2012年1月28日、三鷹ネットワーク大学で、バイオカフェを開きました。お話は、冨岡伸一さん(サントリービジネスエキスパート株式会社品質保証本部・品質保証推進部部長、元サントリーブランデー主席ブレンダー)による、「ブランデーとリキュールの世界」でした。
冨岡さんのお話 | 会場風景 |
サントリーグループ事業
サントリーは「やってみなはれ」精神で酒類、花、いろいろな事業を行ってきた。また、利益三分主義(利益は、お客さん、社会、会社のもの)といって、文化事業なども行っている。「人と自然と響き会う」を企業理念としており、「水と生きる」がコーポレートメッセージ。ウイスキーの会社のはずが、今は酒類は半分以下で様々な事業をしている。
私は今は品質保証の仕事をしているが、ブランデーのブレンダーだったときには、8月に日本を出て、ブドウの目利きをしてワインをつくり、ブランデーを作って帰国するくらしをしていたので、11年間、8月から12月までは日本にいなかった。
蒸溜酒の分類
大雑把な分類をすると、①麦芽(穀類)と水と酵母からビール様の発酵モロミをつくって蒸溜するとウイスキー、②ブドウ(果実)を発酵させたワインを蒸溜するとブランデー、③その他様々な原料・製法で造ったウオッカ・ジン・テキーラなどのスピリッツ、ということになる。穀類を使うと糖化しなくてはならないが、果実・果汁を使うと糖化の必要がない。
米と水と麹から日本酒のような発酵モロミをつくって、蒸溜すると米焼酎、同様に米の代わりにさつま芋を使って発酵モロミをつくって蒸溜すると芋焼酎となる。
ウイスキーの話
大麦の麦芽を発酵したモロミを単式蒸溜釜で2回蒸溜してつくられるのが、モルトウイスキー。当初のモルトウイスキーは地酒であり、麦芽乾燥に使用するピートの香りにより臭みが強かったが、モルトウイスキー原酒に、グレーンウイスキー原酒(原料はトウモロコシ)をブレンドしたブレンディッドウイスキーの発明により、まろやかな香味となり、世界中でよく飲まれるようになった。(1909年ウイスキー裁判でブレンディッドもウイスキーに含まれることになった)。グレーンウイスキーは連続蒸溜でつくられる。
ブランデー
ブドウの産地には果汁を発酵させたワイン、リンゴの産地にはシードルがある。リンゴやブドウを使った醸造酒は腐りやすいので、蒸溜して日持ちさせるようになった。こうして、蒸溜酒が世界中に誕生。
ウイスキーは樽に入れたままにする。ウイスキーは樽に入れている年月で、12年ものなら12年以上のものだけでブレンドする。だから、古いものを入れると高くつく。こうしてイギリスは年数でクラス分けをする。これに対して、ブランデーは原酒の個性によって適宜、樽の入れ換えを行う(樽廻し)。ブランデー製品では年数表示は、ほとんど行わず、VSOP、XO、ナポレオンなどの記号で製品の等級をつける。そのときの手持ちの原酒をブレンドして、その製品の記号にあった一定の味を造り上げる訳である。イギリスとフランスのお国柄の違いを感じる。
試飲1
ブランデーの蓋をとってステア(グラスを揺らして混ぜる)した後、香ってみてください。そして少し飲んでみてください。
水と1:1で混ぜてみてください(トワイスアップ)。香りが立つようになります。このとき、アルコール度数は20度。ブレンダーは常温でトワイスアップしてテイスティングをします。
コニャックについて
コニャックの産地として有名なシャラント地方はフォアグラ、トリュフ、牡蠣、エスカルゴがとれる。シャラントの牡蠣が全滅したときに、日本から稚貝を送ったので、東日本大震災で仙台にシャラントから稚貝が送られるなど、日本と縁が深い土地。
コニャック地方の中心に近いほうが石灰質で、ここでつくるワインは酸味が強く、この50年の平均アルコール度数が8.6度でおいしくない。アルコール60%の蒸溜酒をつくるのに、沢山のワインが必要となり、アルコール以外の香気成分はより凝縮されることになり、ブドウの豊かな成分が含まれたコニャックになる。
食べておいしい果実はおいしいお酒にならない。生食用のおいしい果実でワインをつくると酸度が低く、ぼけた品質になる。
シャラントポットスティルはシャラントで使われた蒸溜機器。直火で炊く。不揮発成分も入ったりして、味がしっかりする。これは単式蒸溜で、初めに出る香りの悪いの部分(ヘッド)、終わりの薄いところ(テール)をカットする。良いところだけをとるので、ハートという。
コニャック、アルマニャック、カルヴァドスは、ワインから単式蒸溜で作る。世界的に見て、一般的なブランデーは、単式蒸溜に加え連続式蒸溜で作る場合もある。
樽
樽は樹齢100年位の木を伐採してから、製材して柾目をとり、乾燥させ(最低3年)、組みたて、中をあぶり(トースティング)、樽をつくる。樽回し(バレルローテーション)といって、ブランデーは新しい樽に短期間入れて、そこに次のブランデーを入れてと入れ替えていく、こうして、樽も酒も育てていく。新樽は生木の香りや焦げた香りが強めである。ウイスキーでも、バーボンウイスキーは、新樽しか使えない。一方、スコッチウイスキーなどはバーボン古樽やワイン、シェリーの入っていた古い樽を使う。
木の種類も関係する。コニャックの熟成にはフレンチオークの樽を使う。グラッパはイタリアワインの絞ったかすを発酵させて蒸溜してつくるが、栗の樽など様々な材種の樽を使う。ジャックダニエル(テネシーウイスキー)は焼いたホワイトオークの新樽を使う。
樽と原種の管理は、きめ細かく行われる。はじめに10,000樽詰めると、3年で1割くらいが蒸発する。6年後からは、蒸発と使用した分が減り、6,000樽分くらいに減る。これが蒸発と使用した分が減って、17年後には、蒸発したり、酸化させて、200樽になる だから17年ものは高い。
これらの樽の変化を毎年、評価するのがブレンダーの仕事。
テイスティングセット 1人前 | 立食しながら、スピーカーを質問攻めに |
試飲2 香りを探す
別なグラスを飲んでみてください。どんな匂いか、今まで知っていた匂いから探してみてください。Dのグラスはカルヴァドスで焼きリンゴまたは、シナモンの香り。Bのグラスはアルマニャックで、たばこの香り。
試飲3 ブランデースプリッツアー
ブランデーに氷を入れてオレンジを絞り、トニックウォーターで割る。これは簡単なカクテルで、パインやリンゴでも作れます。
リキュール
リキュールの定義は国によって異なる。日本では、リキュール類はエキス分(不揮発成分)が2度以上。アメリカでは、砂糖を2.5%以上含むなど。日本の酒税法では発泡酒もリキュールに含まれる。
リキュールの製造法は、蒸溜(常圧蒸溜または、減圧蒸溜)したスピリッツなどの蒸溜酒に、原料を浸漬(果物などとつけて、常温または低温でおいておく)して作る。リキュールの原料として漬けるものは、薬草、果実、ナッツなど。
「ポモー・ド・ノルマンディ」は、シードル用のリンゴ果汁にカルヴァドスを加え、アルコール度数を高めて、樽で熟成させる。このように、果汁にその果汁由来の蒸溜酒を加えて樽熟成させたお酒をミステルという。
「ミスティア」はマスカット果汁にグレープスピリッツ(グレープのホワイトリカーのようなもの)を添加し、オレンジフラワーの香り付けをする。低温で減圧蒸溜して香りを逃さないマスカットブランデーをつくる。
「プルシア」は、グレープスピリッツにプラム(青い状態で使う)を浸漬し、ブランデー樽で保存する。梅酒風味のプラムリキュールでサントリーが考案した。
「ルジェカシス」は、カシスリキュールで、キールという呼ばれる有名なカクテルのベースである。カシスは酸化しやすい果実で、収穫後、できるだけ早くスピリッツに浸漬するが、一部は冷凍保存して利用する。キールはディジョンというチーズやマスタードの特産地の名物市長の名前。
「ミドリ」は、今、世界で一番売れているサントリーがつくったメロンリキュール。グリーンの色合いでカクテルによく使われる。今までグリーンのリキュールというと、色はきれいだが味に癖があるペパーミントしかなかった為、ミドリの出現は、使いやすいグリーンのリキュールということで、バーテンダーに好評を博した。
「カルーア」はアラビカコーヒー豆を焙煎して浸漬する。コーヒー豆も砂糖もベースもすべてメキシコ産。
- コニャックとアルマニャックの違い →コニャック(単式2回、女性的)とアルマニャック(単式1回、荒い、男性的 南の森のオークを使った樽)。ブドウの品種、蒸留方法、産地、樽、それぞれに違っている。
- 樽の貯蔵の目的は酸化させることだというが、科学的な方法でもいいのではないか →酸化とともに樽の材の成分との反応やその成分の抽出が必要。酸化だけなら暖めたり、エアレーションでもできる。科学的な方法をやるとバランスが悪くなる。酸化させて、樽材チップを入れると香りと色はよくなるが、味が落ちるなど。
- 水で割るのとロックの使い分けについて →好みで、常温でトワイスアップより、ロックがおいしいこともある。体調、体質にあったものを選んで下さい。ハーフロックといって、トワイスアップに氷をいれるのもある。
- クラブやスナックで継ぎ足していくのはよくない。飲みほしてから注いでください。水割りは氷にウイスキーを入れてから、13回転半混ぜると、氷がよい解け具合になる。さらに氷を足してから水を入れてください。
- チェイサーにソーダを飲むと、口の中がウォッシュアウトするので、次の蒸溜酒がおいしくなる。チェイサーをビールにする人もいる。
- ブランデーにおけるカビの効果 貯蔵中のカビの効果で特別な匂いを出すかびがある。例えば、パラディといわれる長期熟成用の貯蔵庫にいるカビで、熟成中の反応でケトン類を出し、複雑な匂いがする。1000樽に10樽くらいの割合で、稀にしか出ないので、貴重な原酒となる。もちろん、発酵のときのカビの混入はだめ。日本酒、白酒、焼酎は糖化をカビで行う。
開始2時間前からテイスティングセットの準備 |