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  • 第4回JSSバイオカフェ「からだの輸送系と免疫系のしくみ」

    2022年11月28日、第4回JSSバイオカフェが開かれました(主催 日本科学協会)。
    お話は、実践女子大学生科学部食生活科学科 教授 山崎壮さんによる「からだの輸送系と免疫系のしくみ」でした。

    写真

    山崎さんのお話

    お話の主な内容

    1.からだの輸送系

    体の中には食物や水を運ぶ消化系、酸素や二酸化炭素を運ぶ呼吸系、老廃物などを体外に出す排出系がある。今回は、有害物質を、血液を使って運ぶ輸送系をとりあげる。
    (1)酸素ガス
    有機化合物は炭化水素の化合物でできている。水素が多いと還元性が高く、酸化されやすい。炭素は酸化されると二酸化炭素になり、水素は水になる。
    細胞にとりこまれた酸素ガス(酸素分子。以下は、単に「酸素」)から活性酸素が生成し、体内の様々な成分(有機化合物)を酸化してしまうので、酸素はきっちり管理しなくてはならない。活性酸素はミトコンドリアが酸素を取り込んで使うときに発生する。しかし、活性酸素は、白血球では異物をやっつけるのに使われ、役立つ場面もある。
    酸素は有害物質として働くことがあるので、酸素による酸化反応はほぼミトコンドリアに限定されている。体内でのそれ以外の酸化反応のほとんどは、水素と電子を引き抜く脱水素反応で進む。ここで酸素は働かない。
    血液中では、酸素はヘモグロビンに結合して全身に運ばれる。酸素はヘモグロビンに埋め込まれた荷台(ヘム)にしっかり結びつけて運ばれるので、害を及ぼさないように管理されている。
    ミトコンドリアの中で電子が電子伝達系を流れるとき、電子がもつエネルギーを使ってATPができる。流れてきた電子は酸素ガスに渡され、周囲の水素イオンと結合して水になる。

    (2)アンモニア
    私たちの体のタンパク質は絶えず作り変えられている。不要なタンパク質はアミノ酸に分解され、多くがリサイクルされる。余ったアミノ酸は窒素を含むアミノ基と炭素骨格部分に分解され、炭素骨格部分は有効利用される。
    アミノ酸から生成したアミノ基はアンモニアに変えられるが、アンモニアは強い神経毒なので、昏睡、死亡につながる。そこで、アンモニアを肝臓に運んで無害な尿素に変え、尿として体外に排出する。
    末梢組織で生成したアンモニアをそのまま血液で肝臓まで運ぶと、昏睡状態になる。そこで、アンモニアをグルタミン酸(末梢組織にたくさんある)に結合させてグルタミン(アミノ酸)に変換してから、血液で肝臓に運ぶ。従って血液中に最も多いアミノ酸がグルタミンである。

    (3)水に溶けない物質の運び方
    小腸から吸収された脂肪は水に溶けない。脂肪はどうやって血液で運ばれるのか。
    リポタンパク質の構造はリン脂質の膜でできた袋であり、袋の外側は親水性、内側は疎水性。真ん中の空洞に疎水性の脂肪を収納する。洗剤で油汚れを落とすときと同じ現象が起っている。脂肪だけでなく、脂溶性ビタミンとコレステロールもリポタンパク質によって運ばれている。

    2.免疫系のはなし

    (1)免疫系
    免疫系には2段階の防御システムがある。
    第一段階は、「自然免疫系」が異物に対して総合的初動対応を行う。働く細胞はマクロファージ、白血球(好酸球、好中球、好塩基球)、NK細胞、樹状細胞。樹状細胞は免疫系の司令塔といわれる。マクロファージと好中球は病原体を食べて、活性酸素で病原体を殺す。
    第二段階は、「獲得免疫系」が専門的本格対応。働くのは、リンパ球で、ヘルパーT細胞、キラーT細胞など。樹状細胞が「何が異物であるか」をリンパ球に知らせる(抗原提示)。リンパ球は特定の異物に対してだけ反応する(抗原特異的)。抗原ごとにたくさんの種類(クローン)のリンパ球がある。まるで専門医がたくさんいる感じだと思う。
    獲得免疫系には、体液性免疫と細胞性免疫がある。樹状細胞が抗原を提示すると、提示を受けたリンパ球は活性化されて、働く。
    「体液性免疫」:ヘルパーT細胞がB細胞を活性化してプラズマ細胞に成熟させ、抗体を放出する。遠距離から長距離誘導ミサイルを発射するように、抗体が遠方の病原体を殺したり不活性化したりする。
    「細胞性免疫」:ヘルパーT細胞はキラーT細胞を活性化する。キラーT細胞は病原体に感染してしまった細胞を壊す。あるいは、がん細胞や移植組織を破壊する。キラーT細胞は、陸軍兵隊が最前線で戦うイメージで、病原体を攻撃・殺す。

    (2)アレルギー

    「アレルギー反応」とは、免疫学的機序によって生体に不利益な症状がでる現象と定義されている。

    • 免疫グロブリンE(IgE)を介した反応は即時型アレルギーであり、アナフラキシーショック、じんましん、食物アレルギー、花粉症がある。
    • IgEと細胞性免疫が関わる反応にはアトピー性皮膚炎、気管支ぜんそくがある。
    • IgEが関与せず、細胞性免疫が関与する反応には、接触性皮膚炎(ラテックス、金属など)、セリアック病(小麦グルテンに対するアレルギー)がある。

    食物アレルギーと花粉症は即時型アレルギーであり、2時間以内で症状が出る。肥満細胞表面に結合していているIgEに抗原が結合すると、肥満細胞からヒスタミンが放出されて炎症反応が起こる。
    食物アレルギーの場合は、消化管からアレルゲンが吸収されると、樹状細胞がB細胞やT細胞に「これが抗原である」と提示する。ヘルパーT細胞がB細胞に抗体を作れ!と命令し、B細胞はプラズマ細胞に成熟して、IgA、IgG、IgEが産生される。IgAは腸管に入ってアレルゲンの腸管吸収を阻害する。IgEは肥満細胞に結合し、さらにそこに抗原が結合するとヒスタミンが放出されてアレルギー症状が起こる。
    消化管から進入する異物から身体を守るために「腸管免疫系」が働いているが、食べものは異物だが、栄養源なので、口から入る食品成分には「腸管免疫系」が働かないようにするしくみ「経口免疫寛容」が働いて、通常は食品成分にはアレルギー反応が起こらないようになっている。しかし、経口免疫寛容がうまくできないと食物アレルギーが起こる。経口免疫寛容がうまく働かなかった人では、その後、アトピー皮膚炎、気管支ぜんそく、鼻炎と進む「アレルギーマーチ」になりやすい。
    卵、牛乳、小麦粉の3大アレルゲンによりアレルギー症状が出る人は、アレルギー患者の3分の2を占める。ソバ、ラッカセイのアレルギー患者数は少ないが、症状が重いので注意が必要。

    3.新型コロナウィルスワクチン

    ウィルスの表面には「スパイクタンパク質」が存在し、それがウィルス特異的抗原になる。COVID-19(新型コロナ衛ルス)のスパイクタンパク質を認識する免疫を作っておけば、COVID-19がやってきたときにスムーズに免疫系が働く。
    COVID-19のワクチンは、mRNAワクチンという新しい技術で作られている。スパイクタンパク質をコードするmRNAを投与すると、ヒトの体内でスパイクタンパク質が合成され、それが抗原になって免疫ができる。投与されたmRNAはすぐに分解されるので、細胞のDNAに悪影響はない。mRNAワクチンの原理は以前から考えられていたが、実用化は不可能と言われていた。外来mRNAを細胞に導入すると細胞が炎症反応を起こして排除されてしまうことが大きな問題であった。カリコ博士が、炎症反応が起きないmRNAを合成して脂質ナノ粒子(ミセル)でmRNAを包んで細胞に送り込むしくみを開発して、mRNAワクチンを実用化させた。

    質疑応答

    • 肥満細胞はどこにあるのか
      →肥満細胞と肥満症は関係ない。肥満細胞は英語ではmast cellという。体内に広く存在しているが、皮膚、気管支、鼻粘膜などの炎症を起こしやすい場所に多く存在している。特異的な臓器に存在しているわけではない。肥満細胞の表面にはIgEが結合する。このIgEに抗原(アレルゲン)が結合すると、炎症反応が起こる。
    • 経口免疫寛容が働かない人は花粉症になるというが
      →経口免疫寛容ができるのに1年くらいかかるので、ゼロ歳から1歳で食物アレルギーが発症することがある。卵アレルギーが成長して治ることがあるのは、その人に経口免疫寛容ができたからかもしれない。逆に、小さい時にはアレルギーがなくても、大人になってから何らかのきっかけでアレルギーが起こることがある。なお、加齢で免疫反応は鈍くなるので、老人になると花粉症の症状が緩和することがある。 皮膚から吸収された抗原が原因で食物アレルギーが起きた例として、花粉症になると花粉のタンパク質と似た構造のタンパク質を含む食物に対して食物アレルギーになった例もある。
    • RNAワクチンとこれまでのワクチンの違いは何か
      →一般的なワクチンは、不活性化したウィルスや弱毒化したウィルスを投与して免疫をつくる。一方、mRNAワクチンはウィルスのスパイクタンパク質を作る遺伝情報であるmRNAを投与して細胞内でとスパイクタンパク質を作り、それをもとに免疫をつくる。ウィルス粒子を投与するわけではなく、スパイクタンパク質を作らせるだけなので、発症することはない。
    • ワクチンの副作用は危なくないか
      →心配なのはアナフラキシーショック。医薬品を作るときの成分(資質ナノ粒子を作るための成分)に対してアナフラキシーを起こす可能性がある。副反応として腕が痛いのは免疫反応が正常に起こっているからで、免疫反応が活発だと発熱、発赤、倦怠感が現れる。発熱や筋肉痛に対しては解熱鎮痛剤を服用するのがよい。

    今回はJSSバイオカフェシリーズの最終回でした。最後に日本科学協会 仙田明大さんからご参加いただいた方々へのお礼が伝えられました。

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