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  • 「細胞農業の展望と課題~培養肉だけでない可能性」

    2023年6月28日、オンラインコンシューマーズカフェを開きました。お話は日本細胞農業協会代表理事 五十嵐圭介さん(東北大学 助教)による「細胞農業の展望と課題~培養肉だけでない可能性」でした。技術だけでなく、開発状況など幅広くご紹介いただき、ディスカッションでは安全性、規制関連のご発言が多くありました。

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    五十嵐圭介さんの自己紹介

    主なお話の内容

    はじめに

    大学時代は米の花粉稔性とミトコンドリアの研究をしていた。卒業後、企業でサイエンスコミュニケーションに関わったり、日本で培養フォアグラを開発したIntegri Cultureに就職して200リットル培養槽設計に関わったりした。今は大学の助教をしながら、細胞農業の普及啓発を行うNPO法人「日本細胞農業協会」でも活動している。
    日本細胞農業協会はセミナー開催など、細胞農業を周知する活動をしいる。細胞農業に関心をもったきっかけは、ラオスで行った野生のイネの調査かもしれない。ラオスのような持続可能性を重視した「伝統農業」と、機械やAIを使って経済合理性を追求する「近代農業」の中間にあるのが「細胞農業」ではないかと思う。

    細胞農業

    Cellular Agculture(セルアグ)では、動物や植物から得られているものを特定の細胞を培養して作り出す。牛乳のような成分をつくらせる場合と、皮、肉のように細胞によって形成されるものをつくらせる場合がある。方法は従来農業で得られるものをタンク培養する。
    培養肉は、2013年に公開試食があり有名になった。
    1902年、植物細胞の全能性が明らかになり、組換えDNA技術などの様々な技術が開発された。2000年以降、細胞培養プロジェクトが米国から広まり、細胞農業ということばができたのは2015年。新しい研究領域の誕生。チキン、フォアグラ、マグロ、チョコレートなどが研究開発されている。

    課題の整理

    世界人口のうちの1億人が飢餓に苦しんでいる。2050年までに2度気温があがると今まで通りの耕作ができなくなり、家畜はストレスにさらされる。
    今後、農地はアフリカやインドで増加し、人口は2100年ごろに110億人で頭打ちになると予想されている。2050年世界全体の食料需要量は1.7倍になるだろう。
    需要の増加率は所得の低い国ほど高く、低所得国は2.8倍に増加するだろう。特に畜産物は3.5倍になると計算されている。くらしが豊かになるとタンパク質の需要が高まり、タンパク質危機も懸念されている。
    2030年には植物由来食品素材市場は、コロナ、ビーガン、動物愛護、健康志向などの影響から40倍に伸びると予想されている。発展途上国の農作物栽培を担っているのは児童労働であることも問題。多様な環境に適応する食料生産システムが求められている。

    細胞性食品の作り方

    動植物から新鮮な細胞をとってきて、培養液に入れてバイオリアクターで育てる。細胞が増えたら、集めて(収獲)、洗浄、加工調理する。細胞培養技術は再生医療の技術を応用しており、細胞培養した食品を販売流通経路にのせる。2013年、200gのハンバーガーは2,800万円だった。当時は高価な培養液で1層の平面培養を行い、1層ずつはがして重ねていた。
    細胞培養液は基礎培地(アミノ酸、糖を含む。ℓあたり2,000円をスポーツドリンク並みにしたい)と血清成分(ウシの胎児の血清、アルブミン、インスリンなどを含む。リットル当たり9万円)と成長因子(細胞増殖因子などmgあたり45,000円)からなり、高価で、ここのコストを下げたい。ウシの血清を使うとBSEのリスクも否定できない。
    まず、血清成分と成長因子のコストの問題を解決しよう。筋肉細胞と肝細胞で成長因子を共有しながら培養すると、肝臓細胞が血清成分と成長因子をつくるので、それを利用すると外部から血清成分と成長因子の添加が不要になった。
    2022年11月、UPSIDE Foods社(米国)無菌細胞を選抜しマスターセルバンクをつくり、浮遊培養する方法を確立し、FDAが認可した。この方法だとBSEのリスクを大きく下げられる。
    培養中の動物細胞は塊をつくると内部の細胞は飢餓になるが、浮遊培養なら凝集を防ぐことが可能。
    界面活性剤を3次元培養に用い、接着や凝集を防ぎ、最終的には洗浄して界面活性剤は食品に残らない方法もできている。
    一方、細胞培養ではハンバーグが限界。ステーキのように細胞を凝集させると塊の中の細胞が飢餓になる。
    接着した細胞を足場にして筋肉ができて食感をつくれないかと考えた。キチン、キトサン、セルロースなどの可食材料を足場にしたらどうか。イスラエルでは、可食足場でスジをつくって食感を再現しようとしている。
    細胞シートはすでに再生医療でできるので、シートを重ねてハムにしたり(東京女子医大)、細胞線維を束ねてサイコロステーキにしたりする試み(東京大学・日清食品)が行われている。

    新しいものをつくれないか

    東京女子医科大では、藻類と動物の共培養で、藻類の出す酸素と動物が出す老廃物を藻類の栄養として利用して培養している。
    肉厚のステーキをつくるには、筋肉をつくり血管が栄養を運ぶ。脂肪細胞の共培養でベーコンのようなシート肉をつくる。再生医療用途の施設を使っているのでは、食料生産には規模が不足。
    スケールアップするには、バイオプシーで細胞を得て、雑菌を除く。良い細胞を選んでセルバンクをつくる。衛星細胞を拡大培養し、筋肉へ分化誘導。洗浄、収穫、加工調理につなぐ。
    世界では培養肉製造工場の設立が始まっている。

    植物細胞の利用例

    チョコレ―ト、コーヒー、ベリー類の細胞農業が始まっている。カカオ豆の細胞からできたカルスから浮遊培養を行う。洗浄、収穫、凍結乾燥、ロースト。砂糖、ココアバター、レクチン(乳化剤)を加えると板チョコができる。培養しやすくて、もろいカルスができるものを選ぶのが鍵。チューリッヒ応用科学大学では、浮遊培養細胞1gから1か月で300gに増やしている。

    開発事例

    • Mosa Meat:マークポスト先生は培養肉のパイオニア。
    • UPSIDE Foods:トリ肉。アメリカで認可された。
    • インテグリカルチャー(日本):フォアグラを作成。動物福祉の観点もある。
    • Eat JUST(シンバポール):チキンナゲット。1500円のお弁当に入っている。
    • Blue Nalu(米国):高価なまぐろのとろ
    • forsea(イスラエル):ウナギ
    • STEM®(フランス):コーヒーの乾燥粉末をつくる。
    • フィンランド技術研究センター:カルスを焙煎してコーヒー
    • California Culured:カカオ細胞からチョコレート
    • チューリッヒ大学:チョコレート

    具体的な商品化時期は確約が困難。

    社会実装

    日本では食品は適正な工程管理のもとに作られた食品か食品添加物ではなくてはならない。
    インテグリカルチャーでは、基礎培地の研究から始めた。FDAは不死化細胞株とFBSの使用、遺伝子組換え技術の活用について安全性を認めた。無限に増える細胞を人は受容するか。
    フードテック官民協議会で細胞農業の議論が進み、細胞農業研究機構が規制の枠組み作りを主導している。
    ルールメーキングだけで社会実装が進むのか。正確な情報。アクセスしやすい情報環境、選べる社会も大事。
    アンケート(2019年 日清食品実施)では、培養肉は食糧危機解決に役立つと思っている人は半分以上だったが、食べてもいいと思う人は4分の1強。食糧危機の情報を聞くと食べてもいいという人は半分に増えた。同様に動物福祉の情報を聞いたときも、食べてもいいは半分以上に増えた。
    私たち、細胞農業協会でもアンケートを継続中。認知度は少しずつあがっている。そこで、まずは知ってもらい、理解してもらいたい。
    気になっていることを聞くと、安全性という人は37.9%、おいしさは35%、何が入っているかわからないは29%、人工は嫌いだという人は23%。既存の産業とのバランスを気にする人もいた。100gあたり100円位高いなら食べてもいいという人は47%

    私の研究紹介

    大原則は、基礎培地は食品になりえるものだけでつくる!
    基礎培地は、アミノ酸、糖、ビタミン、無機塩、一部の食品でない成分には検討が必要
    ホルモンは、オーキシン、サイトカイニンなど(オーキシンは使わない方がいいかもしれない。植物ホルモンを気にする消費者がいることも考えられる)。
    食品由来でオーキシンと同じ効果のある物質を見つけているが、作用が弱いので強化を試みている。培養可能性は高まってきている。
    次の課題は増殖を維持すること。
    今、考えているのはターゲットになる植物種を何にするか。高付加価値のある植物種(カカオ、コーヒー)がいいのか。収穫まで時間がかかるエキナセアか。動物細胞に対する有用活性を示すクコなど。
    培地の食品化実験では、試験グレードの代替成分や食品グレードの代替成分を使った培地でカルスを誘導することを目指している。

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    五十嵐さんの考える「培地」

    質疑応答

    • 食品衛生上の問題ない物がつくれたら、従来の食品と同じになるのか。新規食品のわくぐみはどうなるのか
      →日本は未定。
    • 3Dプリンターは使うのか
      →阪大は3Dプリンターを利用している。
    • キチン、キトサンで足場構造をつくったとき、甲殻アレルギーは大丈夫か。
      →あくまでも今の段階のテスト材料として扱い。
    • 植物に動物細胞をつくらせるのは遺伝子組換えになるか。
      →マメ科の植物に動物のタンパク質を作らせることは試みられている。
    • 培養に要するコスト
      →培養装置を重ねるなど、立体的に作れるので、平地で栽培・飼育するより有利。水の使用量は培養装置洗浄で増えるだろうから、従来の畜産と変わらないかもしれない。電気代は従来とあまりかわらないが、培養時間が短いというメリットはある。原料製造のコストはあまり計算されていない。肉1キロをつくるための飼料や水は計算されているのに。
    • 機構との関係
      →協会は啓発活動、機構は政治家に政策提言したり、ルール作りに関わる。アカデミアには培養食料研究会という団体もある。
    • ミルクを細胞農業でつくるのはどうするのか。 
      →乳腺細胞を培養する方法と微生物に乳成分をつくらせる方法がある。後者は精密発酵。
    • 細胞農業で労働の負荷を減らして既存産業との共存を考えられるといい。
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