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サイエンスカフェみたか「地球の生命はどのように生まれたか」

2023年9月28日、サイエンスカフェみたか(主催 三鷹ネットワーク大学)「地球の生命はどのように生まれたか」を開きました。講師は東京都立大学名誉教授 八杉貞雄さんです。
来月からはじまる「太陽系ウォーク」を前に、誕生した地球で起きた生命の誕生についてお話し頂きました。

八杉貞雄さん

八杉貞雄さんのお話

主なお話の内容

はじめに

地球が46億年前に誕生し、40億年前ごろに生命が誕生したと考えられる。このことは原核生物の化石によってわかっていて、この時期が太古代の始まり。5.7億年以降は古生代となり魚類が繁栄。2.4億年前以降が中生代で白亜紀には爬虫類が繁栄した。6400万年前あたりに巨大隕石が地球に衝突し環境が変わり、恐竜が絶滅したと考えられている。その後、環境に適応して鳥類が繁栄した。地球の歴史からみたら人類の登場はつい少し前。これらの生物の進化も、40億年前に生命が誕生したからこそ、起きたといえる。

生命とは何か

生物は外界から酸素や栄養を得て、エネルギーに変えて代謝する。子孫を残したり、子孫が少しずつ変化することで進化したりする。この根底には遺伝プログラムがある。
生物は、原始生物から3つのドメインである原核生物(真正細菌、古細菌)、真核生物に分かれている。古細菌はアーキアと呼ばれている。真核生物には、動物、植物、真菌のほかにユーグレナのような原生生物も含まれる。
我々のような真核生物には核があり、核にはDNAが格納されている。DNAは糸状で染色体をなし、細胞の中にはミトコンドリアなどの細胞小器官がある。
原核生物には核はなく、DNAは輪になっている。細胞内に、細胞小器官はない。細胞の大きさも原核細胞は、真核細胞の10分の1から100分の1と小さい。

細胞内の主な分子

生体を構成する高分子には、タンパク質(アミノ酸の鎖。酵素、ヘモグロビンなどがある)、糖質(糖の鎖でエネルギー源)、脂質(グリセロールに脂肪酸がつながった分子)、核酸(塩基にリン酸基と糖がついて何十万とつながっている)がある。DNAの情報はRNAに読みとられ(転写)、細胞のタンパク質製造工場であるリボソームでアミノ酸をつなげてタンパク質がつくられる(翻訳)。工場にはトランスファーRNAが原料を運ぶ。

生命の起源の研究の歴史

17世紀まで生命は自然発生すると思われていた。レディは肉を入れた容器に蓋をするとウジがわかないことを示し、自然発生説を否定した。しかし、微生物の自然発生までは否定できなかった。
1860年、パスツールは自然発生説を否定し、生物は生物からしか生まれないと言った。それでは初めての生物はどうして生まれたのか。同じころ、ダーウィンは『種の起源』でその疑問を記している。
パスツールは白鳥首形フラスコを使って、肉汁を煮沸して蓋をしておけば微生物が発生しないことを示した。ふたをあけておくと微生物が発生して腐ってしまう。
1932年、ロシアの生化学者オパーリンは三段階説を唱えた。それは、原始地球のメタン、アンモニアが反応してアミノ酸や塩基ができる、アミノ酸などがつながってタンパク質ができる、タンパク質や核酸を膜で包んで原始細胞(コアセルベート)になったというもの。1953年、ユーリーとミラーの実験で、メタン、アンモニア、水素、水蒸気をとじこめて放電した所、有機化合物ができた!
クリックはDNA二重らせん構造発見後、オーゲルとともに「意図的パンスペルミア」という、地球外の生命体が生命の種を地球に送り込んだという説を唱えた。
生命誕生に必要な素材は地球上にあったという説と、隕石に素材がのって持ち込まれたという説がある。化学進化という高分子が生まれるプロセスがあったと考えると、海底の熱水噴出孔のようなエネルギーや種々の原子や分子がある所で、生命は誕生したと考えられる。そしてミセルが形成されていったのではないか。

化学進化

金星の水は高熱で水蒸気になり、火星の水は寒冷で凍っている。地球には水が液体で存在する。地球の水には岩石のミネラル、アミノ酸 タンパク質が溶け込んでいた。5億年前の海水の塩分濃度は今の三分の1で、我々はその中で進化して上陸した。
海底のいろいろな物が溶け込んだ水は熱せられ、そこでは高分子ができやすい。無機分子→有機分子→有機分子ポリマーができて、小胞が自己形成される。
生命の起原を考える上で困難だった問題は、DNA(核酸)が先か、タンパク質が先か、ということだった。これは、リボザイムという、RNAでありながら酵素のような性質をもつ物質の発見によって解決した。その研究から、RNAワールドとDNAワールドという考えが生まれた。
原始の生命はRNAワールドの中にあった。その後、遺伝物質としてもっと安定なDNAができた。RNAは1本鎖で切れると情報が失われるが、DNAは二重らせんで切れても修復しやすく、この方が子孫に伝えるには適していた。これがDNAワールド。
小胞はリン脂質二重層(外側が親水性)で囲まれている。これがミセル。ミセルはいろいろな物を取り込んでいった。
世界最古の生物の化石は、オーストラリアのノースポールの数十ミクロンの細胞の集合体。36億年前の繊維状の化石として見つかっている。
ミセルはRNAワールドに存在していた。ここで逆転写がおきてDNAができて、生物は DNAワールドで生きていくことになる。
これらの化学進化の過程でも、他のものより少しでも増えやすい原始細胞が有利になって、それによって現在の生物の共通祖先となった、という自然選択の考え方が当てはまる。

最近の研究から

2022年8月、ペプチドもあった方が反応に盛んになる「RNA-ペプチドワールド」があったのではないかという説が出てきた。
リュウグウが持ち帰った岩石から2万種の有機分子が見つかっている。これから、生命の誕生に関する研究は進むと思う。
カナダの39.5億年前の岩石からは、生物の存在を示す有機化合物が見つかっているので、生命の起原はやはり40億年前頃だった、という考えが確からしくなっている。
RNAが、遺伝物質としても、酵素としても働くということも、つい最近、実験的に証明された。