サイエンスカフェみたか
「こんなアリあり?アリの社会の不思議なルール」
2023年7月27日、第92回サイエンスカフェみたか「こんなアリあり?アリの社会の不思議なルール」がオンラインで開かれました(主催 三鷹ネットワーク大学)。スピーカーの長岡技術科学大学工学部講師 山口勇気さんは、大学3年で「アリ」に魅せられて、研究してきたそうです。「サイエンスカフェの終わりには、皆さんにアリ好きになっていただきたい」とのことでしたが、質問も活発でかなり「アリ好き」が増えたようでした。
山口勇気さん
主なお話の内容
はじめに
新潟大学で理科の教員をめざして勉強していたが、在学中に昆虫にはまりアリの研究をして15年。アリは誰もがよく見かける身近な昆虫だが、観察するととても不思議な生態をみせてくれる。
アリはハチの中仲間で、土の中に棲んでいると思われているが、木の中に棲んでいるアリもいる。今日は社会性昆虫としてのアリを中心に話します。
アリは社会性昆虫
私たちは「社会性=コミュニケーション能力、社交性」と認識している人が多いと思うが、次の3つの条件を満たしているときに「真社会性生物」といい、アリ、シロアリ、ハチの一部、ハダカデバネズミがこれにあたる。
- 2世代以上が同居
- 共同で子育てする(姉妹が世話する)
- 繁殖の分業(子を産む個体と生まない個体がいる)
また、集団で生活する昆虫を「社会性昆虫」といい、卵を産みっぱなしで生きていくカマキリやドロバチは「単独性昆虫」といい、成長した自分の子どもに会ってもわからないだろう。
家族を見分ける方法
アリは家族をどうやってみわけるのか。ヒトは視覚、トリは鳴き声かもしれない。
アリを飼育・観察して家族の見分け方を見つけた。石こうで観察しやすい箱状の巣をつくって、外から帰ってきたアリを見ていると、触覚で巣の中のアリを次々に触っていった。
シャーレに同じ巣からとった2匹のアリをいれた場合と異なる巣からのとった2匹のアリを入れた場合の攻撃性の違いを観察した。同巣のアリは触覚で相手を触って、そのまま通りすぎた。異なる巣のありは触覚があたると逃げる、噛みつく、腹部を曲げて威嚇するなどの強い攻撃性が観察された。約150組のアリを観察し、同巣と異巣では有意の差がみられた。
どうやって認識したのだろうか。触覚で相手を触っていたので触角は化学物質のセンサーと考え、アリの体表面の化学物質を溶媒に溶かして成分を調べた。トゲズネハリアリでは38種類の化学物質が見つかった。アリの体には多くの化学物質があり、「アリは“歩く薬品庫”」という研究者もいる。
同巣のアリは同じ位置にピークが出た。5つの巣から10匹ずつアリをとってきて、体表の化学物質を比べたら同じ位置にピークが出たが、そのうちいくつかのピークは高さが異なっていた。この量の違いで家族を認識していることがわかった。
次に、このことを確かめるために、アリの体表の化学物質を溶かしたヘキサンにビーズをひたし、その化学物質をビーズにつけてアリのそばにおいた。ヘキサンにだけつけたビーズも置いた(コントロール)。
同巣のアリのビーズは触って無視し、異巣のアリのビーズからは逃げた(弱い攻撃性)。コントロールのビーズに対しては、攻撃性はみられなかった。巣ごとで、アリの体表の化学物質を認識していることが確認できた。
巣の中に変な侵入生物が来たら化学物質で見分けてやっつけ、巣や家族を守る。化学物質の量が一定になってくるのは同じ巣に棲んで同じものを口移しで食べることによる環境要因と遺伝的要因があるらしい。家族の定義は血縁関係だが、同じ巣には同じ女王アリの子がいるから血縁になる。
アリの能力は他の生物に利用されている
トゲアリは胸部と腹部のあいだいトゲがある。トゲアリの女王アリは、ムネアカオオアリの化学物質を利用してムネアカオオアリの巣を奪う。
トゲアリ女王アリは、ムネアカオオアリの巣の入り口あたりで、ムネアカオオアリの働きアリに覆いかぶさって、ムネアカオオアリの化学物質を体につけて、ムネアカオオアリの巣に侵入する。トゲアリの女王アリはムネアカオオアリの女王に3日間くらい覆いかぶさり、相手の化学物資を体につけて、噛み殺してしまう。トゲアリ女王は、ムネアカオオアリになりすまし、働きアリから餌をもらいトゲアリの卵を産む。ムネアカオオアリはトゲアリの卵や子どもを育てる。やがてトゲアリの子どもが生まれ、トゲアリの働きアリに入れ替わってしまう。これを「社会寄生」という。
擬態というナナフシが枝に化けるように姿を植物などに似せることがあるが、体の化学物質を使ってムネアカオオアリをだましているので「化学擬態」という。
アブラムシの分泌する甘露を吸うことで、アリはアブラムシを他の虫から守っていることはよく知られている。エイコアブラバチはケアリの化学物質を体にこすりつけて、アブラムシを守るアリをやりすごし、アブラムシの体に卵を産み付けて逃げていく。卵はかえってアブラムシの体からでていく。これも化学物質をつかってエイコアブラバチはアリをだましているから「化学擬態」。
アリの魅力を語りつくす山口さん
アリを調査・観察・研究する魅力
アリを調査・観察・研究することの利点は、
(1) 身近な生物だから。アリを知らない人はいないし、アリを見ない日もない。
危険がないので調査研究がしやすい。
(2) 巣を見つければ、必ず会える。チョウは飛んでいて、いつ会えるかわからない。
(3) アリはあらゆる環境(ビル街、荒れ地、砂漠など)に適応して生きている。多様な行動、多様な形態を観察できる。
たとえば、南半球のアリやハチは進化している。ハキリアリは葉をきりとって行列して巣に持ち帰り菌類を育てて食べている。「農業をするアリ」と言われるが、現地では木や作物が枯れるまで葉をとってしまうので害虫扱いされていた。
アミメアリは女王アリがいない。働きアリが生んで育てる。女王アリがいなくても生きられる進化を遂げた。
アメイロアリのギ酸は甘く、吸虫管で集めるときに甘さがわかる。色をつけた砂糖水を飲ませると、おなかの色が変わるのが観察できる。
最近の私の仕事のひとつは、ヒアリらしい昆虫の写真が送られてくるので、それをヒアリかどうか判断すること。1年で10事例くらい見つかっている。ヒアリが2-3匹見つかってもそんなに怖くないが、女王アリが見つかると働きアリは万の単位でいると考えられるので要注意。ヒアリの見分け方は、頭、胸、腹の、胸と腹の間が広く「腹柄(ふくへい)」というこぶが2個ある。背中にとげがない。触角の関節の3つめが短いの3点。みなさんも近くで怪しいアリをみたら、この3点を注意してみてください。