ゲノム編集食品についての学習会
2023年11月22日、コープ九州事業連合のみなさまとゲノム編集食品について学ぶオンラインセミナーを開きました。初めに、コープ九州事業連合の永渕孝則さんによるアンケートをZOOMの投票機能を使って行い、参加者間で互いの持っている情報を共有しました。
メインは京都大学 木下政人准教授からの話題提供です。お話の後にはチャット機能をつかって質疑応答も行い、充実した学び合いの時となりました。
ご講演前には、届出られたゲノム編集農林水産物、研究開発の状況、表示についてくらしとバイオプラザ21 佐々より話題提供を行いました。
木下政人さん(中央)をお招きして
投票結果 その1 安全性(単位 人)
投票結果 その2 表示(単位 人)
投票結果 その3 あなたが選ぶたんぱく源は?(単位 人)
「ゲノム編集食品について」
京都大学大学院 農学研究科 准教授 木下政人氏
次の事柄についてわかりやすく説明がありました。
- DNA、遺伝子、ゲノム
- 従来育種とゲノム編集育種
- ゲノム編集技術(Crispr/cas9)の利用
- ゲノム編集マダイの誕生
- ゲノム編集のメリットとこれから
質疑応答
(〇はオンラインまたは後日メールでの質問。は講師の回答)
- どんな魚もゲノム編集はできるのか。たとえばサンマやウナギ。
ゲノム編集できるのは完全養殖が成立している養殖魚だけです。その理由は受精直後の卵にクリスパキャス9を注射する必要があり、計画的に受精卵を取れる魚種である必要があります。また、処理した卵が高効率で成魚まで成長し、産卵することも必須条件です。日本の養殖技術は高く、マダイ、ドラフグ、ヒラメ、サケマス類で効率の良い完全養殖ができています。 -
さばは養殖できるか
青い背の魚はさわるだけで死んでしまうくらい弱いので、養殖は難しい。イワシ、サバは養殖できるようになっています。 - ゲノム編集のタイの出来る確率は
2500個の卵に注射をして成功したのは10尾ぐらいです。 - ゲノム編集タイの子どもは肉厚になるか
次世代はゲノム編集でできた性質を受け継ぐので肉厚になります。一度親を作り出せば、タイは多産なので多くの次世代が作れます。 - 肉厚タイがやせていくことはあるか
辛くないシシトウが突然からくなるなどの先祖返りが作物で起こることがあります。同様に、タイでも先祖がえりは起こることもあり得ますが、かなり確率は低いと思われます。 - エビは陸上養殖できるが、これも肉を増やせるだろうか
チャレンジしている人はいるが、卵が弱くて小さく、注射が難しく困難です。原理的にはゲノム編集はできますが、注射とその後の飼育ができるかが鍵となります。 - 日本の養殖技術は高いということだが、日本より海外の養殖が伸びているのはなぜか
東南アジアでは水温が高く、魚が早く成長します。また、人件費も安いことも要因です。成長の早いナマズなどが、安い人件費で養殖されているため輸出品として競争力が高く成長しています。 - ゲノム編集で上市できないような魚ができたことはあったか
今のところありません。今後、ゲノム編集を行なっても期待通りの特性を示さないこともあり得ます。そのような場合は、上市できません。 - ゲノム編集魚の生命の設計図はわかっているのに表示できないのはなぜか
ゲノム編集魚では、ゲノムの何処がどう変わったかは、わかっています。このような変異は自然界でも起こる可能性があります。ある変異を持つマダイを見て、自然界で起こった変異なのか、ゲノム編集で導入された変異なのか区別することができません。つまり、はっきり白黒をつけることが不可能なのです。そのため表示は義務化されていません - オフターゲットの不安の声は減ったように思う。
2匹の天然マダイのゲノムを比べると異なるところが膨大にあります。例えば、1つのD N Aが抜けているところは20万箇所です。このように、多少のゲノムの変化は生存に問題がありません。ゲノム編集を行なった後、数世代飼育したものが上市されます。つまり生存に問題のないものが食品となるので、オフターゲットがあったとしても天然魚でのゲノム編集学会の違いと同様です。 - 高成長トラフグですが、フグ毒を持たないフグの開発は研究されているか
「フグ毒を持たない」フグの開発はされていません。ただ「フグ毒に弱いフグ」の作製は試みられています。「フグの毒の保持機能」が解明されていなので、「フグ毒を持たない」フグの作製は現状ではできません。しかし、フグ毒は食物連鎖でフグに蓄積するため、陸上養殖など食物連鎖が成り立たず、配合飼料(毒を含まない飼料)を与えることで毒を持たないフグを作ることはできます。(厚労省は100%の安全性が担保されないということで、認めないと思う) - ゲノム編集のメリットは理解出来たが、デメリットは本当に無いのか
ゲノム編集を行なっても、そのターゲット遺伝子が生存に必須のものであれば、その生物は生きていけません。なんでもできるわけではありません。強いて言うなら、アレルゲンなどの物質が新たに作られる可能性は否定できません。ただし、このことはゲノム編集に限らず、通常の育種でも起こります。ですから、「作製方法」が問題ではなく、どんな手法で作られても「できてきたもの」自体の安全性を確認することが大切。 - 筋肉が発達した真鯛はどこまで成長するのか。エサをたくさん食べれば食べただけ他の鯛より大きくなるか。もし大きくなりすぎると動きが鈍くなるとか、病気にかかりやすくなるなどで早く死ぬなど、大きさも安定した鯛だけが生き残るのか。
最大体長が、どこまで大きくなるかという試験は行なっていないのでわかりません。通常の鯛と同程度の大きさにとどまると思われます。ただし、同じ体長でもふっくらしているので体重は大きくなります。これまでの飼育で、「早く死ぬ」という現象はみられていません。今回ゲノム編集した鯛は、ある程度早い速度での長時間の遊泳は不得意のようです。管理下(養殖施設内)の安定した条件の飼育下でのみ成長・生存できると考えられます。自然界での生存は厳しいでしょう。 - ゲノム編集をした痕跡は本当に残らないのか
自然に起こった変異なのか、ゲノム編集で起こった変異なのか区別するのは不可能だと思います。ただし、ある人がゲノム編集で作った生物を「自分が作ったものである」ことを証明することは可能。と言うのは、人で親子鑑定や、犯人の特定ができるように、家系や個人で特有のDNA配列を持っています。「ある人が作った生物」も同様で、ゲノム編集したところ以外に、特有のDNA配列があるので、その部分を調べることで「ある人が作った家系」なのか、そうでないかは判断できるでしょう。 - 完全養殖が可能であることが、ゲノム編集による魚種増大に不可欠な要素と認識しましたが、魚の完全養殖が可能になるようにする為に必要なもの(現在不足しているもの)は、例えばどういうものか?
生まれてすぐの仔魚の餌の開発だと思います。現在、完全養殖ができる魚種は、人が調達できる餌(クロレラ、ワムシ、ブラインシュリンプなど)を仔魚が食べてくれる魚種だけ。生まれたての赤ちゃんの餌がわからないため、マダコやウナギの完全養殖ができていません。魚種により、餌を選り好みしているのですが、人の知識が追いついていません。不足しているのは、餌の知識だと思います。 - ゲノム編集を行うことで、従来より少ないエサで大きい魚体にすることができることに、とても魅力的に感じた。飼料や養殖場コストにより水産物の値上げが続いており、この先、組合員の理解が進み価格も買いやすい価格に落ち着けば共同購入でも品ぞろえできないかなと思った。ゲノム養殖の魚は通常の陸上養殖に比べ何倍くらいの価格帯なのか。
正確に「何倍」というのは把握していませんが、現状では通常より高価です。今後、量産できるようになれば、通常のものと同程度になっていくと思います。 - ゲノム編集と遺伝子組換えの違いが良くわかりました。ありがとうございました。
最後の水産業に携わっている方々からも応援されているとのお話は、そのお話を聞くまで、いくら後継者が減ってきているとは言え、漁業(漁師)はどうなるのかと思っていたところでしたので良かったです。
エビは難しいということと、養殖技術が確立されていないといけないとのお話でしたが、養殖技術が確立されていればたとえば貝類、カニなども肉厚マッチョなものができるのでしょうか。少し気になりました。
甲殻類の課題は、完全養殖の他に「卵が小さい」と言う問題があります。マダイの卵の1/2~1/10 ぐらい。そこに注射してゲノム編集することが大変難しいです。それから殻があるので、肉を増やすことができないかもしれません。