食のミライ技術フェア2023「ヒトにも環境にも優しい食品添加物」
2023年11月24日、お茶の水ソラシティにて、食のミライ技術フェア2023「ヒトにも環境にも優しい食品添加物」が開かれました(共催:一般社団法人日本食品添加物協会)。食品添加物の不使用表示ガイドラインの猶予期間が2024年3月末で切れることから情報提供と意見交換のために企画されました。
宇野真麻さん
脊黒勝也さん
話題提供1
「新たな食品添加物表示‐不使用表示ガイドラインの経過措置終了に向けて」
消費者庁食品表示企画課 課長補佐 宇野 真麻 氏
表示の見直し期間が終了する来年3月末を前に自治体や事業者から講演依頼が増え、関心の高さを感じている。このガイドライン(以下 GL)が公表されたとき、私は猶予期間の間、淡々と同じように話そうと決意したので、誤解が生じないように、今日も同じようにお話ししたい。
食品添加物表示制度に関する検討会が2019年度に行われ、その報告書の中に「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」が提案され、「食品表示基準Q&A」別添として策定された。誤認を与えないことが重要で、一律に不使用表示を禁止するものではない。誤認させる表示は食品表示基準第9条で禁止しており、具体的に10の類型を定め、解説した。消費者庁としては、消費者に誤認をさせないことを重視しているので、事業者は順次見直しをしていただきたい。
これまでの講演会でいただいた302の質問を分類してみた(分類不能75を含む)。
「同一機能・類似機能をもつ食品添加物や食品の表示(類型4と5)」に関する質問が全体の約6分の1をしめて最も多かった。「加工助剤などが使用された食品への表示(類型9)」に関するものが次で、「単なる無添加の表示(類型1)」はその次。10の類型に関係なく、見直し期間、GLの適応範囲、不使用GLに抵触したときの罰則などに関する質問もあった。
これまで「無添加」「不使用表示」を見て買ってきたという消費者の中には、本GL策定に怒りを示した人もいたし、任意表示なのに国が干渉するのはいかがものかという事業者もいた。これは消費者庁がつくった不使用表示のGLが文字のみで分かりずらいことも一因かと考え、GL公表後にイラストを用いたチラシを作成した。更に混乱させることになったという声もあるが、最重要事項である、「消費者に誤認させない」というところを皆さんと共有していきたい。
話題提供2
「食品添加物の不使用表示に関するガイドラインの施行で食品添加物表示どう変わるのか?」
一般社団法人 日本食品添加物協会専務理事 脊黒 勝也 氏
食品表示制度に関する検討会から振り返ってみると、無添加の表示については慎重にすべしという意見が強かった。当時のQAでは加工助剤の範囲などが不明瞭で、栄養成分(糖、塩)の不使用表示が拡大解釈されていた。重要なのは食品表示基準第9条に抵触するか否かであり、将来的には第9条のメルクマールとなる本GLを作り、公正競争規約の改正にも反映させていこうということになった。
事業者は、技術開発で添加物不使用を達成した場合、不使用表示をするのではなく、開発した技術を消費者に強調したらいい。誤認の拡大は一部の学校教育関係者の偏見、食品添加物に関する誤った情報の氾濫、無添加表示の広がりがベースにあるので、それに対処する必要がある。不使用表示をしてきた大手流通の中には、消費者庁の検討会の結論を見て、人工・合成の表示をやめるところも出てきている。
GL策定検討会では、GL策定に賛成の委員と消極的な委員がいたが、検討を重ねて事業者が判断しやすいように10類型がまとめられ、パブコメをへて2022年3月公開された。協会では2022年5月、6月にそれぞれ、GL解説書や学校向けパンフを発行した。
食品添加物に不安を感じるきっかけの第1位は無添加表示を見てという食安委の調査結果が出ている。欧州では、メディアや書籍などによって食品添加物への否定的見方がうまれたと解析する論文も発行された。コーデックスの報告では、文化、消費者の教育、知識、ラベル内容等を考慮しないと優良誤認につながるといっている。一方、マーケティングの研究では、同じ中身の加工食品に健康を訴える不使用・使用表示の4種類の組み合わせをつけて購買実験をしたところ、表示がないと人は手に取らないし、表示は人の購買活動に影響を与えることが分かった。
海外の不使用表示の規制状況を見ると、コーデックスは強調表示について誤解を招かないことといくつかの条件を満たした場合にだけ無添加表示を認めている。EUでは、誤解を招く食品情報は提供してはいけないとし、特定の物の有無を強調してはならない、科学データに基づくべきなどを定めている。アメリカでは、畜肉製品への表示のルールを設けている。合成保存料、人工保存料は一切含まれていないと書いてもいいが、その表示の隣には「品質保持に使用している代替品を含む」と表示し、裏面で代替品を見るように書き加えている。カナダ厚生省は、不使用表示・無添加表示では、誤認させてないこととしている。
海外をみても「消費者に誤認をさせない」というところは共通している。消費者は表示を見て購買行動を起こすので、消費者のリテラシーが十分に醸成されていない現在、不使用表示は誤認を招き、その表示が購買行動につながる。一部の学校教育関係者の根深い誤解も解いていきたい。そして、誤認を利用したマーケティングには問題があると思う。
話題提供3
「ガイドラインで普及が期待される食品添加物をめぐるリスクコミュニケーション」
NPO法人 くらしとバイオプラザ21 常務理事 佐々 義子
食品安全委員会、消費者庁のアンケートをみると、「食品添加物は目的をもって国に認められたものしか使われていない」ことを知らない人が多い。そして、食品添加物を避けたいために無添加や食品添加物不使用と表示された食品を選ぶ人は多い。さらに、食品添加物にリスクを感じるようになったきっかけが無添加表示だという人が2割くらいいるという。食品添加物のリスクコミュニケーションの難しさを物語っている。
一方、ファクトチェックによって誤情報が繰り返し流れることを防止するしくみが働いているなどの動きもみられる。アスパルテームがIRACで「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」2Bと分類された直後に食品安全委員会が迅速にQAを公表して、アスパルテームの使用をやめる事業者がでなかったのは、特記すべき事例といえるだろう。ALPS処理水放出後に福島県いわき市のふるさと納税が増えたことも、透明性のあるリスクコミュニケーションができたからといえないだろうか。背景に消費者のリテラシー向上もあるが、行政の迅速な対応が効いていたと思われる。これからもリスコミにおける行政の迅速な対応に期待したい。
佐々義子
パネルディスカッション
パネルディスカッション
「ガイドラインをヒトと環境に優しい食品添加物利用へつなげるためには」
講師と聴講者によって質疑応答と総合討論が行われた。参加者の多くは事業者であり、どのようなケースが10の類型に該当するかに関する具体的な質問が多く寄せられた。
もしも、10の類型に該当したとき、罰則の対象は販売店にも及ぶかという質問に対しては、食品販売関連事業者であって販売店は対象にならないだろうという回答であった。
水道水を自社の方法で精製して用いているとき、精製に用いた物は添加物になるかという質問には、「食品加工の過程で使うものが食品添加物である」ので、無添加と書くのは難しいのではないかということであった。
2024年3月末、食品添加物の不使用ガイドラインの猶予期間が終了します。食品添加物が利用されて食中毒が予防されていること、食品ロスを削減できることの理解が広まることを願うばかりです。また、自宅など食品添加物を利用しないで調理できるケースも多くあり、自分で考えて適切に利用できるようなリテラシー醸成を、多様なステークホルダーによって進めていきたいと思います。