型肝炎ウイルスの薬は「ハーボニー」と言って、ウイルスタンパクが出来上がってから成熟するときのプロセスを止める。肝硬変になっていた人も含め、年齢に関係なく全員治った(ウイルスがいなくなった)というすごい治験結果が報告されている。ウイルスがいなくなっても肝臓がんゼロは難しいが、肝炎は早く治療すれば肝臓がんにならない。脂肪肝が強くても肝臓がんになりやすいので、脂肪の摂りすぎにも注意が必要。