サイエンスカフェみたか 第11回「ブレンダーのつぶやき~蒸留酒の造り方・楽しみ方」
2024年2月24日、2020年1月以来、新型コロナウイルス感染症で中止していた、サイエンスカフェみたか「ブレンダーのつぶやき」を、試飲を交えて再開をしました(於 三鷹ネットワーク大学)。講師は富岡伸一さん(トミさん)です。
主なお話の内容
京都大学卒業後、サントリーで40年、社訓「やってみなはれ」精神で、白州蒸溜所の設計・建築に関わり、メキシコ・欧州でいろいろな酒造りを行った。秋に欧州に行ってブドウを目利きしてワインを造って蒸溜したブランデーを樽詰めして12月に帰国するという生活も11年続いた。サントリーブランデー主席ブレンダーを務めた後、品質保証部門で国内外グループ会社の品質保証を行った。上海にウーロン茶葉の残留農薬分析センターも設立した。
2017年の定年後は、各社技術顧問・大学院非常勤講師・農水省森林総研の木の酒プロジェクトの技術アドバイザー・蒸溜酒セミナー講師などに従事している。2023年にはクラフトウイスキーの琵琶湖蒸溜所の設計・建設を行い仕込~蒸溜を開始した。
会場風景
試飲したお酒
ウイスキーの起源
世界には原料や産地によって多様な蒸留酒がある。
VO、VSO、VSOP、XOは私のブランデーブレンダー室が設計開発しました。
「ウイスキー起源への旅」(三鍋昌春 著)によるとウイスキーはアイルランドで生まれた。
連続蒸留もアイルランド人が発明した。
フィロキセラ(ブドウネアブラムシという害虫)禍で欧州のブドウが壊滅的被害を受けた時、イギリス上流階級はワイン・ブランデーが飲めなくなり、同時期に広まったブレンディッドウイスキーを飲むようになったと言われている。
飲み方
ストレートのウイスキーをテイスティンググラスに入れて蓋をして軽くステアして蓋を開け、トップノート(グラスに充満した香り)を楽しむ。
次にウイスキーを少し口に含み、味と口中香(こうちゅうか)を楽しむ。
アルコール度数が20%になるように常温の水で割ってテイスティングする。
製品のウイスキーの多くが40~43%なので同量の水を加えると20%になる。これがトワイスアップ。
ブレンダーは20%でテイスティングを行う。20%のときに最も香る。ワインだと香りが開くという言い方をする。
テイスティングは、(1)色を見る、(2)香りを聞く(トップノートと口中香)、(3)味わいを聞く、(4)アフターテイスト(余韻)を聞く、が原則で、おなかから戻ってくる「戻り香」も要素となります。鼻をつまんでも感じられるものは味で、鼻をつまんだら感じないけれども鼻を開けると初めて感じられるのが口中香です。
蒸留酒の造り方
錬金術師がいろいろな物を蒸溜して金を作ろうとしているうちにお酒ができた。
果汁にふくまれる糖が酵母によってアルコールになる。グレープブランデーはワインを蒸溜してつくる。
果物からつくるフルーツブランデーにはリンゴからつくるカルヴァドス、サクランボからつくるキルシュワッサーなどがある。
イタリアのグラッパは、白ぶどうの搾り粕に水を加えて発酵させた液を蒸溜したり、発酵後の赤ワインの搾り粕に水を加えて蒸溜する方法で造られる。粕とりブランデーといわれる、フランスのマールはグラッパと同じ製法で、中には高級シャンパンの搾り粕を用いたものもある。
コニャックは、絞ったブドウ果汁に酵母を入れて発酵し、伝統的なシャラント釜で2回蒸留した後、フレンチオークの樽で貯蔵・熟成する。
「ブランデー」とは焼いたワインという意味で、「ウイスキー」は命の水(ケルト語)。ウイスキーは穀物から作るので麦芽による糖化した糖液(麦汁)を発酵させる。
蒸溜液を貯蔵熟成する樽の種類も重要で、例えばコニャックはフレンチオークを使う。伐採・製材した材を3年間、屋外で自然乾燥する。雨ざらしにより刺激臭も洗い流される。ブランデー(コニャック)には、材を焙る程度の加熱を行う。(トースティング)。これに対しバーボンウイスキー用の樽は、内面を真っ黒に焦がす。(チャーリング)
パラディ(古酒貯蔵)では、出し入れの日にちと量を記録し、何年物であるかを管理する。
日本酒の造り方
米のデンプンを糖化。これはコウジカビ。日本は「かび文化」だが、欧州は麦芽の酵素を使う「麦芽文化」。
日本酒は、世界でも唯一の糖化と発酵が同時におこる(並行複発酵)を行うために、アルコール度数を上げられる。ちなみに、ワインは単発酵、ビールは単行複発酵と呼ばれる。
ウイスキーの造り方
大麦を発芽させた麦芽の酵素で、穀物のデンプンを糖化する。
麦芽は、大麦を水に浸麦して発芽させる。芽や根が伸びすぎるとモヤシになってしまうので、発芽途中で熱により乾燥して発芽を止める。加熱乾燥するときにピート(泥炭)を使うときと使わないケースがあり、お酒の香りに影響する。酵母により糖(麦汁)が分解されてエタノールができる。この発酵醪を2回蒸溜してモルトウイスキーができる。
一人前の準備
分注器を使って試飲の準備
試飲
アルコール度数が20度になるように、ミネラルウォーターで割って試飲しました。
- (1)
- VSOP ブランデー
- (2)
- ボウモア ピートの香りがするスコッチシングルモルトウイスキー
- (3)
- バランタイン 12年
7種類のモルト原酒(キーモルト)を中心に40種をブレンドしたスコッチブレンディッドウイスキー - (4)
- BIWAKO SAKURA Cask Finish
52度なので、気を付けていただきましょう。
琵琶湖蒸溜所は、水のきれいな滋賀県高島市にあり、バーボン古樽で3年貯蔵熟成したスコッチウイスキーを異なる樽種でフィニッシュ(仕上げ熟成)を行った。この製品は最後の2年を日本のサクラの樽で仕上げている。
琵琶湖蒸溜所で造ったクラフトウイスキーは、幾種もの樽に詰めて貯蔵熟成を行っている。最低3年の貯蔵でジャパニーズウイスキーと呼称できる。