くらしとバイオプラザ21

ニュース

拡大版WEB井戸端会議「小林製薬『紅麹サプリ問題』を考える」勉強会開かれる

2024年4月19日、拡大版WEB井戸端会議「小林製薬『紅麹サプリ問題』を考える」勉強会(食の信頼向上をめざす会・日本科学技術ジャーナリスト会議共催)が開かれました。講師は、唐木英明さん(食の信頼向上をめざす会代表、東京大学名誉教授)でした。紅麹を利用した機能性表示食品による健康被害が報道されている今、原因究明の状況などについてお話をうかがいました。この日は、消費者庁で機能性表示食品の第1回検討会が行われた日でもありました。

 唐木英明さん

唐木英明さん

主なお話の内容

紅麹サプリ健康被害

紅麹はコメなどの穀類にモナスカス属糸状菌を繁殖させた鮮紅色の麹で食用色素として広く利用されてきた。これに対して、よく知られている麹は米、麦などの穀物にこうじかびなどの微生物を繁殖させたものでこれはアスペルギルス属で紅麹とは別のもの。
小林製薬では米紅麹ポリケチドを製造しており、そこに含まれるモナコリンKは医薬品であるロバスタチンと同じ物質で、コレステロール低下作用を持つ。
紅麹は腎障害を起こすカビ毒のシトリニンをつくることが知られているが、小林製薬の紅麹はシトリニンを作る遺伝子を持たず、今回の製品からシトリニンは検出されていない。アオカビがつくるプベルル酸によるのではないかとこれまでの調査では考えられている。4月15日時点で医療機関を診療した人は1,393人、入院治療した人は233人、死者5人。ただし因果関係は確定していない。
そもそも体調不良の原因を特定しようとしても、心因性、アレルギー、持病、他に服用している医薬品などがあり、原因特定は難しい。日本腎臓学会が紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関するアンケートを実施し、どんな人にどんな症状が現れたかを整理した。3月31日時点で、コレステヘルプを摂取して腎臓障害が出た患者47人中、46人に「ファンコニ症候群」が疑われる症状が出ていると発表した。これは因果関係の調査に役に立つ情報である。

原因究明

小林製薬では、紅麹をサプリ用と食品用で培養器を分けてはいないが、3年近く問題は起こっていない。健康被害が出たのは昨年4-10月に作られたサプリ用に限定されている。サプリ用と食品用は原材料も製造法も異なっている。一方、培養器に水が入る事故、床に落ちた原材料を食品用に利用するなど、不衛生な状況があったこともわかった。工場も(1940年建設)老朽化し、施設設備に問題があったかもしれない。
原因は異物混入で、その異物はアオカビがつくったプベルル酸という可能性が強そうだ。異物とは胞子、青かび、プベルル酸のどれか。考え得る混入のタイミングは培養時か粉砕・保管・混合か。人が持ち込む、原材料に付着、施設設備の不備のどれかによる混入ということになりそう。包装後に注入するような犯罪はないだろう。
とはいってもプベルル酸をつくるアオカビは特殊なアオカビ。培養の難しい紅麹菌を50日も培養したら、増殖の速い雑菌が増えることも想像できる。プベルル酸の文献は少なく、北里大学でプベルル酸を皮下投与してマウスが死んだという実験が行われているが、これだけで結論づけるのは難しい。
4月19日、国衛研はプベルル酸以外の物質も見つけたと報告した。原因物質の特定にはさらに時間がかかるだろう。

再発防止

再発防止の観点から、経過を振り返ってみると。

  • HACCPは採用しているが、食品安全は本当に確保されていたか。義務ではないが、GMPは採用していなかった。
  • 被害情報の公表が遅かった。特に2件目が見つかった2月には公表すべきだったのではないか。
  • 原料供給先の把握が不十分ではないか。小林製薬の紅麹原料を使っている52社、さらに52社から原料を入手している173社に自主点検を厚労省が命じたところ、健康相談が寄せられた製品はなかった。

そこで、重要なのは健康食品の被害情報の収集だが、これはなかなか難しい。実際にすべての被害情報が保健所、国に届けられたら、対応しきれないだろう。

被害拡大防止

小林製薬はサプリで健康被害が起こった時点で、サプリと紅麹関連製品すべて(サプリも食品も)を自主回収する、予防措置をとった。
現在、健康被害が多数出たのは紅麹コレステヘルプというサプリだけ。厚労省は大阪市にコレステヘルプなど3品目のサプリだけ回収廃棄の行政処分を出したが、その他の食品には出していない。
紅麹原料を使った食品も念のため自主回収になっているが、食品メーカーには補償してもらえるかという不安もないわけではない。紅麹をつかった173社から健康被害はでていない。
大阪市は、プベルル酸が見つかった紅麹原料を製造した製造工場に立ち入り検査を行った。この工場は2023年12月に老朽化のために閉鎖されている。
消費者庁では機能性表示食品のあり方について検討をはじめ、4月19日第1回委員会を開いた。
機能性表示食品制度に問題あったとする声も聞かれるが、紅麹問題は製造工程の失敗であり、表示の許認可制度の問題ではない。健康被害が1件でもでたら報告せよという厳しい意見もあるが、原因がわからない段階で自主回収は現実的でないという意見もある。
現在、届け出られている機能性表示食品は6795製品。追跡したところ35製品から147件の被害報告があったが、因果関係は定められない。この調査では92%が回答しており、機能性表示食品が届け出制であったからできたともいえる。つまり、届け出制は機能している。
これに対していわゆる健康食品は一般食品の区分で、どんな企業が製造したどんな食品があるかもわからない。

健康食品問題

(1)法律
日本には健康食品を規制する法律がない。
日本で健康食品を使っていない人は2割くらいで、健康食品の市場は1兆円。
アメリカでは「米国サプリメント健康教育法」(FDA)があり、「サプリは健康改善に役だち、栄養の必要量を満たすが、健康な食生活の代わりにはならない」と書かれている。
日本の医師、薬剤師、厚労省には「健康食品無効有害説」が根強く、健康食品関連法律もない。私も10年位前までそのように考えていたが、健康食品について勉強する機会があり、今では、無効有害説は誤解だと考えている。
(2)プラセボ対照試験
医薬品は患者に治療薬を与えるので、プラセボ効果があったとして、明らかな効果が現れる。健康食品では、健常者と病者の境界領域の人に対してプラセボ効果に加えて少し効果が現れるだけで、プラセボ対照試験によって健康食品の効果を図るのは難しい。医薬品と同じような効果の求め方ではうまくいかない。健康食品の効果を測定できる別の試験法を使用すべきである。
(3)健康食品の法的根拠
保健機能食品には、特定保健用食品(個別許可制)、栄養機能食品(自己認証制)、機能性表示食品(届出制)の3種類がある。「いわゆる健康食品」はこの3つに入らず、一般の食品の扱いになる。
実際に起こっている健康被害の8割は無承認無許可医薬品で、医薬品まがいの物質を含んだ「いわゆる健康食品」によって起こっている。今回の紅麹は機能性表示食品による初めての健康被害。
販売中の機能性表示食品3258製品の中で健康被害報告があったのは18製品(0.55%)で、すべて因果関係は不明。
さらにいわゆる健康食品はイメージ宣伝で広まっており、食品衛生法でしか規制できない。
(4)錠剤・カプセルの形状の規制、高リスク成分や新規成分の規制
錠剤・カプセルだと高濃縮され、新規成分も濃縮される可能性がある。食品衛生法では4つの指定成分しか規制できない。
(5)製造工程の規制
製造工程の衛生管理はHACCPによって行われている。医薬品で用いられる厳しい「GMP」は機能性表示食品では義務化ではない。せめて錠剤・カプセル形状のものだけでもGMPを義務化すべきだが、食品扱いのため実施できない。
しかし、GMPを採用したから安全とは限らない。現場では事故・事件のほとんどがヒューマンエラーによることは認識されている。これを防止するために「安全文化」という考え方が重要である。
(6)健康被害情報の収集と処理
健康被害情報の収集は厳格化の方向
(7)風評被害
紅麹原料の流通先は3万3000社。紅麹というだけで売り上げが減ったり、健康食品全体の売り上げが減少し、健康食品業界全体が縮小している。
中国産冷凍餃子事件の風評被害の影響は今も残っている。今回は、冷凍餃子の二の舞にならぬように、原因究明、被害拡大・再発防止、丁寧な説明で乗り切ってほしい。

健康食品の安全性を高めるためには一般食品である「いわゆる健康食品」を規制することが必要。その方策は錠剤カプセルと新規成分を一般食品に使用することを禁止することだが、現在の法律では実施が困難。そこで健康食品を食品から独立させる新しい法律を作ることで規制をする必要性が大きいと改めて思っている。現在は機能性表示食品制度を厳格化する方向が検討されているが、あまり厳しくすると、機能性表示食品を止めていわゆる健康食品に鞍替えする製品が増えて、全体として安全性が低下することが懸念される。