くらしとバイオプラザ21ロゴ
  • くらしとバイオニュース
  • 「遺伝子組換え食品と歩んだ四半世紀~表示改訂を機に振り返る」

    2023年4月25日、食の信頼向上をめざす会主催ZOOM情報交換会「遺伝子組換え食品と歩んだ四半世紀~表示改訂を機に振り返る」が開かれました(企画 くらしとバイオプラザ21)。この4月、遺伝子組換え食品の表示改訂に伴い、表示の検討委員会に長くかかわり食品表示制度を熟知されている森田さん、研究だけでなく遺伝子組換え食品・ゲノム編集食品の規制枠組みづくりや市民とのコミュニケーションに取り組んでこられた田部井さんにお話をうかがいました。

    写真

    森田満樹さん

    写真

    田部井豊さん

    話題提供1
    「遺伝子組換え食品表示制度の変遷」

    Food Communication Compass(フーコム)  代表 森田満樹さん

    遺伝子組換え表示制度の始まり

    1996年、遺伝子組換え作物の商業栽培が始まり日本にも輸入されるようになった。輸入開始後に遺伝子組換え食品への表示が消費者から強く求められ、2001年に表示制度がスタートした。
    1999年に遺伝子組換え食品の表示制度の方針が決まったときに、義務表示として「遺伝子組換え」「遺伝子組換不分別」が対象食品を限定して始まり、「遺伝子組換えでない」という表示な任意表示となった。このときに、「不分別」という表示がわかりにくいという意見が相次ぎ、「遺伝子組換えでない」と表示する要件に意図しない混入率を5%まで認めることについては不満の声があった。それでも2年の議論の末に制度が決まり、表示制度がスタートしたという経緯があった。
    表示制度がスタートする前は、義務表示としての「不分別」表示が多くなるだろうと予想されたが、店頭の状況を見ると「不分別」表示はめったに見かけることはなかった。一方、任意表示の「遺伝子組換えでない」表示は、ほとんどの豆腐、納豆、みそ等で見られた。また、一部の事業者は油など義務表示の対象品目でないものにも自主的に「不分別」表示をするところもあった。このように遺伝子組換え食品の表示の多くが任意表示によるものであるという状況が制度スタート後十数年間続いてきた。

    今回の改正

    制度がスタートして約17年の年月を経て、消費者庁のもとで遺伝子組換え食品表示制度の検討が行われた。検討会では、「義務表示の対象品目を油などにも拡大してほしい」「不分別表示がわかりにくい」「組換えでないという要件に、意図しない混入5%未満は高すぎる」等の意見が出され、表示の真正性や分析の可能性という点から検討が行われた。また、消費者庁が実施した消費者意向調査も紹介され、遺伝子組換え食品表示のルールを知らない人が多く、関心も低く、現行制度の改正に対するニーズはそれほど高くはない点も明らかになった。
    検討の結果、義務表示である「遺伝子組換え」「遺伝子組換え不分別」のルールは変わらず、対象品目も現状のままとなった。改正されたのは「遺伝子組換えでない」とする任意表示について、5%以下から「不検出」と厳格化が決まったこと。あわせて2021年には分析法も公表されたが、少しでも残っていると検出されて陽性となってしまうため、多くの事業者が「遺伝子組換えでない」と表示できなくなり、そのかわりに「分別生産流通管理済み」等の表示に置き換わっている。一方で、生産から流通、製造まで厳格に管理をして「遺伝子組換えでない」表示を行っている製品もある。
    ゲノム編集食品の場合、外来遺伝子が導入されなければ表示義務はなく情報提供が求められる。実際に上市されたトマト、フグ、タイなど厚生労働省で届出情報が公表されているものは、情報提供も行われている。

    話題提供2
    「遺伝子組換え食品、ゲノム編集食品~研究開発と規制枠組みづくりに関わって」

    東洋大学 教授 田部井豊さん

    はじめに

    ウリ科の育種に関わっていたが、つくばの農業生物資源研究所に異動後、植物科学の研究とともに、新たに開発が進んできた遺伝子組換え作物の環境影響評価を担当するようになった。その後、カルタヘナ議定書の交渉やカルタヘナ法に関わった。6年前から、厚生労働省遺伝子組換え食品等調査会委員になり、ゲノム編集食品の取扱い方針の策定などにも関わっている。

    カルタヘナ議定書

    アシロマ会議をうけて文部省、科技庁、通産省、農水省で指針を作成した。OECDが示した「ファミリアリティ」と「実質同等性」をもとに、国内における指針策定が行われた。その後、カルタヘナ議定書の国内担保法としてカルタヘナ法を策定され、2004年、施行された。
    アシロマ会議(1975年)では、遺伝子組換え生物に対して、物理的封じ込めと生物的封じ込めをすることが決められた。これは、科学者が自らの研究の自由を束縛しても社会的責任を問うた科学史上、意味深い出来事だった。
    OECDでは、環境に対しては「ファミリアリティ」を、食品安全性については「実質的同等性(食経験のある比較作物があるかどうか。あった場合はそれをコントロールとして検討する)」という考え方を整理した。
    生物多様性条約19条に書かれていたバイオテクノロジーの取扱いと利益の配分が重要視され、生物多様性を包括的に保全し、持続可能な利用を行うために「カルタヘナ議定書」が検討されるようになった。カルタヘナ議定書の前文には、バイオテクノロジーが生物の多様性に及ぼす悪影響(人の健康に対する危険も考慮したもの)について公衆の懸念が増大している背景があると書かれている。

    カルタヘナ議定書をめぐる議論の争点

    • 途上国はWTOをカルタヘナ議定書より優位にしたいと考えていたが、これは認められなかった。
    • 細胞融合は異なる分類学上の科に属する生物の細胞融合が対象となった。
    • 第5条 医薬品である改変された生物の国境超えは対象としない。
    • 第8条 通告(輸入に際しては事前に情報を提供する)の義務  
    • 第18条 取扱いにおける必要な措置(輸送、包装、表示)
    • 第27条 責任と救済(改変生物が輸入国の環境に影響を及ぼした時に元の状態に戻すための責任)

    日本は国内担保法にあたるカルタヘナ法をつくり、2003年、カルタヘナ議定書に批准した。カルタヘナ法の関係法令である「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領」の策定に、私も関わった。

    ゲノム編集食品の取扱い

    2010年、ゲノム編集技術のTALENが開発された。2012年、クリスパキャス9が開発され、この技術は扱いやすく広く普及し、2020年にノーベル化学賞が与えられた。平成30年(2018年)6月5日にとりまとめられた「バイオ戦略2019」の中でゲノム編集技術を利用した生物の取扱いを2018年度中に決めることが明記され、環境省と厚労省で検討が始まった。
    カルタヘナ法の規制対象生物は、細胞外で核酸を加工する技術であって、その「核酸または複製物を有する生物」とされている。それをもとに検討された。
    ゲノム編集にはSDN(タイプ)1,2,3の3つのケースがある。
    SDN1:切断されたDNA配列のあと自然まかせの修復
    SDN2,SDN3:DNAを切断する際に修復用の鋳型(DNA断片)がある。
    カルタヘナ法では、SDN1により作出されたゲノム編集作物で、外来DNAが除かれたことが確認されたものは規制対象外になる可能性あるが、SDN2とSDN3により作出されたゲノム編集生物は規制対象となる。
    ゲノム編集食品の検討において、SDN3は規制対象であるが、SDN2では自然で生じえる変異の範囲であれば規制対象外になる可能性がある。SDN1や自然突然変異による変異が、SDN2の変異より大きいこともしばしば見受けられる。また、SDN1は、外来DNAが除かれたことが確認され、さらに変異導入後の配列が有害物質を産生しないことが確認されれば、規制対象外になる可能性がある。
    食品衛生法では、微生物のセルフクローニングとナチュラル・オカレンスは組換え対象外になっている。一方、カルタヘナ法では、動物も植物もセルフクローニングとナチュラル・オカレンスは規制対象となっている。
    世界的には外来遺伝子が除かれていれば規制対象外としてあるか行くにが多い。EUはゲノム編集生物を遺伝子組換え生物として規制対象としているが、現在、検討中で考え方が変わる可能性もある。

    消費者との関わり

    国内での遺伝子組換え作物野外栽培への自治体規制をみると、千葉県は規制を策定する検討会をなくした。これはリスクコミュニケーションの成果と言えるかもしれない。北海道と新潟県には実質的に栽培ができないくらい厳しい条例ができている。
    社会心理学では、情報は重要だがある程度以上情報が増えると受容が下がることがわかっている。そこには考え方のバイアスや個人の経験の影響がある。
    私は、いろいろな人がいる中では、「共存」が大事だと考えている。そして、自分が反対だからといって賛成の人を攻撃するのはおかしいと思う。表示で分けられ、選べる環境が望ましいと思う。
    私自身は農業生物資源研究所に所属しているとき、除草剤耐性ダイズの効果のデモンストレーションをしたり、非組換えダイズ畑の除草体験会を実施、冊子を作ったりいろいろなコミュニケーションを試みてきた。その中で考えてきたことは、説明を尽くすことが大事だということ。反対派の人が多い会場にも慎重に考える人もいて開発側の話を聴きたい人はいるはずだと思って、そういう場所でも丁寧に説明を繰り返してきた。真摯にサイエンスコミュニケーションをしている人を見ている人がいる!
    安全性の考え方は最終産物で考える「プロダクトベース」につきる。

    話し合い(〇は参加者、→はスピーカーの発言)

    • 有機JASではゲノム編集を除外する方向だが、有機と遺伝子組換えが対立構造になるのはおかしい。
    • 消費者意識調査に遺伝子組換えや食品添加物のリスコミが欠如していると指摘されているが
      →遺伝子組換えの場合は輸入が始まり、表示制度が決まってから、食品安全委員会の安全性審査の仕組みや環境影響の法制度が定まった。その点、ゲノム編集は規制の枠組みが先にできて、その後届出が行われており、制度の透明性がはかられている。そのため、2000年当時の遺伝子組換えのときほどは混乱していないと思う(森田さん)。
      →遺伝子組換えのコミュニケーションはかなり行ってきて、不安でない人も増えてきている。活動の継続の成果だと言えると思う(田部井さん)。
    © 2002 Life & Bio plaza 21