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「食品添加物の安全性を評価して20年。正しく知りたい、安全性の考え方」開かれる

2023年8月23日、第41回コンシューマーズカフェを開きました。お話は、明治大学農学部農芸化学科 教授 中島春紫氏による「食品添加物の安全性を評価して20年。正しく知りたい、安全性の考え方」でした。どんなところで食品添加物が利用されているかというわかりやすい解説に始まり、現在、審議されている食品健康影響評価指針の20年ぶりの改訂についてもお話しいただきました。

中島春紫さん

中島春紫さん

主なお話の内容

身近な食品添加物

(1)アミラーゼ
買ってから数日しても硬くならない餅菓子がある。デンプンはグルコースの鎖の中に水を閉じ込めてアルファ化し柔らかくなり、日が経つと水分が抜けて硬くなるのが普通のお餅。アミラーゼは次のように種類がある。
αアミラーゼ:エンド型のアミラーゼ。これが柔らかいお持ちの秘密。
βアミラーゼ:デンプンを端から分解しマルトースにする。これが水あめ。
プルラナーゼ:デンプンの枝を切る。
枝分かれがあるデンプンはアミロペクチンといい、もち米の成分。これに対してうるち米は枝分れのないアミロースを30%くらい含む。アミロース合成系の方が優性なので交配するともち米の性質は現れない。
蒸した米にこうじ菌を混ぜると、菌糸がでて大量にアミラーゼが作られ、デンプンは糖になる。こうしてアミラーゼをつくることができる。
酵素によって耐熱性が異なる。高温で働ける安定な酵素(例えば耐熱性アミラーゼ)は酸性に強く、長期間安定で、反応速度が速い。ほとんどの高分子化合物は高音で溶解度があがりさらさらになり、機器への負担が低くなる。ここで、反応効率がよい耐熱性アミラーゼは工業的な利点が大きい。耐熱性菌のアミラーゼ遺伝子を高温に強い微生物に組み込んで大量に作らせると、生産性向上につながる。

(2)シクロデキストリン
微生物からとった酵素でデンプンを分解してシクロデキストリンをつくる。シクロデキストリンは環状構造をしていて、中は疎水性が高くアルコールなどを閉じ込めることができる。シクロデキストリンが安くできるようになって、たとえば、揮発性成分を閉じ込められるようになり、中に揮発成分を閉じ込めて生さびが安く作れるようになった。
αデキストリンも好アルカリバチルスが発見されて単価が下がった。
アルコールをとじこめたシクロデキストリンは防腐剤として利用されている。

(3)リパーゼ
脂肪を分解する酵素。石鹸の製造、食品添加物、医薬品などとして利用されている。リパーゼを入れるとパン種が滑らかになる。

(4)凝乳酵素
牛乳を固めてチーズを作るのに用いる酵素。レンネットは母乳の消化のための酵素の混合物で、子牛がのんだミルクを胃の中で固めて消化効率を上げる役目を担っている。小牛が成長して草を食べるようになるとペプシンもできる。そこで、まだ草を食べていない子牛の胃のレンネットをチーズ作りに使う。牛乳中にはカゼインのミセルが浮遊している。マイナスの荷電で反発しあって浮遊している。レンネットを入れると電荷を失いすぐに固まる。
子牛を殺さないようにしたい!そこで代替酵素の探索が始まった。かびのムコールレンニンは同じ作用を持つのでチーズ作りに使える。これを発見した東大の有馬先生は世界の小牛を救った!とたたえられている。
今では子牛の遺伝子を微生物に組みこんで、遺伝子組換えキモシン(レンネットの主成分)ができた。世界のチーズの7割くらいで遺伝子組換え酵素が使われている。
日本は遺伝子組換え嫌いから主にオーストラリアでと畜された子牛キモシンを使っている。オランダも遺伝子組換え嫌いから小牛キモシンを使っている。日本の消費者は遺伝子組換え嫌いから小牛をと畜していることを知っているだろうか。

精密発酵

精密発酵とは微生物を使って特定のタンパク質などをつくることをさす。タンパク質、酵素、フレーバーなどを生産。アメリカでは精密発酵のミルクが売られている。外来遺伝子を導入して生産するので最終産物に外来遺伝子が残っていなくても安全性審査が必要。
例えば、卵白でつくるマカロン、クリームチーズが輸入される可能性があり、安全性評価のしくみが必要になる。また、バイオリアクターで微生物によってつくられる代替ホエイは、95%がβ-ラクトグロブリンの粉末。牧場は不要になり、乳糖不耐性の人も食べられる。

基本五味

(1)基本の四味
魚類は塩味と苦みがわからないというが、人は五味を感じられる。甘味には水酸基が多い糖類が該当し、糖類はエネルギー源になる。塩味はミネラルの味。酸味はクエン酸で水素イオンが多く、未熟な果実や腐敗食品に対する要注意の味。苦味はタンニン、テアニンなどで塩基性であり、天然の苦味はアルカロイドなどの毒を知らせる警告の味。コーヒーやビールの苦味はおいしかった経験をふまえないと好まれない理由。
四味では表せない「うま味」が提唱され、20世紀になってうまみの受容体が見つかり、うま味が認知された。これはタンパク質の味で体に必要。
ここまでが五味。渋みは収斂により、辛味は痛覚によるので五味には入らない。

(2)うまみ物質
うま味の正体はグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸。2種類のうまみが混ざると、感じるうま味は10-20倍になることがわかっている。
製品では、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムと、ナトリウム化合物が製品化している。少量でおいしくなる。興奮性神経伝達物質であるので危険視する記事もあるが、哺乳動物の脳にはブレインブラッドバリアとよばれる仕組みが備わっているから直接入らないので効かない。JECFA(WHO/FAO食品添加物専門家会議)がADI設定の必要なしとするくらい安全と言っている。

食品添加物

(1)食品添加物とは
食品添加物は食品の製造過程、加工保存で使われ、天然・合成の区別はない。食品安全委員会で評価し、公定書に記載されている。こんなに厳しく管理されているのに誤解されている化学物質は食品添加物と農薬だけだと思う。
食品添加物公定書にのっているのが食品添加物。成分規格、製造と使用に関する規格・基準が示されている。最新版は第10班で2023年2月に発行された。831品目が記載されている。

(2)食品添加物の安全性
厚生労働省に企業は申請し、厚労省は食べて安全かどうかの審査を食品安全委員会に依頼する。評価結果は申請者に返され、官報に記載される。
食品安全委員会は厚労省や農水省から諮問を受けると、科学的根拠のみで評価する。忖度しない。2024年、食品の安全性を審査する業務が厚生労働省から消費者庁に移管する予定。
各専門調査会では評価を行う。食品添加物、農薬、遺伝子組換えなどの専門調査会は検討事項が多くて忙しく、ほぼ毎月開催されている。

(3)食品添加物の安全性を評価するルール
NOAEL(無毒性量)とADI(一日許容摂取量)を決める。
ラットに90日間投与する。ラットの寿命は2年から考えると人間なら約10年に当たるだろう。1群6匹くらいで試験を行い、全部解剖し、どこまで投与量を増やすと悪影響が生じるかを調べる。悪影響が出ない量がNOAEL。それを100で割るとADI。一生涯、毎日食べてよい量。安全係数は100が一般的。動物と人の差10、個体差10の積。100はかなり安全サイドに寄せた係数と言える。
さらにADIをこえないようにいろいろな食物の使用基準をきめる。例えば焼き菓子なら香料は1kg当たり何mgまで入れていいかなどを決める。

(4)イソフラボン
イソフラボンを例に摂取量について説明する。イソフラボンは大豆のポリフェノールで女性ホルモン様の作用がある。乳がん、骨粗鬆症に有効というデータは、日本、アメリカでは得られていない。
内分泌かく乱物質(環境ホルモン)の定義をみると、生体にホルモン作用を起こしたり、阻害したりするイソフラボンはまさに環境ホルモン。閉経後の女性が150㎎/日のイソフラボンを摂取したところ子宮内膜症の発症が有意に高まった。食品安全委員会ではサプリメントとしてイソフラボンの摂取を1日30mgまでと定めた。
世の中には「毒」「くすり」「くすりにも毒にもならないもの」しかない!イソフラボンについて、専門家は効かない程度なら安全と考えている。

遺伝子組換え

(1)定義
遺伝子組換え食品として安全性審査の対象になるのは遺伝子組換え植物、遺伝子組換え微生物、遺伝子組換え微生物を用いて作られた食品添加物。遺伝子組換え動物の規制は作られていない。例えば培養肉の安全性の考えかたの整理はまだ行われておらず、規制はない。
真核生物は細胞の中で核の外にDNAがあると自動的に核内の染色体に取り込む性質がある。EUには最終製品に残らない加工助剤の定義があるが、日本にはないので全部審査する。また、セルフクローニング(同一の分類学上の種に属する生物の核酸を入れる)、ナチュラルオカレンス(自然条件で起こりえるケース)、高度精製された食品添加物は遺伝子組換えとみなさない(カルタヘナ法の遺伝子組換えの定義からはずれるから)。

(2)遺伝子組換えダイズ・トウモロコシ
遺伝子組換えダイズの栽培は雑草との戦い。除草剤を組み合わせて用いてなんとか雑草をおさえてきた。グリホサートは残留性が低く安全性が高い。EPSESという酵素をつくる遺伝子をダイズに組み込んでグリホサートで枯れないようにする。収量アップに貢献。今は5種類の農薬耐性遺伝子組換え作物ができていて、耐性雑草発生の回避のために使い回している。
トウモロコシは害虫との戦い。害虫に食べられたところからカビが生えると売り物にならない。殺虫剤が必要だが、殺虫剤は除草剤ほど安全性が高くない。トウモロコシには5回散布が必要だが、バチルスチューリンゲンシスのつくる殺虫成分をトウモロコシの体内で作らせるとかじった手強いチョウ目のアワノメイガの幼虫だけはすぐに死ぬ。成分には種類がある。Cry1、Cry2はチョウ類、Cry3は甲虫類に選択的に効く。Cry3のお蔭で殺虫剤が3分の1に減った。
世界の遺伝子組換え作物の栽培面積は2018年で飽和してきて19000万ヘクタール。多く栽培しているのは、アメリカ、ブラジル、アルゼンチン、インド。作物はダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネ。コメや麦や野菜の組換え品種は普及していない。開発に大きな費用がかかる。大量に売れる作物しか採算があわない。

(3)安全性
コントロールになる食物の安全食経験をもとに、挿入される遺伝子をその産物を調べる。
環境影響評価では、2-3か所の栽培試験が必要で費用がかかる。従って大企業しかできない。導入位置がちがうと別物として審査はやりなおす。これがイベント主義。
アレルギー誘発性はアレルゲンデータベースで調べる。既知のアレルゲンと連続8アミノ酸が一致または、アミノ酸80以上で35%以上の一致がないかを調べる。これまでに330品目の安全性が確認され、却下されたことはない。データの追加に応じることができずとりさげられたのが10数件。

酵素タンパク質

食品添加物も加工助剤も審査しなくてはならない。
宿主は何か、どんな組み込み方をするのか、精製方法、純度、酵素そのもの安全性や食経験の有無を確認する。精密培養のタンパク質もこのカテゴリーになりそう。
セルフクローニング:同一種または近縁の微生物は自然界でも水平伝搬するので、同一種の遺伝子を入れた場合(数は関係ない)は遺伝子組換えとみなさない。承認された酵素は6件。
ナチュラルオカレンス:は自然界でも起こりうることが査読付き論文で確認された場合。放線菌同士で承認された酵素は12件。
部位特異的突然変異について、アメリカ農務部では1塩基の変異はOKとしている。日本はない。
高度精製:純度の高い再結晶した製品。非タンパク質生成物は表示義務なし。
食品添加物リストに載っていないアミノ酸は比較対象に用いるコントロールがみつかりにくいことがある。最終産物の安全性を確認で「指定添加物として告知されているアミノ酸、ヌクレオチド、ビタミン、単糖類と同等もしくはそれ以上の精製度」という記載がある。過剰なスペックを求めることになるので、「同等もしくはそれ以上」の文言を今度の改訂で削除する予定。 
また微量の不純物は微生物の代謝系でつくられるもので安全性確認は不要ではないか。

ゲノム編集

真核生物には、DNAの2本鎖の一方が切れても正確になおせるが、2本鎖が切れると何が何でもつなげようとする性質がある。繋げないと細胞はプログラム死する。タンパク質をコードする部位が切れると、そのタンパク質はできなくなる。
クリスパキャス9は、目印になる配列を切る。20塩基あれば染色体でヒットする配列はないと考えられ、かなり正確に切る場所を決められる。ガイドRNAを設計しCAS9(はさみの酵素)をいれると目的の部位を切る。修復ミスが起こればノックアウトされる。

(1)ゲノム編集技術の種類
ゲノム編集には3つのタイプがある。
SDN1:自然な修復で微細な変異が起こる。このような変異は交配育種でもえられるので遺伝子組換えとみなさず、表示義務がない。
SDN2、SDN3:鋳型をいれて修復させるのがSDN2。外来遺伝子が入るものはSDN3。
SDN1は「自然修復型」とでも呼んだらどうだろうか。SDN1は自然界で起こり得て、区別ができない。組換えは足し算の育種で害虫抵抗性や除草剤耐性を付与する。ゲノム編集は引き算のイメージ。そして遺伝子組換えとゲノム編集の最も大きい違いは、自然界で起こりえるかどうか。ゲノム編集とおなじものは従来育種で時間はかかるけれど得られる。

(2)ゲノム編集に関わる規制
ゲノム編集は規制できないので届出制度となった。事前相談では、専門家が実質的には安全性審査に近い厳しい検討を行っている。外来遺伝子がないか。アレルゲンはないか。申請者の善意の届出に頼っている現状。一方、届出しないと申請者名を公表する。

  • GABA高蓄積トマト:トマトのグルタミン酸からカルボシキル基がなくなったもので、野生種の10倍以上のGABAを含むトマトが得られた。
  • 肉厚タイ:ミオスタチン遺伝子を壊すことで、可食部を1.2倍に増やし、飼料効率は1.4倍になった。
  • 成長の早いトラフグ:レプチン遺伝子を壊して食欲抑制をきかなくした。飼料効率は上がり、可食部も増加。ふるさと納税返礼品になったことについて反対意見がでたが、市の委員会で却下された。
  • ワクシートウモロコシ:ほぼ全量がアミノペクチン(もち米の成分)のトウモロコシ。増粘用のコーンスターチができる。

レギュレトリーサイエンス

科学的知見と規制などの行政施策・措置の間の橋渡しになる科学のこと。
専門家が非常にレアなケースについて議論を始めることがあるが、製造法、食経験をみて現実的な判断が必要だと思う。「ウエイトオブエヴィデンス」の考え方に立つ。遺伝子組換えの厳格な審査と、ゲノム編集の事前相談の格差に関する検討が必要になるだろうと考えている。
現在、食品健康影響評価指針の20年ぶりの改訂について審議中。

(1)高度精製品
高度精製品の成分規格、安全性については指針の別添に示されている。高度精製品は、アミノ酸などの最終産物が高度に生成された非タンパク質として指定されているアミノ酸・ヌクレオチド、ビタミン、単糖などの成分規格を満たすものをさす。たんぱく質が検出されないもの。添加物の成分が安全で、非有効成分についても安全性に問題がないものが該当する。「同等、同等以上の精製」ということばが削除された

(2)微生物関連の技術的文書の方向性

  • 用語集と技術劇文書は調査会で改訂できる。
  • 技術的文書では、最終製品に残らないことが明らかな加工助剤のアレルゲン試験などを不要とする。
  • セリフクローニングとナチュラルオカレンスの考え方
  • 高度生成品に含まれる微量の不純物は0.05%以下なら不問にする閾値の考え方を導入。

まとめ

2024年、厚労省が所管している食品安全行政の一部が消費者庁に移管される。移管前に指針改訂や技術的文書を取りまとめておけたらいいと思う。厳しい規定は簡単にできるが緩和するのは難しいので、事業者の皆様には厳しい規程をつくらせないように早めに意見をいっていただきたい。 消費者やマスコミには、今、普及しているゲノム編集(SDN1)のよいネーミングを考えてほしい。SDN1は自然修復型など。精密発酵もよい名前を考えてください。たとえばプロテイン発酵とか。

お話の後、活発な質疑応答が行われました。企業の参加者からは、技術的文書の内容、扱い方に高い関心が寄せられました。消費者の立場からは、遺伝子組換えキモシンを使えば子牛のレンネットをつかないで済むこと知らなかった、もっと周知して遺伝子組換え食品について考える機会を持ちたいという意見などがありました。