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  • 科学ジャーナリスト賞2023 最終選考会開かれる

    2023年4月8日、科学ジャーナリスト賞2023(以下 J賞)受賞作品の最終選考会がプレスセンターで開かれました。
    今年は、書籍、新聞、映像、WEB、ラジオの58作品が候補作品として推薦され、一次選考を通過したのは、新聞記事2、書籍5、映像作品2、科学館展示1の10作品でした。
    最終選考会で、ひとつの新聞記事と2つの書籍にJ賞が贈呈されることが決まりました。特別賞として一つの科学館展示が選ばれました。大賞に該当作品はありませんでした。
    今年は特にどの作品も優れていて、優劣つけがたく予定時間を延長して話し合い、最後には投票を行うことになりました。元村有希子委員長のリードのもと、ジャーナリスト、研究者、読者の立場に立って全員の審査員の間で多様な発言があり、とても充実した選考会であったと思います。
    選考会の最後には、今年で有識者委員を退任される村上陽一郎委員から退任のことばがありました。同委員はJ賞第1回目から審査にあたられ、選考会ではいつも日本の科学の歴史への温かいまなざしをもって公平な審査へと導く発言をしてくださいました。
    賞の贈呈式は6 月3 日に東京・内幸町の日本プレスセンタービル10 階ホールで開催されます。J賞2023受賞作品は以下の3作品です。

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    選考会を終えて(写真提供 科学技術ジャーナリスト会議)

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    村上陽一郎委員

    新聞作品  福井大教授「査読偽装」を巡る 一連のスクープと報道

    鳥井真平氏(毎日新聞 科学環境部取材班) (毎日新聞)

    研究者の研究成果の評価には、関連分野の専門家による公平な審査のもと、学術雑誌に論文が掲載され、その価値が認められる「査読」というしくみがある。査読偽装とは、専門家による評価が公平に行われなかった事例を紹介したもので、このような風潮が広まると、市民の科学への期待、科学者の信頼が揺らぐ恐れがある。本作品は、人々に適正な査読の意義を伝え、査読偽装をめぐる危機を訴えるものとして評価された。

    書籍作品  「美食地質学」入門

    巽好幸氏 (光文社)

    著者は地質学者であり美食家でもある。おいしい作物があれば、どのような土壌がその作物をおいしくしているのか、その土壌が形成されたのは地球の歴史のいつ頃なのかを時空を超えた壮大な歴史を紐解きながら教えてくれる。美味しい作物を育む気候は、どのような地形から生み出されるのか。日本の得意分野である発酵食品も、日本には微生物が繁殖しやすい気候があったからだという。食べ物の味、香り、食感は、地球の贈り物だとしみじみと思わされる。

    書籍作品 「情報パンデミック あなたを惑わすものの正体」

    読売新聞大阪本社社会部(代表 同部次長 中沢直紀)(中央公論新社)

    様々なフェイク・ニュースが紹介され、フエイク・ニュースはどのように生まれて、どのように広がり、このように受け入れられていくのかを、「人」に注目してどこまでも追跡する。その構造がみえてきたとき、宗教の布教活動の広がりと似ているという分析も興味深い。情報によって家族が分断されたり、信頼関係が崩壊したりした人々の哀しみの深さが心に突き刺さり、情報を扱うことの怖さ、責任を考えさせられた。

    科学ジャーナリスト賞の対象は前年に発表されたものですが、福井県年縞博物館の常設展示の価値は高く、「特別賞」を差し上げることになりました。

    福井県年縞博物館/常設展

    福井県年縞博物館 館長 吉田昌弘氏

    福井県の水月湖で、7万年にわたる沈殿物が奇跡的にきれいな「年縞」となって発見された。長い地球の歴史の中では、ごくごくわずかな期間にだけ私たちは生まれて暮らしているわけだが、その年月も年縞をモノサシにしてより正確に把握できるようになることを知った。年縞を知ることで、人間が地球上で謙虚に暮らそうと思うようになることをと期待したい。

    受賞に至らなかった作品も力作ぞろいでした。筆者の印象に残ったものの一部を紹介します。

    新聞作品 「脳とこころ 御巣鷹に逝った科学者」 上毛新聞社 取材班代表 五十嵐啓介氏

    飛行機事故で若くして逝った塚原仲晃を惜しむ人々、研究を受け継いだ人、影響を受けた人と「人」のつながりを軸に、脳の働きを解明しようとする研究の流れが紡がれていく。日本の脳科学の研究の輝かしい足跡が語られており、読んでいて日本人として誇らしい気持ちになった。

    書籍作品「なぜ理系に女性が少ないのか」横山広美氏(幻冬舎)

    理系に女性が少ない理由を、色々な種類のアンケートによる現状調査、提供される情報による考え方の変容、さらにそれを他国のデータとの比較によって解き明かそうとしていく。理系に進むことを躊躇させるパラメーターとして社会風土があげられており、示唆に富んだ指摘だと思った。

    書籍作品「ひとかけらの木片が教えてくれること」田鶴寿弥子(淡交社)

    材解剖学では、歴史的に貴重な木片の樹木の種類を、主に顕微鏡観察を行うことで同定する。この本で語られる木材解剖学には植物学的な視点、歴史学や民俗学の視点が融合されていると感じた。著者が分析を始める前にその木片に関わった人々に敬意を表し、科学的手法を取りながら歴史的背景や先人の思いに寄り添い、澄んだ静かな気持ちで研究を進める姿に好感を持った。

    書籍作品 「『廃炉』という幻想」吉野実氏(光文社)

    12年間、福島第一原発の事故を取材してきた記者が、「廃炉」という「解決」は実現可能かという疑問を、実体験を踏まえ、丁寧にわかりやすく徹底的に追及していく。現場で働く人への配慮の不足、原子力をエネルギーとして利用することへの認識の甘さ、二転三転する事業者や行政の態度に、著者と一緒になって驚いたり、失望したりした。包み隠さず事実を明らかにして本音で話し合うしかないという結論に新規性はないが、とても納得した。

    有識者委員メンバー
    相澤益男氏(科学技術国際交流センター会長、東京工業大学名誉教授・元学長)
    浅島誠氏(東京大学名誉教授、帝京大学特任教授)
    大隅 典子氏(東北大学副学長)
    白川英樹氏(筑波大学名誉教授)
    村上陽一郎氏(東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授)

    科学ジャーナリスト会議委員メンバー
    大池淳一氏、三井誠氏、村松秀氏、元村有希子氏、佐々義子
    (村松秀理事はリモート参加)

    J賞選考委員会事務局長
    滝順一氏

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