2023年度つくば賞がトマトの研究に授与されました
2023年度江崎玲於奈賞・つくば賞・つくば奨励賞の授賞式と受賞記念講演会が、2024年3月8日、つくば国際会議場で開かれました。江崎玲於奈賞は2004年に創設され、ナノサイエンス、ナノテクノロジーに関する優れた研究をした研究者に贈られる賞です。つくば賞は1989年に創設され、顕著な科学・技術の研究成果を収めた研究者に贈られています。これらの賞は物理化学、医学分野に贈られることが多かったのですが、今回は植物分野、トマトの研究に対して授与されました。これは、2002年、第14回つくば賞が植物の環境ストレスへの応答遺伝子に関する研究成果(篠崎一雄氏、篠崎和子氏)に与えられて以来、21年ぶりの植物分野の研究成果への授賞です。
授賞式会場
2023年度江崎玲於奈賞受賞者
『スピン渦結晶の直接観察とその物性の研究』
理化学研究所 創発物性科学研究センター
センター長 十倉 好紀 氏
理化学研究所 創発物性科学研究センター 電子状態マイクロスコピー研究チーム
チームリーダー 于 秀珍 氏
2023年度つくば賞
『ゲノム編集技術を含む新たな育種技術の基盤構築と社会実装への展開』
筑波大学 生命環境系 教授 江面 浩 氏
江面氏は化学薬剤を処理するなどして約2万種ものトマトの変異体集団をつくり(これは世界一規模)、トマトの日持ち性、着果性、機能性などと遺伝子の関係について調べ、トマトの育種の基盤をつくりあげました。これらの知識をもとにゲノム編集技術を用いてアミノ酸のGABA(γ-アミノ酪酸)を多く含むトマトを作出し、実用化しました。素晴らしい研究がなされても、それが市民の身近に届かないことは少なくありませんが、このゲノム編集GABA高蓄積トマトは、一部のスーパーマーケットの店頭にもすでに登場しています。ゲノム編集食品の扱い方、食品としての安全性や環境影響評価に関する規制、表示などを含め、社会実装に大きく貢献したことも、今回、高く評価されました。
記念講演では、海外の学会で高く評価されていることが江面氏から語られました。EUではSDN1(最終製品で外来遺伝子が認められるような品種改良)ゲノム編集食品に遺伝子組換え作物と同じような食品としての安全性評価、環境影響評価を求めることにしてきました。その見直しが始まり、江面氏のEUでの講演があった翌日にあたる2024年1月24日に、「SDN1を遺伝子組換えとみなさない」という新しい規則(案)がEU議会で可決されました。現在、各国ではSDN1を遺伝子組換えとみなさない方向で議論が行われているそうです。もしも、EU加盟国それぞれで、SDN1を遺伝子組換えとみなさないという判断が下されたら、ゲノム編集技術を使った研究は世界各地にさらに広がっていくことでしょう。そのきっかけを日本から発せられたことは誇らしいことです。
江面氏とプレゼンター(茨城県科学技術振興財団副理事長 丸山 清明 氏、茨城県産業戦略部次長兼技術振興局長 久保 三千雄氏)