くらしとバイオプラザ21

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大学生とステークホルダー会議を開催」

2023年11月13日に福島大学農学部「アグリビジネス論」で、12月22日に神奈川工科大学「バイオ製品科学」で、「ゲノム編集をめぐるリスクコミュニケーション」という講義をしました。講義の内容は、ゲノム編集技術についての説明、実用化された事例(GABAというアミノ酸を多く含むトマト、肉厚のタイ、成長の早いフグなど)の紹介、食品としての安全性と環境への影響の考え方、表示のルール、遺伝子組換え技術との相違点、消費者の受け止め方です。その後に、クラスの中にいくつかのグループをつくって、ワークショップ「ステークホルダー会議」を行いました。ステークホルダー会議は、2018年に奈良県立一条高校の皆さんと初めて行って以来、大学の講義、サイエンスカフェ、生協における学習会で何度も行ってきたワークショップ手法です。

「アグリビジネス論」授業風景

「アグリビジネス論」授業風景

このワークショップを考案するに至った背景には、私たちのNPOで2015-2019年に全国で約50回のゲノム編集に関連したバイオカフェを開いた経験があります。そのころは、まだゲノム編集食品は実用化されておらず、どのように食品としての安全性や環境影響を評価するかのルールも検討中で公開されていませんでした。そのために、いろいろな研究者がゲノム編集農林水産物についてわかりやすく伝えて、参加者もそのうち登場するであろうゲノム編集食品への期待が高まるのですが、目に見える「モノ」がないために不安感が生じてきて、バイオカフェの終わりには「もしも市場にゲノム編集食品が登場してもしばらくは手をつけないでおきましょう」という消極的な発言がたくさん出てきてしました。もちろん、不安を感じる人がいたり、新しい食品を取り込んでみようとする人がいたり、いろいろな考えを持つ人がいることは健全なことですが、ゲノム編集技術すべてに対するネガティブな印象が拡がって閉会することは、私たちにとって少し残念なことでした。
そこで、消費者の立場だけなく、生産者だったら、大量に調理する立場の人だったらとロールプレイをとりいれたら、もっと幅広い意見が出てこないだろうか。そう考えて「ステークホルダー会議」というワークショップをつくりました。
このサイトでも何度か紹介しましたが、今回は福島大学、神奈川工科大学で行った事例を紹介します。日本発のゲノム編集食品が市場に登場している状況の中での開催です。

ステークホルダー会議のやり方は次のとおりです。今回はゲノム編集ジャガイモ(ゲノム編集技術によって、芽や緑になった部分にできる自然毒ができないようにノックアウトされている)をとりあげました。
まず、次の4つのロール(役割)のグループをつくります。役割は学生のグループが希望したものを4つの中から選びました。

  • 生産者
  • ポテトサラダ製造業者
  • 給食調理員
  • 消費者

グループの中でそれぞれの役割にとってのメリット、デメリットを話し合い、グループとしての意思表示をします。話し合った結果は、「生産者としてはYES。理由はコストを下げられるから」というように発表します。以下は福島大学と神奈川工科大学の話し合いの結果です。

福島大学 参加者 17名

福島大学 参加者 17名

神奈川工科大学 参加者 33名

神奈川工科大学 参加者 33名

このワークショップを始めたころに比べると、YESと回答するグループが増えたことが最近の傾向として挙げられるかもしれません。また、とりあげたゲノム編集ジャガイモが大阪大学などの日本の研究者によって開発されたことも、顔の見える安心につながっているようです。ワークショップについては、「一人でゲノム編集の本を読んだから最後まで行きつかないかもしれないけれど、ゲームのように学べて楽しかった」「身近な食物でもいろいろな考え方をする人がいることがわかって興味深かった」という意見も聞かれました。話し合いの結果によらず、学習手法としても有効だというご意見もいただきました。この手法を使って肉厚のタイについてのステークホルダー会議を行ったこともあります。オンラインでアウトブレイクセッションの機能を利用しても開くことができます。
もし、この手法を使ってみたい方がいらしたら、くらしとバイオまでご連絡ください。

ちなみに、厚生労働省に届け出されているゲノム編集食品は以下の通りです。ホームページでいつでも届け出書類をPDFで見ることができます。これからも透明性をもって、届出情報を発信していってほしいと思います。

ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧

ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧