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  • 総会講演会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)2類から5類へ~何が変わるか、何が変わらないか」

    2023年5月12日 特定非営利活動法人くらしとバイオプラザ21総会講演会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)2類から5類へ~何が変わるか、何が変わらないか」が開かれました。お話は川崎市健康安全研究所所長 岡部信彦先生でした。昨年の総会でCOVID-19とどう向き合うかというお話をうかがったところでしたが、昨年から予定していたの総会がちょうど5類になる発表(5月8日)の直後ということで、岡部先生にご無理をお願いしました。「正しく怖がる」ことの大切さは、はしかのバイオカフェから教えていただいてきたことですが、今回もその意味を共に考える、よい機会になりました。

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    岡部信彦先生

    主なお話の内容

    1.昨年、お話したこと、共に考えたこと

    2019年末に武漢で原因不明の肺炎多発の報告があった。その後、ダイヤモンドプリンセス号、有名人の死亡で世間の関心が高まり不安感も広がった。インフルエンザ等特別措置法(特措法)が施行され緊急事態宣言が発令された。
    中国において原因不明の感染症発生の第一報から1週間程度でその原因は新型のコロナウイルスだとわかったのは早かった。ウイルスのゲノム(遺伝子)の全配列も数日後に公表されたので、PCRによる診断に利用できるようになり、患者がいないうちから診断の準備ができた。そしてメッセンジャーRNAワクチンの誕生にもつながった。しかし、医療も大事だが気持ちも経済も教育も大事という話を昨年、ここでお話した。サイエンスアゴラ2022では学生さんも交えて「みんなでコロナと戦うために~ウイルスが嫌うもの」というワークショップもご一緒した。

    2.感染症への対応

    感染症によって、その感染力(伝播力)と病原性(症状のひどさ)の強弱がそれぞれ異なるが、感染力の強さと病原性の強さは必ずしも一致しない。エボラのように、病原性は強いが、感染力はそれほどでもないものもある。はしかはワクチンがなければ、感染力、病原性はともにとても高く、危険な病気といえる。
    感染症が大流行となり、長く続くと医療負荷が大きくなり、感染拡大を抑えるために人の動きなどを厳しく規制すると経済や社会に大きな負担がかかる。一方、経済社会を動かそうとすると感染は拡大し、医療は逼迫し、一般医療も十分にできなくなってしまう。このバランスをとることが難しい。
    パンデミックの対応戦略を次の3つにわけると、日本はBに相当していたが、いま世界全体は日本を含めCになってきている。
    A「封じ込め」 最も厳しい規制。長期間、徹底すると疲弊する 例)中国
    B「感染抑制」 感染者数を抑制し、死亡者数を一定数以下に抑える 例)日本
    C「被害抑制」 感染者数を気にせず、重症者の治療を重視 例)スウエーデン
    「パンデミック」とは世界中の多くの人がかかる世界的流行で、HIVや新型インフルエンザなどがある。「エンデミック」は消え去らないが季節的に流行しながら繰り返し発生する。これが地域で限定されると風土病と呼ばれる。しかし明確な定義はない。
    社会的問題と感染症への対応のバランスは難しい。封じ込めようとするためには感染者の発見と治療、感染伝播防止(隔離)が必要だが、感染しているかもしれない人も含めた隔離は人権問題にかかわり、またそれを厳守しようとすると社会経済活動に大きな支障が出てくる。感染者を早く見つけ、治療、隔離することは重要だが、軽症者もすべて医療機関での入院となると医療機関は通常の能力を超え「逼迫」という状況になる。となると、一般の医療に大きな負担がかかり、コロナには対応するが心筋梗塞や脳出血、交通事故・お産、そして健康診断やがん検診などができなくなる、ということでは日常生活への支障が大きくなる。このバランスを見据えながら状況が見えたら速やかな軌道修正が必要。しかし実際はこれがなかなか難しい。
    ワクチンや治療薬などによらない「医薬品によらない介入」とは感染対策の基本になるもの。「三密をさける」「マスク」「手指消毒」はご存知のとおりで、具体的な項目が「新しい生活様式」などとして多く示された。
    積極的疫学調査は感染症の対策として重要である。各国とも積極的疫学調査(接触者調査)は行うが、日本ではそれに加えて、患者と接触した人たちの行動をさかのぼって調べどこで感染し、その原因は何であったかの調査(遡り調査)を保健所が行った。これにより拡大を抑える効果はあったが、一方では大きな手間がかかり、ある程度以上患者が増えるとできなくなった。そうこうするうちに新しいワクチンが登場し、「医薬品による介入」が可能になった。ワクチンの実用化には、5~10年かかるのが普通だが今回は1年たらずで、世界中で実用化された。これは素晴らしいこと。しかし、新しいワクチンは心配だ、と考える人も一方ででてきている。
    これまでのワクチンは、病原体そのものを著しく弱毒したもの(生ワクチン)や、病原体としての活性を消失させたもの(不活化ワクチン)を利用してワクチンを作ってきたが、今回はウイルスを構成するRNAの一部を小さな脂肪粒で包んで体内に入れる方法をとった「メッセンジャーRNAワクチン(mRNAワクチン)」が導入された。多くの人への利用は初めてだが、10年以上前からエボラ出血熱のワクチンなどで研究は進められてきた。
    重症の肺炎治療として「酸素療法」、「人工心肺(エクモ)」「免疫抑制剤」「既存の抗ウイルス薬」などを用いてきたが、薬物療法としては、この3年間に、抗ウイルス薬、中和抗体などが新たに開発導入され、医療側の手の内も大きく増えた。

    3.これまでの経過

    第1波から第8波を俯瞰すると、感染者数の山は次第に高くなっている。第8波では届け出方法が変更されて、数としてあがってきていない感染者もいるだろう。全体を見て言えるのは、重症者数は第1から5波と増えたが、6波以降は重症者数の山は低くなった。ワクチンのお蔭で軽症で済んだのかもしれない。またウイルスがオミクロンに変化したことも大きな要素となる。
    一方2023年2月をみると、死亡者数はむしろこれまでよりも増えている。感染者数がおそらくは登録数を超えて増えているので、致死率は低くても死亡者数そのものは増える。この中には80歳以上でコロナによる持病悪化、活力の低下などもある。コロナは1回かかっても免疫が次第に低下するので、軽いけれど二度かかることもある。またワクチンによる免疫も、長持ちをしないので追加接種が必要となる。結果として、亡くなられる方の数としては多くなったと言えるのではないだろうか。
    また、人が移動すればコロナウイルスも拡散する。地方は東京ほど医療環境がよくないので、思わぬ感染拡大が起こることもある。そのようなことも、数の増加と死亡者数の増加につながったのではないだろうか。
    しかし、世界と比較すると日本の人口当たりの死者数はとても低い。致死率(感染者数と死亡者の比)も日本はとても低い。また、日本が世界的にダントツの高齢化社会であることを思うと、それでも死亡者数、致死率が低いのは高齢者への対策は悪くはなく、一般の人々もよく気を付けたからと言えるだろう。もちろん、さらに良くすべきところはたくさんある。

    4.感染症とは

    「感染症を正しく怖がる」とはどういうことか。昔は、水ぼうそうなどは早くもらって免疫力を付けた方がいいという人たちも多くいた。確かに実際に感染症にかかった人の免疫は強くて長く持つ。また、感染症にかかる(病気になる)と、免疫ができるだけでなく、痛み病気の苦しさなどを経験をすることで、人の痛み・苦しさが理解できるようになる。いわば人を思いやる気持ちが醸し出されてくることになる。しかし、それは比較的軽くすむものの場合で、危険な病気はやはりかからない方が良い。また、感染症は誤解しているといつの間にかうつってしまったり、うつらないものをうつると考えてしまったり、正しく理解する、すなわち、正しく怖れることが大事。
    それでは、新型コロナは軽くすみそうだから罹った方が良いのか、なんとしてでも防いだ方が良いのか、どうでしょう?
    1000人の感染者のうちの50人が入院が必要かもしれない、ひとりふたりが亡くなるかもしれない。このバランスをどうとらえますか。998人が治るのなら良いか、といっても感染者が100万人になれば、5000人が入院し、100~200人が亡くなるのであれば、やはり感染者数は少しでも少ない方が良い。多くの人が防ごうとすると、積極的に防ぐことができない人や防ごうとしなかった人も周りのお蔭でかからなくて済むことになる。みんなで感染症を社会から減らすため、自分を防ぐと同時に周りも守る道具であるワクチンは重要だといえる。
    WHOへのコロナの報告をみると、欧米は感染者数も死亡者数も多かった。アジアでは欧米に遅れて感染者数、死亡者数が増えたが、最近は減少、世界全体では減っている。いずれの国でも、疑いのある者はすべて検査し、陽性者は登録をする「全数報告」はやめているので、感染者数の実態はわからなくなってきているものの、入院数やICU入院数、死者数はやはり減小し続けているので、世界のどこかでいつのまにか急増しているということは目下ないといえる。医療の進歩やワクチン普及の効果と言えるだろう。しかし直近(2023.6)では、再びアジアで増加の傾向にあることには注意が必要だ。
    ウイルスの詳細を調べると、初めは大きく変異しアルファ、デルタのように命名されたが、オミクロン株になってからはオミクロンの中での変化であり、病原性の変化などは目下のところ大きい変化はない。
    これらをふまえて今の新型コロナウイルス感染症をみると、季節性インフルエンザと比べて「病原性はやや高く(特に高齢者にとって)、感染性(伝播性)が強い病気」という位置付けになっているのではないだろうか。

    5.5類感染症へ

    5類になって一番、変わるのは法律上の取扱い。病気がごく軽くなったとか予防や治療が完璧にできるようになったから、あるいはもうすぐ消えてなくなる病気だから5類になったのでもない。法律のもとに私権の制限を行ってまで強い対策をしなくてはならない病気ではなくなった、という意味。
    感染症法には1類から5類の感染症がある。1類が一番重く、だんだん軽くなって5類、というわけではない。例えば、3類は腸管感染症(食中毒など)が中心、4類は動物からくる病気(動物由来感染症)が中心、というようなグループ分けがされているので、2類相当から3段飛びで5類に下げた、というわけではない。5類には日常生活の中で注意をしなくてはいけないたくさんの病気が分類されている。エイズ、RSウイルス、はしか、水ぼうそう、クロイツフェルトヤコブ病、梅毒など、多種多彩である。
    5類になることによって、法律に基づいた入院、濃厚接触者の外出制限はなくなる。緊急事態宣言はかけられない。幅広い医療機関での診療となる。医療費は保健診療で一部個人負担がある。行動制限が変わる。
    発症してから普通の生活に戻るには、法律上の決まり事ではないが、感染症に注意祖するという意味では、できれば発症の翌日から5日間は外出などしないで療養してほしい。もちろん症状が良くなっていることが前提。しかし、確かに6日目になるとほかの人にうつすようなウイルスはぐっと減ってくるが、中には10日間ほどはウイルスが残っている人もいるので、10日間は外出時にはマスクをするなど注意をしていてほしい、としている。
    これからは濃厚接触者という法律上の定義がなくなる。感染者の家族は普通の生活をしていいが、もしかするとすでにうつっているかもしれないので、発症には注意してほしい、また人にうつさないような注意をしていただくと有難い。また症状がでたときは受診してほしい。
    5類になっても軽い病になりさがったわけではないので、一般的な感染症に対する基本的注意はぜひ続けて頂きたい。また、医療機関と高齢者施設は、一般の生活より強い感染対策が必要になるのでご理解ご協力いただきたい。

    6.新たな健康習慣

    感染症の注意を守って健康でいるために、常に心がけておくべきことを習慣にしよう。

    1.
    体調不安があるときには自宅で療養する
    病欠は欠席扱いにせず、安心して療養できる社会、体調不良による休暇がとりやすい社会こそ、豊かな社会。
    2.
    自分で判断してマスクをする
    流行状況、場所の混雑の程度や人と人の距離、インフルエンザのシーズンかどうかなどを考えてマスク着用。人ごみを避けることも大事。
    3.
    換気と三密回避はいつも気を付ける
    4.
    手洗いは生活習慣の基本のキ
    5.
    適度な運動とバランスのとれた食事

    感染源・感染経路に注意をして、規則正しい生活をして健康管理。できればワクチンを。
    「熱が出たら無理をしない」が常識になりますように!!
    WHOの5月4日の緊急事態宣言(PHEIC)解除でも、「コロナの危険はなくならないので対策は継続してください」と言っている。

    7.PHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)

    国際保健規則(IHR)という国際間の規則に基づいて、国際的に公衆衛生上の問題になりそうな病気がでたらWHOに届けることが決まっている。症状が重い、予測が難しい、国際的に拡がりそうか、国際交通規制の必要性、これらの4項目のうちに2つの可能性があれば、WHOに届ける。もちろん日本で発生すれば、日本はWHOに届けなくてはいけない。しかしこの規則があるために、病気が発生していない国でもその情報を公式に得ることができる。さらにこの病気が、国際的に公衆衛生上の問題になり得るとWHOが評価した場合に、PHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)が宣言される。
    PHEICはこれまでに新型パンデミックインフル、エボラ出血熱、ポリオ、ジカウイルス、COVID 19、MPox(サル痘)など。ポリオは未だに解除されていないが、その他はコロナ・サル痘を含めて解除されている。アジアでは国際的に大きな話題となった感染症の半分くらいがでている。人の行き来で感染症は拡がるので、感染症対策には国際協力が欠かせない。

    8.これからのこと

    出来るだけ拡げない注意は続けなくてはならない。しかし多くの軽症者はインフルエンザを診るような医療機関で診て、重症者はきちんと入院ができる。そして通常医療が続けられるようにすることが重要だが、医療だけではなく、多くの人の協力が必要だ。ワクチンも上手に使って、新たな健康習慣を忘れずに、それぞれができることをしましょう(注意をしないで普通の生活になるわけでなない。注意をしながら普通の生活をしましょう)。
    日本は、日本中どこでも健康保険が使えて、一定のレベルの医療が受けられる。救急車は無料で呼べる。これは日本のいい所だが、その気軽さから医療が逼迫することもある。また公的医療機関ですら効率採算性を求められすぎるのも問題。良い点を残しながら、医療体制を改善していくことはこれからも必要。
    最後に、「強がり過ぎず、怖がり過ぎず、いつものワクチンもお忘れなく」

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    講演会無事終了。岡部先生を囲んで

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