総会記念講演会「ゲノム編集トマトを送り出して」
2024年5月16日、総会記念講演会「ゲノム編集トマトを送り出して」を行いました。講師はサナテックライフサイエンス 住吉美奈子さんでした。ゲノム編集GABA高蓄積トマトが市場に登場して3年、現在の状況とこれからについてお話しいただきました。
住吉美奈子さん
お話の主な内容
初めに自己紹介
つくば生まれ、つくば育ちで、筑波大学で学ぶ。そのころ東日本大震災があり社会と科学の関わりに関心を持つ。卒業後にURA(university research administrator)として、名古屋大学や筑波大学で働いた。今は、持続可能な農業推進のために健やかな食生活を支える種苗を送り出すために、筑波大学発ベンチャー企業に就職した。
ゲノム編集トマトの開発
ゲノム編集食品の社会実装は政府主導で、内閣府戦略的イノベーションプログラム(SIP)で進められた。基礎研究から社会実装まで一気通貫をめざし、目標を決めてから攻めていくバックキャスト型で進めた。SIPのコンソーシアムには、ツール開発、遺伝子探索、育種、社会実装の4グループがあり、私たちは育種グループ、くらしとバイオプラザ21は社会実装グループに所属していた。このプロジェクトの強みは、制度や社会的受容促進を技術開発と一緒にやってきたこと。規制の枠組みをつくるために企業を交えた事前意見交換を行ったり、サイエンスコミュニケーションを実践したりした。バイオ戦略検討WGの調査で遺伝子組換え食品への不安は減ってきていることも踏まえて、社会実装に向けて取り組んだ。
ゲノム編集トマトとは
GABAはアミノ酸のひとつで、血圧高めの方の血圧上昇抑制、ストレス緩和、睡眠の質向上などの効果があることが分かっている。国民生活基礎調査では血圧高めの人は5割、そのうち3割は薬を服用している。
また、睡眠不足は社会課題で、日本人の睡眠の質は悪いといわれている。睡眠不足で労働の質が落ちると1000億ドル以上の経済損失につながる。
トマトにはGADというGABAをつくる酵素がある。この酵素は自己抑制して、GABAを作らなくなる。ゲノム編集で抑制する「ふた」を無くしたら、常にGAD活性が高まり、2017年にGABAが多くなったトマトができた。蓄積量は従来トマトの5倍。ミニトマト1粒で血圧上昇が緩和することが期待される。
規制
2017年には、ゲノム編集食品の規制はなかったが、2018年から規制の検討が始まった。
カルタヘナ法の定義では、細胞外で加工した核酸が残らなければ遺伝子組換えに該当しない。食品衛生法の定義では、外来遺伝子やその一部が残らず、塩基の欠失、置換、挿入による1~数塩基の変異は遺伝子組換えとみなさない。
2020年12月11日に届出および情報提供書を提出した。
商業化への道
届出終了後、家庭菜園をしている人を対象に苗を無料配布し、4000人が栽培。栽培者らでライングループをつくり意見交換をしたり、栽培指導オンラインセミナーを実施したりした。会長が「知ってもらわないといけないから、社員はひとり20名の栽培モニターをつれてくるように」と言われていたが、すぐに2000人の申し込みがあり、4000人で締め切った。
栽培モニターのアンケート結果は以下のとおり。
年代:40から70代が9割
認知:ゲノム編集を知らない人は3割
参加の理由:若い人は「ゲノム編集だから」と技術に注目している。高齢者は「GABAの効果に期待、家庭菜園をやっていたから」と実生活に結び付いた意見が聞かれた。ゲノム技術に懸念を持っている人は少なかった。
不安:ゲノム編集に不安を感じていない人は55%、ゲノム編集技術について気にしていない人は25%。不安を感じていた人のうち8割は、栽培の経験後にいい印象に変わった。
これから:ゲノム編集についていいものは購入したいと回答した人は66%。シシリアンルージュなら買うという人は22%。否定的な人も10%いた。
モニターの9割は中立的に考えていると思う。
情報提供
青空トマト学園を開設し、オンライン販売を2022年秋から開始した。ゲノム編集技術でつくったことを示すマークをつけた。
現在、ピューレ、家庭菜園用苗をオンライン販売中。イタリアンレストラン1軒でハイGABAトマトを使ってもらっており、2023年3月から一般流通で販売開始。都内100店舗で扱っている。血圧を下げる機能性表示食品として認められ、側面にゲノム編集のことを書いて販売している。ゲノム編集を理解しているバイヤーだけに販売し、ポップにゲノム編集だと自主的に書いている店もある。
OPERAというプロジェクトで、動画を作ってゲノム編集の広報を行った。OPERAでは2020、2022年に安全性に関するアンケートを行っているが、受容度は15から23%にアップしている。
会場風景
話し合い
(〇は参加者、はスピーカーの発言)
- 実際の消費者の反応にどんな印象を持っているか?
店頭販売でのクレームはない。消費者ベネフィット、あなたの生活によいことがあると伝えることが大事だと思う。 - 海外の規制の状況
フィリピンで枠組みができたので申請し、承認された。海外でも日本の技術の成果を出して、理解を得る手法も考えていきたい。 - 栽培者から育ててみたら実がならなかったなどのクレームはないか?栽培者への対応は?
今までにそのようなクレームはない。栽培の早いタイミングからライングループ、相談窓口を設けたり、栽培指導オンラインセミナーをしたりしている。 - 教育機関への対応は?
私たちは大学発なので、教育目的であれば、無料で苗を提供し、教育現場を応援していく。 - フィリピンを選んだ理由とほかの国は?
規制の枠組みが整っている国から申請している。アメリカは枠組みができているし、USDAには申請済みであり、FDAも最近規制の方針を明らかにしたので、今後、販売に向け進むこともあるかもしれない。 - トマトから種をとると自分で栽培できるのか?
F1なので、自分で採った種から育てても同じ形質にはならないと思う。 - GABAを強化した競合食品について
バナナなどがあるが1日に何本か摂取しないと効果が期待できなかったりする。GABAトマトはミニトマト1-2個を毎日に摂取すればよく、継続しやすいのが強みだと思う。