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  • TTCバイオカフェ「血液でわかる、今の私、明日の私」

    2022年11月18日、TTC(東京テクニカルカレッジ)バイオカフェをオンラインで開きました。お話は、フォーネスライフ(株)営業本部 シニアマネージャー 藤沼俊則さんによる「血液からわかる、今のあなた、明日のあなた?!」でした。将来かかりそうな病気を予測してできるだけ予防しよう、というと、DNA検査を思い出す方が多いと思いますが、今日のお話は血液の検査です。

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    募集ポスター

    お話の主な内容

    はじめに

    乳がんの予後の方針を決める時に、患者さんの遺伝子検査を利用するという話を2010年のバイオカフェでさせてもらった。そのときに調べたのは遺伝子だが、今日、お話するのはタンパク質。
    10年前の私は若くて少しやせていたかもしれないが、ゲノムは今の私と同じ。これは表現型の違いで、ゲノムでは見ることが出来ない。
    生命の設計図であるDNAからmRNAが写し取られ、タンパク質ができる。DNAの特徴を調べると、病気のなりやすさ、その人にあった薬を知ることができる。これに対して、RNAやタンパク質は、乳がんの治療に助言したり、腫瘍マーカーとしてがんの早期に発見したりするのに使える。

    タンパク質の特徴

    ディオンヌ家の一卵性五つ子の報告がある。彼らは成長し、同じ遺伝子をもっているわけだが、ひとりは67歳でがん、ひとりは20歳でてんかん、ひとりは35歳で脳梗塞、あとふたりは存命。環境要因が影響していることが示されている。
    平常時と病気の時では、タンパク質の構成が変わる。病気の原因は、遺伝子要因が30%、環境要因が70%といわれ、タンパクを調べると病気のことがわかる。遺伝情報を調べるのには抵抗がある人も、変化していくタンパク質ならハードルが低いかもしれない。
    今日、紹介する検査方法では、タンパク質の変化に着目してタンパク質のビッグデータを利用する。スライドグラスに7,000種ほどのアプタマー(タンパク質に特異的にくっつく核酸)をスポットした基盤を使うと、一度に病気に関係する7,000種類のタンパク質を調べられる。たとえば、心疾患患者では、9種類のタンパク質を使って調べる。

    タンパク質の分析

    アプタマーとは特定のタンパク質に結合するDNAのこと。30年前にアプタマーの結合の仕方から、結合したものを調べる「アプタアー選別法」が開発された。自分はアメリカにいるときにこの技術に接し、これはすごい!と思った。
    アプタマーは特定のタンパク質に結び付くので、それを利用して、加齢黄斑治療薬などの医薬品の開発も行われている。
    約7,000種のアプタマーを付着させた基盤で、たくさんのタンパク質について同時に調べられる。現在では自動化が進み、効率よくアプタマーを見つけられる。それにはセレックス法の開発が大きい。セレックス法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)とは特定の分子に強く結合するDNA(アプタマー)を見つける方法。PCRは特定のDNA断片を増やす技術だが、セレックス法は特定のDNAを増やしてアプタマーに結合する特定のタンパク質をさがす。抗体(タンパク質)を使っても目的のタンパク質を見つけられるが、アプタマーのほうが人工的に合成出来て、抗体より物質として安定しているので使いやすい。
    20年前に開発されているマイクロアレイでは、現在は基盤に数万種類のDNAのスポットが可能。技術的には3万のアプタマーと相補鎖のDNAをスポット出来る。SomaScanプラットフォームは、アプタマーとマイクロアレイを組み合わせた技術で、130マイクロリットルの血漿中のタンパク質から特異的に結合したタンパク質をはかることが出来る。質量分析器は、アルブミンを除去する処理を行うが、それが不要になる。

    疾病予測

    いろいろな病気の人のサンプルを用い7000種のアプタマーを使って分析する。実際にはビックデータからAIも使いタンパク質、臨床データから分析を行う。
    1回の採血で、認知症は20年以内、肺がんは5年、脳卒中・心不全・心筋梗塞・脳梗塞は4年以内に発症するリスクを予測する。生活習慣病リスク、耐糖能について現在の自分の評価ができる。

    認知症

    65歳以上の人が2025年には30%になる。医療費増大。生産活動のできる人口の割合が減る。75歳まで働けるようになるといい。介護の負担の大きさの1位は19%で認知症。認知症患者の介護者の心身の負担は大きい。健康寿命をのばしたいのと同時に介護の負担を減らしたいと私たちは思っている。
    当社では、2022年10月26日、少量の血液中のタンパク質から認知症発症リスクを予測するサービスのプレスリリースを行った。
    認知症の20%はレビー小体認知症で、統合失調症やパーキンソン病と誤診され、あっていない投薬をされることもある。この検査をしておくと、誤診回避ができるかもしれない。
    25種類のタンパク質で認知症の20年以内の発症リスクをかなり高い精度(Area Under the Curve (AUC): 0.70)でお知らせできる。
    #参考:FDAが認証した遺伝子検査(23andme APOE ɛ4)AUC of 0.678
    開発にあたっては、20年間追跡しているコホートを探すのが大変だったそうだ。カプラン・マイヤー法(発症までの生存時間を分析する手法)を用い、発症するまでの生存曲線をもとに予測する。妊婦さんとエリトマトーデス(膠原病の一種)の患者さんには使えない。
    このほかに、心筋梗塞・脳卒中、心血管 脳血管も対象にしている。認知症のモデル開発は国立長寿医療研究センターの検体を用い評価データを基に予測する仕組みを開発した。

    まとめ

    当社は今後もガン領域を始め様々な疾患のリスクが提供できるよう研究開発を進めています。
    耐糖能は血液検査でも調べられるが、検査にかかる時間が長く何度も採血するが、この方法だと1回の採血でよい。
    肝臓脂肪は60種類、アルコールが体に及ぼす影響については100種類、心肺持久力・体力は52種類のタンパク質を基にして分析を行う。アルコールの体に及ぼす影響ではその人の腸内細菌も関係しているらしいことがわかってきた。
    大切なことは、例えば肺がんの場合、禁煙、食生活改善が有効なので、リスクを知り努力することで病気を未然に防げる可能性も出てくる。
    本検査は、あくまでも多くの患者さんの血液中のタンパク質のデータベースを基に疾病リスクを予測するもので、特定のタンパク質の変化がどのように病気と関係しているかまではわかっていないものが多く含まれる。体外診断薬の申請をしていない為、検査サービスは保険の対象にならない。このような病気の発症の仕方とタンパク質の変化の関係はおいおい解明されると思っている。その医学的な解明を待たずに未病につなげたいというのが、私たちの気持ちです。

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