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平成18年度通常総会記念講演会「リスク分析が招く不安」が開かれました

5月12日(金)経団連会館で標記講演会が開かれました。お話のタイトルは「リスク分析法が招く不安〜個人的願望と社会的規制の対立」、スピーカーは唐木英明先生。唐木先生には2005年8月の第16回談話会でもお話しいただきましたが、今回の「不安」というものへの論理的なわかりやすい説明は、特に好評でした。

参考サイト: 
第16回レポート談話会
食品安全委員会の配布資料 



唐木先生のお話の概要

1. パラケルサスとエイムズの教え
パラケルサスはコロンブスの時代の人で、「すべてのものは毒である。そしてその毒性は量で決まる」という言葉を残した毒性学者。
エイムズ教授は、野菜が含む多くの殺虫性・抗菌性化学物質は発がん性であり、無農薬栽培で野菜から発がん性化学物質の摂取を防ぐというのは意味がないことを報告した。このことから「人工は危ない、天然は安全」という話が成り立たないことがわかる。
漢方だから副作用がないという考えも同様。食材そのものに発がん性化学物質がなくてもおこげに代表されるように、調理で生じる毒もある。
ゼロリスクの食品はないが、発がん性化学物質を摂取しても、ヒトの肝臓にある代謝酵素で大部分は無毒化される。野菜は適量なら健康にいい化学物質も含む。昔から言われているように食べ物は種類と量のバランスが大事。
一日摂取許容量とは、一生の間毎日摂取し続けても安全という化学物質ごとの量で、残留農薬基準や添加物基準のもとになっている数値。このように科学的な数値を基にして健康への悪影響ふせぐのが、「安全対策・健康対策」。
しかし、農薬や食品添加物のように消費者が嫌うものに対しては、科学的な考え方だけでは不十分なので、「安心対策」も必要になる。これは「売り上げ対策」にもつながる。

唐木先生のお話にはファンが多い 会場風景1
会場風景2  

2. フロイトの考え方
夢判断などで有名な心理学者のフロイトは「私たちは正体がわかっているものに恐怖を感じ、正体がわからないものには不安を感じる」といった。
動物は命を守るために、安全でないものをすべて危険だと判断して逃げる。わからないものを危険だと判断して逃げることが命を守る。
人間の不安は頭の真ん中に位置する大脳辺縁系で知覚される。この脳は逃げ遅れず、餌を逃さないような行動をするために働くので、危険情報に敏感に反応し、安全情報を聞き逃す性質がある。大脳辺縁系は生まれたときには、完成しているが、社会的な複雑な判断ができない。
メディアは危険情報に敏感な人間の性質を利用して、危険情報を流して視聴率を上げる。
これに対して、前頭連合野は生まれたときには真っ白で、生長の中で育つ脳。ここでは、リスクを計算し白黒以外の判断ができる。
人間はリスクを判断するときに「みんなが言った、信頼できる人が言った」ことを基に判断する性質がある。それは、人間が狩猟採集生活していたときに、経験のある人の判断に従うことで生き残ってきたから。今もメディアやタレントの発言に依存する傾向があるのは、その名残。
大脳辺縁系には、一度得た認識を変えない性質がある。これは、前例に従うと、瞬時に危険から逃れる判断ができる利点があるからだが、新しいリスクには、はずれる危険もある。
リスク許容には個人差がある。ある人が許容しても別の人が許容するとは限らず、一律に決められない。これが、社会でリスクを論じることの難しさである。

3. 市民が求める絶対安全
市民が絶対安全(ゼロリスク)を求める背景には、本能、情報不足への反応、メディアや有名人の影響、消費者を犠牲にして利益を重視する事業者に対する不公平感などがある。
たばこのように、個人の中でも本能と理性が対立することもある。さらに人はみな本能と理性の両方を持つので、市民の気持ちは複雑で一言ではいえないものである。
このような背景から、個人的願望と社会的制約の葛藤を調停するのは消費者に信頼されている消費者団体しかないと私は考えている。絶対安全は不可能だからこそ、信頼関係が重要になり、信頼されている団体の活動が重要になる。
例えば、規制を守って使われている添加物が健康に悪いという証明はゼロ、無添加が健康にいいという証明はゼロなのに、消費者が望むからと「無添加」を商品の売り上げの道具に使っていいのか。同じような消費者の誤解を生む商法は、マイナスイオンなど多い。

4. 理想論と現実論
理想論とは、自己保存の本能の個人的願望から生まれるものであり、現実論とは、社会を維持するための個人の願望の制約。
理想は人間が生きていくために必要だが、社会の維持と矛盾を来たすこともある。この葛藤の調停も消費者団体にしてほしいと私は考えている。そのときの判断基準に、科学という定量的基準と、倫理や常識や感情などの定性的基準がある。定性的基準は個人差が大きいので、共通基準にならないが、無視はできない。
消費者は絶対安全の理想論をとり、企業は自身の存続のために実質安全の現実論をとる。この両者が敵対関係にならないように健全な対立を保つことが食の安全を守る。
これからは、事業者と消費者が直接本気で交流することが必要。そのときのキーワードは
 ○主観を排し、客観的な基準である「リスクの科学」を利用する
 ○対立は大事だが、食の安全という目的を共有してステークホルダーが仲間意識をもつ。
 ○ステークホルダーとは利害関係者でなく利害共有者である!

5.リスク評価とリスク管理の区別が重要
リスク評価者は科学だけに基づいて判断する裁判官の役目。リスク管理者は科学以外の経済や国民感情などの側面も配慮する。評価の段階に経済や感情をいれると、評価結果は信用できなくなる。リスク評価が科学的に行われた上に、健全な対立を保つステークホルダーの間で意見交流を行っていくのがいいと思う。
「バイオカフェ」は知識の広がりの上で重要。消費者と事業者が考えを述べあう場つくりにも役立つのではないかと期待している。


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