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バイオカフェレポート「ブレンダーのつぶやき〜蒸留酒の作り方と楽しみ方」

 2011年1月29日(土)、三鷹ネットワーク大学でバイオカフェを開きました。お話はサントリービジネスエキスパート品質管理部 品質保証推進部長 冨岡伸一さんによる「ブレンダーのつぶやき〜蒸留酒のつくり方と楽しみ方」でした。参加者全員の前には9種類のモルト原酒などが並び、始まる前から部屋は芳しい香りでいっぱい。お話も試飲もおいしいバイオカフェに参加者全員、大満足でした。

主なお話の内容

自己紹介
 サントリーグループでは、酒類だけでなく青いバラを20年かけて開発したり、食品、外食など、サントリーの名前を付けない事業もいろいろ展開している。
 洋酒のサントリーといわれていたが、1980年をピークに売り上げが下降。今はハイボールの流行りでやや元気を取り戻してきています。社内ではV字回復でなく、ホッケースティックと呼んでいます。最盛期のオールドの売上は1億本。国民全員が1本飲んでいたことになる。今は700万本。食品が半分以上を占めている。売りあげの海外比率はやっと15%から25%になったところ。
「やってみなはれ」が創業者 鳥井信治郎の精神で、チャレンジ精神に富んでいる。また、「利益三分主義」と言って、利益は、お客様、社会還元、会社で分かつものだと考えている。サントリーホール、サントリー美術館などを通じて芸術活動を応援するのも三分主義に発している。

冨岡さん XOデラックス(右から2番目)は冨岡さんの作品

水と生きる
 酒造りの重要な要素のひとつが水。水について学び、大切にする啓発活動も展開。ヴァーチャルウォーター(仮想水)という考え方があり、例えば、日本に輸入された農作物は栽培された国の農業用水などを使っている。この見えない水がバーチャルウォーター。クイズ「かつ丼1杯に使われている水は、2キロ、20キロ、200キロ、2トン、どれでしょうか」答えは2トン。
 サントリーは水の会社だから、サステナビリティ(永続性)を考えて水を大事にしてきたし、それを広めていく。

私のしてきたこと
 入社後すぐに白洲のウイスキー工場立ち上げの仕事をした。ブランデーを作るブレンダーもして、今は品質管理に携わっている。ブランデー作りに携わった11年間は、1年のうちの4か月を海外のぶどう畑のぶどうから葡萄酒を作り蒸留して持ち帰る生活をしていた。今日、あがっていただくXOデラックスも私が作ったお酒。中国では、ウーロン茶の品質保証センターを設立した。

世界の蒸留酒
 醸造酒を蒸留すると蒸留酒ができる。ビールのようなものを蒸留するとウイスキーが、ワインを蒸留するとブランデーができると考えて下さい。ウイスキーには、原料によりバーボン、テネシーなどの種類がある。例えば、テキーラは隆舌蘭から、ピンガはサトウキビから、ピスコはマスカットから、バイチュウ(白酒)は色々な穀物から、アラックはサンゴヤシから、カルバドスはリンゴから。度数は5度から70度まで様々。アクアビッドは初めブドウで作っていたが、ブドウが壊滅してジャガイモで作るようになった。

ウイスキーのつくり方
 起源は12世紀。アイリッシュウィスキーは3回蒸留していた。スコッチウィスキーを樽で寝かせるようになったのが18世紀。19世紀になって初めて、ブレンドしたウイスキー(ブレンディッドウィスキー)が作られるようになった。それまでのウイスキーは地方の臭い酒だった。
 19世紀、カナディアンウイスキー、アメリカンウィスキー(テネシーウィスキーと呼ばれる)が登場。最近は、ジャパニーズウィスキー、サントリー山崎、ニッカ余市が欧州で賞を取るまでにレベルが上がった。
 モルトウィスキーだけのウイスキーが「シングルモルトウイスキー」であるのに対し、「ブレンディッドウィスキー」はトウモロコシなどの穀物からつくった蒸留酒(グレーンモルト)と、大麦からつくったモルト原酒を混ぜる。
ビールは、発芽をとめた麦芽を粉砕したところにでんぷんを投下し、酵母で発酵して糖化する。ビールは、酵母以外の菌についてはは無菌状態で発酵させる(ウイスキーには乳酸菌など多くの菌が入っている)。
 アイリッシュウィスキーは3回、蒸留する。蒸留とは、原酒を窯に入れて加熱し、蒸気を冷やして滴になったものを集めること。蒸留するとアルコール度数がおよそ3倍になり、3分の2位の水が残る。蒸留酒の度数は、20%と決まっている。
単式蒸留を1回行うと、7度位だった度数は34度位になる。3回繰り返して68度。これに対して、今世紀最大の発明である連続蒸留機(ロバート・スタインが発明)を使うと、不純物がどんどん抜けて94.5度になる。
 その後、樽詰めしておいてから、バッティングやブレンディングをする。「バッティング」と「ブレンディング」の違いは、バッティングはモルト同士、ブレンディングはモルトとグレーンモルトを混ぜるこという。1909年、ウィスキー裁判が決着して、グレーンモルトを混ぜたブレンディッドウイスキーが、ウィスキーと認められた。
 日本では、創業者鳥井信治郎が、山崎(京都)に工場を建て、日本人にあったウイスキー作りに臨んだ。時間がかかったけれど、今では海外コンペでサントリーやニッカが賞を取るようになっている。最近は、昔、流行ったハイボールがブームになっている。

試飲1
ブレンディッドウイスキーの代表として「響」を飲んでみましょう。初めに香りを楽しみます。初めの香りを「トップノート」といいます。たばこの香り、ナッツの香りと言われています。
「響」は40度ありますが、20度の方が香りがわかりやすいので、ブレンダーは水で2倍に希釈して(twice up)官能試験をします。氷は入れません。バーに行ったとき、氷を入れず、トワイスアップと言ってシングルモルトを注文すると、見直されるかもしれませんよ。
1口はそのまま飲んでみて、水で割って1対1(トワイスアップ)にして、グラスを振ってみてください。香りがフルーティになることがわかると思います。バナナ、モモ ローストしたアーモンドの香りと言われます。水で割って口に含むと、甘くてストレートよりおいしいでしょう。氷を入れないこと!常温で楽しんで下さい。冷たい水で割ってはだめ。
 チェイサーのことを、「ウォッシュアウト(wash out)」と言います。水や炭酸水(氷を入れてもよい)を飲んで、口をすっきりさせて、ウイスキーを飲みます。ワインのフランスパンはウォッシュアップでもあります。

「響」の生い立ち
「響」には、31種類のモルトが入っている。ブレンダーは初めにコンセプトを決めるが、「響」のコンセプトはブラームスの交響曲第1番だそうだ。
「山崎」は水瀬神宮の水を使っており、これは千利休の離宮の水。山崎や白洲は木の桶で仕込み、発酵槽で発酵させる。木桶は雑菌を呼ぶ。
 ポットスチルという装置で蒸留する。沸かすと蒸気が上がってきて、これを冷やすと蒸留水ができる。蒸留し始めの水(前の水)と終わりの水(後の水)は用いない。
 樽作りには、アメリカンホワイトオークを使う。スコッチウイスキーには、バーボンウイスキーの古樽を使う。バーボンは法律で新樽しか使えないことになっている。
樽に詰めた蒸留酒は、自然に蒸発して、年間3-5%減る。これを「天使の分け前」という。6〜10年たったときに、ロット評価を行い、6年物として使う分を取り出し、残りはもっと寝かせる分に回す。12年経つと、全樽評価を行い、また、12年物として使う分ともっと寝かせる分に分ける。17年経ったときにも、全樽評価を行い、17年物として使う分と超長期熟成に分ける。この判断は、ブレンダーの官能評価による。天使の分け前と使う分で、樽の中は年を経るとどんどん減っていくことになる。
 ブレンドとは、「個々の原酒の個性を生かし新たな味わいを作る」ことで、おいしい原酒ばかり混ぜてもおいしくならない(優等生ばかりでは面白くない)。単独だとまずいお酒を合わせながら変わる香味のバランスが重要。1滴で変わるので、私たちは「目薬」と呼んでいる。これは有名な香水に、ごくごく薄く悪い匂い臭いが混ざっているのに似ている。 ブレンドするときに、2種類を混ぜたら、一方が買ってしまうことがある。一方が消されてしまうので「マスキング」という。


樽の種類で異なるテイスティング用の原種 会場参加者

試飲2
 まず、水を飲んで下さい。それから、グレーン原種を1口、次に倍の水を加えます。
まず、ホワイトオークの樽のモルト原酒①、シェリー樽のモルト原酒②を試して下さい。シェリーの樽にはスペインオークという木を使います。シェリーと共通のにおいが紹興酒とお醤油で、これは酸化臭です。
ミズナラ樽のモルト原酒③は、日本の木を使った原酒。スモーキーと呼ばれるモルト原酒④は、「ボーモア」というウイスキーになっているもの。樽の内側を焦がして用いる。お客さんから「腐っている」とクレームが来たり、保健所に持っていかれたりする(笑)。歯医者さんの消毒の香り、クレゾール、フェノールの匂いというイメージです。
初期のウイスキーはこういう匂いだった。昔の芋焼酎のようなもので癖が強い。けれど、単独だと好きになれなくても、ちょっと加えるとよい香りや味になる。これが目薬。
シェリー樽の原種は、「マッカラン」というシングルモルトウイスキーに近い。原酒は50度あるので、水を多めに入れて試して下さい。
 シングルモルトを後で熟成することを後熟という。ブレンディッドウイスキーはブレンドした後、大きな樽や小樽に入れて鍵をかけて寝かせる。鍵は担当者と国の役人が持っていて、二人一緒に開けないと解錠できない。さらに開けた時には記録するので、品質管理は厳重!

ブレンダーという仕事
 ブレンダーをしているときには、金曜、土曜以外は、カレーも餃子も食べられなかった。日曜日にはまた控えるので、金曜日の夜が嬉しかった。深酒、たばこ、風邪にも注意する。
ブランデーのブレンダーには煙草を吸う人がいる。ブランデーは葉巻と相性がよく、葉巻や高級たばこにはコニャックをたらして吸うことがあるくらい。しかし、タバコを吸っていても、花粉症になっても、ブレンダーの感性は鋭いものです。
ブレンダーには3段階ある。
① 検査型ブレンダー 誰でもなれる。提示された製品の評価ができる。
② 評価型ブレンダー 前情報なしで中身を評価できる
③ 創造型ブレンダー 中身を設計できる。100万樽の味や香りを覚えている。化学式は使わない。
異物混入などの原因究明のために、異臭分析を行うこともある。
香りは自分の表現で覚えるが、ブレンダー同士の絆ができて、あいつの「リーフィー」は俺の「若葉の香り」というように分かりあっている。女性ブレンダーもいる。
ブレンダーは、最低でも、40〜50種類の評価用語を各自持っている。
樽の評価も行うので、森に樽材を選びに行くこともある。
官能試験をするのは、11〜12時の空腹時。100本はみる。ウィスキーやブランデーは飲まないが、ビールやワインは飲む。最近、喉にも味蕾があることがわかり、「ビールは喉越し」という意味が解明されたことになる。10時〜2時までビールを飲み続けるので羨ましいと思う方もあるかもしれないが、品質保証のため、2時間くらい日向においたビールも飲まなくてはならないことがある。

コニャックについて
 そもそもブランデーは余ったワインを使うためにできたもの。世界にいろいろなブランデーがある。ブランデーは果実から創るので糖化が要らない。「焼いたワイン」と言われる。ウイスキーは「生命の水」という意味で、穀物から創るから初めにでんぷんの糖化が必要。
 ボルドー地方の側にコニャック地方がある。グランドシャンパーニュの中心地域は石灰質の土壌で、中心から離れるほど粘土質になる。石灰質だとブドウの根が水を求めて深く伸び、甘くならない。蒸留酒用のワインは酸っぱくておいしくない方が向いている。だから、この地域でコニャック・ブランデーが発達した。ワインが誕生したのは3世紀だが、コニャックは13世紀。コニャックには原産地呼称統制法(AOC)があり、偽物防止など厳しく規制項目が定められている。
 食べておいしい果物からはよい酒を作れない。おいしいブドウからワインを作ると、酸度が低くてぼけた味になり、コニャックを作るとアルコール度が3度位低くなる。カルバドスというりんごで作るお酒があるが、これに使うりんごは苦く、酸っぱくて渋い。まるで中華の食材の八角のような味のリンゴで作ると、おいしいカルバドスができる。ノルマンディの正式なディナーでは、りんごのリキュール、シードル(発泡酒)、カルバドス(蒸留酒)が出てきて、フランスなのに、ワインが全く出てこない。
 日本にはいいブドウがなかったので、私は毎年4か月海外を渡り歩く暮らしを11年していた。中小工場で、リムザンオーク、フレンチオークの樽材を最低3年雨ざらしにし乾燥し、中を焼いて樽を作る。ブランデーやコニャックでは、樽材を狐色に焼く。
 古酒を貯蔵する場所をパラディという。これはパラダイス(天国)という意味。イギリスは寝かせる年数で品質を保証するが、コニャックやブランデーには○年物というのがない。考え方の違いで、フランスは混ぜてよいものから、よいものができればいい。年数でなく、VS、VSOP、XOなどとして、品質を管理する。


テイスティング用の原種 テイスティングの準備は2時間前から

試飲3 
 コニャック原酒を飲んでください。これは58度。バニラ、花、ココナッツなどと形容される香りがするでしょう。
マスカット原酒は、ペルーやチリではピスコという蒸留酒になっている。水で割るとマスカットの味が出て来るのがわかりますね。それでは、コニャック「グラン・シャンパーニュ」を飲んでみて下さい。白ブドウのワインから作られています。

テキーラについて
 メキシコにしばらくいて、日本ではテキーラについて誤解があると思うので、「プルケの真実」を説明したい。
 アガベという竜舌蘭(植物)の葉を除き、根茎を蒸すと甘くなり水を加えて糖液にして発酵する。蒸留しない醸造酒がプルケ。これを単式蒸留してテキーラをつくり、連続蒸留するとメスカルとうい蒸留酒になる。
テキーラには3つの種類がある。「ブランコ」は蒸留後、貯像せずに使い、無色。「レポサード」は短期間、樽貯蔵し、土臭いような青臭いようなテキーラの香りがする。樽の匂いに負ける前のほのかな木の香りとテキーラの個性が出ている。「アニェホ」は樽で1年以上置くので、褐色になる。