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  • パネルディスカッション「“審査のポイント”を各委員の立場から考える」

    2023年1月23日、31日、順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床研究・治験センター主催研修会「治験・倫理審査委員会委員研修~研究倫理と倫理審査の基礎を見直そう~」が開かれました。本研修会は、厚生労働省 臨床研究総合促進事業「臨床研究・治験従事者等に対する研修プログラム」の一環として行われ、全国から約80名の倫理審査委員会委員、事務局関係者らが参加しました。
    開会にあたり同医院臨床研究・治験センター副センター長 奥澤淳司氏より、現場の関係者の課題解決に貢献できる研修にしたいというお話がありました。第1日目の演習パネルディスカッション「“審査のポイント”を各委員の立場から考える」に参加しました。治験・倫理審査委員会のことはあまり知られていないと思いますが、患者さんのご協力を得て臨床研究を行うときには、色々な立場の人が一生懸命に考え、話し合っていることを知っていただけたらと考え、ご報告します。

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    「“審査のポイント”を各委員の立場から考える」

    座長 奥澤 淳司氏(順天堂医院)の司会のもと、4名のパネリストは自分が審査に関わるときのポイントを紹介しました。

    1.パネリストの自己紹介

    法律・倫理の専門家 岡部 真勝氏(岡部真勝法律事務所)
    弁護士として医療機関の訴訟に関わる仕事をしており、倫理審査委員会には人文社会系の外部委員として参加している。
    審査では、説明文書・同意文書に不当な誘因や誤解がないか、有害事象の説明がわかりやすく書かれているか、同意能力を欠く被験者(研究協力者)への配慮ができているかに、気を付けている。個人情報が法的に適切に扱われているかも、よくみるようにしている。

    医学・医療の専門家 真田 昌爾 氏(神戸大学医学部附属病院)
    臨床研究計画は、専門的診療領域、科学的側面、一般的臨床診療、臨床薬理学、法律や倫理の視点から、それぞれの専門家が検討し、計画の品質が向上していく。
    医師・研究者の立場から、仮説論理に飛躍はないか、実現可能か、危険はないかに注意しながら、計画がしっかりできているかを読み解いている。計画がしっかり作りこまれることは、研究が実現し結論がきちんと得られる観点から、捏造・改ざん防止と共に重要だと思う。

    医学・医療の専門家 渡邉 純一郎 氏(順天堂医院)
    申請する立場と審査する立場の両方から、今日のパネルディスカッションに参加している。早く患者さんを救いたい研究者が熱心さのあまりemotionalにならないようにブレーキをかけることも重要と考えている。説明文書・同意文書では、専門用語の多用、医師が使ってしまいやすいNGワードを中心に、患者さんにわかりやすく、敬意を感じさせる文書になっているかに気を配っている。
    新規性にとらわれすぎていないか、実行可能性はどうか、専門外の委員もイメージしやすい文章になっているかを、計画書を読みながら考えるようにしている。

    一般の立場の者 佐々 義子(くらしとバイオプラザ21)
    倫理審査委員会では、研究協力者・ご家族だけでなく、研究者、医療従事者、事務局の安全と安心が大切だと考えている。患者さんの不安や負担をどれだけ具体的に想像したうえで、研究計画や説明文書・同意文書ができているかを注意して読む。関係者の間に信頼関係が築かれていくことで、透明性は得られるものだと思う。

    2.パネルディスカッション

    「倫理性」「科学性」「信頼性」について、事務局が事前に全参加者に対して行ったアンケート結果を参考にしながら、全員で話し合いました。

    (1)「倫理性」
    パネリストが話し合った主な内容は以下の通りです。

    • 委員会では、まず、説明文書・同意文書が、読む人にとって本当にわかりやすいかを十分に検討しなくてはならない。
    • 視覚に障害のある方にも、頭にすっと入ってくるくらい、順序も考えて丁寧に説明文を作成されているか。
    • 海外の書式を和訳したときには日本人の受け止め方にも配慮が必要。
    • 前提として、標準治療はどのようなものかが、研究協力者に理解されるようにしておく必要がある。
    • 研究計画は安全第一でなくてはならず、早く治したいと思うあまり、医師や研究者が威圧的にならないような細心の注意が必要。

    研究協力者によく理解して、納得して協力していただくためには、研究協力者の自由意思や人権を深く尊重する態度が求められます。また、「研究協力者が自分の家族だったら」と想像しながら審査する、「Humanityの共有」を礎としていくという、医学の専門家からの発言が印象的でした。

    (2)「科学性」
    「科学性」とは研究が研究協力者を保護しつつ、意義ある結果を導き出せるかどうかを、専門家が中心になって議論するものです。パネリストの議論は以下の通りです。

    • 標準治療がない試験の審査は特に慎重に行われなくてはならない。
    • 申請者は、生物統計の専門家の意見にも耳を傾け、研究の目的を見据えて、最小のリスクで答えが得られるように、しっかりとデザインしてもらいたい。

    筆者も一般の立場で倫理審査委員会に参加していますが、科学的な妥当性が専門家によって議論される場面に遭遇することがあります。専門的な説明を専門家の委員から教えて頂くこともあります。開かれた議論はこうして、様々な委員が共につくっていくものであると感じています。

    (3)「信頼性」
    パネルディスカッションでは、信頼性については利益相反を中心に話し合いました。
    パネルディスカッションの議論は以下のとおりでした。

    • 多額の研究助成を特定の企業から受けている研究者が研究代表者になるのは避けたほうがいい。
    • 海外ではCOI(利益相反)は多く公開されている。正当な開示は論文と共に評価されるもの。
    • 第三者によってCOIが管理されるとよいのではないか。

    倫理審査委員会と申請者が対立関係になることは全関係者にとって不幸なことです。倫理審査委員会とは、正解のない問題に対して考え続ける取り組みであり、透明性をもって研究行為を高めていきましょうと、意識を共有してパネルディスカッションは終わりました。

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