ゲノム編集メディアセミナー「ペアワイズ社開発のゲノム編集カラシナは食の豊かさにどう貢献するか」
2024年2月15日、ゲノム編集育種を考える会によって標記セミナーが開かれました(於 バイオインダストリー協会)。米国で開発された、ゲノム編集カラシナ(辛味をおさえる)が紹介され、日本での利用の可能性などについての話題提供がありました。
ジェンキンスさんと鈴木さん(写真提供 バイオインダストリー協会)
「ゲノム編集した果物と野菜から健康増進と消費者の受け入れ」
ペアワイズ社副社長 ダン・ジェンキンス氏
ペアワイズ社はノースカロライナにある従業員約100名のスタートアップ企業で、3万平方フィートの温室およびほ場を持つ。ハーバード大学、マサーチュセッツ工科大学のライセンスを用いて、果物と野菜の品種改良を行い、生産者・消費者の課題に対応している。
アメリカ人はこれまで余り間食をしなかったが、最近は間食をしない人がいないくらいに増え、その回数や量も増えた。人によっては間食だけで一日を過ごしている人もいる。
私たちは野菜や果物を食べて「健康な人」をつくり、健康な地球を目指している。ゲノム編技術を使うことも視野に入れている。植物を摂取することで(利用すれば)、二酸化炭素排出も減らせる。
- 種なしサクランボ・種なしプラム
自然に存在する種なしサクランボを交配して、商業品種のサクランボを育種するには最低100年かかる。ゲノム編集技術により5年で商品化することを目指している - ブラックラズベリー(北米原種)
ブラックベリーは北米原産ですが、栽培しにくいため、ゲノム編集技術で大規模栽培を可能にし、アントシアニンを多く含む果物を日常的に食べられるようにしたい - カラシナ
アメリカで野菜が足りている人は10人に1人。今回、作出したカラシナの葉の色は緑と紫で、わさびのような辛味を抑えた。ゲノム編集技術を使って、アブラナ科の作物のからみを作る酵素ができないようにした。
ほうれん草より栄養価が高く、試食会ではおいしいと評判がよかった。
カラシナには多くの品種があり、交配して品種を多様化できる。
葉物野菜の試食会に6000人以上が参加。カラシナの嫌いな理由はからみであり、ゲノム編集や技術についての懸念についての質問はなかったが、79%の人が技術に関する情報を求めていた。ゲノム編集技術で品種改良されたことに関してアンケートで言及した人はわずか1%だった。
ゲノム編集技術を使うことで植物の可能性を拡大させられる。日持ちする、種がないなど消費はニーズを満たすことができる。
このように食べやすい果実が増えれば、アメリカ人の食事が変わるだろう。従来育種だと果樹は100年かかるが、ゲノム編集なら5年。栄養値の高い新たな果物が提供できる。
日本人の栄養状態及び辛味の少ないカラシナが日本の食の台所に
十文字学園女子大 非常勤講師・管理栄養士 鈴木香氏
2019年の国民健康・栄養調査より、日本人には、ビタミンA、D、C、食物繊維、カリウム、カルシウム、マグネシウムが不足している人が多いことが分かっている。これらに加えて女性は鉄が不足しがち。これに反して、男女ともに脂質、ナトリウム(食塩相当量)は過剰摂取の傾向がある。
食物繊維は腸内環境を整えるために必要であり、ビタミン・ミネラルは生命活動、健康維持にかかせない。
脂質の過剰は循環器系疾患を引き起こしやすい。食塩は男女ともにこの10年間に減少中だが、WHOが定めた値には及ばない。
野菜、果物は食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富。目標値である「野菜350g」に達している人は3割前後であり、外食、中食の利用では野菜摂取量が少ないことが要因の一つに挙がっていた。果物の摂取は100gが目標だが、20-50代は50-80g程度が実態。
辛味の少ないカラシナの日本での利用について考えてみた。かむほど、辛味が増す。日本では、カラシナは漬物以外ではあまり使用されていない。ベビーリーフなど気づかない所で利用しているかもしれない。
サラダやサンドイッチで生食できる。辛味が減ると使いやすくなる。加熱して和え物や煮物できる。
カラシナは柔らかく、栄養価が高い。入手しやすくし、料理に使いやすいことの情報提供が重要。
配信会場風景(写真提供 バイオインダストリー協会)
質疑応答
小島正美氏(食生活ジャーナリストの会)が、事前質問やオンライン開催中の質問をとりまとめて質疑応答を行いました。
カラシナを選んだ理由、ゲノム編集技術をどのように使ったのか、アメリカでの消費者の受け入れ状況に尋ねるものが多くありました。日米の食事事情、栄養の摂取の状況、今後の開発予定、日本での販売の可能性についても関心を示す質問が行われました。