くらしとバイオプラザ21

ニュース

食の安全と安心フォーラム
「食物アレルギーのリスク低減策について」

2023年7月23日、食の安全と安心フォーラム第25回「食物アレルギーのリスク低減策について」が東京大学農学部フードサイエンス棟中島菫一郎記念ホールからハイブリッド開催されました(主催:食の安全と安心を科学する会(SFSS))。5名のスピーカーが異なる立場から食物アレルギーのリスク低減策についての情報が提供され、最後に全体討論が行われました。

SFSS理事長 山﨑毅氏による開会

SFSS理事長 山﨑毅氏による開会

全体討論

全体討論

「食物アレルギーの現状と社会的対応」
国立病院機構相模原病院臨床研究センター長  海老澤元宏氏

アレルギー疾患は第二次大戦後大気汚染による気管支喘息から注目されるようになり、1960年代中頃花粉症がでてきた。そして日本の食物アレルギーは1980年代から。アレルギー疾患の増加は国の文明化と関係している。
食物アレルギーの9割はIgE抗体に関係している。その食物アレルギーの9割は皮膚症状。食物アレルギーは口腔粘膜経由か小腸経由で起こる。「口腔粘膜経由」は、生の果実を食べて起こり口の周りが赤くなったりする。「小腸経由」は全身的症状で、加熱や胃酸やペプシンに抵抗性がある食物がアレルゲンになっている場合が多い。
2004年調査(1200万人の児童対象)で食物アレルギーを持っている生徒は2.6%だった。赤ちゃんの卵アレルギーは約10人に1人。徐々に減少し小学校入学までに8割が治る。成人まで卵アレルギーが残る人は少なかった。牛乳アレルギーの人は卵の半分。小麦アレルギーは牛乳のさらに半分。就学以前に自然に治る人が8割。小児のアナフィラキシーは学童の0.14%。
食物アレルギー(小学校以上)の調査では、2004年、2013年、2022年に、2.6%、4.5%、6.3%と増加。アトピー性皮膚炎、喘息はあまり変わらず、アレルギー性鼻炎が増加。
卵、乳製品、小麦のアレルギーは年齢が進むと治っていく傾向がある。木の実アレルギーが増えていて注目されている。木の実アレルギーは成長ととともに治らず、大人まで続く傾向がある。また、果物アレルギーが増えている。花粉症と関連があるのではないか。
食物以外の抗原感作による食物アレルギーもある。例えば、花粉症が影響して果物の食物アレルギーが起こるなど。小麦からつくった石鹸を利用した人が小麦食品を食べてアナフィラキシーを起こした事例は大きく報道された。
約1000名の医師が3か月ごとアレルギーの発症について報告し、アレルギー表示が検討される。2000年、一人の医師の報告は2~3件だったが、2022年には4.8~6.0件と増えた。医師からアレルゲンを指導されると、その食品を避けることで症状は誘発されないので健康被害のデータには表れない。2020年の報告では1位が卵、2位が牛乳、3位が木の実。2014年から木の実が急増。くるみは義務表示となった。カシューナッツも注視しているところ。木の実アレルギーが増えるのは1~2,3歳、17歳ごろ、大人になってからも発症している。
医学的には呼吸器系症状が最も心配。アナフィラキシーでは、アレルギー症状が全部、一気に起こる。ショック症状が起きると脳に血液がいかなくなり危険。ステロイドをのむと効果が発現するのに3時間はかかる。アドレナリンの自己注射「エピペン」はアナフィラキシーにも劇的に効くが、注射は抵抗があるようだ。
小児への対応体制はこの10年、負荷試験ができる病院も増えて全国的に充実してきた。成人の場合は自己判断が多く、実態は不明。成人の食物アレルギーを把握すべき。
アレルギー患者は負荷試験でアレルゲンを微量から量を増やしていき、どの程度の加工品が摂取できるかを調べる。診断後の食生活指導をする管理栄養士さんの役割は大きい。知らずに不要な除去をしていることもあり、適切な指導でQOLが向上することもある。管理栄養士への教育内容のアップデートも重要。
ロット、製法が変わるので情報提供は大変らしいが、企業の表示改良の努力はアレルギーのリスク低減に貢献していることも知っていただきたい。

「アカデミアからの食物アレルギーリスク低減策」
東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター 教授 八村敏志氏

抗原特異的に免疫細胞が働いて起こる疾病をアレルギーという。口から入る物に対し、過剰な免疫反応を抑える仕組みのひとつに「経口免疫寛容」があり、アレルギー反応の抑制をつかさどっている。原因タンパク質が消化されアミノ酸になるとT細胞は認識せずアレルギーは起きないが、タンパク質の一部は大きな分子のまま吸収されることわかっており、そのような場合に経口免疫寛容が働く。
ラックは、「食べるときは免疫寛容が起こるが、経皮だとアレルギーが起こる」ことを提唱した。動物レベルでは、経口免疫寛容が誘導されることは古くから知られており、例えば、カゼインを食べていたマウスでは食べていないマウスよりカゼインを注射したときに抗体が少ししかできなかったという実験で示される。ラックは、乳児期にピーナッツをいっぱい食べた群と食べない群では、5歳になったとき、食べた群の方にピーナッツアレルギーが少ないことをつきとめ、人においても経口免疫寛容が誘導されることを示した。
私たちは、マウスモデルを用いて、経口免疫寛容の誘導機構の解明に取り組んでおり、オリゴ糖や乳酸菌で経口免疫寛容が増強されることを明らかにした。このような食物で、アレルギー症状が緩和できることを期待して研究に取り組んでいる。
足立先生の開発した食物アレルギー性腸炎モデルを使った食物アレルギー発症メカニズムと抑制法の研究では、T細胞はTh1(細胞性免疫誘導)、Th2(抗体産生応答の誘導・寄生虫に対する防御)、Treg(免疫抑制)Th17(バリア感染予防)のT細胞サブセットに分化しているが、Th2が強くなるとアレルギーが起き、Tregがうまく働けばTh2を抑制できることがわかった。本モデルでは、卵白食を与え続けると腸炎が緩解するが、骨量が減少することもわかっている。例えば牛乳のホエイタンパク質中の塩基性たんぱく質(MBP)は食物アレルギー性腸炎を抑制し、骨量減少を緩和することを見出した。
食と免疫・アレルギーの関係を解明し、食によるアレルギー予防と緩和を可能にすることにより、誤食のリスク低減につなげたい。

「加工食品メーカーにおける食物アレルギーリスク低減策」
キユーピー株式会社 食品安全科学センター長 宮下隆氏

当社では、1991年から当時の5大アレルゲン(卵、乳、小麦、大豆、米)不使用のベビーおやつを販売。また、アレルゲン配慮食品のサイトで配合を調べられるようにした。さらに、卵を使っていない「エッグケア(卵を使わないマヨネーズタイプ)」や「HOBOTAMA(動物性タンパク質を使用しないプラントベースフード)も製品化。
「安全確保の考えかた」は、原料情報のデータベース(DB)を作成。従事者全員で製造ラインにおけるコンタミネーション(混入)を防止することやアレルゲンの勉強会を製造に関わる人、一般の従業員向けに開催はじめている。
食品事業者として発生させたくない事故トラブルとしては、食中毒、アレルギー、硬質異物混入などがある。アレルギーには特に迅速な安全性評価が必要。
発生させないように、次のようなリスク低減対策をしている。
(1)製品への表示:表示による事故を発生させないために、原料DB、表示DB、規企画書DBの管理などにより、転記ミス防止と記載ミスの防止を行っている。サプライヤーとのコミュニケーションが重要で、監査を行っている。
(2)製造ライン:アレルゲンのコンタミネーション防止のために、アレルゲンポイント(ミキサー、作業台などのアレルゲンと触れる場所)を見える化し、アレルゲンを除去、アレルゲン検査キットで清掃後にチェックし、洗浄バリデーションを行う。
(3)原料の使用間違いによる混入リスク・事故防止:原料誤使用防止システム(サプライヤーからお客様まで、全工程において間違いが発生しない仕組みを確立している。
(4)製造現場の環境づくり:5S(整理 整頓 清掃 洗浄 殺菌)と3定(定位、定品、定量)管理とは、場所と品目、量を表示して一目でわかるようにして「意識づけ」を行い、5Sと3定 を習慣化する。
(5)従業員教育:アレルギー事故未然防止の中で、一番大切な取組みと考えている:コロナで導入したWeb会議システムを活用し、2019年5月から製造メンバー対象の研修会を実施した。先ずは微生物研修を行い、次にアレルギー研修を計画している。

「外食事業者にとっての食物アレルギーリスク低減策」
株式会社フードサニテーション78 代表取締役 山下安信氏

食の場面は多様化しており、外・中・内食の境界線もなくなりつつある。

  • 外食:施設で提供されたもの。 例)ファーストフード レストラン 喫茶店
  • 中食:任意の場所で簡単に手を加える コンビニ 弁当 総菜 デリバリー
  • 内食:家庭で調理

コロナ禍を経て、デリバリーやテイクアウト、半完成品の利用がアップトレンド、外食と自宅調理はダウントレンドにある。フードサービスの市場規模は18兆円で(コロナ前は25兆円)、うち飲食店外食は11兆円。
食品表示基準では飲食店(設備を設けて食を提供)は対象外だが、食物アレルギー情報など対面での情報提供を基本に対応してきた。さらに外食チェーンはコールセンターやHP、WEBで最新情報を提供することが可能になった。
外食事業者の食物アレルギー情報は、「外食・中食におけるアレルゲン情報の提供に向けた手引き」(外食等におけるアレルゲン情報推進検討会、2017年6月)を基本としているが、食物アレルギー対応について情報の管理、適切な対応(情報提供、除去対応、事故対応)、従業員教育を基本としている。外食の現場は多様性に富んでおり、コンタミネーション(意図しない混入)のリスク等の特性があることから、包装食品と比較して情報の正確さには限界がある一方で、消費者が店員に対面で質問できるなどの特徴はうまく活用することもできる。
マクドナルドでは、事業者、アレルギー専門家、ご家族に食物アレルギーをお持ちの方々で構成する専門会議(15名ほど)で議論してきた。またグループインタビューやヒヤリングを通して、食物アレルギーをお持ちのご家族でそれぞれ事情が異なり、必要な情報も異なること、事業者側の情報や管理によって利用できる施設が制限されること、問合せには的確な対応が求められていることなどを学んだ。そして、マクドナルドのウェブサイトではトップページから特定原材料アレルギー情報、アレルゲンを使用していない品目情報を検索できるようにした。
リスク低減のために、飲食施設の基本は、調理段階における特定原材料の交差汚染を一般衛生管理の中で低減していくこと。また「低アレルゲンメニュー」を販売する場合には調理器具・容器の使い分けなど交差接触を確実に予防することが求められる。
食物アレルギーのリスク低減には、現場の従業員教育が重要である。過去の事例では、従業員と消費者で食材の取り扱いで誤解により発生したケースが多い。
例1)店員が脱脂粉乳は乳だと知らずに、脱脂粉乳入り米粉パンを提供して発疹が起こった。
例2)オムライスにのせた卵を除いて提供したところ卵が残っていてアナフィラキシー。
例3)卵焼きをハンバーガーから除外したが、マヨネーズを使用。卵アレルギーで発疹。
外食事業はお客さんとのコミュニケーションから始まる。消費者が求める情報は何か。外食の外から見えない特徴を共有してから議論していくことが重要。

「市民団体が考える食物アレルギーリスク低減策」
SFSS理事/認定NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長 赤城智美氏

私たちは厚労省の管理している食品回収情報のアレルギー関連情報をDB化してWEBサイトで公開している。食品回収の報告が義務化して数は増えた。2022年は940件だった。そのうち、総菜は594件、菓子は132件、パンは80件、肉は28件。そのうち発症事例は23件だった。加工品の原材料のアレルゲンは、卵が11件、くるみが3件、乳が3件。
回収の原因は表示ミスによるものは1-2割で毎年あまり変わらない。混入も多くないが、ラベルの貼り忘れ・貼り間違いが573件と突出している。これは人の作業のルールで改善できる問題ではないか。さらに、消費者もラベルに注意を払うようにしたらもう少し減らせるかもしれない。
中食は表示対象外なのに努力していただいているところだが、単純ミスで片付けられない事例もある。
例)アレルギー対応食品「米粉100%プチシフォンケーキ」
コムギは使っていないが、卵と乳製品は使っていたので、卵と乳のアレルギーの人は食べられない。「〇〇使っていない」表示が強調され、誤って食物アレルギー特定原材料等27品目不使用ラベルが貼られていて事故を招いた。
例)「豆腐プリン」
大豆、増粘剤、キャラメルソースを利用。増粘剤に脱脂粉乳が含まれていて、7歳児がアナフィラキシーを発症。計算値では0.5%以下は表示義務以下だったので乳を表示しなくても違法ではなかった。このために回収されず、保健所にも届けられていない。その後、同じような事故が5件起きた。発症事故1例目は、法律違反でなくても製造や販売をとめれていれば次の事故を防げたのではないか。
回収情報のDB化をしていて思うことは、もっと詳しい情報があれば、事業者にとっても患者にとっても学びになるのではないかということ。アレルギー対応はアレルギー患者には社会インフラ、メーカーが商品の差別化の機会ととらえるのは危険だと考えている。