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  • 大人のバイオカフェ「しょうゆのサイエンス~しょうゆとその機能性について」

    2023年1月23日、多摩六都科学館で大人のバイオカフェを開きました。
    お話はキッコーマン(株)研究開発本部 環境・安全分析センター長 内田理一郎さんによる「しょうゆのサイエンス~しょうゆとその機能性について」でした。久々の体験をとりいれた「大人のバイオカフェ」、始まる前から部屋はおいしそうなにおいでいっぱいになりました。

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    内田理一郎さん(写真提供 多摩六都科学館)

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    会場風景

    お話の概要

    はじめに

    食べることは栄養とエネルギーの摂取だけでなく、楽しみ、心豊かな暮らしに寄与するものとして、厚労省「第3次食育基本計画」序文や、厚労省「健康日本21」でもとり上げられている。その中で調味料は食事をおいしくする重要な役目を担っている。

    しょうゆの歴史

    しょうゆのルーツは醤(ひしお、じゃん)。「周礼(しゅらい)」(紀元前11世紀)と、「論語」(紀元前6世紀)に記載がある。
    醤には、動物を原料にするものと、植物を原料にするものがあり、周礼に書かれているのは肉醤・魚醤で、動物由来が先に作られた。動物由来には、日本のしょっつる、ベトナムやタイの魚醤醤などが、植物由来には日本のしょうゆ、味噌、韓国のキムチなどがある。
    日本には、縄文末・大和時代に唐醤(からびしお)や高麗醤(こまびしお)が伝来。鎌倉時代に覚心(かくしん)という僧侶が金山寺味噌の製法を中国から持ち帰り、味噌樽の底にたまったのがしょうゆの始まり。室町時代の文献には「醤油」が登場。江戸時代に入ると上方で工業生産が始まり、中期以降は関東(常陸、上総、下総)でも醤油づくりが盛んになった。江戸時代末期からは欧州へ「コンプラ瓶」という陶磁器に入れた醤油が輸出されるようになり、これは明治・大正も続く。
    現在(2018)、日本では76万キロリットルが生産され、日本企業による海外生産量は27万キロリットルとされている。和食文化の世界への広がりも影響している。

    産地

    現在、千葉県(野田・銚子)、兵庫県(龍野)、群馬県で日本の5割を生産している。
    江戸時代中頃の野田は利根川と江戸川にはさまれていて、常陸のダイズ、行徳の塩、下総の小麦が入手しやすく、1661年からしょうゆづくりがはじまった。当時は江戸川を使って、朝、出荷すると昼には日本橋に届けられた。1800年当時の江戸の人口は世界4位(70万人)、世界でも大都市だった。

    醸造法

    しょうゆ1リットルの原料は、大豆230g、小麦230g、食塩160g(海水なら5リットル)。
    蒸した大豆と炒って砕いた小麦に麹菌を生やし、こうじを作る(製麹:せいきく)。これに食塩水をまぜる(仕込み)。この後、乳酸菌と酵母を添加し、発酵が進み、色が濃くなっていく。これをしぼり、火入れ、瓶詰すると、しょうゆになる。20世紀初頭まで、すべては手作業だったが、今は原料処理から瓶詰まですべて機械化されている。
    工程において微生物がつくる酵素の働きを見ると、大豆や脱脂大豆のタンパク質はプロテアーゼ、ペプチターゼでアミノ酸に、デンプンはアミラーゼ、グリルコアミラーゼでグルコース(ブドウ糖)に分解される。
    乳酸菌の働きでしょうゆは弱酸性になる。人が美味しく感じるpHは4~5なので、醤油をかけるとおいしく感じる。例えば納豆はpH7.4が醤油をかけると、pH6.5となっておいしくなる。グルコースは酵母の添加によって発酵しアルコールになり、香り成分が生まれる。
    アミノ酸とブドウ糖を加熱するとアミノカルボニル(メイラード)反応が起こり、メラノイジンができて色づき、香りが立つ。

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    醤油の原料は塩、ダイズ、コムギ

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    もろみは日数が経つと色が濃くなる(向かって左から右へ)。
    しぼると板状のカスとしょうゆ油、しょうゆが得られる。

    しょうゆの分類(JAS:日本農林規格より)

    しょうゆのバラエティーは材料や醸造期間によっている。
    「濃口しょうゆ」大豆:小麦=1:1。全国出荷量83.5%をしめる。
    「淡口しょうゆ(うすくち)」大豆:小麦=1:1。塩分が高く(18%)、メイラード反応が起きにくく色が淡い。食材の色を活かしたいときに適している。薄口と書かないのは減塩と間違えられないため。
    「たまりしょうゆ」大豆がほとんどでコムギは少量。醸造期間が長い(6-12か月)。
    「再仕込みしょうゆ」大豆:小麦=2:2。麹に食塩水の代わりに生揚げ(きあげ 火入れしない)しょうゆを使って仕込む。それで大豆と小麦は濃口しょうゆの2倍使ったことになる。
    「白しょうゆ」コムギがほとんどで甘味が強く、淡い色をしている。

    関東は濃口で、関西は淡口なのはなぜか。関東は活火山が多く硬水で、当時多く食べられていた川魚等の臭みをとるために濃口に多く含まれるメラノイジンが役立っていた。関西は軟水で出汁を昆布でとるので淡口しょうゆがあっていた。
    江戸幕府が開かれたころ、関東は湿原で幕府は土木事業で河川を改修し耕作に適した土地に変えていき、水運も発達した。このため、淡水に棲む川魚(うなぎや、なまず、どじょうなど)をよく食べ、生臭さを消す濃口しょうゆはますます普及したと考えられる。そば、てんぷら、蒲焼などの江戸料理には濃口しょうゆが使われている。
    では、九州の醤油が甘いのはなぜか。暑い地方だから甘いものがほしい。江戸時代は長崎の出島を通じて砂糖が入り、サトウキビ栽培が盛んになった。砂糖は高価で、甘い食品は高級の印だったので、醤油の塩辛さを和らげるために砂糖を入れ、料理の味を調えた。

    機能性

    食品には、一次機能(栄養、エネルギー)、二次機能(おいしさ、楽しさ)、三次機能(病気予防、健康回復などの生体機能調節)がある。醤油にはたくさんの機能がある。

    • 消臭効果 メラノイジンが生臭みを消す。
    • pH調整 乳酸が1ml当たり10㎎も含まれている。
    • 殺菌や静菌効果 塩分、アルコール、有機酸で菌の増殖を抑える。江戸寿司の「づけ」はしょうゆの静菌効果を利用している。大腸菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌、コレラ菌を48時間後に殺菌できたという研究報告もある。
    • 加熱効果 アミノ酸と糖が加熱されるとメラノイジンをつくり、焼き色と香りで美味しさが増す。
    • 緩衝効果 pHを酸性に傾け、おいしさを感じる弱酸性に保つ。
    • 対比効果 スイカに塩をかけると甘味ますように、アイスクリームにしょうゆをかけると 甘味が強まる。
    • 相乗効果 グルタミン酸(しょうゆ)とイノシン酸(昆布だし、かつおだしなど核酸が含まれるだし)を併せると旨みがます。例)そばつゆ、天つゆ
    • 減塩作用 食塩の代わりにしょうゆを使うと少ない食塩摂取量でおいしく感じる。
      食塩摂取が多い日本人は、血圧が高いといわれている。
      醤油の文化がないオランダで試験をしたところ、食塩を醤油に置き換えたトマトクリームスープ・ドレッシング・ポークステアフライで、減塩しているのに、味の強さやおいしさは変わらないことがわかった。その後、日本、シンガポールで食塩の代わりに醤油を用いたときの食塩低減率を調べたら、平均して34%の減塩ができた。
    • 三次機能 胃液分泌作用、発がん抑制効果などがしょうゆにあるとわかってきている。

    QOL(Quality Of Life)向上のために開発された製品

    (1)血圧高め
    高血圧の人、予備軍の人をあわせると20歳以上の人口の約半分。国民の平均血圧が2mmHg低下することにより、循環器疾患全体では2万人の死亡を予防できる。
    アンジオテンシンⅠがアンジオテンシン変換酵素(ACE)でアンジオテンシンⅡになると血圧が上昇する。アンジオテンシン変換酵素の働きを抑えるペプチドを含む調味料を作れないか。大豆発酵調味液はACE阻害活性がしょうゆより高く、どの成分が有効であるかもわかった。臨床試験を行い、「大豆ペプチドしょうゆ」を開発し、販売している。
    (2)大豆と小麦アレルギーの人のための醤油しょうゆ
    大豆と小麦でアレルギーを起こす人のために、エンドウ豆で醸造したしょうゆを開発。
    (3)慢性腎臓病患者用
    患者さんは食塩を減らす指導を受ける。患者さんは、日本人の平均摂取量10gを6g以下にすることを求められる。塩分だけでなく、カリウムやリンも減らした「だしわりしょうゆ」をつくった。薄い味でもおいしく感じられる。 

    質疑応答(○は参加者、→はスピーカー)

    • 醤油づくりに使われる大豆や小麦の量は結構多くて、原料代だけでだいぶかかるように思う。その割には、今、店頭で手に入るしょうゆは格安に思える。
      →江戸時代のしょうゆの値段を現代の価格に置き換えると1ℓ1500円以上と言われている。機械化した製法の開発により、お求めやすい値段で製造できるようになっている。
    • 醸造期間が長いとおいしくなるのか。
      →こくが出て、メラノイジンが増えて色が濃くなり、料理との色合いがよくなる。しょうゆには地域、個人の嗜好があるので、ご自分にとっておいしいしょうゆをみつけてください。キッコーマンでは醸造期間は長くて1年。日本国内では3年のものもある。
    • しょうゆを作っている。製麹のときに光をあてているか。光のあて過ぎで菌は弱るか(中学生から)。
      →野田のものしり館を尋ねてみてください
    • ダイズを選ぶ基準は
      →タンパク質の含有量が多い品種を選んでいる。
    • 開栓したしょうゆの保存期間はおおよそどのくらいと考えればいいですか?
      →「キッコーマン いつでも新鮮 シリーズ」は、開栓前も開栓後も常温保存が可能。しょうゆが空気に触れない二重構造ボトルなので開栓後も常温で保存することができる。やわらか密封ボトルは90日間、密封ecoボトル(材質:PET)は120日間を目安に新鮮な風味を味わえる。鮮度が保たれる期間を過ぎると、徐々に風味が損なわれる。できるだけ早めにお使いください。
      一般的なペットボトルやガラス瓶に入ったしょうゆは、開栓前は常温保存が可能。開栓後は冷蔵庫で保存を薦めている。開栓後は中に入ったしょうゆが空気に触れと酸化して劣化が進む。ペットボトルや瓶入りの商品は冷蔵庫で保存し、1カ月程度でお使いください。 容器に書かれた保存方法をご確認ください。
    • 保存期間を過ぎたものは水分から腐っていくという現象が起こるのでしょうか?それとも、別の変化が起こるのでしょうか?
      →通常は賞味期限を過ぎてもすぐに腐敗は起こらない。時間経過とともに風味は劣化(酸化など)していく。賞味期限内にご使用ください。しょうゆは保存食品で、賞味期限を過ぎても、お体にさわることはないが、本来のおいしさを味わっていただけなくなる。

    「きき味」体験

    オンラインの大人のバイオカフェを閉会後、会場では体験(きき味)を行いました。

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    もろみの香り体験

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    濃口しょうゆ・生しょうゆ・昆布しょうゆ・牡蠣しょうゆのきき味

    (1)もろみとしょうゆ粕の官能評価体験
    仕込んでから、1か月、3か月、6か月の「もろみ」の色と香りを官能評価体験しました。色は濃くなり、香りも深く強くなっていました。「しぼり粕」もしょうゆの香りがしました。「しょうゆ油」は赤みがかり、しょうゆの香りがありましたが、しょうゆを作る際の燃料にして使い、食品としては出回っていないということでした。
    (2)濃口しょうゆと生しょうゆの比較
    生しょうゆ(火入れしていない)は色が澄んだ鮮やかな赤色をしており、おだやかな香りをしていて、火入れしょうゆ(火入れしている/加熱殺菌)は色はが濃く、香りが強く感じました。味も異なりますが、両方ともコクがあっておいしかったです。
    (3)昆布しょうゆと牡蛎しょうゆの比較
    昆布しょうゆは昆布のまろやかな旨みがあり、牡蠣しょうゆは牡蠣の風味・旨みが強く濃厚な味わいがありました。

    参考サイト

    キッコーマンホームページ

    しょうゆ情報センター

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