くらしとバイオプラザ21

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共催フォーラム「バイオ燃料を考える」開かれる

2023年10月3日、「バイオ燃料を考える」が札幌大学・アメリカ穀物協会共催により開かれました(於 札幌大学)。色々な立場からバイオ燃料の利用によって日本はカーボンニュートラルを目指せるのかについて話題提供が行われ、参加者全員で意見交換を行いました。参加者は札幌大学地域共創学群経済学系「地方財政論」(担当 武者加苗教授)を学ぶ学生の皆さんでした。冒頭、担当の武者加苗教授より「北海道でカーボンニュートラルをどのように実現していたら良いか」を念頭においてこのフォーラムを進めるという開催趣旨の説明がありました。

会場風景

会場風景

「エタノールの話」アメリカ穀物協会
浜本哲郎氏

エタノールは、酒・調味料のように口に入るものや消毒薬、化学製品の原料として長く利用されてきた。アルコールランプやバイオエタノール暖炉など燃料としても使われている。
エタノールの原料は、主にトウモロコシ(ウイスキー、バイオエタノール)、コメ(酒、賞ちゅう)、大麦(ビールの原料)などデンプンや糖類を含むもの。
トウモロコシには、食用のスイートコーンと、乾燥させて穀粒で収穫する飼料用トウモロコシがある。飼料用トウモロコシのデンプン、米のデンプンからもエタノールは作れる。
アメリカではガソリンにバイオエタノールを混ぜて利用し、温室効果ガスの発生を減らしている。今日は米、車を通した脱炭素、バイオエタノールをキイワードに様々な立場から論じる。

パネルディスカッション「バイオ燃料を考える」
「なぜ、バイオ燃料が必要か?」ファシリテーター 東京大学名誉教授 横山伸也氏

自働車や飛行機、船は化石燃料を使って二酸化炭素を発生させている。バイオ燃料は光合成をする植物で作られるので、バイオ燃料を混合するとその分、二酸化炭素発生を抑えられたことになる。電気自動車はバッテリーが重く、荷物を余り載せられず、電気が切れると自動車も暖房もとまる。北海道では暖房が切れたら命に関わる大問題。
世界ではガソリンにエタノールを1割まぜたE10が使われている。日本ではE1.7 。試算によれば、北海道の耕作放棄地2万ヘクタールから7,8万キロリットルのエタノールができる。
これは、日本のガソリンに入っているエタノールの10%にあたる。日本でも飼料用トウモロコシの穀粒からエタノールをつくりエネルギー自給に貢献し、葉や茎は飼料として飼料自給率向上に資することは可能。

「バイオエタノール~カーボンニュートラルと気候変動緩和」
産業技術総合研究所 坂西欣也氏

化石資源に依存しない循環型社会を目指して、未利用の木や草、茎から自動車用燃料を作りだす研究をしてきた。
行動経済学にBECC(Behavior, Energy and Climate Change)ということばある。気候変動を見据えて、省エネ、消費者行動、効果を考える。バイオエタノールで車を走らせ人を幸せにする消費者行動の変容が重要。
北海道では木や草を分解して飼料にする方法「北海道法」が開発されている。日本だけでなく東南アジアには膨大な農業残渣があり、これをバイオマスとして利用できないか。日本から技術移転することも考えられる。食料でない繊維を日本で利用することも試みたい。日々のくらしでバイオマスがどのように使えるか考えてほしい。

「消費者として私たちにできること」
くらしとバイオプラザ21常務理事 佐々義子

消費者の立場からこの検討会に参加し、食料とエネルギーを自給できる国になること、そのためには化石燃料の利用を最小限にすることが重要だと考えるようになった。食料については食品ロス削減をふくめて耕作放棄地を利用するなど農業振興が重要だと感じた。エネルギーについては太陽光発電もあるが植物を利用することがキイだと思った。結論として、遺伝子組換えやゲノム編集を駆使して、耕作放棄地で日本の得意な作物である稲を食料、飼料、バイオエタノールとして使うこと。コミュニケーションを行い、コメバイオエタノールを実現できるように消費者を巻き込むことが重要だと思う。

「日本のエネルギー自給と再生エネルギー」
青森大学名誉教授 見城美枝子

メディアの仕事を通じて国内外の農業を見て、日本が食料とエネルギーで自給自足できる国になれるようにと強く願っている。
2050年に、カーボンニュートラルを実現すると政府は発表した。日本のエネルギー自給率は12.1%で、世界の中の32位。上位のノルウエーのエネルギー自給率は800%、オーストラリアは300%、しかし各国の内訳をみると、再生エネルギーの自給量はそんなに変わらない。日本も再生エネルギー生産が可能になれば自給の道が開けるかもしれない
日本の農業従事者は122万人でその平均年齢は68.4歳と高い。
北海道には食料だけでなくエネルギー産業としての農業の道がある。農業従事者にはエネルギー産業として農業を考えていただきたい。
また今回、検討会に加わって取材してみると、汚泥はコストが高いという理由で未利用であることや生ごみのプラントはよい実績があり期待できそうだということも分かった。日本政府は次世代に向け再生エネルギー自給への道を早急に開くべきだ。

「ハイブリッド車が日本の車産業を救う可能性はあるか」
元毎日新聞記者 小島正美氏

日本で自動車産業に従事する人は500万人いる。トヨタは世界トップクラスだが、電気自動車の分野では少し遅れているように見える。それを打開する私なりのビジョンを示したい。
電気自動車は一見、環境負荷が少ないように見えるが、実は、部品の原料の採掘、車体の製造、バッテリーの製造や廃棄などに多量の化石燃料を使う。 リチウムなどの希少金属も使うし、その資源は特定の国に偏在している。電気自動車が二酸化炭素を出していないのは走っているときだけだ。しかし、走っているときでも、充電に火力発電の電源を使えば、二酸化炭素を排出することになる。フランスのように7割が原子力発電なら二酸化炭素の発生は少ないが、日本の発電は7-8割が火力なので、充電時でも二酸化炭素の排出量は多い。その結果、短い距離なら、ガソリン自動車のほうが排出する二酸化炭素は少なくなる。
これに対し、燃費のよいハイブリッド車(プリウスなど)なら、短い距離の走行なら電気自動車よりも優等生といえる。そして、カーボンニュートラルのエタノールを燃料にするハイブリッド車なら、確実に電気自動車と互角か、もしかしてもっと優等生だといえそうだ。
おそらく20-30年後には電気自動車が主流になるだろうが、それまではガソリン車やハイブリッド車は主流のままだろう。日本のコメからエタノールを取り出し、それでハイブリッド車が走れば、国産エネルギーの自給にも役立つし、車産業の維持にも寄与できる。海外で電気自動車が推奨されるのは、トヨタの性能のよいハイブリッド車に勝つための戦略のようにもみえる。ここ20-30年間は、バイオエタノールで走るガソリン車やハイブリッド車は十分に有効だと思う。

「『新製品開発』と『新市場開拓』は車の両輪」
宮城大学 教授 三石誠司氏

穀物貿易、とくにトウモロコシの輸出数量は近い将来ブラジルが米国を上回るであろう。一方、大豆は世界最大の輸出国がブラジル、最大輸入国が中国である。世界の農産物貿易において米国の地位が変化してきている現在、米国が戦略商品のとしてのトウモロコシをどう活用しているのかをよく理解する必要がある。かつての米国はトウモロコシの8割を家畜飼料にしてきた。しかし、現在では、食品・種子・工業用(アルコール)が国内飼料用需要を上回る。1970年代と比較すればトウモロコシの生産量は倍増したが、輸出量は現在も変わらず、増加分は国内の新市場である工業用需要が吸収している。その工業用需要の8割がエタノール生産用である。これは米国が戦略商品としてのトウモロコシを徹底活用し、新しい市場を作り出したことに他ならない。仮に日本の戦略商品がコメならば、コメの用途を人の食料・飼料用以外にも拡大し、有効活用を徹底して考え、実行すべき。とくにコメの大生産地である北海道ではこうした視点から将来を考えてほしい。

「日本のエネルギー政策とこれからの方向」
アジア成長研究所特別教授 東京大学名誉教授 本間正義氏

エネルギー政策基本法と第6次基本計画では「3EとS」を掲げている。
3Eは安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境(Environment)への適合、そしてSは安全性(Safety)。
化石燃料使用を減らし、再生可能エネルギーを36~38%にできればエネルギー自給率は30%にあがり、二酸化炭素削減率は45%になる。特に自動車用燃料へのバイオエタノールの活用は有効。
1.強調したいのは脱炭素社会を意識すること
脱炭素社会実現のためにカーボンニュートラル(二酸化炭素を排出しても、それを吸収して収支をゼロにする)を進める。また、我々の生活自体をカーボンニュートラルの方向にしていく。
2.電気自動車をトータルで考える
ものごとには様々な切り口がある。ひとつの切り口からだけでなくトータルで考えなければならない。電気自動車は製造する過程で二酸化炭素をガソリン車の2倍排出する。充電する電気は再生可能エネルギーでは賄えず実際は火力発電でつくられている。発電から廃車までのライフサイクルでみないとトータルでの環境への影響はわからない。
3.コストベネフィットを考える
電気自動車について考えるとわかりやすいが、政策をうつときにどれだけお金がかかるか、コストをかけてどれだけのベネフィットが得られるかを市民が精査できなければならない。税金の使われ方を市民がウォッチしていくことが重要。

第2部 質疑応答(〇は参加者、はパネリストからの発言

参加した大学生から多岐にわたって質問が発せられました(〇は大学生、はパネリストの発言)。

  • 世界ではE10なのになぜ日本はE1.7なのか。
    タイはサトウキビ、アメリカはトウモロコシの余剰産物を使ってエネルギーにしている。日本には余剰米があるが「食べ物を燃料にできない」意識がある。また、バイオ燃料税制などがあり、石油業界はバイオ燃料を使うと損をする。日本はエタノールにする国産原料がない、ガソリン業界も協力的でない。日本のE1のためのエタノールはブラジルから輸入している(坂西)。
    日本ではE10対応車を輸出しており、日本はE10車を製造できるのだから、日本の余剰米を利用してバイオエタノールを作ってガソリンに混ぜてもらいたい(横山)。
  • バイオ燃料の欠点はなにか。
    E100の車はガソリン車に比べて8割くらいしか走れない。その結果、燃費が低くなる。 日本はE3までしか認めていない。エタノールは水を吸うのが問題。今の日本の車でE3までは走れる。ガソリンが値上がりしているのでエタノールを入れると安くできるメリットがある。耕作放棄地で米をつくってエタノールにすれば役に立つと思う(坂西)。
  • アメリカはトウモロコシ以外の穀物でエタノールを作っているか。ワタは?
    大豆や綿からは油をとる。トウモロコシの栽培技術が向上し余剰穀物を抱えたのでその消費マーケットとしてエタノールをつくった(三石)。
    2000年、バイオマスジャパンでは日本中でバイオエタノールを使う動きがあった。てんぷら油からバイオ燃料をつくろうなどの政策が打ち出されたこともあった。
  • カーボンニュートラルのための稲作で農家は食べていかれるのか。どのようにサポートしていくのか。日本の生産物が無駄にならないだとような政策を国や自治体で進めるべきだと思う。
    コメからバイオエタノールを作る試みは日本にもあった。当時はコストが高かったので実用化できなかった。
    ホクレンのビートから砂糖を作る工場で「くず小麦」でエタノールを作ろうとしたが、原料が足りなくて、よいコムギを使うことになりコストがあわなかった。稲わらも使おうとしたが原料が足りなかった。経済的に採算があえばやりたい人はいるはず(松田先生)。
    国産トウモロコシで不足している餌をまかない、余剰でバイオエタノールにすればいい。
  • バイオエタノールはデンプンからつくれるのなら、ジャガイモエタノールをつくらないのはなぜか。
    東南アジアではキャッサバを使っている。ジャガイモのデンプンから成型した「チップスター」というスナックが製造されているくらいだから、ジャガイモも利用も考えられるのではないか。
    日本ではジャガイモは食料・飼料で使いつくされ、燃料に回すほど余剰作物がない。何を最優先にするのか。グレードの低い作物を燃料にする。食物で使えればそれでいい。何に使えば儲けにつながるか。米が余り、土地が放棄されているなら、それを利用する。耕作をやめた人には慣れている米をつくってもらうのがいい(三石)。