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  • 「ゲノム編集技術で生まれた『褐変しにくいレタス』は食品ロス削減にどこまで貢献できるか」

    2022年7月29日、ウエビナー「ゲノム編集技術で生まれた『褐変しにくいレタス』は食品ロス削減にどこまで貢献できるか」(主催 ゲノム編集育種を考えるネットワーク)が開かれました。
    初めに司会者 笠井美恵子氏(NPO法人植物工場研究会 理事)より、ゲノム編集技術を使った農作物が、SDGsの中の貧困、飢餓、気候変動などの目標に貢献することが期待されていると説明がありました。

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    グリーンビーナス社副社長 ジェフ・タッチマン氏

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    ファシリテーター 笠井美恵子氏

    第一部 「食品ロスの現状および農林水産省における食品ロス削減対策」

    農林水産省大臣官房新事業・食品産業部
    外食・食文化課食品ロス・リサイクル対策室長 森幸子氏

    食品ロスには、食品を無駄にしないという目的(世界には飢餓があり日本のカロリー自給率は4割弱なのに貴重な食品を無駄にしている)と環境に与える影響(生産に用いたエネルギーが無駄になり、食品廃棄物は水分が多く処分で二酸化炭素が発生し費用もかかる)という二つの側面がある。現在、世界は2030年までに食品ロスを半減する目標を掲げている。日本の食品ロスの現状は、令和2年、522万トン(事業系のほうが少し多いが、家庭系とほぼ半々)。

    農水省の取り組み

    農水省では事業系食品ロスを担当。事業系には、製造業、外食、小売りなどの段階が含まれる。一般的に、先進国の食品ロスの総量は発展途上国より多く、中でも家庭系の占める割合が高い。発展途上国は収穫ロスなど事業系が多い。
    食品リサイクル法が2000年に制定され、事業者を対象に、食品ロスの発生抑制のための具体的方策を示し、出てしまった食品ロスはリサイクルすることを奨励している。その後、食品ロス削減推進法が2019年に制定され、家庭系も対象にしてさらに強化。国民各層が自主的に取り組むことを目指し、10月を食品ロス削減月間と定めた。
    事業者の支援だけでなく、教育、よい取り組みの顕彰、削減方法の研究、フードバンク活動支援(余った食品を困っている人に回す)など、食品ロスに関する取り組みは幅広い。

    事業系の食品ロスの発生要因と対策

    「商慣習」というものがある。製品ができて全賞味期間のうち3分の1をこえたら納品しない、3分の2をこえたら販売しないというルール。これを緩和したい。米国では納品は2分の1までで、フランスは3分の2と日本より長い。
    気象情報を取り入れた有効な発注など、最新技術を用いて解決を目指す。

    消費者への啓発活動

    店頭では賞味期限の短い食品を「手前から取る」ことを奨励。外食では食べきり、食べ残しは持ち帰る。持ち帰りバッグのネーミング、デザインの募集で関心を喚起。事業者からは食品ロス削減の呼びかけを行う。
    事業者も賞味期限を長くできる素材による包装、使いきれるような少量の個別包装などの工夫が進められている。さらに余った食品はフードバンクに送り、有効活用を図っている。

    第二部 「緑の革命の加速を目指してーなぜ褐変しいくレタスを開発したのか」

    グリーンビーナス社副社長 ジェフ・タッチマン氏

    冒頭、タッチマン氏から9分の動画が提供され、概要が説明されました。

    動画の概要

    グリーンビーナス社ではクリスパというゲノム編集技術を使って、褐変しにくいロメインレタスを開発。今は外食で利用されている。
    現在、袋詰めサラダの売り上げは107億ドル。収穫後の品質低下による食品ロスは金額にして30億ドル。これを改善できる可能性がある。
    我々は褐変しにくいレタスを世界で最初に作出。そのためには6つの遺伝子を改変しなくてはならなかったが、クリスパを用いて、製品のコンセプトの段階から商業試験までの期間はたったの18か月だった。
    外見は従来のレタスと変わらず、ほ場試験でも差異はなかった。プロの生産者による大規模生産試験を経て上市した。露地でも植物工場でも栽培できる。サイズは大きく、芯がしっかりしていて、捨てられる外側の葉が少ない高品質のレタス。
    加工施設での試験では、通常のレタスに比べ、7日後の褐変の程度は少なかった。収穫時に機械で傷がつかなければ27日間、日持ちした。これだと長距離輸送ができ、小売りでの日持ち(棚持ち)期間が延び、消費者が購入した後も新鮮さと品質を保つことができる。5種類のロメインレタスにゲノム編集をして、アリゾナ州とカリフォルニア州で、栽培適期が異なる品種のラインアップが増して栽培し、年間を通じて栽培できるようになった。
    同じ遺伝子をターゲットにしてアボカドでの試験をしている。2023年に実証実験を完了する予定。
    欧州でもゲノム編集食品の規制に関する議論が始まり、インドでは組換えとみなさないことが決まった。ゲノム編集食品を非遺伝子組換えとして扱えるので、ゲノム編集食品は国内外で上市しやすいと思う。

    質疑応答

    食生活ジャーナリストの小島正美さんが代表して質疑応答を行いました。

    • 袋詰めで売っているのか。
      →いいえ、今はレストランだけ。見た目も味もよくて評判がいい。
    • お客さんはゲノム編集レタスだと知っているか。
      →メニューで情報提供はしていない。
    • 一般論として、消費者やメディアはゲノム編集食品にどんな反応?
      →アメリカでは野菜果物のゲノム編集は始まったばかりで、反応はまだわからない。消費が増えると反応は広がるだろう。持続可能で気候変動に対応する品種は受容されるだろう。植物からつくる「肉」も受容はいい。
    • あなたのいるカリフォルニアは組換えに否定的で有機農業が好まれる印象があるが。
      →若い世代はより環境に関心が高く新技術の利用には肯定的。消費者にはゲノム編集を気にしている人もいるので慎重に対応していきたい。
    • 反対デモはないか。
      →ゲノム編集については、今まではない。否定的な報道もない。
    • 消費者に理解を促すにはどうしたらいいか。
      →我々は技術と製品のベネフィットを強調していく。外来遺伝子が入っていない。遺伝子組換えの場合は生産者のベネフィットが大きく、消費者メリットが見えにくかったと思う。
    • レタスの廃棄量が30億ドルというが、褐変せずに売れたら30億ドル分ということか。
      →流通すべてを通じたロスが30億ドルで、レタスのロスのうちの一部が褐変によるロスだと考えられるので、30億ドルよりは少ないだろう。また、レタスは長く置けば褐変以外の理由でも品質が劣化するので、ロスはゼロにはならない。
    • 利用されているレタスが褐変しにくい物に全部が置き換わったら、どの程度改善されるか。
      →食品ロスの40%が消費者の段階で生じている。その半分を鮮度が下がったためと考えると、20%が褐変防止で改善されるのではないか。
    • 6つの遺伝子を改変させたが、他の方法ではできないのか。
      →褐変に関係するポリフェノールオキシダーゼをつくる18の遺伝子のうちの6個を不活化したら、自然褐変を抑えられた。ポリフェノールオキシダーゼの遺伝子の変異は自然には起きないので、従来育種ではつくれないだろう。 
    • 6つもの遺伝子を変化させて問題はないか。
      →ポリフェノールオキシダーゼをつくる18の遺伝子の中で、褐変を防ぐことができて、その他の特性に影響を与えない6つの遺伝子を特定し変化させた。今回、改変させた6つの遺伝子を操作しても品質低下がないことを確認している。
    • オランダでは褐変しにくいKNOXレタスを販売している。KNOXでも同じ遺伝子に変化を起こしているのか。
      →KNOXの遺伝子について公開情報はないので、わからない。
    • 植物工場では、栄養不足で褐変することがあるが、ゲノム編集レタスでも起こるか。
      →グリーンビーナスは露地でも植物工場でも栽培できる。栄養不足による褐変には耐性がある。宿主はグリーンフォレストと言う日持ちがいいレタス。
    • ロメインレタス以外にもゲノム編集をやるか。
      →玉レタスのアイズバーグ、レッドロメイン、ホウレンソウなど。
    • FDAに申請したか。
      →届け出て、いろいろな情報を提供し、規制対象かどうかを調べてもらった。どんな遺伝子が変化したか。栄養に変化はないかなどの試験結果を提出。ポリフェノールオキシダーゼの失活は新しいものではない。組換えの規制対象外と判断された。
    • 特許料は普及の壁にならないか。
      →特許料は払ってこの技術を使っているが、使えないほどは高くはない。
    • 今後の展望
      →目標は消費者メリットのある作物をつくる。ゲノム編集食品の経験を広げ食品ロスを減らすような作物を作出したい。また将来的には、種のないアボカドや干ばつ耐性・耐塩性作物。油糧作物の油の量を増やすといった品種改良。
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