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TTCバイオカフェ「食料・農業・農村と基本法の見直し~世界と日本の話題提供を中心に」

2024年2月27日、TTCバイオカフェ「食料・農業・農村と基本法の見直し~世界と日本の話題提供を中心に」を開きました。お話は宮城大学教授 三石誠司さんでした。オンライン開催で全国からのご参加がありました。生物学に関する話題の多いTTCバイオカフェで、経済的な視点、グローバルな視点からのお話はインパクトが大きく、大好評でした。

主なお話の内容

1.世界の動き

(1)トウモロコシとエタノール
アメリカのトウモロコシ需要は過去半世紀で着実に伸びている。ただし、需要の内訳が大きく変化している。かつては家畜飼料用需要が中心であったが、過去20年間にFSI(食品・種子・工業用)需要が急増し、現在では需要のほぼ半分を占めている。
FSI需要のうち大半を占めるのがエタノール原料である。エタノールは日本でもかつてブームがあったが、その後は余り注目されていない。世界的に見れば、ブラジルとアメリカの2カ国で世界のエタノール生産の約8割を占めている。
アメリカは過去20年間で明確な政策的意図を持ち、再生可能エネルギーであるエタノール、そしてその原料であるトウモロコシを活用している点を理解する必要がある。
アメリカのトウモロコシの輸出数量は長期で見れば余り変化していない。生産量が倍増しているのに輸出量が変化していないことの意味を日本はよく考える必要がある。

(2)在庫
現在、世界の穀物と油糧種子の在庫の半分強が中国に存在している。こうした状況を踏まえ、適正な在庫とはどの程度かをもう一度考えてほしい。平時なら約2か月分でも十分だが、インドのような大国で在庫率が3割近くてもコメの輸出規制を実施する例もある。
適正な在庫の量、率、さらにそのコスト負担についても一人一人が自分たちの日々の生活に当てはめてみると(例えば、日用品の在庫など)現実感が出ると思う。
これまでは低コストを追及し、企業も流通合理化のもとで在庫を限界まで低減している。ここには「すべてがうまく回るときには在庫はゼロで良い」という暗黙の大前提があることを忘れないでほしい。

(3)ロシアとウクライナ
この問題は紛争に注目が行くが穀物という面から解釈することもできる。
ロシアは20年間で小麦の生産量が倍になり現在では世界一の小麦輸出である。
ウクライナは小麦よりトウモロコシの伸びに注目した方が良い。過去20年間でウクライナのトウモロコシの生産・輸出はともに大きく伸びている。
両国の問題は、この2国だけでなく、アメリカ、ブラジル、そして中国などを含めて複層的に見る必要がある。トウモロコシの輸出は長年のアメリカ独走状態からブラジルという新たな競合相手が台頭している。輸入は中国が恒常的な輸入国として登場し、今や日本を上回る世界一の輸入国である。
世界市場におけるこうした各国の立ち位置の変化を理解した上で、日本は今後どうしていくかをしっかりと考える必要がある。

2.日本の動き

(1)過去20年のうごき
一言で言えば「セイフティからセキュリティへ」の変化である。過去20年はO157に始まり、口蹄疫、食肉偽装などのセイフティに関する諸問題が頻発した。さらに、2020年以降は、コロナとウクライナ侵攻がありセキュリティの問題が顕在化した。
将来の人口減少を考慮した場合、基本法改正の射程は少なくとも一世代程度の時間を考えるべきではないか。現在の基幹的農業従事者の約6割が70代以上である。10年後にはこの方たちの大半が引退する。これに対して新規就農者は現在でも年間約4.5万人である。将来、仮に現在と同規模の農地を維持するには、必要な労力は現在の3割程度になる可能性を想定しておく必要がある。
あくまで試算だが、例えば作業量を毎年10%減少させれば、10年後には現在の3分の1になる。このくらいの覚悟が必要ではないか。

(2)食料・農業・農村基本法の改正
現行法は、安定供給、持続的発展、農村振興、多面的機能が目標だが、昨年の答申では、ひとりひとりの安保、持続可能農業、生産性の高い農業経営、移住・関係人口や地域コミュニティ維持とインフラ確保へと変化している。
この要因として国際的な食料需要の変化と食料供給・生産の不安定化などが指摘されている。さらに将来を見据えた上で、平時における食料安全保障リスクなどが検討されている。
これらを踏まえた改正法案は今後の国会で議論される予定のため注意して見てほしい。

(3)不測時における食料安全保障に関する検討会とりまとめ
現行の関連各法では対象や場面が限定的で措置内容が不十分のため、新法が必要との理解のもと、新たな制度が必要としている。
内容としては、「不測時」の定義、新制度の対象品目などとともに、状況により生産転換の要請や割当て・配給の実施までが議論されている。
基本法改正とともに食料供給困難事態対策法案として現在開催中の国会で審議される予定である。基本法改正に注目が行くが、こちらも重要法案であるため、しっかりと見てほしい。

まとめ

日本中がフード・セイフティに目を向けていた時代から今後は日本中がフード・セキュリティに注目する時代に世の中が変化している。こうした変化を大きくとらえるには、過去に生じた類似パターンから、どこが似ていてどこが異なるかをしっかりと理解して、一人一人がよく考えることが必要である。

質疑応答

  • 不測時に配給以外の方法はあるのだろうか
    適正な在庫の水準やあり方に関する議論を含め、全体として考えていく必要がある。
  • FSI(Food, Seed, Industrial use)の中に輸出用は含まれているのか。
    FSIはあくまで原材料需要としての内訳である。エタノール生産用としてのトウモロコシの割合であり、エタノール自体の輸出は別である。
  • こんなに多くのエタノールが穀物から作られていることを知らなかった。デンプンは食料として使わないともったいないと思う。
    それはそのとおり。ただし、需要以上に生産され、かつ安売りをせず、さらに環境問題やエネルギー確保という中での判断と考えられる。日本のコメも同様の問題に直面している。
  • バイオエタノールが日本でも話題になったことがあったが
    アメリカでは大量生産されるトウモロコシをエタノールとして使うことを国策として進めている。日本ではコメということになるが、実際にはコメを使い切れていない。