「ゲノム編集トマトとタイとフグ・消費者の受け入れは?」開かれる
2023年8月22日、第15回ZOOM情報交換会「ゲノム編集トマトとタイとフグ・消費者の受け入れは?」(主催 食の信頼向上をめざす会)が開かれました。2021年、日本では世界に先駆けて3種類のゲノム編集食品を上市しました。その後の消費者の受け入れなども含めて、じっくりお話をうかがいました。
江面浩さん
木下政人さん
話題提供1 「GABA高蓄積トマト」
江面 浩さん 筑波大学教授・サナテックシード株式会社
GABAトマトはクリスパキャス9を使った世界初の食物。私は研究段階から実用化までつなげることにこだわってきたので、上市出来てよかったと思っている。地球規模課題、食料の量と質の不足、収穫後のロス削減、おいしく健康向上に貢献するものにしたい。高齢化と生活習慣病増加は発展途上国でも問題化していると聞く。
GABAは血圧改善に有効と考えられ、日本の人口の5割が高血圧で、3割が薬を服用、残りの7割は放置されている。そこで毎日の食事でこの7割の人の健康改善に役立ちたい。GABAトマトなら口から食べて血圧改善、リラックス効果、よい睡眠が期待できる。
ゲノム編集技術を始める前から、10年間、トマトのGABA蓄積のしくみについて研究していた。GADというたんぱく質にはGABAの酵素活性を抑える「しっぽ」がある。このしっぽができないトマトをクリスパでつくったところd、GABA蓄積量が増えた。
実験用トマトでできたことを、よく食べられている品種のトマトで行い、知財権を取得するためにサナテックシードを2018年設立。シシアンルージュハイギャバを作出。
GABAが従来の4-5倍に増加し、従来のトマトを100gも食べなくても、GABAミニトマト1粒で降血圧が期待できる。
2019年秋、長い事前相談の末、食品としての安全性、環境影響評価に関するデータが確認され届けを出してよいことになった。トマトの作出は2014-2018年にSIPというプロジェクトの中で研究した。規制の枠組は5年間かけてつくられており、提出データに対して規制にのっとった安全性確認が行われた。普通のトマトと同じに扱っていいと言われたのが、2020年12月11日である。
表示は消費者庁の所管で義務表示対象外だが、マークをつくった。届出前には、2014年からワークショップ(WS)を何回も行った。対象は10歳から80歳まで。そこで、新しい技術を使った食品には情報が欲しいといわれたのでラベルをつけることにした。
体験してもらいたいという気持ちがある。WSで食べてもらった。2021年5月からは栽培キットを全国約4200件に配布して栽培してもらった。LINEグループには約2000名が参加し、栽培指導を行ったり、意見交換を行ったりした。冬場も欲しい人のために契約農家に生産委託し、2021年9月は青果物販売を開始。加工食品を求める声に応じてトマトピューレも製造販売を開始。
2022年11月、機能性表示食品として4つの機能性が認められた。2023年から、いくつかの店舗で販売も始めた。7月末には中玉のGABAトマトの届出を行った。
ゲノム編集技術はピンポイントで短期間に品種改良ができる重要な技術。その技術を使って、食物を通じて消費者のQOLを高めていただきたい。
話題提供2 「肉厚のタイと成長が早いフグ」
木下政人さん 京都大学准教授・リージョナルフィッシュ
植物由来の食物は1.2万年から品種改良を繰り返してえられてきた。これはゲノムを変化させてきたことを意味する。しかし、海産物の品種改良は50年の歴史しかない。1980年ごろからバイテクで染色体操作が行われるようになった。高圧、低温処理で3倍体のカキができ、1年中食べられるようになった。この操作は、染色体セットの数を改変するだけで、新たな機能は付加できなかった。
1982年にマウスで、1986年にメダカで遺伝導入が実現した。1992年、成長ホルモンで早く育つサケがカナダでできた。遺伝子導入への社会受容は低かった。そこで外来遺伝子を入れずに品種改良ができないかを考えていた。
1990年、京大でメダカの遺伝子導入を勉強し始めたが、遺伝子組換えは受容性が低いのでペンディングとし、魚の機能解明、遺伝子導入方法などの基礎研究をしていた。2012年、魚類でのゲノム編集技術を確立したので、メダカの基礎研究から養殖魚の研究に方向を変えた。こうして、ミオスタチン遺伝子を変化させたマダイ、レプチン受容体遺伝子を変化させたトラフグができた。
タイの雄と雌から精子と卵子をとって人工授精し、実体顕微鏡でRNAやタンパク質を受精卵一つずつにガラスの針で入れていく。DNAはいれない!植物のゲノム編集は細胞壁があって直接注射できないので、遺伝子組換え技術でDNAをいれるが、動物の受精卵の膜は柔らかいからRNAやタンパク質を直接注入できる。育った魚のヒレの遺伝子をPCRで増やして調べて目的の変異が起こっていることを確認し、魚のおなかにIDチップをいれて追跡できるようにした。
マダイの可食部は3割。ミオスタチン遺伝子に2か所の変異を入れた。ひれを調べるといろいろなパターンがでてきた。8個と14個の塩基が抜け落ち、肉厚になったマダイを選別した。肉量は1.2-1.6倍。同じ体重のマダイを作るのに餌は14%少なくてよくなった。また、骨や内臓などの廃棄部分が30%減少した。飼料効率がよく環境によいことがわかった。肉の中の428種類の低分子物質を比べたら、両者に差がないこともわかった。
自然界で起こりえる遺伝子の変化であるかを調べるために、野生マダイ2匹の全塩基配列を調べたところ、ゲノム編集と同じように8塩基、14塩基の欠失が起きていた。この程度の変異は自然界で起こっていることがわかった。
ゲノム編集タイの場合、2017年に第2世代(1歳魚)ができ、2018年に論文が受理され、2019年にリージョナルフィッシュ(株)を設立。2021年にマダイとトラフグが上市された。京大発ベンチャーの支援を3年受けた。今はオンラインショップで、「22世紀鯛」「22世紀ふぐ」のロゴをつくって表示して販売している。トレーサビリティもQRコードで追跡できるようにした。
世界の水産生産量はあがり、魚食は増えているのに日本は減少し、水産事業経営者も減っている。事業者のうち60代以上が5割。若い人が水産業をさける理由のひとつに「海は危険」がある。陸上養殖なら安全。陸上養殖にあう魚をゲノム編集でつくる。
市場ニーズにあった魚の陸上養殖で安全で安定した就労にし、きれいな環境で安全安心な魚を飼育することで消費者メリットをもたらし、現地加工して6次産業化を目指したいと、私は考えている。
ファシリテーターから4つの質問
ファシリテーター 佐々義子から日本でのゲノム編集食品の現状について4つの質問を行いました。
第1質問 メディア・消費者の反応は
(江)遺伝子組換えのリスコミでは、頭での理解とモノがつながらなかったところが問題だったのではないか。ゲノム編集ではモノがあって食べる経験ができたので知識と体験を一致させることができた。ゲノム編集トマトは4000人の栽培モニターになっていただいた。家族が4人いたら16000人に、口コミで10人に伝えたら10万人以上に体験して頂けたと考えられるかもしれないと思う。
(木)私自身は草の根活動で、遺伝子、ゲノムなどの基礎知識を伝えてきた。消費者に情報が蓄積されてきたこと、国産であったこと、メディアの報道が消費者の好奇心を刺激したことが、好意的に受け止めてもらえるような影響につながったと思う。
質問1-1 メディアに取り上げられるように工夫されたことはありましたのか
おふたりとも特に工夫はないとの回答でしたが、江面さんは届け出後はメディアからの問い合わせがあると3時間くらいかけて説明した、木下さんは中立に報道してくれるところの取材には積極的に協力したとのことでした。
第2質問 届出制度では食品としての安全性確認や環境影響評価が不十分ではないかという声がありますが。
(江)事前相談では組換え体かどうかを確認するので、組換え作物と同じ位のデータを提出して、10人位の専門家に検討してもらっている。
(木)遺伝子組換え植物は評価項目が決まっていたが、組換え魚類では検討の経験がなかったのでゼロからのスタートだった。しっかり規制の枠組みを作って頂いた。追加質問が多くて対応は大変だったが、専門家にしっかりみていただいたと思う。
第3質問 義務表示の対象外だが、情報を求める声もあるが消費者は少なくありません。
(江)多いときは1週間に1回くらいワークショップを行って情報提供に努めてきた。そのときに情報が欲しいという声が多く、ゲノム編集でつくったことを表示することにした。しばらくは表示を続ける。
(木)不安を払拭すべきなので表示をするが、「自信をもっているからこそ、積極的に表示したい」と思う。22世紀と名付けたのは未来を先取りしていくという意味。
第4質問 慎重派の人たち、地元の人たちへの対応はどうですか。
(江)慎重派の方にはしっかり説明し、淡々と回答する。学校に教材として苗を配布するのも要望があったときに対応している。
(木)疑問や不安の理由を尋ねて対応する。科学的でない、誤った知識に基づく質問には回答に困ることもある。22世紀フグが京都宮津市のふるさと納税返礼品になっていることに一部の人たちから反対意見が表明された。自分たちは地元の方からの質問には回答してきた。慎重派からの意見はあるが、商工会議所は応援してくれていて、漁業連合に説明したときにも歓迎されている。
(6月の宮津市の委員会で、ふるさと納税返礼品からゲノム編集フグを外してほしいという請願が4-1で却下されました)
参加者からの質問
- GABAトマトに隣接して野菜を植えていいか。
(江面氏)GABAトマトは普通のトマトだと確認されているので、普通のトマトと同じように栽培できる。 - リージョナルフィッシュは、商工会議所などから応援されていることをWEBサイトで公開しているか。
(木下氏)自分では発信しにくいので、他のメディアから発信してほしい。 - 価格は安くなるだろうか。
(木)陸上養殖は設備投資が大きくて安くはならないが、水循環システムの改良、養殖にあう品種の創出、オープンイノベーションでやっていきたい。環境にやさしく、地元を育てて地域の水産業者の雇用を創出、SDGsに貢献に資するものとして、少し高くても買ってもらえたらと思う。 - シシリアンルージュハイGABAをとるのと、サプリでGABAをとるのは価格を比べるとどうか。
(江)サプリよりは安めではないかと思う。サプリでなく食べ物で健康を改善したい人もいる。 - トマトが交雑して野良トマトになったり、フグやタイが海で交雑して増えたりしないか。
(江)環境影響評価はうけている。GABAトマトは普通のトマトと交雑可能だが、その栽培は人手が必要なので自然界で野良トマトにはならないだろう。
(木)環境影響評価を受けている。フグもタイも海に棲むフグやタイと交雑は可能だが、果たして生き残って増えていくだろうか。例えば、22世紀鯛で変異をいれたミオスタチン(筋肉をつくる)遺伝子は4.5億年前に現われた。しかし、肉厚タイは今まで見つかっていないことから自然環境にはミオスタチン変異は適合しないと考える。この形質は劣性遺伝。
最後におふたりから結びのことばをいただきました。
(江)ゲノム編集技術は絶対に必要な技術。技術の意義を理解し、前向きな応援をお願いしたい。
(木)応援をお願いしたい。届出制度は残した方がいいが、事前相談の期間短縮など、効率な進め方の検討がされるといいと思う。