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ZOOM情報交換会「知られていない日本発遺伝子組換え作物」

食の信頼向上をめざす会主催ZOOM情報交換会「知られていない日本発遺伝子組換え作物」が2024年5月28日に開かれました。
日本で開発された遺伝子組換え作物の開発・利用状況と、遺伝子組換えイチゴからつくられて市販されている動物医薬品が紹介されました。

遺伝子組換え作物からつくられた動物医薬品

遺伝子組換え作物からつくられた動物医薬品
写真提供 ホクサン(株)

「日本発遺伝子組換え農産物の利用の状況」
くらしとバイオプラザ21 佐々義子

日本では環境影響評価を受けた遺伝子組換え作物、食品としての安全性が確認された遺伝子組換え食品・添加物が農林水産省、厚生労働省HPで公開されている(食品としての安全性は今年4月から消費者庁に移管)。また自治体が定めている遺伝子組換え作物の野外栽培に関する規制もあまり動きはない。その中でかなりの数の植物が承認されているが(主に海外で開発し、輸入されている)、日本で商業栽培されている遺伝子組換え植物は青いバラと青い胡蝶蘭だけ。試験栽培を2023年度に行ったのは、筑波大学、バイエルクロップサイエンスのみ。昨年は農研機構が遺伝子組換えカイコの飼育を再開した。
一方、日本で利用されている遺伝子組換え製品もある。遺伝子組換えカイコをつかった化粧品の保湿成分もあり、製品の価格をみるとカイコで作った方がタンク培養より安価にできている。スギ花粉米には岸田首相の発言で光があたったので、今後を見守りたい。東大医科学研究所が開発した米を使ったワクチン「ムコライス」は治験まで進んだが、中止になりとても残念に思っている。
 消費者の受け止め方は、食品安全委員会の定点調査をみると、ここ10年くらいで不安を感じている人は30-40%で落ち着いている。去年からは検出できないとき以外には「遺伝子組換えでない」と書けなくなり、「遺伝子組換えでない」は減っているようだ。今年4月は食品添加物不使用表示ガイドラインの猶予期間も終わったので、食品添加物分野でも「〇〇不使用」表示で生まれる誤認が減ることも併せて期待している。

「遺伝子組み換え作物から生まれた動物医薬品インターベリーα」
ホクサン(株) 田林紀子さん

はじめに

ホクサンは北海道に本社があり農薬開発製造販売、種苗健康食品、動物薬を扱っている。
1980年からバイオ事業に拡大。組織培養、育種を始めた。
苺は長く扱ってきた(主に夏場のショートケーキにのせる苺のシェアは高い)。アロニア(チョークベリー)にも力を入れている。
苺への高付加価値付与は2001年から始めた。
医薬品に植物を使うメリットは、

  • 安全性 哺乳類由来の病原体混入のリスクがない。
  • コスト 圃場栽培だとバイオマスが大きい。種子は保存安定性が高い。抽出精製不要。
  • 経口投与 注射器具が不要。注射によるストレスがない。

植物由来の経口ワクチンは上記の3メリットが実現する。
組換え植物を利用した生産系で動物薬として認可された例は、海外の状況をみると、遺伝子組換え植物の培養細胞から抽出した薬が2つ、韓国では栽培したタバコから抽出した豚(CSF)用のワクチンがある。植物組織を使って動物医薬品ができたのは日本だけ。

インターベリーα

遺伝子組換えイチゴそのものを原料としたインターフェロン製剤。
インターベリーαは遺伝子組換えイチゴを凍結乾燥した粉剤。2.75g/10回分が1袋になっている。包材に遺伝子組換えと表示。
成犬の8割が歯周病だといわれ治療薬ニーズは高いが、治療には抗生物質しかなかった。そこで、ターゲット疾病を犬歯周病に定め、イヌインターフェロンαを作ることにし、インターフェロンαに犬の歯肉炎治療効果があることを確認した。
遺伝子組換えイチゴを作出し、150系統からインターフェロンαの発現量等を調べ、1系統を選抜。苺からつくったインターフェロンαの犬への効果が認められた。
製品化にむけては、イチゴ果実の栽培方法を確立し、イチゴ加工物と補助剤の組み合わせの研究も必要だった。
植物工場での組換え生物による医薬品生産はカルタヘナ法第2種利用(閉鎖系)にあたる。栽培場所、施設、設備、機器、組換え系統を確立し、動物用医薬品製造のための法律と突き合わせる。
工場では組換え体封じ込めをしながら、苺の水耕栽培についても研究した、養液循環の手法を採用し、システムと環境構築に5年間かかり、隔離栽培条件の最適化を図った。排水処理の方法、温室内の温湿度管理、風量・風向等もデータをとりながら最適化を図った。
医薬品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)では、だれでもいつでも同じ品質の医薬品をつくるために医薬品製造所が行うべきことが定められている。
GMP運用では、ハード面では施設機器に関すること、ソフト面では作業手順、記録、教育と訓練、バリデーションでは機器、手順 品質管理方法を検証し文書化しなければならない。
認可当局の定期的な視察も受ける。GMP適合性の取得(組織整備・SOP作成と運用)は本当に大変だった。
こうして、剤型が確定し、製造工程(苺を粉砕して凍結乾燥し、安定化剤を混ぜる)が定まり、品質確認試験方法も確定させた。

動物薬としての認可へ

医薬品としての申請に必要な試験を行った。
最後には174頭のダブルブラインド試験で歯肉炎の改善が認められた。このほかに体重測定や血液検査なども行った。
2004年に開発を始めて、遺伝子組換え作物の拡散防止措置が確認されたのが2007年。2011年に製造販売承認申請書を提出し、2012年GMP適合性調査の査察を受け、同年、製造業・製造販売業認可が得られ、農林水産省に申請。2014年の販売まで10年かかった。

適用拡大

2014年、売り出したところ日本の飼育頭数は1082万頭なのに売れなかった。当時は飼い主の犬のオーラルケアへの関心が低く、認知度も低かった。
発売当時は適用範囲も6-12か月齢と狭かった。
初めに行った拡大は、1-15歳の歯肉炎指数0.5以上の犬を対象にすることとし、8動物病院で試験をし、有意差が得られた。
2017年に申請し、2020年に承認された(適用範囲の拡大)
猫には獣医さんの独自判断で使われ始めていて(動物は適用外使用が可能)、猫への予防効果があることもわかった。
猫への適用の有効性試験を行い、2020年に申請し、2023年に承認された。

これから

インターベリーαは物産アニマルヘルスから一括販売している。発売当初からみて、だいぶ売り上げは伸びた。
多形紅斑、真菌由来外耳炎などの他疾病の医薬品への展開の可能性も考えている。
また、海外販路も開拓中。海外では犬や猫を飼っている人が多く、日本より大きい市場がみこまれ、パートナー企業を探している。
特にアメリカは犬のデンタルケアへの意識が高く、あるパートナー会社と連携していたが、契約先が買収されるなど苦戦。
2021年、韓国でインターベリーαの認可がとれた。こちらも契約先が買収されてしまったが、別の候補を早々に見つけることができ、契約が締結できた。
2023年、日本の飼育頭数は、犬が684万頭、猫が906万頭で、その8割が2歳以上で、さらにその7割が疾患を持っている。小動物歯科は開発途上だが、日本でも需要は増えると思う。
これで10年間は無事に販売ができたので、さらなる発展を目指していきたい。

質疑応答

  • 人医薬品は承認まで10年、数百億かかる。動物は?
    動物も承認までは10年近くかかったが、動物医薬品の開発費用は飼育施設、試験費用を合わせて10億以下ではないかと思う。
  • スギ花粉米は医薬品扱いになったところで研究がとまった。GMP取得となると製薬会社も手をあげないだろう。
    ご飯型だとGMPは難しいのではないか。閉鎖系でも、すべての米粒で一定の有効成分確保が必ずできるかを求められる。それがネックになるだろう。
  • 犬や猫の歯茎に塗り込むのは難しいのではないか
    小さいうちから口に指をいれる習慣づけをすることが望ましい。点眼びんにいれたり、歯磨きにまぜたりされているようだ。私たちも剤型の開発はずっと続けている。
  • 苺に入れた遺伝子はなにか。なぜ、苺か
    イヌインターフェロン。苺の品種を多く持っており、苺栽培のバックグラウンドを持つ。また、自社品種を使ったことにより、知財も担保。苺はランナーで増殖し、世代更新しない。苺は食経験があり粉末でも安全だと考えた。また、苺粉末の状態で、室温で長期保存安定性のデータも持っている。
  • インターベリーαを愛用していて、甘いので犬は大好き。ほかにどんな展開があるか
    シーズはあるが、開発に取り組めるマンパワーが足りない。
  • 注射でなくおいしいのなら、薬嫌いの子ども用医薬品も作ってほしい
    人の場合、厚労省の承認をとるのに、どのくらいのことをすればいいのかわからない。可能性はあると思う。
    人用医薬品 遺伝子組換え技術を使ったものは多くある。安いインシュリンから特別な病気への対応薬まである。農水省の動物医薬品審査レベルが、10年で数億とすると、厚労省の人治験の審査レベルだと数百億円で20年かかる。