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オンラインセミナー「世界初、ゲノム編集トマトを送り出して」開かれる

2024年10月10日、NPO法人日本バイオ技術教育学会が主催する設立30周年記念オンラインセミナー「ゲノム編集食品 最前線」第1回「世界初、ゲノム編集トマトを送り出して」が行われました。世界初のゲノム編集トマトの開発者から直接お話が伺えるということで、教員、研究者、企業、生協、メディア、学生と様々な分野からのご参加がありました。セミナー開催にあたってNPO法人日本バイオ技術教育学会 理事長の安齋 寛さんよりご挨拶をいただいた後、筑波大学 教授 江面 浩さんよりお話いただきました。

安齋 寛さん

安齋 寛さん

江面 浩さん

江面 浩さん

ゲノム編集技術とは

DNA配列の狙ったところに変異を入れられるのがゲノム編集技術の特徴。今、世界で最も広く使われているゲノム編集技術のクリスパーキャス9は、第3世代。我々もクリスパーキャス9を使ったトマトを実用化した。クリスパーキャス9に対して2020年にノーベル賞が授与された。新技術ができて8年目の授賞というのは異例の速さ。この技術への期待の大きさがうかがわれる。要素技術であるクリスパーを発見したのは九州大学の石野良純先生。今回、私たちが製品化することができて、ゲノム編集食品の入り口と出口に日本人が関われたことは感慨深い。

農作物の品種改良

野生種から選抜して栽培・交配し、これを積み上げて多様化させられたものが私たちの食物。農作物は人の都合で改良してできたもの。ゲノム編集は有用な突然変異を効率的に作り出せる。農業の抱える多くの問題、環境劣化の中で、ゲノム編集技術の農業分野での利用が期待されるからこそノーベル賞に値したのだろう。

新しい品種は、自然突然変異、人為突然変異で得られる。人為突然変異には、化学薬剤の利用、放射線、培養誘導などのランダム突然変異と、遺伝子組換えやゲノム編集などのターゲット突然変異がある。

トマトをゲノム編集の対象として選んだ理由は、トマトの情報を多く持っていたこと、世界的なトマトの研究者のネットワークに加わっていたこと、トマトは世界で10番目に大事な作物で園芸作物では最も生産量が多いことがあげられる。トマトには国際ゲノム解読研究コンソーシアムがあり、ゲノム解読も行われた。

筑波大学ではマイクロトム(実験トマト)の突然変異体を、2万系統以上を持っている。これは世界最大規模のコレクション。これらを使ってトマトの遺伝子の働きを調べている。トマトの日持ち、甘さ、暑さ耐性、果実着果の仕組みなど。たとえばエチレン受容体のアミノ酸がひとつ変わると日持ちが劇的に長くなるなど、小さい変異で形質が変わる事例を見つけてきた。このトマトは室温に60日おいても変化しなかった。国内外の研究から、トマトが初めから持っている遺伝子に小さい変異を入れると大きくパフォーマンスが変わるようだと考えるようになった。

ゲノム編集技術では切ったところを修復するときにミスが起こる。そのミスを利用する。よって、遺伝子組換えではなく、化学薬剤や放射線育種と同じ扱いになる(遺伝子組換えの定義は外から遺伝子を導入すること)。

私たちは内閣府の戦略的イノベーションプロジェクトで2014~2018年に農林水産物におけるゲノム編集技術の有効性をみてきた。現在、日本では6種類が上市可能な届出済となっている。

私たちのトマトは2020年12月11日に届出が完了した。実際の利用にあたっては農水省と厚労省で検討してもらった。ゲノム編集技術を使ったコムギ、イネ、ジャガイモなどの研究が今も行われている。これらは研究段階なので文科省の所管。

GABA高蓄積トマトの開発と利用

2021年5月から家庭菜園での栽培を始めた。日本は少子高齢化社会で65歳以上が3~4割。日本の食習慣がコメ中心からタンパク質を多くとる方向に変化し、生活習慣病、高血圧、肥満が問題になっている。これらは途上国も含めて世界的な課題。そこで、日頃の食事を通して健康づくりに貢献できないかと考えた。この解決は世界も求めている。

日本の高血圧は予備軍をいれると2人に1人。そのうち3割が治療を受けている。治療を受けていない7割の人に、食事を通じて生活改善をしてほしいと思う。

トマトのGABAの蓄積の仕方を研究してきた。GABAはストレス緩和や血圧上昇抑制に効果があることが知られている。そこでトマトが持っているGABAに着目した。実験用トマトのGABAの蓄積抑制遺伝子に変異をいれたら、GABAが10倍くらい増えた。

ゲノム編集作物の利用にむけて

クリスパーキャス9は海外の技術。学術目的で利用するのは無料だが、産業利用には特許料がかかる。調べたところ、関係する基本特許が5つあり、そのうち3つのライセンスが必要であった。いろいろ調べた結果、コルテバ社と交渉した。大学では商業ライセンスが取れないので、筑波大学発ベンチャーとしてサナテックシード社を2018年3月に設立。

パイオニアエコサイエンス社からF1品種の親を提供してもらい、GABA高蓄積品種を作出し、安全性評価をして届出完了。2021年5月21日からモニターに栽培してもらった。普通は種苗会社→生産者→小売り→消費者の流れになるが、今回は種苗会社から消費者へのダイレクトな流れにして、消費者に説明し、栽培を経験して頂くことにした。希望者を募ったところ、予想の10倍以上の5,000件を超える応募があった。結果的には4,200人に栽培キットを配布。ライングループをつくって栽培指導、意見交換を行い、「普通のトマト」であることを実感してもらった。青果物や持ち歩ける加工品の要望があったので、契約農家で栽培したトマトとトマトピューレを販売することになった。

栽培モニターの9割が安全性が確認されていい物なら受容すると言った。4,200人とその家族、口コミ、おすそ分けで、10万人くらいの方にこのトマトを知ってもらえたと思っている。

ゲノム編集食品の届出制度とは、開発者が厚労省(食品安全性)、農水省(飼料の安全性)、農水省(生物多様性影響評価)に情報を提供して行われる。私たちのトマトの安全性確認ができたのは2020年12月11日。

ゲノム編集技術で作出したことの表示は義務付けられないが、国内外で初のゲノム編集食品なのでラベルをつけることにした。機能性表示食品として消費者庁に届け出た。

生食用ミニトマト1個で血圧抑制効果があり、5個で睡眠がよくなる。現在は、契約農家での栽培管理を我々が手伝いながら販売し、店舗でも販売している。一部のレストランではこのトマトを使った料理も出している。

海外の状況

辛くないカラシナ(アメリカ)、褐変しにくいバナナ(アメリカとフィリピン)、耐病性バナナ(イギリス)、コムギ(イギリス)、ビタミンCとDの強化トマト(イギリス)がゲノム編集によって作出されている。

日本では日持ちのよいメロン(筑波大と農研機構)などの研究も続いている。

GABAトマトが出て、海外での規制策定が加速しているようだ。欧州は外来遺伝子がないことが確認されたゲノム編集は組換えとみなさないという「新しい規則」に変わりそう。インドは規則ができた。フィリピン、タイ、シンガポールが日本と似た規則になった。インドネシア、マレーシアも後に続くだろう。東南アジアは外来遺伝子が残っていないゲノム編集作物は遺伝子組換えとみなさない方向になってきて、環境も整ってきていると感じる。我々の小さい一歩が人々の健康に貢献し、販売につなげられることを示せたと思う。日本が世界を加速させているかもしれない。これからは、ゲノム編集技術も上手に使い持続的食料生産を実現しなくてはならない。  

質疑応答

  • おいしい食べ方を教えてほしい。
    加熱用なので生食ではすっぱいかもしれないが、栽培法によっては糖度もあがってきている。
  • 研究者の特許と技術そのものの特許について。
    あまり厳格な取り決めにしていない。
  • 研究のみならず、消費者への説明、小売りなど消費者がアクセスできる窓口の拡大など、頭が下がる。