くらしとバイオプラザ21ロゴ
  • くらしとバイオニュース
  • 「ゲノム編集食品のリスクを議論する」

    2022年11月12日、第35回日本リスク学会年次大会 企画セッション「ゲノム編集食品のリスクを議論する」を食の安全と安心を科学する会(SFSS)と共同で企画し、参加しました。4名からの話題提供の後、SFSS山崎毅氏の司会で、意見交換を行いました。

    写真

    村中俊哉さん

    写真

    山﨑毅さん

    話題提供1「ゲノム編集食品のリスクコミニケーション」 

    大阪公立大学大学院農学研究科 小泉望氏

    日本ではゲノム編集技術を応用した農林水産物について、関係省庁で規制が作られ、2021年、GABAを多く含むトマト、肉厚タイ、成長の早いフグが上市された。上市前にもたびたびメディアに取り上げられた。厚生労働省、農林水産省、自治体もホームページ、パンフレットで情報提供を行った。その間、コミュニケ―ションも進み、生産者、市民、業界、アカデミアなどのステークホルダーが関わった。結果的に、サイレントマジョリティと呼ばれる人たちを除いては、多様なステークホルダーが同じ土俵に乗っている状況になっているといえるだろう。メディアもステークホルダー間のコミュニケーションを促す役割を担った。アカデミアとしては正確さを求めると、不安がゼロにならないところが悩ましい。積極的な情報開示を続けていくことが重要。

    話題提供2「生活協同組合と連携したワークショップからの学び」

    くらしとバイオプラザ21 佐々義子 真山武志 田中利一

    2012年から内閣府のプロジェクトでゲノム編集の社会実装にむけたサイエンスカフェや出前授業などを行ってきたが、実物がないと利用に対しては消極的な意見になることが多かった。そこで、ゲノム編集農林水産物を実際に研究開発されている研究者を招いて、生協の皆さんと「ステークホルダー会議」というワークショップを行った。生産者、事業者など、異なる立場のロールプレイをとりいれてみると、ゲノム編集食品を使ってみてもいいなどの肯定的な意見が聞かれるようになった。ゲーム感覚で楽しく、理解を深まったというコメントも頂いた。本ワークショップ手法の目的は情報提供だけでなく、異なる意見を聞き合い、他者理解であると考えている。

    話題提供3「ゲノム編集魚の社会実装の現状」

    京都大学大学院農学研究科 木下政人氏

    肉厚タイと成長の早いフグを研究・開発し、京都大学発ベンチャーとしてリージョナルフィッシュ(株)を設立、販売している。
    タイの場合、卵にゲノム編集技術を施し、3世代目で届け出を行った。ゲノム編集魚をつくってわかったことは、飼料効率がよいことで、同じ量の餌で肉量は14%増え、廃棄量は30%減った。また、飼料に対して得られる肉量を比べたら、ウシは1Kg の肉をつくるのに30Kgの穀物が必要。ブタは10Kg、魚は2.5Kgで、魚の育種は始まったばかりだが、効率よく得られるたんぱく源として期待できる。これらの製品はクラウドファンディング、ふるさと納税返礼品を通して消費者に届けられている。
    食品の安全性、環境への影響について、上市前から学校や市民講座などに積極的に参加し、中立な視点での報道に協力してきた。情報提供の最大の利点は、「わからない」といいう回答が激減すること。安心するかどうかは個人の問題だが、情報提供と食体験が一緒にできると、安心につながるのではないかと思う。

    話題提供4「農作物のゲノム編集と社会実装に向けて」

    大阪大学大学院工学研究科 村中俊哉氏

    トマトとジャガイモはナス科で、本来は毒性成分を持つが、トマトは作物化され育種の過程で毒性成分を克服できている。ジャガイモは世界で第4位の生産量でありながら、芽がでたところ、緑色になった部分に含まれる毒性成分による食中毒はなくならない。
    科学館、サイエンスコミュニケーターらと連携し、市民への情報提供を行ってきた。ゲノム編集技術によって、植物の遺伝子の狙った場所を書き換えられるようになったのは、つい最近であることから話し始める。ジャガイモの毒性成分を生合成する経路をゲノム編集でとめた結果、毒性成分が激減した。今は研究目的の野外栽培試験を行っている。社会実装に向けて研究者と事業者とで連携する協議会も設立し、活動している。大阪大学ELSI(倫理的法的社会的課題)センターも兼務しているので、農作物ゲノム編集技術について、ELSI課題解決の具体例として掘り下げていきたい。

    質疑応答

    話題提供で共通していたことのひとつは、理論的に不可能な表示を求める消費者の要望にいかに対応するかということでした。現在、上市されているトマト、タイ、トラフグでは積極的に自主的な表示が行われていますが、これからいろいろな小規模事業者が参入したり、海外から輸入されたりしたときに不安を感じる人は少なくありません。
    もうひとつは、感じている不安の理由を知ることの重要性でした。関連して、山崎さんからはSFSSで行っているスマートリスクコミュニケーションについて紹介されました。スマートリスクコミュニケーションとは、回答者の不安の理由について例文を示して質問するリスコミ手法です。
    一方、「ゲノム編集技術は遺伝子組換え技術でないので安全」という説明をしている研究者が少なからずいることについては、登壇者らはそのような誤解を生まないように心がけているということでした。
    いろいろなステークホルダーが対話することで、お互いのリスクやベネフィットに関する理解の乖離を埋めていかれることを期待したいものです。

    © 2002 Life & Bio plaza 21