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  • コンシューマーズカフェ「ファクトチェック~偽情報・誤情報とどう向き合うか」

    2023年3月8日、コンシューマーズカフェをオンラインで開きました。お話は認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ理事長 瀬川至朗さんによる「ファクトチェック~偽情報・誤情報とどう向き合うか」でした。偽情報・誤情報が目につくようになった背景、偽情報・誤情報に対する考え方について具体例を示しながらお話しいただきました。

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    瀬川至朗さん

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    ファクトチェックについて説明される瀬川至朗さん

    主なお話の内容

    1.ファクトチェックが注目されるようになった背景

    フェイクニュースへの注目度が高まり、グーグルでファクトチェックの検索が増えた。これは、トランプ氏が大統領選挙で勝った2016年11月ごろからのこと。 代表的フェイクニュースといえば、次のようなもの。

    • ローマ法王がトランプ氏を支持した。
    • クリントン氏に打撃を与えるようなニュース。クリントン氏に関わったFBIの人が無理心中したとか、選挙対策部長が児童買春したとか。

    フェイクニュースを信じた人が発砲事件を起こすなど、フェイクニュースから現実的な被害も出てしまった。しかし、フェイクニュースの影響の検証は難しい。
    ローマ法王がトランプ支持したというニュースをたどると、マケドニアのサイトだったが、やがて削除された。このニュースに対して、スノープス(ファクトチェックの先駆け アメリカ)がファクトチェックを行い、「フォルス」と判定しそれを解説した。マケドニアのサイトは、もとは風刺のサイトだったが、拡散によるお金儲けが目的の少年がやったことだとわかった。

    フェイクニュースの特徴は

    • ビジネスやお金儲けを目的とする
    • 政治宣伝に利用する

    トランプ氏の発信はフェイクニュースであると判定されたが、同氏はトランプ批判メディアをフェイクニュースだとも攻撃した。その結果、「フェイクニュース」ということばが拡散した。
    イギリスでは2018年、役所の文書で「フェイクニュース」ということばを使わないことを決めた。「フェイクニュース」は狭義に考えれば、意図的に間違えたり、誤認させたりするニュースを指すが、フェイクニュースの定義は定まっていない。広く考えて、ソーシャルメディアによって拡散される「誤情報」をすべて「フェイクニュース」とする人もおり、混乱を招きやすい。専門家の間では、偽情報(Disinformation)と誤情報(Misinformation)という単語が用いられることが多い。
    例えば、ロシアのウクライナ侵攻は情報戦が特徴といわれ、偽・誤情報が多く発信されている。ロシアがマウイポリの産院を爆撃したことに対し、ロシアは、その産院はウクライナ軍が使用し、女優が妊婦を演じていた、と反論した。その後、その女性が実際に出産したことがわかり、ロシアの側の偽情報といえる。
    また、駐日ロシア大使館は、イラク戦争の写真を使って偽画像を発信した。このことをバズフィードジャパンがファクトチェック記事として発信し、ロシア大使館はバズフィードを批判したが、当該ツイートは削除した。
    日本でも、熊本地震でライオンが逃げた(2016年)、大阪地震でシマウマが逃げた(2018年)という偽画像が拡散して混乱を招いたことがある。2022年静岡の水害ではAIが生成した偽画像が配信されていたこと対して、複数のメディアがファクトチェックの記事を配信した。
    ファクトチェックはいわば偽情報・誤情報への「対症療法」。真偽不明の情報をチェックして、その真偽を知らせる。また、市民のメディアリテラシーが高まることも重要。メディアリテラシーが「ワクチン」の働きをすることで、偽情報の発信・拡散への免疫をつくっていきたいと考えている。
    同時に、プラットフォーマー(ツイッター、ライン、ヤフー、FBなどの情報を流通させている組織)は、偽情報・誤情報が掲載されないような対策を求められている。ドイツはプラットフォーマーが対策をとらないときに罰金を課す仕組みを持っていて、偽情報拡散防止を図っている。
    一方、法規制による抑止が進むと、政府に批判的な人が取り締まられるリスクがある。法規制をしなくても、偽情報・誤情報の発信を防止できる仕組みを進める必要がある。

    2.世界と日本におけるファクトチェックの取り組み

    市民の健全な判断をゆがめる偽情報は民主主義の基盤を損なう!
    ユネスコではネット社会になって偽情報対策をジャーナリズムの役割の一つと考えている。真偽不明の言説を検証するファクトチェックは新しいジャーナリズムといえる。世界105か国391組織がファクトチェックを実施している(2022年6月現在)。
    ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)は2017年に設立された。情報、技術、資金のサポートを行い、自身ではファクトチェックはしていない。
    FIJ設立の目的としては、誤情報 偽情報の拡散防止、メディアへの信頼などがある。これらは言論の自由の基盤の強化につながる。民間団体が活動し、法規制に頼らない環境をつくりたい。言論は自由だが、互いに責任をもって発信する環境を市民の手で作りたい。海外では、メディアなどがFB、グーグルと連携してファクトチェックをやっている。日本のファクトチェック活動は残念ながら遅れている。

    3.ファクトチェックとはなにか

    ファクトチェックは事実に関する言明の真偽を調べて、証拠の判断材料を提供する。
    例えば、「消費税を2%引き上げると5兆円増収になる」と首相が言ったかどうかは、事実確認。本当に5兆円増えるのかどうかは真偽検証となる。
    ファクトチェックは事実確認より真偽検証というべきだろう。対象は幅広く、政治家、行政、有識者の発言などを対象にする。社会的に影響の強い発信ということで、一般の人のSNSの発信でも、広く拡散している言説は対象になる。
    次の言説はファクトチェックできるだろうか?
    例えば、「ジョージ・ワシントンはアメリカの初代大統領である」は事実確認ができる。「ジョージ・ワシントンは偉大な大統領である」は意見価値観だからチェックできない。意見はファクトチェックの対象にならない。
    「偽情報」とは意図をもって事実と異なる情報のことで、「誤情報」は意図を持っていない。
    「ミスリード」は受け取る側が事実と異なる印象や意識を持つ可能性があることをさす。

    4.基本ルール

    国際ファクトチェックネットワーク(IFCN アメリカ)ではファクトチェック綱領(5項目)を示している。
    「非党派・透明性」
    「情報源の透明性」
    「財源・組織の透明性」
    「方法論の透明性」
    「公開された誠実な訂正」
    「FIJファクトチェック・ガイドライン」は、上記の5原則をもとにして10項目を策定したもの。
    「FIJレーティング基準」では「正確」「ほぼ正確」「ミスリード」「不正確」「根拠不明」「誤り」「虚偽」の7段階になっている。「判定留保」「検証対象外」というレーティングもある。
    アメリカのポリティファクトでは、政治の言説を対象として、メーター式で示しており、ワシントンポストはピノキオの鼻で表現。メーターやピノキオの鼻は「正←→誤」の1方向で考えている。正確、ほぼ正確、不正確、誤りは1直線に乗り、メーター式で表せるが、ミスリードはこのラインに乗りにくい。
    ファクトチェックの検証作業自体はそれほど難しくはないが、言説がチェック可能かどうか、調査結果に基づいて判定結果をどのようにするかを決めると点がむしろ難しい。

    5.FIJの支援の仕組みとファクトチェックの実践例

    FIJでは、機械学習などを活用したFCC(ファクトチェック・コンソール)システムとFIJスタッフの情報調査を組み合わせて、Claim Monitorという疑義言説データベースを作成し、日々更新している。そうした疑義言説の情報を、ファクトチェックに取り組むメディアや専門組織に提供している。

    (1) 実践例 選挙ファクトチェック
    2017年衆院選では、6媒体で32本のファクトチェック記事を発信。2018年沖縄県知事選では5媒体が13件のファクトチェック記事を発信。2019年参院選は4媒体が9件のファクトチェック記事を発信した。2021年衆院選、2022年参院選では、党首討論会の事実言明リスト・文字おこしを作成したり、疑義言説モニタリングを通常より強化したりして、ファクトチェックに対する支援策を行った。

    (2)新型コロナワクチンの偽情報・誤情報
    新型コロナワクチンに関してどのような情報がSNS上で広く拡散したのかを調べてみた。2020年11月末からの1年間、「ワクチン」ということばでヒットしたSNSの拡散状況を分析した。分析にはBuzz Sumoというツールを使った。
    SNSで大量に拡散したコンテンツのうち上位15位までが動画(YouTube)だった。新型コロナワクチンの有害性を主張する内容が多く、フェイスブックで大量に拡散しているのが特徴だ。一方、新型コロナについてのファクトチェック関連記事の上位20をみるとBuzz Feed発のファクトチェック記事が多かった。

    質疑応答

    • ファクトチェック記事作成にどのくらいかかるのか。
      →選挙の時に私のゼミで学生が取り組んだ事例では、1週間から10日。ゼミが週1回で他の授業もあり時間がかかる。日本ファクトチェックセンターなどを見ていると、記事を公開するまでのスピードはかなり早い印象だ。専門メディアなら1日で出せるかもしれない。
    • 1案件についてチェックする人は何人か。
      →組織によると思う。新聞社では記者が1,2人で担当し、その原稿をデスクがみているはずだ。選挙のとき、私のゼミでは10数人の学生を与党、野党、メディア、SNSという対象ごとに4つの班に分けて担当してもらった。一つの言説を学生1,2名で検証し、それを先輩の学生がデスクとして完成させ、私が採取チェックをするという形をとった。
    • 発信元には知らせるか。
      →選挙の場合は、対象となる発言と関係する政党本部や官庁・自治体、メディアなどに連絡しコメントを得るようにした。対象がSNSの発信の場合は、記事ではアカウントを匿名にして言説だけをチェックするようにしている。その場合は知らせていない。
    • 隠ぺい体質だとファクトチェックは難しいのではないか。
      →日本でも、エビデンスベースの政策を求める声があがってきている。ジャーナリズムの世界でも、オープンソースのデータを活用しながら真相をつきとめる新しい報道の動きがでてきていて、だんだん広がっている。役所には、データとして扱いにくいPDFでなくデジタルデータで出してほしいが、基本的に広く公開しない方針があるのかもしれない。今後、オープンデータの流れが進むことを期待したい。
    • AIは利用しないのか。
      →AI利用のファクトチェックの可能性に注目している。今国内外で行われているファクトチェックのデータを蓄積して「ファクトチェックデータベース」をつくり、機械学習で訓練すると、AIが短時間でファクトチェック結果を出すことも可能になるのではないか。食品関係、バイオ関係でもファクトチェックを進めたい。今日の参加者のみなさんを始め、関係者のみなさん、サポートをお願いします。
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