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     2016年12月3日、2017年1月21日、2月4日の3回にわたり、会場は神奈川工科大学ITエクステンションセンターにて三菱化学テクノリサーチ株式会社と共催で「お米バイオカフェ」を開催しました。初回の12月2日には会場となった神奈川工科大学の栗原誠先生が開会のご挨拶をしてくださいました。
    各回のお話はお米にちなんだお話で、農研機構 生物機能利用研究部門のイネの研究者が次のようなタイトルでお話してくださいました。
     12月2日「病気に負けないイネができた!〜植物の戦う仕組みを利用して〜」高辻博志さん
     1月21日「新しいお米を求めて〜従来育種からゲノム編集まで〜」小松晃さん
     2月4日「スギ花粉症米の開発〜お米を食べて花粉症が治る?〜」高野誠さん
    特に1月21日の回では、小松さんのお話の後に参加者のみなさんから遺伝子組換え技術やゲノム編集技術を利用して作られた作物の利用について意見を出していただいたり、それらに対するコメントや解説を小松さんからいただいたりと、内容の濃い回となりました。


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    栗原さんのお話
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    高辻さんのお話
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    小松さんのお話
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    高野さんのお話

    12月3日 「病気に負けないイネができた!〜植物の戦う仕組みを利用して〜」高辻博志さんのお話

     作物の病害虫の被害は、19世紀にアイルランドの大飢饉を引き起こしたジャガイモ疫病のように歴史的に大きな出来事の原因でもある。紅茶で有名なスリランカもその前はコーヒー栽培が盛んだったがコーヒーさび病の蔓延により紅茶栽培にシフトした経緯がある。今の時代も、作物栽培において病気への対策をとらないと、多くを失ってしまう。
     自分はいもち病や白葉枯病、ごま葉枯病など複数の病気に耐性のあるイネの開発をしている。WRKY45という遺伝子は病気に対する防御遺伝子約300個の司令塔の役目をしている。WRKY45がこれらの遺伝子のスイッチをオンにすると、突撃部隊や武器を作る部隊がお米の細胞の中で働き出すイメージ。WRKY45の働きを強くすると病気には強くなるが、理想的なイネを作るには2つの壁があった。一つは、WRKY45の働きを強くしすぎると、イネ全体の生育が悪くなって収量が落ちてしまうこと。このことから、WRKY45を “適度な強さで”強化することや“病気になりそうな時だけ”強化することが重要。2つ目は、低温によってWRKY45の働きが悪くなること。この問題の原因も最近解明され、WRKY45が働くためのスイッチオンを間接的にコントロールしている遺伝子を操作することによって、低温の影響を受けずにWRKY45を十分働かせることが可能になった。
     これらのしくみを総合的にコントロールしてバランスをとることで、病気に強く収量もよいイネを作ることができる。特に栽培コスト削減の必要が大きい飼料用イネに応用し、日本の飼料需給率、ひいては食料需給率の向上に貢献したい。


    1月21日 「新しいお米を求めて〜従来育種からゲノム編集まで〜」小松晃さんのお話

    (小松さんのお話はこちらにも掲載されています。
     
    品種改良の必要性
     どうして品種改良技術が必要なのか。これは今の農業が抱える課題を解決するため。異常気象による環境変動、グローバル化に伴う新たな国外のニーズ、人口増加に伴う食料の安定供給など、これらの課題に対応する新品種を早急に作る必要がある。そして、海外の農業と私たちの生活は繋がっている。私たちの食料は、海外からの輸入産物で支えられていることを忘れてはいけない。
    
 そもそも育種、品種改良とは遺伝子を書き換えること。人類は最初、自然突然変異で野生の中から食べやすい性質を持つ植物を探して食べていた。その後、交配による品種改良が始まり、現在では人為的にイオンビームやガンマー線などを使って様々な性質の作物を作り出し、品種改良に利用している。その後、遺伝子組換え技術が品種改良に利用されるようになり、現在はゲノム編集技術を応用した新品種作物の開発も進められている。ゲノム編集技術は、自然突然変異の考え方が基本となっている技術。
    
 
    新しい技術で開発された作物、開発中の作物
    
 遺伝子組換え技術を利用して作られて、一番最初に販売されたのは、1996年、フレーバーセーバートマト、腐りにくいトマトだった。それ以降、この20年で遺伝子組換え作物の栽培面積は約100倍、およそ1億 8000ヘクタールに増えた。世界中で栽培国が増えていて、近年では発展途上国で栽培が広がっている。どのよう作物が栽培されているかというと、14種類の作物、ダイズ、トウモロコシのほか、パパイヤ、さらに食用ではないが青いバラや青いカーネーションが栽培されている。
     日本でもいくつかの遺伝子組換え作物の開発が進んでいる。複合病害虫抵抗性、不良環境耐性、機能性成分を高めた作物などのほか、飼料用のイネの開発も進められている。飼料が国内で得られるようになると、食料自給率向上につながる。飼料に添加している栄養素をコメに作らせ、低コスト化することで海外からの輸入飼料との価格差を小さくすることは重要なポイント。その他、環境修復機能を持つ植物やバイオマス資源として有効利用できる植物の開発も進んでいる。
    
 ゲノム編集技術を応用した品種改良については、ソラニンという毒物を作らないジャガイモ、低アレルゲン米、受粉作業なしで実がなるトマトなどがある。
    
 
    遺伝子組換えへの懸念
    
 遺伝子組換え作物について、栽培について、あるいは食べることについて、いろいろな心配をされている方が少なくない。その方々が問題と思っている点については、問題がないことが確認されている組換え作物だけが流通するようなしくみになっている。日本は国として遺伝子組換え作物の考えうる悪影響についてそのまま放置せず、1つ1つ、用途に応じて、科学的な知見により評価して、安全性が確認できたもののみが使用できるしくみが作られている。どこかの企業や大学などで組換え作物ができたからと言って、そのまま流通できるような仕組みにはなっていない。
     
    安全性評価の仕組みとこれからのこと
    
 では、遺伝子組換え作物の安全性のしくみはどのようになっているか?遺伝子組換え生物の安全性は、カルタヘナ法に基づく生物多様性影響評価(環境への影響)、「食品安全基本法」と「食品衛生法」に基づく食品安全性の評価、「飼料安全法」と「食品安全基本法」に基づく飼料安全性評価の3つに分けて行われている。
     遺伝子組換え食品については、正確な情報に基づく理解の促進はとても大切だが、「それでもやっぱり不安だから組換え食品は避けたい」と思う人がいて当然。でも、自分の不安や期待を他人に押し付ける必要は全くない。様々な話題と同じように、色々な考えの人たちが共存できる世の中を目指していきたい。
     
    「田の字法」で出た参加者の意見
     小松さんのお話の後、3つのグループに分かれて、遺伝子組換え技術やゲノム編集なども含めた新しい品種改良技術の利用について、「現在良いと思うこと」「現在、不安に思うこと」「将来、こうなって欲しくないと思うこと」「将来、こうなって欲しい、と思うこと」の4つの視点での意見をみなさんからいただきました。(いただいた意見の詳細はこちら(PDFファイル:20170121話し合い意見)をご覧ください。)理解が深まるようにと、いただいた意見について必要な補足説明を小松さんがしてくださいました。


    2月4日 「スギ花粉症米の開発〜お米を食べて花粉症が治る?〜」高野誠さんのお話

     現在、世界中でバイオ医薬品(成分がタンパク質などの薬)の研究開発がさかんに進んでおり、その生産システムについても、これまでの動物の培養細胞を用いるものだけでなく、植物の細胞を利用したり、植物そのものに作らせて、抽出、精製して薬にしようという研究開発が進んでいる。植物に薬を作らせる利点は、エンドトキシンという微生物毒物や人間に感染性のあるウイルスが混入するリスクがほとんど無い、スケールアップしやすい、生産速度が速いなどがあげられるまた、小規模でも生産可能なので、少量多品目の生産にも向いている。
     日本では、医薬品成分や機能性成分を作らせたお米を開発し、食べて治療する、健康になるということを目指している。農研機構では、経済的そしてQOLを大きく損失しているスギ花粉症について、免疫寛容という人が本来持っている免疫のしくみを利用して治療できないかと、遺伝子組換えのお米の開発を進めてきた。
     ポイントは、お米の粒の中のプロテインボディー(PB)Iという、タンパク質を溜め込む袋のようなもの。食べても消化があまりよくないため、腸まで分解されずに届き、腸管から吸収されることが分かっている。この中に、薬の成分となる、スギ花粉症のアレルゲンになるタンパク質を改変したものを溜めれば、舌下療法やカプセルで投与するよりも、効率的に薬の成分を体内に吸収させることができる。PB Iは、いわばお米の持つ天然のドラッグデリバリーシステムといえる。
     実用化に関しては、オープンイノベーションによる研究成果の社会実装の加速化を目指し、スギ花粉米を、それらの仕様や過去の研究成果に関する情報とともに提供・公開し、民間企業や大学、研究機関からの開発計画を募集した。現在、公募に応募して採択された2つの医療機関で、スギ花粉米を用いた臨床研究が進行中であり、その結果が有望であれば、実用化に名乗りを上げてくれる企業が現れるのではないかと期待している。
     栽培については、農研機構が主体となって道筋を付ける必要がある。今後、通常の農作物への交雑、混入防止のルールを決め、日本国内の中山間地や離島の水田で栽培できないかと考えている。そして、できるだけ早く、製品を消費者に届けたい。


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