TTCバイオカフェ「寄生植物からアフリカの農業を守る」
2024年5月10日、TTCバイオカフェ「寄生植物からアフリカの農業を守る」をオンラインで開きました。お話は、アフリカで農作物に大きな被害を出している寄生植物防除で画期的な研究・開発を進めておられる、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所特任教授 土屋雄一朗さんでした。
土屋雄一朗さん
トウモロコシが寄生植物に置き換わってしまったアフリカの畑
主なお話の内容
はじめに
北海道大学を卒業するまで北海道をでたことがなかったが、トロント大学で学位をとり、理化学研究所で研究したりして、2013年に設立された名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所で研究している。この研究所のコンセプトは生物学と化学の融合、“ミックス”。たとえば、ミックスオフィスは生物や有機化学などの5-6個のグループがくじ引きで席を決めて、壁のない大きな部屋の中で融合している。研究もミックスラボで行っており、有機合成でできた分子をバイオのグループで評価し、また有機合成に戻して、、、などと進めていく。
化学をとりいれた生物学のアプローチ
初めに生体分子や生物の大きさのスケールをみてみたい。低分子化合物は0.8ナノメートル、タンパク質分子は4ナノメートル、細胞は10マイクロメーター、ヒトは1.7メートル。大きさのスケールで考えると、細胞の大きさを名古屋市とみなしたとき、市中をヒトの大きさの低分子化合物や、シャチ位の大きさのたんぱく質が動き回っているイメージ。
シグナル分子が標的たんぱく質の鍵穴にはまって、生物応答は起こる。アプローチするためにプログラムできる人工物をつくって細胞や生物にあたえて解析したり、機能を可視化したりする。
寄生植物
私が研究している植物は光合成をする独立栄養、私たちは食べることで栄養を得る従属栄養。寄生植物というのは植物なのに従属栄養。たとえば、セイヨウヒキヨモギは根っこでヨモギの維管束に連結して寄生する。寄生植物は4000種わかっていて、全植物の1%くらい。高等植物が進化して寄生植物が生まれたと考えられている。
寄生する部位により、根寄生植物、茎寄生植物などがある。大きな花で有名なラフレシアは茎がブドウ科の植物の根に寄生する根寄生植物。
ハマウツボ科の先祖は通常の植物だが、ハマウツボ科でもストライガのように「絶対寄生」(寄生しないと生きていけない)植物もあれば、セイヨウヒキヨモギ、ヒサウチソウのような「条件寄生」(寄生しなくても生きられるが、寄生もする)、リンデンベルギアのように「非寄生」(寄生しないで生きていく)と、寄生の度合いは様々。
全国にはいろいろな寄生植物が生えている。ヒサウチソウ(条件寄生)は名古屋の河原に白い花を咲かせる外来種。セイヨウヒキヨモギも名古屋でみられる。万葉集にでてくるナンバンギゼルは絶対寄生。冬になると、高い木の枝にボウルのように見えるのは茎に寄生しているヤドリギ。日本のこれらの寄生植物は農作物に寄生していないので、特に被害はない。
ストライガ
アフリカのトウモロコシに寄生し、サハラ以南で大きな被害を出しており、単子葉に寄生。世界で問題になっているもうひとつの寄生植物に、オロバンキがある。オロバンキは中東、アフリカ北部、オーストラリアで双子葉植物に寄生する。
ストライガの被害は年間1兆円規模、被害を受けている人は3億人と言われ、アフリカの飢餓の原因のひとつになっている。そこで、世界を生命分子で変えたい!寄生植物に乗っ取られてピンク色になった畑を緑(作物)の畑にしたい。
ストライガの種は0.2ミリで1つの花から20万粒の種が飛ぶ。ストライガの種子は水や光では発芽せず、宿主の植物が生育し始めると発芽する。宿主が分泌するストリゴラクトンという物質を検知して発芽することがわかった。ストリゴラクトンをかけると発芽しても寄生する植物がいないので「自殺発芽」する。自殺発芽を促す人工ストリゴラクトンが開発されればいいが、これに60年かかっている。
ストリゴラクトン
ストリゴラクトンの分子構造は4つの環から成り、いろいろな種類がある。端にある環が重要らしい。
人工ストリゴラクトンを見つけるには、結合する受容体タンパク質の鍵穴の構造を知らなくてはならない。そこで、ストリゴラクトン受容体と結合すると蛍光分子を放出して光るような化学分子を設計した。これは発明者の名前をとってヨシムラクトングリーン(YLG)として市販化された。YLGをストライガの種にかけると、受容体と結合して光り、可視化できた。YLGはストライガ自殺発芽剤。これを用いて11個の受容体タンパク質を発見した。
ケミカルライブラリーといって96の小さい穴にいろいろな物質が入っているプレートがあり、化学物質との反応を調べた結果、12,000種類の化合物からストライガを発芽させる物質が18個見つかった。
実は活性の高い副生成物が混じってできていたことが、ロットによって発芽にばらつきがあることからわかった。その活性の高い副生成物を大量につくって精製した。この物質はストリゴラクトンとメチル基だけが違っていた。この副生成物はごく薄い濃度(琵琶湖に小さじ1杯くらい)でも自殺発芽を起こせる。この物質に、スフィンクスをヒントにしてスフィノラクトンSPL7と名付けた。
国内試験で、SPL7処理をするとトウモロコシはストライガに負けなくなった!!2018年から、ケニアのビクトリア湖近くの研究所と共同研究を行っている。ソルガムにもストライガは寄生するが、トウモロコシのほうが、被害が大きい。ケニアのポット試験で、SPL7は効果を発揮している。
話し合い
- ケニアはどんなところですか
大都市にはスラムもある。赤道直下だが、高地でさわやかな気候。インフラが弱い。マラリアとストライガは地域が重なっている。 - ストライガが日本に来る恐れはあるのか。
植物防疫で厳しく管理している。 - どのように防除剤は使うのか。
土壌に、有機溶媒に溶かして水で希釈した人工ストリゴラクトンを散布する。均一にまくのは難しい。 - なぜケニアですか。
ストライガは特定の環境で繁殖する。アフリカならサハラ以南。標高が高くて気温が低いと繁殖しないようだ。北海道には生えないだろうと思う。 - 寄生植物は進化か?退化か?
高等植物から寄生植物は生まれたと考えられていて、興味深い課題だと思う。 - ストリゴラクトンを作らないような遺伝子組換えトウモロコシを作れないだろうか。
ストリゴラクトンは植物の枝分かれを調整し、成長にも必要な植物ホルモンなので、なくすわけにはいかないだろう。 - 植物はなぜストリゴラクトンを分泌するのか。
ここ10-20年でわかったことは、植物にメリットをもたらす菌根菌を呼び寄せたいためと考えられる。 - 実際に使うことになったら、ケニアの農家に防除剤の働きなどを説明するのか。
農家のインタビューは行っている。 - SPL7は散布された後、土壌で分解するのか。
適度な安定度が大事で、土壌での安定度、分解度を調べている最中。