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  • コンシューマーズカフェ「食品表示の見直し状況 2023年4月施行~遺伝子組換え食品表示制度の改定で何がどう変わる?」

    2023年1月24日、第38回コンシューマーズカフェを開きました。4月から改正される遺伝子組換え食品の表示を中心に、遺伝子組換え食品全般について、フーコム代表 森田満樹さんに、「食品表示の見直し状況 2023年4月施行~遺伝子組換え食品表示制度の改定で何がどう変わる?」というタイトルでお話しいただきました。今回は、2022年秋、森田さんと一緒に3つの生協で、遺伝子組換え食品の勉強会をしたことを踏まえてお話しいただきました。

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    森田満樹さん

    主なお話の内容

    0.はじめに

    2023年4月、遺伝子組換え食品表示制度の改正が完全施行される。これまで「遺伝子組換えでない」という任意表示は、遺伝子組換えに由来するタンパク質・DNAが5%以内であれば表示できたが、その点が厳しくなり、今後は不検出でなければ「遺伝子組換えでない」と表示できなくなる。
    2022年秋、3つの生協との「遺伝子組換え食品とその表示について」の勉強会を通して、遺伝子組換え食品に関する情報提供は、安全性評価とセットにせず、表示だけを取り上げてもなかなかご理解いただけないことを痛感した。「でない」表示が減ることに不安を感じている消費者に、どのように全体像を伝えるとよいのか。この課題は無添加表示ガイドラインにも共通しているように感じた。

    1. 遺伝子組換え食品とは

    遺伝子組換え食品の定義では、他の生物から取り出した遺伝子を導入したもの。1990年代頃から開発が広がり、1996年から大豆、トウモロコシが輸入されている。国内の商業栽培は観賞用花のみ。
    主には、除草剤耐性・害虫抵抗性の大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタが承認・輸入され、食用油、液糖などとして大量に利用されている。令和元年、世界では29か国が遺伝子組み換え作物を栽培している。日本は遺伝子組換え作物の輸入大国である。
    遺伝子組換え食品は3つの法律(カルタヘナ法・食品衛生法・飼料安全法)に基づいて、文部科学省、厚労省、農水省、食品安全委員会によって安全性が確保されている。環境影響は食品、飼料、観賞用花、すべてで行われる。

    2.食品としての安全性

    2003年、食品安全基本法が作られ、食品安全委員会が設立された。遺伝子組換え食品の安全性は同委員会の専門調査会で安全性評価が行われ、厚生労働省によってリスク管理が行われる。
    食品添加物なら動物実験からADI等を求めるが、遺伝子組換え食品はタンパク質で分解されてしまうので、同じように考えるわけにいかない。そこで、「実質同等性」の考え方が採用された。実質同等性とは、もとの作物、導入遺伝子の情報、できた作物・食品の安全性の観点で審査するもの。有用物質を増やした場合はそれだけが増えて他の物質に変化はないかを調べる。「動物実験はしていなくていいのか」「動物実験で人への安全性がわかるのか」という質問は後を絶たないが、安全性評価のアプローチが異なる。
    2022年9月時点で、9作物331品種が承認されている。検疫所などでも未承認の遺伝子組換え食品が輸入されていないか調べられており、見つかった場合は違反となり国内の流通は認められない。
    2015年のバイテク情報普及会が実施したアンケートをみると、遺伝子組換え食品は7-8割の人がネガティブなイメージを持っており、年齢が高いほどその割合は高い。

    3.遺伝子組換え食品の表示制度の経緯(従来の表示)

    日本における食品表示の義務表示は、食品表示法で規定されている。
    同法はこれまでJAS法、食品衛生法など3つの法律が一元化された新しい法律で、2015年4月に施行された。消費者庁が所管しており、消費者視点により情報開示の方向が進み、一括表示の文字数は増加傾向にある。食品表示法がつくられたときに積み残しとされた様々な見直しが順に進められ、2022年4月から新原料原産地表示が完全適用。2023年4月には新遺伝子組換え表示が完全施行となっている。
    それ以前の遺伝子組換え食品表示は2001年にスタートしたもので、

    • 遺伝子組換え農作物やその加工食品は「遺伝子組換え」と表示する(義務)
    • 輸入大豆など流通過程で遺伝子組換えを分別してないときは「遺伝子組換え不分別」と表示する(義務)。
    • 従来ものと同じ組成で、栄養価が著しく異なるときには表示する(義務)。
    • 意図せざる混入は5%まで「遺伝子組換えでない」と表示できる(任意)。

    となっている。
    今般の改正は、義務表示のルールは変わらず、任意表示の「遺伝子組換えでない」のルールが厳格化されたものである。

    4.消費者庁による改正

    2017年4月より、遺伝子組換え食品表示の見直しのための検討会が開かれた。消費者からは義務表示の品目の拡大を求める意見があったが、学識経験者は科学的根拠に基づく検討を求めていた。検討の結果、義務表示の「遺伝子組換え原料使用・不分別表示」の対象になる品目はそのままで、油などへの対象品目の拡大とはならなかった。
    改正は任意表示の「遺伝子組換えでない」についてで、意図せざる混入率5%以下を不検出と厳格化された。その結果、不検出の時のみ「遺伝子組換えでない」と書ける。食品産業センターが輸入原料を調査したところ、大豆は0.3から0.1%の意図しない混入があることがあるが、トウモロコシは4%くらい入っていることもあった。そして、これまで5%以下で「遺伝子組換えでない」と書いていた事業者は、その旨を任意表示として「分別生産流通管理済」などと書いてもいいことになった。
    2019年に法律改正が決まったときに消費者庁は、東京、大阪で説明会を開催しパンフレットを作成して説明を行った。この際、「分別生産流通管理済み」以外にも「IP管理済み」という表示方法や、一括表示枠外の表示方法も示した。詳細はQ&Aで解説されている。
    現在、店頭ではすでに表示を改定している商品もみられるが、「IP管理済」は見かけない。「遺伝子組換えでない」と表示するために、分析は必須ではないが、保健所が調べた時に、遺伝子組換えタンパクやDNAが確認されて適切な管理が行われていないことがわかれば、「不適切な表示」になってしまう。
    これは豆腐の製造者などにとっては、厳しい状況である。国産大豆を使っていても、工場のラインで輸入大豆を使っていたら混ざってしまう恐れもあるし、国産大豆が国内で流通する工程でも輸入大豆と混ざる可能性もある。このため「遺伝子組換えでない」とは表示できず「分別生産流通管理」と書くことに決めた話も聞いている。判断は分析だけでなく、書類管理も含まれる。これらのことが「遺伝子組換え表示に関するQ&A」にかなりのページ数をさいて掲載されている。
    消費者庁は「遺伝子組換え農産物の混入がないことの確認方法」としてリアルタイムPCR法を公定法として公表している。これは標準試料を用いる定性検査である。国立医薬品食品衛生研究所等が開発した「ΔΔ(デルタデルタ)Cq法」が採用されている。標準試料より多いかどうかを、PCRで増えていく速度でみる、厳格でシンプルな手法で、陽性か陰性かで判断できる。分析機関のばらつきがなく、判断できる手法である。
    国産有機大豆を使っていても、工場内で不分別の大豆を扱っている場合、コンタミの可能性を否定できないことから「分部生産流通管理済み」と書く方が「不適切な表示」にならなくなる。
    一方、今回の見直しを契機に「遺伝子組換えでない」表示をやめた企業もある。もともとは「遺伝子組換えでない」は任意表示であり、書かなくてもよかったが、各業界で横並びで書いてきた経緯もある。味噌やじゃがいものスナックで「遺伝子組換えでない」表示をやめた例を見るところである。

    5.東京都条例

    東京都は条例で、遺伝子組換え表示についてマークをつくり、「組換え」「非組換え」「不分別」の3分類が一目でわかるようにしており、「非組換え」のものしか見たことはない。冷凍食品の一部、きなこで見かけるくらいで、ほとんど見かけない。
    今回の改訂で分別生産流通管理が入って4つの分類のマークに改訂した。こういうマークを自分たちの生協でもつくってほしいという声も今回聞いた。生協では分別生産流通管理済の表示を続けるところが多く、カタログなどを使って情報発信をしている。 

    質疑応答

    • 東京都のような4分類のマークをしてほしいという意見を聴いたときにどう答えるか。
      →このマークは東京都でもほとんど普及していない。マークの声もきくが、一方では実際には分別生産流通管理が始まっていることに気づいていない人も多い。 「でない表示がなくなった」という意見に対して、これまで気づいていなかった人も気づく場面もあった。表示が変わってもなかみはかわっておらず、今まで通り安全に管理されているという情報が伝わりにくいと思った。
    • 生協関係者だが、本件の問い合わせは限定的。不分別の時は、その意味の問い合わせがあったが、分別生産流通管理済みへのクレームはない。表示制度のわかりにくさ、難しすぎることが問題ではないか。5%から不検出の区分が加わってさらに複雑になってしまった。この制度になった経緯の説明が必要だと思う。安全性のついての話の理解が進むことが大前提。任意なので表示なしでいいはずなのに、組換えでない表示が重宝されるのは義務表示への認識が低く、「使っていない」表示の方を義務だと思っている人が多い。日生協はいろいろな流通と相談の上、「分別生産流通管理済み」と一括表示に書き、枠外に分別流通管理済みの説明表示をすることにした。
    • どんな表示がいいと思うか。
      →たとえばある流通事業者のPB商品の納豆では、欄外に「遺伝子組み換えと分けて管理しています」と書いている。一括表示で「分別生産流通管理済」だと、意味がわかりにくいとは思う。
    • 将来的に、遺伝子組換え食品の安全性や義務表示への理解が深まることが大事だと思う。
    • 遺伝子組換えの安全性は確認されているなら、そもそもなぜ表示するのかという質問があったそうだが。
      →日本では、遺伝子組換え食品が輸入された後に、表示制度や安全性審査のルールが明確になったという歴史があり、これがボタンの掛け違いと言われている。これに対して、ゲノム編集ではルールが先に決められてから流通したことも説明した。
    • 生協では遺伝子組換え表示が決まった時に、表示がないと選べないという声が多く、義務表示対象外の食品への情報を求められた。それでルールとして、「使用」「不使用」「不分別」のどれかを表示することになった経緯がある。1500アイテムのくらいの「ない」表示があり、今回の対応は大変だった。
    • 「ない」表示をみたために、遺伝子組換えや食品添加物にネガティブなナ印象をもつようになった人がいるというデータがある。自分自身もそう感じている。
    • 一般の人は「ない」表示をみかけなくなることで、遺伝子組換えを特別視しなくなっていくのではないだろうか。今の消費者の本当の関心事は値上げだと思う。
    • 消費者庁は、遺伝子組換えの表示改訂に関しては、2019年のパンフレット作成と東京、大阪の説明会のみ、それ以降、情報発信がないのは残念。 (後日、消費者庁の担当者よりパンフレットは改訂する予定というコメントをいただきました)
    • 都のマークが変わった経緯について教えてほしい。
      →このことはほとんど報道されていない。このマークができた2000年、石原都政は国政の先を行く姿勢で、冷凍食品の条例もつくっている。東京都のプレゼンスをあげるねらいもあったようだ。あまり活用されていない表示だが、一度できた条例の廃止は難しい。今回は国の制度とずれができるので、マークの形を変えて対応したものである。
    • ない表示が減って不安になる人がいるが、ない表示を見ることが減れば、不安を持つ人は減ると思う。一方、ラジカルな人は増えているように感じる。
    • 幼児を持つ子育て層は危険に敏感。関心が高い間は生協に意見を言うが、子供が育つと値段に関心はうつる。同じ人でも、関心、考えが変化するはずで、生協に消費者意識調査をして頂きたい。
    • 組換え表示の改訂では、生協からどんな情報発信をしているか。
      →学習会をしたり、WEBサイトで説明したり、パンフレットを作成したりしている。安全性や表示義務のしくみの説明を入れている(生協関係者の発言)。
      →組合員への告知では、どのように表示を変えるかについて役員で検討し、ZOOM説明会を開催。2月の広報誌で説明する予定。変更点について記載した冊子を作成し、3月第1週の紙面で告知する。内容は、変更の中身、食品表示法の変更について組合員がわかるようにしたい(生協関係者の発言)。
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