2013年1月26日、三鷹ネットワーク大学でバイオカフェを開きました。お話は、サントリービジネスエキスパート㈱冨岡伸一さんによる「ブレンダーのつぶやき3」でした。この講座は大人気で今回は3回目になります。初めに香りの体験があり、そのあとはテイスティグとお話、盛りだくさんのプログラムに参加者は大、大満足でした。
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2011年開催レポート
冨岡伸一さん | たくさんグラスの並んだ試飲のセット |
初めに友清さんにより、香りのサンプルから5つを選んで、香りを体験しました。 後から種明かしがありましたが、バニラ、花の香り2種類(ローズウォーター、カーネーション)、スモーキー、ハッカの5つでした。 これらは、今日、テイスティングする蒸溜酒に含まれている可能性がある香りです。 また、今日は記録担当もテイスティングに積極参加しました。
大雑把にいうと、醸造酒を蒸溜すると蒸溜酒になる。ビールのホップを抜いて蒸溜するとウイスキー、ワインからはブランデー、日本酒からは米焼酎を作ることができる。机の上にずらりと並んだ13種類の蒸溜酒を一つずつテイスティングしながらのお話となった。
テイスティング1:カシャーサ
カシャーサ(商品名 カシャーサ51)は、サトウキビの搾りかすから作られる40度の蒸留酒である(別名 ピンガ)。癖がないのでカクテルベースに向いている。代表的なカクテルがカイピリーニャで、カシャーサに砂糖、ライムを加えて作る。シュラスコ(肉を串焼きにした料理)とよく合う。
テイスティング2:ズブロッカ
ズブロッカ(ウオッカの1種)は、桜餅のにおい(桜の葉の香りで、クマリンというのが香りの成分)がする。ウオッカにバイソングラス(草の1種で、これもクマリンが主成分)を1本入れて作ると桜餅の甘い香りがする。
テイスティング3:ラム2種(ブルガル・ブランコとブルガル・アニェホ)
ブルガルはドミニカ生まれのラム。カシャーサ(ピンガ)はサトウキビのしぼり汁でつくるが、ラムはサトウキビのは廃糖蜜(砂糖を精製する時に残る糖蜜)でつくる。125年前からつくられている。ブランコ(白)とアニェホ(ダーク黒)がある。ホワイトオークの樽で2-5年、熟成するとアニェホになる。シェリーを熟成した樽を使うプレミアムラムもある。樽からバニリン酸の香りがうつる。(初めに体験した香りのひとつ)。ブランコは活性炭でろ過し、透明にする。カクテルに向いている。
テイスティング4:スコッチウイスキー
マッカラン(商品名)は、シェリー酒を貯蔵した樽を使う。シェリー酒は、紹興酒・醤油に共通する香りがあり、日本人が好むお醤油のような、香ばしい酸化臭がある。2回目の蒸溜(再溜と言う)のときに、真ん中のよいところ(ハートと言う)だけを樽につめる。ハート以外の初めの部分(ヘッドと言う)と終わりの部分(テールと言う)は、次の再溜で使用する。単式2回蒸留といって、贅沢な作り方をする。
テイスティング5:ジン
穀物を糖化・発酵させて作る。蒸留時に草根木皮(ボタニカルという)といって、ネズ、コリアンダー、レモンピール、アンジェリカなどを浸けて香りをつける。キニーネも香りつけに使うが、キニーネはマラリアの薬だから日本では薬事法で使えない。昔、日本でつくったトニックウォーター(炭酸水に香草などで香りづけ)はおいしくなかった。今はキニーネと似た香りの成分がつかえるようになり、おいしくなった。ジン・トニックは代表的なカクテル。
テイスティング6:テキーラ2種(サウザ・シルバーとサウザ・ゴールド)
テキーラは、アガベという種類のリュウゼツラン(サボテンと似ているが異なる植物)からつくるメキシコのお酒。マゲイと云うリュウゼツランとは異なる。マゲイの真ん中をくりぬいてくぼんだ所に甘い樹液がたまり、これを自然発酵させたのがプルケと呼ばれる昔からの醸造酒。16世紀にスペイン人が蒸留技術を持ち込み、プルケを蒸留したのがメスカル。
アガベの葉を取り除くと、パイナップルみたいな形になり、これをピニャという。ピニャを蒸すと甘くなる(イヌリンというデンプンが熱と水分で糖になるため)。これを自然発酵させて出来た発酵液を蒸溜するとテキーラになる。
テキーラには、①ブランコ(蒸留のみ 無色透明)、②レポサード(蒸留後、2ヶ月から1年未満、樽醸造する。ほのかな褐色)、③アニェホ(1年以上樽詰め。褐色。樽の臭いが強い)がある。今日はブランコ(商品名 サウザ・シルバー)とレポサード(商品名 サウザ・ゴールド)をテイスティングする。
テキーラの臭いを土臭さ(earthy)という。バーボンを作ったホワイトオークの樽を使う。
会場風景 | 「来年も集まりましょう」 |
世界のブランデー
果実酒を蒸溜してつくる蒸溜酒の総称をブランデーという。ワインは日持ちしないので、蒸溜して保存がきくようにした。12年ものの蒸溜酒を、10年間、家においておいたから22年ものになったかという人がいるが、これはよくある誤解。高級ワイン以外は、瓶詰め後、どんな酒も劣化する。コルク栓もペットボトルも空気を通すので、酸化が進む。
フルーツブランデーは、リンゴ、さくらんぼ、洋ナシ、スモモなどいろいろな果実のワインを蒸溜してつくられる。
グラッパは、ぶどうの搾りかすから作る蒸溜酒である。重い味で食後酒として飲まれる。
フランスでは地名をつけて、特産化する。例えば、シャンパーニュ、コニャック、アルマーニュ。特にコニャック地方では、アルコール度数9度のワインしかできなくて、蒸溜で同じアルコール量を得るには沢山のワインが必要なので非効率に見えるが、実はアルコール以外の香気成分が多く濃縮されることになり、香り高いブランデー(コニャック)が得られる。何故、コニャック地方のワインのアルコールが高くならないかと言うと、石灰質が多い土地柄が影響している。食べておいしい果実から、いいワインやブランデーはできない。産地の名前をつけ、等級の記号を決めてブランド化する。これがフランスのやり方で、巧みな方法だと思う。これとは対照的に、イギリスは年数で等級を決める。
樽の話
コニャックはフレンチオーク(リムザンオーク、トロンセオーク)の樽を使う。樽にする木材は、シーズニングといって、最低3年は天然乾燥させ、雨ざらしにして雑味を抜く。
バーボンは新樽を強く焼いて、その風味をつける。
テイスティング7:スコッチウイスキー
ウイスキーとは、「生命の水」というケルト語が語源。糖分のある果実を原料とするブランデーと違って、穀物を原料とするため、初めに糖化のステップが必要になる。
世界には地域により、いろいろなウイスキーある。たとえば、スコッチ、ジャパニーズ、アメリカンなど。モルトウイスキーとブレンディッドウイスキーは作り方による分け方。
ボウモア(商品名)はシングルモルトのスコッチウイスキー。ボウモア蒸溜所はスコットランドのアイラ島(Islay)にある。スモーキーフレーバーがあるのは麦芽を乾燥させるときにピート(泥炭:植物のヒースが堆積して炭になる)を熱源として利用するため。
テイスティング8:バーボン
トウモロコシを主にして、ライムギなどの麦を原料として糖化・発酵させ、蒸溜する。内側を焼いたホワイトオークの新樽を使う。樽は1回しか使えない。樽材の焦げ由来のスモーキーな香りが移る。スパイシーで、トウモロコシの甘みに加えて、バニラの甘い香りが焼いた樽からでる。バーボンは貯蔵年数を表示しない。その樽は後でスコッチを熟成させるのに使う。
ブレンダーの役割
ブレンダーには次の3つの役割がある。
検査型 製品名を提示された中味が設計範囲にあるかどうかを識別することができる。
評価型 中味の情報を事前に知らされずに提示された中味の評価を、いつも同じことば(自
分のことば)で表現できる。
創造型 新しい中味を創造できる。また既存製品の中味を再現できる。単独では個性的過ぎて美味しくないような原酒を使いこなせる。(「めぐすり」が使える)
「めぐすり」とは、ごく微量を加えただけで味や香りを整えるもののこと。そのためには、100万樽以上の原酒の特徴を覚えていなければならない。
ブレンダーは創造するときにコンセプトを決める。「響」をつくったブレンダーは、ブラームスの交響曲第1番がコンセプトだといっていた。
- 「ワインを蒸溜するとブランデーになる」と言われたが、ワインは毎年違うから、その蒸溜酒も毎年、味が変わるのか
→ 同じ年に作るブランデーでも、原料ワインのロット、蒸溜時期、蒸溜方法、貯蔵する樽によって全て香味が違う。原料ワインの年が変わると、もちろん香味は変わる。 - イギリスのウイスキーは年数ものだが、蒸溜したときに何十年先のことまでわかるのか
→ 実は将来の香味の姿は、確実にわかるものではない。結果論と言うと無責任に聞こえるが、ブレンダーは、先人が多くの品質の異なる原酒をつくってくれているので、それを利用する。そして私たちは次の世代のためによい酒を残す。
→ ただし蒸溜直後のウイスキーを見ると、そのウイスキーの使い頃(飲み頃)は予想ができる。タフな原酒は長期貯蔵を行う。