ミニシンポ 「『アルコールで走る車』からフードシステムの脱炭素を考える」
宮城大学食産業学群の講義「グローバル・フードシステム論」において、ミニシンポ 「『アルコールで走る車』からフードシステムの脱炭素を考える」が2024年11月8日に開かれました。このミニシンポには、アメリカ穀物協会が主催したカーボンニュートラルに関する研究会のメンバーが登壇しました。初めに研究会メンバーであり、この講義を担当する三石先生から授業の進め方の説明がありました。
三石先生によるはじめのことば
話題提供の司会は横山先生
「エタノールの話」
アメリカ穀物協会 代表 浜本哲郎 氏
日本は700万トンのコメを消費しているが、輸入して飼料として使っている輸入トウモロコシは1500万トン。アメリカ穀物協会はこれらのトウモロコシを扱っている。トウモロコシからつくるエタノールをお酒にしたものがバーボンだが、今日、とり上げるのは燃料エタノール。
エタノールは酒、調味料(しょうゆの日持ち向上)、消毒液 アルコールランプ、化学製品原料に使われていて、コメ、小麦、トウモロコシなどのでんぷんを酵母で分解することで得られる。アメリカではこのエタノールをガソリンに1割入れて車を走らせている。バイオエタノールを使うことで二酸化炭素排出量を抑えられる。バイオエタノールの利用、環境への貢献について皆さんと考えたい。
「なぜ、E10ガソリンが必要か?」
東京大学名誉教授 横山伸也 氏
パリ協定の下、日本は2050年にカーボンニュートラルを実現すると宣言をした。運輸部門では2030年に二酸化炭素を35%削減しようとしている。政府は、自家用車では自動車の燃費を改善し、次世代自動車(ハイブリッド車、電気自動車など)導入でこの目標を達成できるとしているが、この方法だけでは目標達成はできないだろうと考えている。
では、実現可能な方法を探ってみよう。まず、日本のガソリンを世界標準のE10にする、これで二酸化炭素を約400万トン減らすことができる。エタノールをそのままガソリンに混ぜるだけで実効性、即効性が現れる。電気自動車や燃料電池車は二酸化炭素を出さないというが、充電器、水素供給機が必要でそれをつくるときにも二酸化炭素を排出する。施設への投資が必要。
E10までは現状の日本の法律で対応できることになっている。日本は今、83万キロリットルのエタノールをアメリカとブラジルから輸入している。これはわずかE1.7 に過ぎない。国際標準と言えるE10にすべきである。さらに、国産エタノールで賄えたら、農地を使えて、エネルギー安保、食糧安保に貢献できる。
「バイオエタノール~カーボンニュートラルと気候変動緩和」
エネルギー・エージェンシーふくしま 代表・産総研 名誉リサーチャー 坂西欣也 氏
福島は脱原発・脱化石燃料で再生可能エネルギーを目指しているところ。
工業用エタノールというのは、99.9%の濃度で、燃料としても使える。カーボンニュートラル実現のためには、フードロス削減もあるが、化石資源に頼らないエタノール利用も有効な方法。
2020年まで廃棄物からのエタノールづくりが試みられた。今は、木質系、草本系からのバイオエタノールに取り組んでいる。東南アジアでも成長の早い植物を利用したエタノールづくりが始まっている。
BECC(Behavior, Efficiency and Climate Change) 気候変動を緩和するための省エネと消費者行動が重要で、バイオエタノールで車が走ると地球も人も健全に幸福になると思っている。
「消費者の意識が大事」
くらしとバイオプラザ21 佐々義子
私たちのNPOは、バイオテクノロジーを切り口にしたサイエンスコミュニケーション・リスクコミュニケーションの実践と研究をしている。そのような立場から、このカーボンニュートラルという課題に一般市民がどのように関われるかを、検討会に参加しながら考えた。前提は、日本は食料もエネルギーも自給できていないことと、自分たちの使うエネルギーでは未来の財産でもある化石燃料を極力使わないようにすること。
一般市民のカーボンニュートラルへの意識向上を目指す。そのためにはカーボンニュートラルに関する用語や標語が省庁縦割りで異なっていることを見直す。エタノールの含有率を増やすことに市民は直接貢献できないが、E10ガソリンが販売されたら意義を理解して利用することで応援する。最も身近にできることは食品ロス削減を個人レベルで心掛ける。
「世界に頼っている日本」
ジャーナリスト 見城美枝子 氏
世界の食と農の取材を長く行ってきて、食料の安定供給、そのための平和の重さを強く感じている。
バイオエネルギーをどこからつくれるか、取材してみた。下水汚泥からバイオエタノールはつくれるが、これは未着手。食料残渣も利用できるはず。これは試みられている。
NEDOが、バイオエタノールの取り組みとして、ゴミを集めてバイオエタノールを得る実験を北九州市で行っている。生ごみ10トンから660kgのエタノールが得られた。しかし、実験は中止された。例えば、仙台の家庭ごみ・生ごみは4400トンある。29万リットルのエタノールができるはず。ゴミからエタノールづくりのために国に動いてほしい。
日本には放置されている田んぼが多い。農業従事者の高齢化、人口減少、使える田んぼの減少(稲作に適さない田んぼが多い)。これらの土地を利用できないかと考え、農業団体にバイオエタノール製造について尋ねたら採算が合わないという。低コストでできるダイズを利用できないだろうかという意見があった。国は国策として取り組む時が来ていると思う。
「電気自動車(EV)か、エタノール混合ガソリン車か」
ジャーナリスト 小島正美 氏
電気自動車は二酸化炭素を出さないと思うかもしれないが、電気自動車はバッテリーをつくるときや、火力発電でつくった電気を充電した時に二酸化炭素を出している。車の原料の採掘・製錬加工も含め、車の製造・走行・廃棄までの全工程で排出される二酸化炭素を計算に入れると、11万キロ走ったときに電気自動車とガソリン車の出している二酸化炭素は同じくらいになる。原子力や水力で電気を得ている国では6~7万キロ走ったときに二酸化炭素排出量は同じくらいになる。エタノールの入ったガソリン車に乗るともっと二酸化炭素排出は減る。海外で25~85%エタノールの入ったガソリン車の出す二酸化炭素はもっと少ない。ハイブリッド車はガソリン車よりも二酸化炭素排出量が半分なので、エタノール85%のガソリンを使ったら、ガソリン車は電気自動車に十分勝てるだろう。
海外の状況を見ると、欧州の自動車産業は電気自動車に力を入れている。例えば、ドイツのフォルクスワーゲン。また、中国も電気自動車に熱心。これは日本のトヨタに対抗しているのではないだろうか。日本で電気自動車を製造するには中国にあるレアメタルに依存しなければならない。ハイブリッド車に乗り、バイオエタノールを使えば私たちは自動車で自国を助け、エネルギー安保に貢献できる。
食料との競合がよく問題だといわれるが、燃料として使わないときは食料にすればいい。余剰のコメを燃料にすれば競合しないし、コメを有効に利用できる。
「アメリカのトウモロコシで新産業を創る」
宮城大学 教授 三石誠司先生
世界のフードシステムの流れを理解するために、アメリカの戦略を見てみよう。世界で12億トン以上生産されているトウモロコシは世界有数の商材といえる。アメリカが最大生産国であり、生産量も国内需要も増えている。日本は畜産用飼料のほとんどをアメリカに依存している。アメリカのトウモロコシ生産技術向上による余剰分を安く輸入し、日本の畜産は恩恵を受けてきた。
ただし、畜産用需要は伸びが鈍化している。そこで、アメリカは余剰トウモロコシの安値での輸出を見直し、2000年代以降は国内で燃料として利用する流れを生み出した。飼料ではないFSI(食品、種子、工業用)という新しい需要、新しい産業としてのトウモロコシの燃料ビジネスを構築したのである。現在では国内トウモロコシの利用のうち、最大の需要がFSI需要であり、全体のほぼ半分を占める。そしてFSI需要の8割がエタノール生産に使われている。
アメリカは大量のトウモロコシを生産し続けているが、使い方を変えたことになる。ブラジルは1970年代からサトウキビをバイオ燃料の原料として使用している。日本で同様の活用を考えるとすれば、コメになる。うまくできれば耕作放棄地の活用にも役立つ。
「日本のエネルギー政策とこれからの方向」
アジア成長研究所 特別教授 本間正義 氏
日本のエネルギー政策基本法と第6次エネルギー基本計画では、安定供給、経済効率、環境の三つのEと、安全性(福島事故以後に加わった)の一つのSを掲げてきた。目標はエネルギー自給率を30%に、二酸化炭素削減率を45%にすること。本当にこんなに減らせるだろうか。そのためには何をしたらいいのか。私たちは再生可能エネルギーを拡大するための一つの方法として、E10を自動車に使うことを含めて5つの提言をまとめた。
提言1 脱炭素に向けた社会的ネットワーク構築
私たちは何をすべきなのかが見えてこない。みんなで理解、共有していくために消費者団体等と連携するなど、社会的なネットワークが必要。
提言2 バイオエタノールの原料となる素材の研究・利用の拡大
航空燃料SAFは食糧油からつくられている。他にも、食品残渣や下水汚泥、家畜糞尿などエネルギー源となる資源の研究を進めるべきだ。
提言3 自動車用燃料のエタノール利用におけるE10の実現
運輸部門は二酸化炭素排出量の18.5%を占める。ガソリンの10%をエタノールに置き換えたら、二酸化炭素削減に大きな効果が期待できる。
提言4 コメを原料とするバイオエタノールの国内生産
耕作放棄地等を活用し、コメからエタノールを作れば、二酸化炭素削減とともに食料の安全保障にも役立つ。
提言5 脱炭素社会を目指した意識改革と教育の充実
脱炭素に向けて今何ができるかを考え、次世代のための豊かな地球を残す。発展途上国と先進国の間の軋轢をこえて持続可能な地球を考えていく。
本間先生から5つの提言
よい質疑応答ができて、大満足
受講生が質問をフォームに書き込み、三石先生が質問を紹介しながらパネリストが回答しました。
電気自動車や水素自動車は環境によいと思っていたが、どうも違うらしいという疑問から始まり、エタノールとETBEはどのように違っていて、日本はなぜ海外のように10%エタノールを混入するようにならないのだろうか、という自動車に関わる質問がいくつかありました。米を利用していく場合、耕作放棄地ももっと活用されるにはどうしたらいいだろうか。そして、私たちにできることはなんだろうか、と俯瞰的な立場と、自分の引き寄せた視点から発展的な質問がたくさん紹介されました。パネリストも話し合いながら回答し、参加者全員で日本のエネルギーのことを考える時間が持てたと思います。