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サイエンスアゴラ2024ワークショップ「リケジョの未来は?! 人らしく生きるためのテクノフューチャー」

2024年10月27日、サイエンスアゴラ2024でワークショップ「リケジョの未来は?! 人らしく生きるためのテクノフューチャー」(主催 神奈川工科大学)が開かれました(於 テレコムセンター)。公立はこだて未来大学 教授 美馬のゆりさんから話題提供「変化の担い手となる~未来はあなた、そして私たちの手の中に」をいただき、グループに分かれてAIと共存していく未来に向かって、私たちのテクノチューチャーを話し合い、考えました。

美馬のゆりさん

美馬のゆりさん

会場風景

会場風景

話題提供の主な内容

生成AI、チャットGTPということばが聞かれるようになった。AIは音声、画像、文章を作って私たちの暮らしを助けてくれる。AIのやり方は、すでに分かっていること、つまり過去の大量のデータから法則性を見出して、確率の高いものを提示していく。正解を言っているわけではない。
例えば、AIは過去の買い物リストや背景の似た人のデータから、皆さんが買いたくなりそうなものを示してくれたり、スマートスピーカーはある言葉の次に続くことばを確率で選んだりして示してくれる。

活躍しているAI

不正な手口を学習して、防犯をする。農薬を散布するときに虫がいそうな場所を認識してドローンでピンポイント散布する。医者に、患者の画像から病変のあるところを教える。AIという道具を得て、暮らしが変わってきている。道具が変わると思考方法も変わる。
例えば、スマホがないときは、電話帳をみて探したり、待ち合わせの時間と場所をきっちり決めたりしていた。今はスマホで大体の時刻にその場に集まってから、行先を決める。これはスマホの登場で思考方法や行動様式が変わった事例になる。
あなたはどのようにAIとかかわりますか。ある食材がなくなるとき、知らせてもらいますか。足りない食材をあなたに確認なしに先回りして発注してもらいますか。どこまでAIにしてもらいたいのか考えてみましょう。

AIにできること

ビッグデータはみんなの対話の蓄積。環境(天気、気温など)から来客数を予想し売り上げをアップしたり、売れ残りを減らしたり。
一方、AIを使うときの責任はどこにあるのか? 自動運転車が事故を起こしたら、責任は自動車の設計者、製造者、走らせた人? がんをAIが見落としたときの責任は? こういうことはみんなで議論しなくてはならない。
例えば、アマゾンへの応募者の採用実績をもとにAIを開発したら、アマゾンで採用していたのは白人の男性が多かったために、AIは白人男性を推薦するように学習していた。これはAIが差別を学んだ例。性別情報を隠しても、女子バスケ部の部長という履歴情報から、AIは応募者を女子だと見抜いていた。無自覚の差別は私たちの周りにいっぱいある。

私たちにできること

「いいね!」をしていると、「いいね!」をしそうな心地よい記事や動画だけが提示されるようにAIが提案してくる。不快になる記事を私たちが選んであえて見ていかないと、考え方が偏ってしまう恐れがある。
みんなにとってよりよい社会であるためには、人にしかできないことや人の強みを伸ばすこと。それは知識の暗記と解き方の学習ではない。AIは課題を見つけることができないから、人が課題を見つけ、多様な視点、異なる見方ができるように育てなければならない。

女性や弱い立場だからわかること

2年前、私はカリフォルニア大学バークレー校でAIの社会への影響の研究をしてきた。AIのアルゴリズムとデータによるバイアスの問題を指摘し、利害関係のない独立した組織をつくって企業の外部からサポートすることが大事だと考え、サポートしている人たちの存在を知った。それはすべて女性だった。中には移民の人も含まれていた。女性や移民、黒人など、米国では少数派で、弱い立場の人たちが多かった。
30年前、ウィーンで新しい街づくりをすることになったときの話がある。このとき、朝やってきて仕事をして夕方帰宅してしまう男性の視点から転換して、日中を町で過ごす女性や高齢者にも着目して女性の建築家を集めた。すると、利用しやすい公共交通機関ができ、夜道は暗くて危ない、坂道は歩きにくいという視点がでてきた。住宅も子育て、子どもの巣立ちと年代で変化していくものだという考えもできた。女性だからいいというわけではないが、こういうやり方が評価されて他の都市にも応用された。

ユニバーサルデザイン

車いすの人のためにスロープをつくったらキャリーバッグを引いている人やベビーカーを使っている人にも使いやすかった。特定のニーズを持つグループのための提案がいろいろな人に役立つこともある。
育児休業制度、時短制度は女性の声から始まったが、男性にも役に立っている。男性の中には、これらの制度を当然と思っていても言い出せなかった人、気が付かなかった人がいるだろう。
AIは多様なニーズに気づいて解決したり実現したりすることができるだろうか。AIには問題が見えにくいときは、人間が問題を発見しなくてはならない。例えば、地球温暖化のような課題は民族が違う人々が集まって話し合っていくしかない。
そこで「アサーションスキル」が重要になってくる。アサーションスキルとは、相手を尊重しながら自分の意見を伝えるためのスキル。だれでも主張することができるが、他人の意見も聞けなければならない。だから今日のようなワークショップはとても大事だと思う。
自分の考えを理解してことばにすることが大事。例えばダンスをしたい人と劇をしたい人が話し合っていくうちに、ミュージカルをすれば、両方の人が活躍できることがわかった。すべてがこのように簡単に運ぶわけではないが、みんなが幸せになれるためにアイディアは出し合わなければならない。
アサーションのためには、ケアが必要な人も、発言するのが苦手な人もいることを理解し、聴く態度を養わなければならない。引っ込み思案の人がいいアイディアを持っているかもしれない。

AIのメリットとリスク

例えば「不平等」を考えてみましょう。サッカーボールから観客を守るための塀があると、背の高い人しか見えない。台を置くのもいいが、その人に合わせて台の高さを変えなくてはならない。透明の塀にすれば、根本から解決できる。これが「正義」。
AIをどういうふうに使うのか。どう進むのか。どんな分野にもAIは入っていって、簡略化、時短を実現する。そこにはビッグデータの偏りもある。
人にしかできないことを考えましょう。背後に潜む不具合を探してケアの必要な人には助け合えるようにしましょう。
AIに課題が解決できるだろうか。AIを教育の場面で使うときに、まずいことはないでしょうか。小学生は知識がない状態でAIの答えをみると、誤った答えを鵜呑みにするかもしれない。自分で考えなくなってしまうことは大人にとっても問題。AIは確率でしか回答しない。AIは人と対話しているように思わせるようなプログラムがされている。例えばAIの利用に年齢制限を設ける、AIが答えを導くしくみを透明化するなど。大人にもAIを使うリスクを教えなければならない。

AIとリケジョのつながり

女性の立ち位置、平等、公正さを求めるときに、昔ながらの正義の考え方が提示されることが多い。こういう傾向に女性は気づきやすい。
私が述べてきた「理系女子的」とは、不思議だと思ったら踏み込んで、なぜ?を考えていく姿勢のこと。仲間を募って一緒に考える、こういうやり方に女性は慣れている。男性が多い理系分野に女性が入っていくと、ウィーンの街づくりのときにみられたような多様な視点を持てるようになるかもしれない。新しい考え方が生まれ、発展できるようになる。新しい視点を入れて考えていくこと。今日は、もやもやした気持ちを持ち帰って、それぞれ考えてください。

お話の後、グループで話し合い、AIが大いに利用されるであろう未来について、皆で話し合い、メッセージカードを書いて貼りました。

期待

  • 事務作業などはAIによる効率化を期待する。
  • みんなで議論して進める。
  • 常識をこえて自分をアップデート
  • AIで変わっていく世界の中で共考していく
  • 不安から安心につながるための対話。今日からできることをする。

不安

  • 地球温暖化、紛争が絶えない現状でAIをどう使うか
  • AIが無意識下の偏りを生まないように
  • AIの使い方が法律で定まっていないのに、AIが自分の世界を形成してしまう不安
いくつかの期待や不安を紹介

いくつかの期待や不安を紹介

みんなで書いたメッセージカード

みんなで書いたメッセージカード