サイエンスアゴラ2022ワークショップ「みんなでコロナと戦うために~学びあいと分かち合い」
2022年11月6日、サイエンスアゴラ2022でワークショップ「みんなでコロナと戦うために~学びあいと分かち合い」を開きました(於 テレコムセンター)。いろいろな立場からの3分スピーチの後、岡部信彦さん(神奈川市健康安全研究所 所長)の話題提供をいただき、みんなで話し合いをました。2019年以来の対面のサイエンスアゴラでした。
3分スピーチ
「コロナで奪われた大学生活」
東洋大学生命科学部大学院 小池芽生さん
授業がオンラインにちがって家で受講の集中力が落ちた。サークル活動も停止した。
研究は試薬などの不足で滞った。家族や友人がコロナになって行動が制限され、大学祭や交流の機会が減り、大学生活は残念なことが多かった。
「子どもを預かる立場から」
赤門小規模保育園 代表 久具山圭子さん
2020年初めは、必需品のマスクやアルコール調達に走り回っていた。感染者が出ると2週間休園になるので、何とかそうならないようにと過ごしていた。情報が氾濫する中、省庁の情報だけをみていた。親とのコミュニケーションをオンラインで始め、今ではオンライン会合も44回。振り返ると「ありがとう」の言葉に支えられたのは私たちだったと思う。
「人と人がつながっていることの大切さ」
東都生活協同組合商品部 部長補佐 吉澤正義さん
2020年4月に受注が140%になり、商品をセットしたり、輸送したりする物流器材が不足。日々、配送センター長たちと器材の確保に奔走した。配送担当へのマスクの確保も重大なミッションになったが、夏場はマスクによる熱中症にも苦労した。置き配できない方への手渡しには、感染防止のために細心の注意を払った。私たちは週に1回、組合員宅を訪ねるので、早く高齢者の異変に気づくこともあり、多くの感謝や励ましを頂いた。人と人がつながっていることは財産だと実感した。
「五里霧中でも前へ進むことの大切さ」
日本ハム(株)品質保証部 シニアマネージャー 宇都佳裕さん
職域接種を担当することになり、情報、場所、人員の整備に駆け回った。1000人の希望者がいないと実施できないことが初めてわかるなど、実施までは困難続きだった。そのような中、従業員の生命、生活を守るという目的のため、使える人脈をすべて使って突き進んだ。次の世代を担う方々へは、大変な局面、辛い局面においてこそ前へ進む気持ちを持つことを期待したい。
話題提供
「ウイルスが嫌うもの」川崎市健康安全研究所 所長 岡部信彦氏
ウイルスが嫌うのは人のやさしさ
感染症は人にうつるので、差別感を生みやすい。ウイルスはなかなか消えさらないが人から遠ざけるためにどうしたらいいか考えよう。
多くの人は新型インフルエンザにかかっても、軽症で回復する。早く罹った方がいいといって アメリカでインフルエンザパーティたるものが流行ったりした。しかし、ハイリスクの人にうつるかもしれない。免疫が弱い人もいる。みんなで防ぐことは弱い人を思いやることになる。
感染症
感染症は疫病、伝染病と呼ばれ、人から人、ものから人、動物・虫から人へうつる。感染症はうつる病気でひろがる可能性がある。正しく知っておかなければ、知らずにうつったり、うつらないのにうつると思いこんだりすることもある。
HIVも初めは、側にいるだけでうつるという風潮だった。それで哀しい思いをした患者さんもいるが、今はそばにいてもうつったりしないことが知られている。
人が動けば感染症も動く。そこで拡がる。
水際対策を緩和し入国制限を撤廃し、10月11日から全国旅行支援も始まった。人の移動を全部止める訳にもいかない。バランスをみていかなくてはならない。
感染症はかかった方がいいのか
罹った方が、抵抗力ができて丈夫になる。痛みの経験を通じて人は優しくなることもある。しかし、危険が潜むような感染症は防いだ方がいい。その武器はワクチンだ。ワクチンは自分を守るだけでなく他の人も守ることになる。例えば両親がワクチンをうっていると、その子どもがかかるリスクを70%下げられることがわかっている。多くの人がワクチンで防ぐことで、ワクチンを打てない人や身近な大切な人を守ることになる。
日本の感染症の歴史
ハンセン病は、今は感染力が極めて弱い病気ということが知られている。また治療もできるようになっている。感染がよくわからず、治療法もない明治40年「らい予防ニ関スル件」、昭和6年「らい予防法」で、ハンセン病の患者を強制的に終生隔離し、感染を絶つために子孫をのこせないようにするなどの政策が進められた。これは感染のメカニズムや治療ができるようになったにもかかわらず1998年まで続き、これらの患者への差別と偏見は大きな反省と教訓として、感染症法に記されている。私たちは適切な医療を確保し、予防をし、同時に人権を守らなければならない。
世界では、この30年間にいろいろな感染症が流行したが、日本はあまり感染症の被害を受けていない。被害が明らかなのは、新型インフルエンザ(2009年)、重症急性血小板減少症候群(SFTS)(2011年~)、そして、新型コロナウイルス感染症(2019年~)。
コロナの経過
2019年、中国武漢で新型コロナウイルス感染症が見つかった。アジアでの被害は大きくなかったが、有名人が亡くなったりして、緊張の感度があがった。感染拡大の波がくると、欧州と南北米アメリカが多かったがアジアはそんなでもなかった。最近はアジアも増えた。
現在、世界的に感染者数は増えても重症化や死亡は減ってきている。日本は感染者数が増えても死亡率も重症化率も低い。第8波は始まっているようだ。
注意をしながら重症者を出さないようにすること、軽症の人は他の人にうつさないようにすることができていると考えられる。致死率は陽性者数を分母にしたときに亡くなった方の人数を分子にする。日本は0.21%、世界は1.0%。ただし母数の取り方などは各国で統一されているわけではなく、最近は検査は一部にしか行わない国も増えてきている。
日本も初めの1年は1.5%だったが、2022年の前半は0.16%とかなり下がった。インフルエンザは0.06~0.08%と推測されるので、まだ気を許せない。ハイリスクの高齢者の多い日本の致死率が海外に比べて低いのは、高い医療と介護力とみんなの注意のお蔭と言えるだろう。もちろん改善をしなくてはいけない点も多々ある。
若年者が去年より今年は増えてきているが、重症化するのは、やはり高齢者が多い。
防止
医薬品にたよらない防止:三密を避ける、マスク、手指消毒。
医薬品による治療・予防:治療薬もワクチンも手に入るようになってきた。
日本の医療はいつでも、どこでも診てもらえて、保険証があれば全国、ほぼ同じレベルの治療が受けられる(海外は保険の種類で治療も変わる)。救急車は「救急である」と本人が思えば救急車を利用できる。しかも無料で。
これは海外にはない、とてもすばらしいことといえるが、一方では今回の様に感染者が増えると医療の負担は大きくなり「医療逼迫」という言葉が出てきた。
コロナとともに生きるには
もう少し致死率が下がってほしい。ひとりひとりの努力、気遣いで、通常の医療も維持できるようにしたい。ちょっとした注意を皆さんがしてくださり、やりすぎないことが大事だと思う。
グループディスカッション
4つのグループに分かれて、「嫌だったこと」「よいと思ったこと」「これから」について話し合いました。各テーブルでは院生・学部生がファシリテーターを担当し、話し合いの結果を発表しました。
(1)ファシリテーター 東洋大学大学院生命科学研究科 富澤政輝さん
イベントがなくなり、マスクは息苦しかったが、意識が向上してインフルエンザが抑えられたというよかったこともある。オンラインの充実も収穫だった。これからは衛生を強化し、元の生活にもどれるように折り合いをつけ努力を続けたい。そしていいワクチン、治療薬ができることを期待。
(質問)保育園では、保護者のワクチン接種、職員の健康管理、子どもとの接触でどのように気を付けていたか。
→ワクチン接種を奨励はしなかったが、「子どもを守りたい」という気持ちは一致していたので、うまく対応してこられたと思う(久具山さん 回答)
(2)ファシリテーター 立教大学理学部生命理学科 渡瀬桃子さん
嫌なこともあったが、人の温かさに気づいたり、オンラインでチャットによる質問がしやすくなったり、海外の人といつでもコミュニケーションできるようになった利点もある。
ワクチンの副反応で仕事を休んだりしなくていいワクチンが開発されるといい。持病でワクチンを打てない人、ワクチンに反対な人もいるので、ワクチンを打てる人が接種してそれを積極的に発信していけたらいいと思う。ワクチンで安心せずに感染症対策を続けていきたい。
(質問)これからインフルエンザの時期になるが。
→コロナとインフルエンザとワクチンを受けたらいいかどうかは、本当はわからない。コロナは落ち着いてきているが、このまま下がっていくとは思わず、コロナもインフルエンザも両方、注意していってください(回答 岡部さん)。
(3)ファシリテーター 東京農業大学大学院 桑田莉子さん
情報発信と情報の受け取りについて話し合った。
検査キットが今はだれでもできるようになったが、精度があまりよくないのに陰性で安心してしまっている人がいるリスクがあるではないか。ツイッターでもキットの精度についての信頼できる情報もある。正確な情報がなかなか受け取れない。
正しい情報と知識をとりいれて前に進みたいと思う。長いスパンでみれば、感染症を克服して、新しい当たり前ができるだろうと思う。
(4)ファシリテーター 東洋大学大学院生命科学研究科 鴨志田雄一朗さん
外に出られなかったのが嫌だった。そしてすべてのイベントが予約制になった。しかし、遠隔の学会にオンラインで参加できたり、社会活動の選択肢が増えたり、よいこともあった。2019年以前の生活に戻れたらいいが、そうなってもオンラインなどは活かしたままにしたい。
(質問)コロナのワクチンはこれからもうちつづけていくのか
→子どもの通常のワクチンでは5回するものもある。新たな病気に対する新しいワクチンなので、流行をみながらワクチンのタイミングはみていくことが必要。永久に今のスタイルが続くわけではない(回答 岡部さん)。
最後の岡部信彦さんから「『徹底的にしすぎない』ということも大事」という考え深いことばをいただきました。全員でコロナと前向きに向かい合って行こうという気持ちをこめて「絵馬」を書きました。