セミナー「ヒトにも環境にも優しい食品添加物」開かれる
2022年9月30日「食のミライ技術フェア2022」において、「ヒトにも環境にも優しい食品添加物」第一部「食品添加物の不使用表示ガイドラインの意義と普及促進」、第二部「グローバル市場における食品添加物~規格の国際整合性と社会的役割」が開かれました。第一部に参加したので報告します。
今年3月末に公開された「食品添加物不使用表示に関するガイドライン」を中心に、概要の解説、策定の経緯、ガイドライン(以下GL)に定められた10の類型の一つである「化学調味料」という用語の扱い、消費者の受け止め方に関する情報提供が、関連する団体から行われました。本GLへの理解が深まるセミナーでした。参加した多くの事業者が、これからの食品添加物の表示の在り方を、真摯に検討されていることが伝わってきました。
「食品添加物の不使用表示に関するガイドラインについて」
消費者庁食品表示企画課 課長補佐 宇野真麻氏
これまで、使用している食品添加物の表示のルールはあったが、本GLは使っていない添加物の表示に関する考え方。不使用表示を使って差別化を図ってきた企業もあるが、これは消費者をミスリードする恐れがあることから、GL策定が決まった。
2019年4月から2020年4月で食品添加物表示制度検討会の報告書の中で、不使用表示に関するGL策定、「人工」「合成」等の用語削除が決まった。2020年7月、これらの用語が使えないことが公示され、2022年3月で猶予期間も終わった。
2021年3月から2022年3月、食品添加物の不使用表示に関するガイドライン検討会が全8回開催された。検討には、事業者だけでなく消費者団体、弁護士も加わった。
同時に、消費者の理解に関するアンケートが実施され、食品添加物について正確に知っている人は4割と低いことがわかった。GLは、不使用表示を一律に禁止するものではなく消費者を誤認させないことが一番の目的である。
食品表示基準Q&Aの別添と位置づけられ、食品表示基準第9条に抵触するおそれがある10の表示の類型がまとめられた。類型に該当したから一概に抵触すると決められるわけではない。ケースバイケースで全体をみて判断する。また、消費者が一括表示を見る妨げにならない表示であるかどうかも重要。
今後、消費者庁は普及啓発も積極的に行う。表示の見直し期間として2年を設けた。事業者の方は2024年3月末までに表示の点検を行い、見直してほしい。
質問 「pH調整剤としてクエン酸を入れている(菌の繁殖の抑制のため)が 保存料不使用と書いたら禁止事項に該当するか」
→pH調整剤を菌の繁殖の抑制を目的して使用したら、保存効果をコントロールするものなので、保存料不使用は問題があるのではないか。
ここで、座長(上田要一氏)からも発言がありました。「個々の食品添加物の効果は多岐にわたっている。同じ物質でも使い方で様々な効果が現れる。クエン酸には酸味料としての働きとあわせて、pH調整と保存性向上の使い方がある。使用の理由を消費者に問われたときに、クエン酸を菌の繁殖抑制に使用していたら保存性向上と受け取られるだろう。使用の目的を正確に伝える表示がよい」
「食品添加物の不使用表示関するガイドラインの概要と課題」
食品添加物協会 顧問 上田要一氏
食品添加物表示制度に関する検討
検討会報告書には以下のことが取りまとめられた。
- 現在の表示制度を基本的に維持(一括名表示、用途名併記、表示不要の対象には変更なし)
- 栄養強化剤の表示免除を対象から除外することについて今後検討すること
- 不使用表示のGLをつくること
- 「人工」「合成」などの用語は使わないこと
- 学校給食衛生管理基準における食品添加物に関する記述についての検討
食品添加物不使用表示に関する消費者アンケートから消費者の気持ちを推量してみる。「不使用表示をいつも買う人」は食品添加物への関心が高く一括表示をよくみるだろうから、表面の不使用表示にはあまり関心がないだろう。「同じ類の商品なら不使用表示を買う人」は安い、体に良い、おいしいを優先する人だろうから、商品表面の不使用表示をみて一括表示は見ないだろう。「気にせず購入している人」は国が認めている物しか使われていないはずと思っているだろう。このようにとらえ方は様々だが、私自身は消費者誤認を見込むのはよくないと思っている。
検討会でのいろいろな意見
事業者から「不使用表示は消費者ニーズに応えているだけ」という発言があった。また、「食品添加物を使わないための技術開発の企業努力を達成したことを不使用表示にしてもよいのではないか」と言う声もあった。
消費者からは「不使用表示を禁止すべきで、お墨付きGLにならないようにしてほしい。食品添加物への理解が進んでいないことが問題」という発言があった。
大手流通ヒヤリングは「不使用商品の開発は消費者ニーズにあっているが、食品添加物の背景には消費者の知識不足と企業への不信がある。これまで不使用表示をしてきたが、このGLをみて方針転換を考えている。任意表示でも人工、合成の用語はやめた。不使用表示是正のネックには公正競争規約 業界基準のバラツキがあり流通では困っている」
GL策定作業
検討会では、GLに積極的な意見と消極的な意見が検討会で出たが、400種類の食品表示を集め、12の「誤認する恐れの高い食品表示」のグループに分けられた。基準は食品衛生法第9条の次の3つの項目。
- 第1号
- 実際のものより著しく優良または有利であると誤認させる用語
- 第2号
- 第3条及び第4条の規定により表示すべき事項の内容と矛盾する用語
- 第3号
- その他内容物を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示
最終的に10の類型がまとまった。
- 類型1:
- 単なる無添加。検討会委員の多くが賛成
- 類型2:
- 「人工」「合成」「化学」「天然」とこれに同義の用語は食品基準に規定されていないので使用しない。
- 類型3:
- 使うはずのないものを「不使用」と書くことへは、ほぼ全員が反対で一致。
例)マヨネーズの乳化剤不使用、トマトケチャップの着色料不使用 - 類型4:
- 類似の機能を持つ食品添加物を使っている場合。全員で意見が一致。
- 例)
- 日持ち向上目的でグリシンを使い、グリシンと書く。
アルゴンガスや窒素ガスで酸素を置換して使っているのに酸化防止剤不使用と書く。
レトルトは保存性が高いのに保存料不使用と書く。
- 類型5:
- 同一機能、類似機能を持つ原材料を使用した場合。これは意見が割れ、一般飲食物添加物について検討会で共通認識ができなかった。
例)卵黄レシチンを乳化剤の代わりに使って、「乳化剤不使用・卵黄加工品使用」と書くと、卵黄レシチンは未指定食品添加物となる。 - 類型6:
- 健康や安全と関連付ける表示。全員が賛成。
- 類型7:
- 健康や安全以外と関連付ける表示。科学的に証明できない。
例)添加物がないのでおいしい - 類型8:
- 使う必要のないものを「不使用」と書く。コーデックスにも同じ項目がある。
例)保存性の高い冷凍食品に保存料不使用を書く。 - 類型9:
- 消泡剤などが製造工程で使われているのに、不使用と書く。
- 類型10:
- 過度な強調。この判断は難しい。
これから
食中毒に関連する恐れがあるケース、アレルゲン表示ではまだまだ工夫が必要。
食中毒:「保存料不使用なので開封後はお早めにお召し上がり下さい」と表示があった場合、保存料を使っていると開封しても大丈夫と誤解し食中毒につながる恐れがある。
アレルギー表示:アレルゲンとなる物質と保存料を同列に書いてしまう。
例)ダイズ、保存料不使用
パブリックコメントには、「公正取引規約も検討してほしい」「学校給食衛生管理基準の改正も検討してほしい」「ガイドラインでは中途半端だから、不使用表示は全面禁止すべき」「一括表示を見ない消費者のために見やすい不使用表示をのこすべき」などの意見があった。
GLでは容器包装の表示を対象としているが、消費者庁は広告宣伝についても景品表示法を鑑みていくといっている。不使用表示の取り組みは完結したわけではない。
質問 「天然の甘味料使用」「植物由来甘味料使用」は類型2に該当するだろうか
→「天然」という用語の定義が曖昧である以上、指導を受ける可能性があると食品添加物協会は考えている。植物由来甘味料使用については、消費者庁の考え方に従うのだと思う。
「うま味調味料の正しい理解の促進と、適正な表示の普及について」
日本うま味調味料協会 広報部会 部会長 門田浩子氏
はじめに
化学調味料という用語は、1962年「きょうの料理」(NHK)で、公共放送で商品名を出せないためにつくられた。当時は化学全盛の時代、最先端の便利な調味料を表す命名だったが、1970年代の公害による化学への不信、2000年代初めの食品偽装などで「化学」のイメージは変わった。
1968年の中華料理店症候群による誤解については、その後の研究でグルタミン酸ナトリウムとの因果関係が認められず、さらに膨大な研究データの審査を経て1987年、JECFA(FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives)が安全性を認めている。2002年にはうま味受容体が発見され、5番目の基本味として定着した。
日本うま味調味料協会で調査したところ、「化学調味料」の捉え方は様々で、「グルタミン酸は自然界に存在しない人工的物質だ」と思っている人が44%、化学調味料を摂ると健康に問題があると思っている人は45%だった。
無添加表示は消費者ニーズだというが、無添加表示によって安全性に対する誤認を招き、負のループにつながっている。うま味調味料の安全性は国内外で認められており、負のループを断ち切りたい。
食品添加物表示制度の見直し
検討会においても、「化学調味料不使用表示」について検討され、定義が不明確な化学調味料という用語の使用が消費者の食品添加物に対する理解に影響を与えていると言及された。GLは消費者の誤認を招かないようにするために策定された。事業者は「化学調味料不使用」と表示することによって消費者を誤認させないようにしたい。
GL発出後の活動
テレビ局114社に対し「うま味調味料に関する消費者の誤認を招かない適正表記」について勉強会を実施したところ、参加者から「化学調味料及び化学調味料無添加は不適切な表示であることや、GLの内容について理解が進んだ」「うま味調味料は減塩に役立つことを知った」という感想を多くいただいた。
グルタミン酸は、1908年 池田菊苗博士により昆布から発見され、その味が「うま味」と命名された。
うま味物質にはアミノ酸のグルタミン酸、核酸系のイノシン酸とグアニル酸がある。イノシン酸はかつお等の魚や肉類に含まれ、グアニル酸は干しシイタケにある。グルタミン酸はあらゆる食物に含まれ、ヒトをふくめてすべての生物は体内で合成することができる。現在、グルタミン酸はサトウキビ由来のトウミツや、キャッサバ等の澱粉由来の糖を発酵して製造している。
おいしい減塩に役立つうま味調味料
世界の栄養課題の内、食塩の過剰摂取は重大で、特に東アジアにおいては最大の栄養課題である。東京栄養サミット2021(オリンピック開催国で4年おきに開催)では、「過剰なナトリウム摂取」「若い女性の体重不足」などの問題に対処することが宣誓文に盛り込まれた。
2019年、WHOが掲げた減塩の目標は1日5g未満だが、日本人はその約倍の10gを日々摂っている。厚労省は実現目標として成人女性6.5g未満、成人男性7.5g未満を設定し、日本人の食塩の過剰摂取を改善する努力をしている。
うま味調味料には、甘味や塩味の感じ方を強めて苦味をやわらげる働きがある。そして、うま味を加えると、味噌の量を減じて40%ほど減塩してもおいしさを維持できる(うま味により塩味などの味わいが強まるため)ことも実証されている。うま味調味料を活用した減塩促進を進めていきたい。
「食品添加物不使用表示が消費者に与えたもの」
くらしとバイオプラザ21 佐々義子
くらしとバイオプラザ21は食のリスクコミュニケーションでは、遺伝子組換えやゲノム編集に関わることが多かったが、ヤマザキパンの意見表明以降、食品添加物をめぐる企業、消費者の間のこれまでのステレオタイプの関係が変わってきたように感じて注目してきた。
食品添加物に限らず、不使用表示は「〇〇不使用」という表示を見て、消費者が〇〇は健康によくないと思うきっかけになっていることがアンケート調査から明らかになっている。
その他の食品添加物を避けたい理由として、食品添加物のリスクを過大に報道するメディア、学校教育や家庭教育が挙げられている。
今回のGL策定により、不使用表示を目にする頻度が下がれば、不使用表示をみたことがきっかけで食品添加物を危険だと思う人は減るだろう。不適切な報道についてはファクトチェックなどの活動が盛んになっており、目に余る記事は減ってきているという人もいる。家庭科の先生方には理科の先生と連携して総合学習に取り組むなど、意欲的な取り組みをしている先生方もおられる。
今回のGL策定は、消費者をミスリードしないでほしいという声から始まった。本GLが、自ら情報を収集し適切に商品を選択できる消費者の育成につながることを期待したい。