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  • サイエンスカフェみたか「植物はスゴい!―過酷な環境でも生き残るしくみ」

    2022年5月26日 サイエンスカフェみたかを開きました(三鷹ネットワーク大学推進機構におけるオンライン講座)。お話は東洋大学生命科学部応用生物科学科 教授 梅原三貴久さんによる「植物はスゴい!―過酷な環境でも生き残るしくみ」でした。本サイエンスカフェは国際植物の日のイベントとして登録されています。

    https://plantday18may.org/category/asia/japan/

    始まりは、クイズ「植物とは?」でした。参加者がいろいろなコメントをチャットに書きました。「動けない」「光合成をする」「動物の食べ物になる」「他の生物を利用する」「細胞壁がある」「葉緑体がある」などのコメントが書かれました。
    「動けないといっても伸びるたびに根本が腐って、移動していくようにみえるサボテンがある」とか、「葉緑体を持たずに他の植物に寄生している植物もある」とか、いろいろな例外が示されて、植物は多様だと参加者が共通認識を持ったところでお話が始まりました。

    写真

    「植物は多様性があり、例外も多くあります」

    主なお話の内容

    1. 植物成長制御機構の解明


      私の研究のテーマは植物成長制御のしくみについて調べることで、次のような材料を使って、いろいろな研究をしている。

      • イネのストリゴラクトンという植物ホルモンの働きと、栄養がない時の状態
      • トマトのストリゴラクトン欠損系統(ストリゴラクトンを出さないと寄生植物に狙われない)の有効活用
      • トコンの不定芽形成のしくみ
      • 多肉植物の葉ざし(無性生殖のしくみ)
      • ギョウジャニンニクの不定芽形成効率の向上
      • タケの地下茎

      今日はストリゴラクトンを中心にお話しする。

    2. イネのストリゴラクトンの生理作用

      ストリゴラクトンとは植物ホルモン(微量で植物体の形、反応を制御する働きを持つ)の一つで、ソルガムの根に寄生するストライガ(根に寄生する植物)の種子が発芽するような刺激を与えることがわかっていた(1966年)。2005年、ストリゴラクトンは土壌微生物、アーバスキュラー菌根菌の菌糸の分岐を促すことが日本人の研究者によって解明された。2008年、私はストリゴラクトンが植物の枝分かれを制御するように働くことを見つけた。
      今では30種類くらいのストリゴラクトンが見つかり、化学構造もわかっている。ストリゴラクトンは、植物組織1㎎に10-100pg(pgピコグラムは1㎎の1000分の1の、1000分の1の、1000分の1)と非常に微量にしか含まれていない。質量分析計LC-MS/MSという先端の機器を使って分析している。
      イネのストリゴラクトンの研究を進めると、栄養があるときは枝分かれを進めて、どんどん成長するが、リンだけでなく、窒素、硫黄がない時には、ストリゴラクトンを根から出して、アーバスキュラー菌根菌の菌糸を介して土中の栄養を受け取るように働いていた。葉を老化させてその栄養を再配分する役割にも関わっている。葉の角度が大きいと広い所に植えられている1個体の光合成にはよいが、密植のときには葉があまり開かないほうがいい。この角度の調節にもストリゴラクトンが関与していることがわかった。

    3. 根に寄生する植物

      ストリゴラクトンは植物のために働くホルモンだが、植物には迷惑な、根に寄生する植物を発芽させる働きもある。ソルガム(イネ科)に寄生するストライガーという植物の茎は緑色だが葉はない。ニンジン(双子葉)に寄生するオロバンキは茎も茶色で光合成をしない。ストライガーもオロバンキモも、寄生した植物から栄養を奪っている。
      私はトルコを訪ねてトマトに寄生する植物について調べたが、トルコの4万haのトマトの耕作地の80%が被害を受けている。ストリゴラクトンを作れない品種のトマトを使って、寄生植物の被害を受けないようにする研究をしている。
      たとえ、植物がストリゴラクトンを根から分泌しなくても、寄生植物の繁殖力は旺盛で、10万粒もの種子をつくり、これを羊が運び、寄生植物は作物のそばに来てしまう。

    4. トコン

      トコンという植物の茎の断片を培地に置くと、植物ホルモンがなくても芽が出る(普通はオーキシンという植物ホルモンが発芽させるのに)。また、ストリゴラクトンの阻害剤を与えると(ストリゴラクトンが働かなくなり)、トコンの芽が増えることもわかった。
      このように植物によって適した培養条件(ホルモン、光など)は異なっており、この仕組みを利用すると、効率的に植物を再生することができるだろう。

    5. 植物ホルモンの利用

      多肉植物のオボロヅキは葉をさしておくと根が出る。初めは挿した葉の中の栄養を使っているが、使い終わると根から栄養を吸収する。多肉植物を食用として売るときには、根が出てしおれると困るので、アブシジン酸というホルモンで芽の再生を抑えて長期間、安定させて販売する。
      ギョウジャニンニクは成長して商品となるのに年数がかかる。サイトカイニンで早く芽を出させられることがわかった。早く発芽させ、生産効率向上を期待している。

    質疑応答(○は参加者、→はスピーカー)

    • 寄生された植物はどうなるか
      →ストライガの場合はソルガムを枯らし砂漠にしてしまう。オロバンキは赤クローバーと共生し、相手を生かしている。
    • ストリゴラクトンをどうして見つけたのか
      →理化学研究所にいたときに、メインでない研究で、イネにストリゴラクトンをかけておいていたら、枝分かれが抑えられていたのを発見して驚いた。イネは窒素、リン、硫黄が欠乏するとストリゴラクトンを出すが、ソルガムは窒素とリンが欠乏した時にストリゴラクトンをだす。だんだんに、植物によって異なるストリゴラクトンと、共通しているストリゴラクトンがあることがわかった。
    • ストリゴラクトンを出さない植物はあるか
      →少ししか出さない植物はあるが、出さないことの証明は難しい。
    • ストライガの被害を防ぐ方法はあるか
      →ない。ストリゴラクトンに似た物質を畑にまいてストライガを自殺発芽させる方法はあるが、ストリゴラクトンの合成にはコストがかかる。私たちはストリゴラクトンを作らない植物を作ろうとしている。ただし、ストリゴラクトンがないと枝分かれ制御ができず、枝が増えてしまう。
      理研では植物体の中にストライガを入り込ませないようにする研究をして、予防策を考えている。
    • 植物に寄生できない状況のストライガはどうなるのか
      →発芽がせずに機会を待つ。
    • 菌根菌は初め、植物に呼び寄せられるのか
      →菌根菌はある物質を出して、自分の存在を植物に知らせる。植物はストリゴラクトンを出して、菌根菌の菌糸を分岐させて、菌糸を介して植物に栄養を届けてもらう。
    • 寄生された植物は寄生植物に抵抗するのか
      →寄生植物に吸機を作られてしまったら、手の打ちようがない。
    • ストライガーに見つかるリスクがあるのに、なぜ、植物はストリゴラクトンを出すのか
      →植物が共生菌を呼び寄せ、栄養を効率的に使い、葉の老化を促すためにストリゴラクトンを作る。この仕組みは4億年前にできた。ストライガーはこの仕組みができてから誕生した。
    • アレロパシーの自由研究がしたい
      →セイタカアワダチソウが有名だが、セイタカアワダチソウが生えるのは秋なので夏休みには間に合わないかもしれない。

    ★この質問に対して、サルビア、ヒマワリのアレロパシーに関する研究報告があり、これらの種は入手しやすいので、夏休みの自由研究にしてはどうかというコメントと参考文献が梅原さんから質問者に届けられました。

    根に寄生する植物が作物に大きな被害を与えていること、そこには植物のホルモンが深く関わっていること。知らなかったことがいっぱいで、たっぷり1時間の質疑応答では次から次に質問がでてきました。気が付けばあっという間の2時間のサイエンスカフェでした。

    参考サイト

    東洋大学 梅原先生の研究室のサイト

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