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札幌バイオカフェレポート 「食の安全を考える」「国の政策が決まる仕組み」 |
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8月11日(金)、札幌ビズカフェにおいて、バイオカフェを北海道経済産業局、札幌市、NPO法人北海道バイオ産業振興協会、NPO法人サッポロ・ビズカフェ、有限責任中間法人北海道バイオ工業会北海道経済産業局と共催でバイオカフェを行いました。第1部は唐木英明さん(食品安全委員会専門調査委員会委員による「食の安全を考える〜リスクって何」、第2部は嶋野武志さん(長崎大学教授)による「国の政策が決まる仕組み(バイオ政策の場合)〜これを聞くと新聞がよくわかる」のスピーチがありました。それぞれのスピーチの前には、北海道大学オーケストラの桜庭基人さん、岡本麻由子さんによるオーボエとフルートの二重奏があり、マルティーニ「愛の喜び」、ヘンデル「私を泣かせてください」など、親しみやすい曲が紹介されました。
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岡本さんと桜庭さんの演奏 |
唐木先生のお話 |
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唐木英明先生のお話の概要 |
私たちの脳には、理性の脳といわれる領域と感情の脳といわれる領域があり、人は判断するとき、ほとんどは本能、直感で判断してしまう。しかし、専門家は感情をいれずに、「どんなに怖いもので、出会うチャンスが小さければ、リスクは小さい」と考える。
例えば、私たちが食べ物を食べると活性酸素が作られ、DNAに傷をつけ、老化が起きる。野菜や果物はこの活性酸素を消すカテキンやポリフェノールを含んでいる。私たちは、本能でゼロリスクの食品を求めても、そういう食品はない。
食の安全というものは、一日摂取許容量(毎日、一生たべても健康に被害が出ない量)を計算して、それを基にして考えられている。健康に被害が出ないところまでリスクを減らしたら、それ以下(許容リスク)は放置するという仕組みになっている。
行政は安全対策を実施するが、消費者は許容リスクがあることに不安を感じて、本能的に危険とみなしたり、科学的に説明されても嫌だと思ったりすることがある。すると商品の売上げが落ちるので、事業者は無添加、無農薬のような売上げ対策をする。これが、添加物や残留農薬は危険だ、という誤解をさらに広げる。偽科学、未熟な科学、正しい科学の見分けが重要だが、これは一般の人には難しい
私たちは、このような不安にどう向き合えばいいのか。科学教育、リスクコミュニケーションをきちんとすることで、改善できるのではないか。農場から食卓までの関係者が、食の安全を守るという目的を共有して、科学的に話し合いをすることが重要。その時に消費者と事業者の間に健全な緊張関係がたもたれることも必要。リスクコミュニケーションの鍵は信頼関係の構築。食の法律違反が起きて事業者や行政に対する信頼がくずれても、市民も感情的にならないようにしたいものだと思う。
参考サイト:https://www.life-bio.or.jp/topics/topics207.html
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話し合い |
は参加者、→はスピーカーの発言
- プリオンやアスベストは30年たって問題になった。長時間かかってわかるようなリスクはどう考えればよいのか→アスベストは消費者団体も行政もリスクコミュニケーションに大失敗した事例だと思う。行政は警告したのに、消費者団体は反応せず、事業者は大丈夫だといって押し切った。関係者の間に緊張関係がなく、解決が先延ばしになった悪例。消費者団体に知識があって、反応していたら、よかったかもしれないし、行政は大きな声に動かされやすいという傾向がある。今後取り組むべきは、ナノ材料。特にナノ材料を扱う工場の人への対策が必要だと思う。一般人も「危ないから調べてほしい」という声をあげるといいと思う。
- 農業者の書いた本に、「農薬で土地がやせてしまって、さらに化学肥料をやって悪化してしまう。もみがらを入れるとうまくいく」と書いてあった。農薬より「もみがら」がいいのだろうか→農薬とは殺虫剤、殺菌剤のこと。今、言われたのは化学肥料のこと。高温多湿な日本では農薬なしに病虫害は避けられない。化学肥料と有機肥料を組合わせてどうのようにうまく使うかが大事。
- 無農薬はありえるのか→高温多湿の日本では、無農薬で生産量を維持することは無理。組換えダイズは海外から来ているのか→日本では組換えダイズは栽培されておらず、輸入されている。世界で10年間、組換えダイズを人も家畜も食べているが何も起こっていない。
- 遺伝子組換え作物のデータは国内と国外でとっているのか→データを蓄積し、人家畜への悪い影響がないことはわかってきた。環境のデータを蓄積しつつあり。今のところ、問題は起っていない。北海道の条例では、環境問題と消費者心理に重きをおいて考えている
- 環境影響とはどんなことか→組換えた遺伝子が花粉を介して他の植物にうつらないかをいう。
- 食の安全で問題なのは遺伝子組換え作物より、4割の自給率にあるのではないか→そうです。日本の厳しい基準にあわせるように要求して輸入していると、日本に来ていた食料はインドや中国に行ってしまうのではないか。食料の安定的な確保が一番大事だと思う
- 世界には飢餓に苦しむ地域がある。日本は食が豊かだから、組換えに関心がないのではないか→アフリカでは毎日3万人のこどもが餓死している。これを救うために現地に適した組み換えが求められている。
- スーパーマーケットの「遺伝子組換え使っていません」表示は信用できるのか→5%以下は入っていてもいいというのが、今の表示制度。無添加、無農薬という表示がかえって不安を生むように思う。
- 今日のような話を聞けば、表示に過敏でなくなるのではないか。国がそういう教育をもっとしたらいいと思う
- 教師をしている。生徒の理科離れに問題を感じている。また、政府による食育が重要だと思う。20歳くらいで、糖尿病予備軍がいるのは、高校時代にハンバーガーなどを大量に食べて、カロリーオーバーになっているからだろうか→おっしゃるとおり。今更、食生活を昔に戻せ!は無理だが、今のくらしにあった食生活の改善を考えることが重要。米国はガン対策として、食べすぎず、肉を3分の1にし、野菜を増やし、バランスのとれた食事をとるように徹底教育している。一方、一番簡単なストレス解消は食べること。ストレスが多い子供はジャンクフードを食べて、満腹感でストレスを解消する。ストレスをどのように解消するのか、教育から考えなくてはならない。
- たばこはガンになると表示し、禁煙が進んでいるが、食品に警告表示はできないか→厚生労働省はメタボリックシンドローム予防の方針を決めたが、野党が反対意見をだしているようだ。食育の場合には、野党も政府に協力してほしい
- サプリメントの使い方について気をつけることは→いいサプリメントでも大量にとればよくない。食品安全委員会では、ダイズのイソフラボンの警告を出した。サプリメントが必要な状態かどうかの判断が大事。明治時代はビタミンB不足による脚気で死者が出た。こういうときはサプリメント(薬)としてビタミンが必要。サプリメントは本当に必要な人が必要なときに必要な量をとるのが重要だと思う。
- ジャンクフードを食べて、サプリメントで補うのはおかしいと思う
- 人は10歳までに食べたものを一生食べ続けるようになってしまうというので、ジャンクフードを禁止してはどうかと思うが→現代社会ではジャンクフードの全面禁止は現実的でないように思う。お母さん、先生が食生活の指導すべきなのに、その人たちがジャンクフードに染まっている。
- 10歳までの食生活が生涯に影響するなら、ジャンクフードについているおまけ禁止にすればかなりの効果が得られるではないか→結婚して奥さんの作る食事に慣れることもあり、10歳までに食の嗜好が固定するわけではない
- ミネラルウォーターを買うと水道水は危険な印象を持ってしまうのではないか→豊かになると、今の幸せを永続したいという心理があり、それに付け込む商売がある。ミネラルウォーターを飲まないと長生きできないと誤解するのだろう。賢い消費者にならないといけない。
- 水道水の塩素が問題であるという広告があるが、水道局は「水道水は安全です」と広告をしたらいいと思う→農薬、添加物、すべて安全性が保たれているのに誤解されている。行政も、科学者も努力している。マイナスイオンが健康にいいことを示す研究成果がないので、ある物理学者がそれを申し立てたら、企業から逆に営業妨害で訴えられたそうだ。科学者もわざわざいわなくなってしまう。
- 食を選択する力とは何か→こどもの理科離れが問題になっているが、用量作用関係をこどもが理解すれば、ずいぶん違ってくる。科学教育を基礎にしてメディアリテラシー(メディアをうたがって3分間は考えてみる!など)も大事
- 何年生から科学教育をすべきか→小学校からやってほしい。こどものときから自然に親しむ。科学的に見ることを積み重ねる。学校の先生にも科学的にみる目を持ってもらいたい。
- 科学教育とくらしをつなげてほしい→どうやって教育体系に暮らしを組み込むかも考える必要がある
- 法律もくらしとつなげる必要がある分野ではないか
- 環境、健康、栄養もいろいろな面でくらしとつなげるべき分野だと思う。
- 1ppmとよく聞くけれど、その影響はどのくらいのものか→ppmとは100万分の1のこと。化学物質によってその意味は異なる。ポジティブリストにない農薬の基準値は0.01ppmと決められている
- BSEの危険はどのくらいか→日本には100万頭に2−3頭、アメリカにも100万頭に1頭くらいBSEの牛がいる計算になる。米国では、飼料規制後、BSEは出てない。米国の牛について危険部位を除去し、20ヶ月以下の牛だけを対象にすると、日本と同じくらいに安全だとリスクの専門家が計算している。反米感情も関係があるかもしれない。アメリカは安全確保システムとして、HACCP(食品衛生基準)を採用しており、1億頭の牛を処理して、1000件の記載ミスがある程度。日本ではこのシステムを採用している食肉処理場が3箇所くらいしかない。
- 日本の安全安心の問題はどこかきているのだろうか→過剰反応には、メディアの影響も考えられる。
- BSEでふらふらした牛の映像の印象が今も強く残っている→この映像は印象深いが、新型ヤコブ病患者数、BSE感染牛の数は大幅に減っているので、専門家はBSE問題は終わったと考えている。
- 日本だけがBSEなどに過敏だとリスク研究者いっている。日本の観光客はアメリカでは平気でビフテキを食べるから、日本人の過敏反応は生活文化に起因しているのではないか→イギリスはヤコブ病患者が260人になりフランスでも患者が出た。最初に患者が出たときに英国ではパニックが起き、日本でも最初のBSE発見後にパニックが起こった。日本の場合、メディアの影響がおおきかったと思う。一方、6ヶ月メディアが扱わないと日本人は忘れてしまうので、間違った情報のつながりだけが残ってしまう
- 安全より信頼が大事だと思う→事業者と消費者が常に真剣に議論しあうことが安全を守ることにつながる。
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会場風景 |
嶋野さんのお話 |
第2部 「国の政策が決まる仕組み(バイオ政策の場合)〜これを聞くと新聞がよくわかる」 |
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長崎大学経済学部教授 嶋野武志さんのお話の概要 |
今回のスピーチは1月12日(木)に札幌で開かれたバイオカフェのパート2でした。以下のプログラムのうち、1.と2.は1月のレポートを参照してください。3.については質疑応答を中心にスピーチが進められました。(質疑応答の部分では、・が参加者、→がスピーカーの発言です)
参考サイト:https://www.life-bio.or.jp/topics/topics188.html
当日配布資料
- 政策とは何か
- 法律
(1)規制法、 (2)促進法
- 政令・省令(規則)
- 予算
(1)一般会計、(2)特別会計
- 税制
- その他
- 政策決定プロセスの関係者
- 国会(衆議院、参議院)
- 内閣
(1)内閣総理大臣(いわゆる官邸):内閣官房、内閣府、(2)各省大臣、(3)経済財政諮問会議、総合科学技術会議、男女参画会議、中央防災会議
- 裁判所
(1)最高裁判所、(2)下級裁判所
- その他
(1)マスメディア、(2)一般市民、(3)政党
- 政策決定プロセスの課題
- 行政における課題
(1)縦割り行政とは何か?
(2)国家公務員は信頼できるのか?
- 立法における課題(何が課題であり、それをどう解決するか)
- 地方行政における課題(地方の自立とは何か)
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「政策決定のプロセスの課題」 |
縦割り行政
縦割り行政の例を示すと、今、問題になっている学校のプールは文部科学省だが、公共プールは厚生労働省と報道されている。また、幼稚園は文部科学省で、保育園は厚生労働省。この背景には、各省が「○○省設置法」に定められた権限しか行使できないということがある。
最近は、省庁の調整を政治家が主導する会議で行うという手法が出てきている。議長のリーダーシップ次第で大きな効果が期待できる。
以前は大臣になるには衆議院は5期、6期、大体15〜20年かかるといわれたが、今は人物本位でと登用され、その人の能力次第という傾向がでてきているようだ。
国家公務員は信頼できるのか
- 最近は国家公務員の不祥事がよく取り上げられるのはなぜだろう。不祥事を起こしそうな人だけが採用とされているとは考えにくいが。
- 民間ならとりあげないが、国家公務員の方がニュースになる
- 公務員は税金を自分のお金だと思っているようにみえるという怒り
- 一部の不心得者は民間にも、公務員にも同じようにいるのではないか
- 会社のお金を私的に使ってしまうと、会社の業績が悪くなるかもしれないし、株価に跳ね返るので、民間人には抑制がかかるのではないか
- 公務員は集団で行うので公金を使っても抑制が働きにくいのではないか
- 公務員で問題になる裏金を全部たしても、無駄な使われた方をしている税金の方が大きいのではないか
- 会計検査院も役所のOBだと抑制が甘くなるではないか。
ここで、私の思いつきを話すのでみなさんも考えていただきたい。「担当官が予算を節約したら、節約した担当官にその0.01%でも0.001%でも、ボーナスであげるという方法はどうだろうか」要するに、今の役所はがんばってもがんばらなくても、給料もポストも変わらないということについてみなさんにも考えてください。
・今の予算は使い方を厳しい方式でしばられている。建前を本音に近づけるべき。また、科学者は間違ったら新しいデータを出すが、行政は間違いを認めない。国民も見方を変えないといけないのではないか。会社なら必要経費と認めるところが国は認めない。
地方で何が問題か
(・は参加者、→はスピーカーの発言)
- 北海道では組換え作物の規制が厳しい。国が安全だといったものに、北海道が独自に規制することも起こりえるが、それはいかがものか→国が規制している分野で条例をつくることも制度的にできる。制度上はそういうことも可能。但し、単なる二重規制では国民道民から見ると違和感があるのではないか。先に法律を作って、地方自治体が後から独自に違う条例を作ったら、その必要性について説明が必要なのではないかと思う。
- BSEの全頭検査を国がやめても、地方自治体はやめない、みんなが危ないと思っているので、説明はいらないままになっている。これも地方と国の関係が本当は矛盾している例ではないか→遺伝子組換え食品について考えると、北海道の独自の規制はよいが、規制は副次的効果も生んでいくもの。例えば萎縮効果が生じ、将来、安全性審査できる人材がいない状況が生まれる危険性もあるかもしれない。規制を導入する場合には、そういうことも考えるべき。
- 経済産業省にもどったときに、嶋野さんはやりたいことがあるのか→仕事に好き嫌いはなく、しいていえば、みんなあ嫌い(笑)。嫌なことをするから給料をもらえると思っています。ただ、若い人によくいうのですが、日本に喜んでくれる人が3人いるならやりがいがあるのではないか、と。私は一人でも喜んでくれる人がいたら十分なのですが、それではちょっと寂しい(笑)
- 高い農作物を日本の市民は買っていることに気づいていないのではないか。遺伝子組換えよりそっちの方がよっぽど問題だ→日本の製造業の国際競争力は強いといわれているが、これは、早くから、国際競争にもまれてきたからだと考えられている。
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