サイエンスカフェみたか「梨が実るまで~手に取る時に知ってほしい打ち明け話」
2024年6月27日、オンラインサイエンスカフェみたか(主催 三鷹ネットワーク大学)に樋山 尚美さん( 梨農家「玉川園」経営)をお招きしました。まさにシャリシャリの梨が私たちの口に入るまでのお話をうかがいました。
樋山尚美さん
お話の概要
私たちがつくるなしは、ひとつが600-800gもある大きなブランド梨「いなぎ」。豊水にいなぎの枝を接ぎ木してつくる。
配送
袋をかぶせてある梨を収穫し、ひとつひとつ軸切ハサミで軸を切りそろえて、傷つきにくくする。
配送用モウルドという配送材は全体で5キロの梨を入れられる、大きさによるが、私たちの稲城梨は6-8個用を使う。モウルドに並べ、緩衝材を入れ、モウルドのふたをして、上下に段ボウルをいれて箱に詰める。昔はひとつずつにキャップをかぶせていたが、箱の中で動いて傷む。傷んでいたら、在庫があるうちは再送し、在庫がなくなったら謝るだけ。
その昔はもみ殻の中に埋め込んでいた。
もいだばかりのナシは太陽熱で温まっていて傷みやすいので、大型冷蔵庫やクーラーの部屋で冷やして配送業者に渡す。
なしやま
梨の畑のことを「なしやま」という。玉川園は450坪。横浜で採れる梨は「はまなし」で、我々のところは「たまがわなし」。梨は乾燥した土壌にあっていて、稲城の土壌は梨にあっている。現在、苗木と成木で20本。1本で数十個の実がつく。梨の寿命20年なので定期的に苗木を買って更新していく。
梨山では棚をつくって枝を水平に結び付けて収穫しやすくする。上に伸びた枝も棚に結び付ける。
人工授粉
梨の花は同じバラ科なので桜とよく似ていて、色は白。桜の1週間ほど後に開花。実のなる順と逆の順番で梨の花が咲くのが面白い。
ミツバチで受粉させる農家もあるが、私たちは手で人工授粉を行う。花粉に赤い色のついた石松子(せきしょうし)を花粉に混ぜてさらさらにし、色素で受粉した花が見分けられるようにして受粉を行う。
これまでは冷凍花粉を中国から輸入して冷凍庫で保って、使うときに解凍し石松子と混ぜて「ぼんてん」で全部の花に受粉していた。受精するには離れた品種がよいらしい。
中国で火傷病が発生し冷凍花粉輸入ができなくなった。今年は、以前行っていたように開花が早い新高(にいたか)の枝をもらって花を咲かせて花粉をとったり、受粉後に咲いた花からとった冷凍花粉をいただいたりして、受粉した。花粉を顕微鏡でみてもらったら、30%しか生きていなかったというが、暖かくて晴れた日を選んだので、受粉できていると思う。今年は3回花粉付けをした。
摘果
受精後、1週間で1センチくらいの青い実ができる。ここで選びながら袋をかける。
摘果(てっか)は粒切(つぶきり)ともいう。摘み取った小さい実は捨て、選んだ実に袋をかけ、害虫から守る。棚から2mくらい高いところに防鳥ネットをはってカラスやハトからも守る。
袋掛けの時期でこわいのは雹。小さい梨に傷がつく。雹除けネットは高価で貼っていない農家も多い。蝋をかけた袋は濡らして柔らかくして、ひとつひとつ小さい実の軸に白い針金で結びつける。風で揺れると傷がつくから、袋の真ん中はへこませて、風の抵抗を小さくする。
積算気温といって、梨は毎日の平均気温の合計がある程度以上になると実がつく。アキサキという遅い梨では3675度。
消毒作業
スプレーヤーという車で消毒薬をまく。タンクに500リットルの水と消毒薬をいれて既定の濃度にして、人が運転して畑をぐるぐる回って、月に2回噴霧する。レインコートを着てまくので、作業者は汗だく。病気が出たときも消毒する。開花前にはマシン油をまいて虫を封じ込める。
消毒剤噴霧は晴天の日に早朝から行う。半日くらい薬剤が葉にとどまればいい。消毒するときは周囲の住宅に「洗濯物をベランダに干さないで」とか、「音がします」というお知らせを出す。旗を立てる農家もある。田んぼのカエルがうるさいという人もいるそうで、「住宅街で農業は難しいのかな」と話し合ったこともある。しかし、台風のときには田んぼの貯水機能で助けられた事例もある。
害虫と病気
収穫量の1-2割に害虫の被害がでる。
- アブラムシ
- カメムシ(緑色 茶色)
- ハダニ 葉が茶色になって枯れる
- アオマツムシ(夜行性なので夕方に薬をまいたら効果があった)
カメムシが水分が欲しくてかじると、梨にエクボのようなクボミができてしまう。食べられるが、出荷しにくい。
病気もある。
・アカボシ病・クロボシ病 カイヅカイブキなどのビャクシン類でこの菌が発生すると梨にやってくる。カイクカイブキを植えないでという立札があることもある。この菌は梅雨時に胞子で飛ぶので消毒する。
また、ミツショウといって雨が多いと透明な層が実にできることがある。品質上は問題はない。リンゴだと蜜入りだといって好まれるが、梨だと見栄えが悪く傷んでいると思う人がいる。
「ミツショウがあるが、品質には問題ない」とメモをいれて出荷する。
収穫と出荷
実を太陽に透かして、透き通ってみえるときが収穫時で、8月のお盆のころ、発送など1週間の間におこなう。たまがわ園での梨もぎもある。もいだ梨は汚れや虫がいないかを調べ、丁寧にパッキングする。
もぎごろは、稲城は8月20日から1週間くらいだけとれる「幻の梨」。
毎日検食して出荷する。糖度は11.5-12.5度。私たちも爪を短くして、実を傷つけないように丁寧に出荷する。
10月、梨の木周り1メートルを掘って肥料を与える。「お礼肥え」といって収穫直後に与える人もいる。冬は棚をなおし、上に伸びた枝をきって棚に結びつける作業がある。
最後に
梨をもぐときは実の底を押し上げてください。そうすると軸と枝の境から離れます。そして重いので両手で持ってください。
今年は、3代で70年続けてきて最後の梨づくり。後継者がいないことと、生産緑地の30年目の期限なので、今年を梨づくりの最後にすることにした。大事に丁寧のつくった梨は直前に冷やして、最もおいしく楽しんでください。