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  • 食のリスクコミュニケーション・フォーラム「食品添加物の不使用表示ついて」

    2022年4月24日、SFSS 食のリスクコミュニケーション・フォーラム2022第1回「食品添加物の不使用表示ついて」がオンラインで開かれ、東京大学農学部フードサイエンス棟から配信されました(主催 食の安全と安心を科学する会 SFSS)。

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    宇野真麻氏

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    佐々義子

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    小島正美氏

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    パネルディスカッション風景

    (写真提供 食の安全と安心を科学する会)

    話題提供

    1.「食品添加物の不使用表示に関するガイドラインについて」

    消費者庁食品表示企画課 課長補佐 宇野真麻氏

    使用している食品添加物の表示にはルールがあるが、使っていない食品添加物の表示にはルールはなく、現状、事業者が任意で表示を行っている。不使用表示の一部が消費者を誤認させているという指摘から、本ガイドライン(以下 GL)が策定された。

    義務表示事項としての添加物表示

    食品添加物は食品衛生表第4条に利用目的などが定義されており、472品目の指定添加物の使用が認められている。例外的に認められているのは、357品目の既存添加物、約600品目の天然香料、約100品目の一般飲食物添加物の3つのグループである。
    新しい食品添加物は厚労大臣に申請し、食品安全委員会の評価を得て、指定される。消費者庁は表示について検討する。
    使用した添加物はすべての物質名で表示するという原則のもと、一括名でいいもの、用途名を併記しないといけないもの、表示不要のものが決められている。このルールは今回のGLができても変わらない。

    ガイドライン策定の経緯

    2019年より食品添加物表示制度に関する検討会が消費者庁で開かれ、報告書が2020年3月に公開された。報告書のポイントは、次の4点。

    • 一括名、簡略名、類別名表示と用途名表示は現行制度を維持。事業者による自主的な情報提供は奨励
    • 無添加、不使用表示は表示禁止事項に該当するかを検討し、ガイドラインを策定する。同時に誤認防止のために「人工」「合成」の用語を削除する。
    • 栄養強化目的で使用した添加物はすべての加工食品に表示する方向で、検討が必要。
    • 食品添加物の普及・啓発活動を推進する。

    食品添加物の不使用表示関するガイドライン

    検討会では、消費者、事業者、流通などからヒヤリングを行い、約200アイテムの実際の商品写真を使い、現状を踏まえることを重視して検討した。策定したガイドラインは、食品表示基準Q&Aの別添とし、事業者が自己点検を行うときに用いることができるものと位置付けた。ガイドラインの目標は不使用表示の一律禁止よりも誤認防止であると考えている。不使用表示は任意表示なので、最終的には事業者の判断に委ねることになる。
    誤認を与えやすい表示を10の類型に整理した。類型に該当すると、食品基準第9条に抵触する恐れがあるのでよく考えて表示してもらいたい。消費者庁では類型に該当するかどうかでアウト、セーフを判定するのではなく、全体として総合的に評価する。
    類型1:単なる「無添加」表示(何が無添加かわからない)。
    類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用(合成着色料など)。
    類型3:食品添加物の使用が法令で認められていないものについて不使用と表示。
    類型4:同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使っているのに、特定の食品添加物料不使用と表示。
    類型5:同一機能・類似機能を持つ原材料を使用しているのに、特定の食品添加物不使用と表示。
    類型6:食品添加物不使用と健康、安全と結びつける。
    類型7:食品添加物不使用と健康安全以外の用語(おいしさなど)と結びつける。
    類型8:使用が予期されない食品添加物を不使用と表示。
    類型9:加工助剤、キャリオーバーなど最終製品で確認できないものについて食品添加物不使用と表示。
    類型10:過度に強調された表示。

    普及・啓発活動

    行政は事業者のGL活用について普及・啓発をしていく。
    事業者は消費者を誤認させないように注意してもらい、消費者には食品添加物について考えてもらえるようにアプローチする。食品添加物への誤認による不安感が解消されるように理解を促す。

    表示の見直し期間

    GLは食品表示基準Q&Aの別添として位置づけている。通知なので、従来は経過措置期間を設けないが、実行可能性から令和6年3月末までに見直しが求められる。レトルト食品のように賞味期限が2年以上の食品を回収することはない。

    2.「“○○でない”表示で広まるリスク誤認」

    くらしとバイオプラザ21  佐々義子

    消費者の受け止め方

    GL策定の背景にある消費者の認識を消費者庁、食品安全委員会のアンケート調査から調べてみると、根底には「天然自然は安全で、人工は危険」という思い込みがあり、食品添加物不使用と表示した食品を求める消費者は約70%で、多くの消費者が食品添加物を避けるために“○○でない”表示をみていることがわかった。

    食品添加物になぜ不安を抱くようになるのか

    上記のアンケートによると、食品添加物不使用・無添加の表示をみて、食品添加物に不安を抱くようになった人が最も多かった。次にセンセーショナルな報道によって不安を抱く人が多く、順位は低いが、学校教育・家庭教育の中で不安を抱くようになった人もいた。これらのことからも食品添加物不使用・無添加表示に影響される人が多いことが理解される。

    リスクコミュニケーション

    一般市民においては、ある科学技術の成果に関して提供される情報量が増えると、ある程度までは受容度が上がるが、それを超えると受容度が下がることが心理学の研究から分かっている。適切な情報を得、消費者が選択して受容度が下がることはあるが、不適切な情報で受容度が下がるのは、リスクコミュニケーションを行う立場として残念に思う。リスクコミュニケーションでは、リスクとベネフィットだけでなく、感情的な要因やいろいろな因子が関係する複合的な要因が重要であることも心理学に研究で解明されている。幅広い視点からリスクコミュニケーションが重要だ。

    これから

    食品添加物に不安を抱く様々な理由への対策を考えてみたい。不適切な報道やセミナーなどにはファクトチェックを行う活動が行われている。家庭科の先生の中には資料集を使って新しい情報をとりいれたり、理科の先生と取り組んだりしている先生たちもいる。消費者が自分の衣食住医に気を配ることも、消費者基本法などで求められている。
    今回、GLができて、食品添加物への認識が変わっていくことを期待したい。

    3.「無添加ガイドライン これからどうなるか ~報道の構図と対策~」

    食品安全情報ネットワーク(FSIN)共同代表 小島正美氏

    本ガイドラインはメディア空間でどのように扱われたか

    3月31日 東京新聞の第一面で「無添加表示厳しく、企業は戸惑い、消費者団体反発」という記事が出た。消費者は食品の選択が難しくなり、無添加表示をしている事業者はセールスポイントを失う。違反時には罰則もあるという内容。この後の版では誰かが指摘したのか、罰則の部分が修正されていた。そこには、無添加辛子明太子の会社とパルシステムのコメントが引用され、学者のコメントはなかった。
    この記事は、一部のラジオ、テレビ、日刊ゲンダイ、女性自身の報道につながり、SNSでは多く引用された。無添加表示がビジネスになっていることや、消費者の誤認予防という検討会の議論には触れていない。
    3月25日、読売新聞も本ガイドラインに関する記事を出したが、東京新聞に比べて地味だった。消費者庁での検討会のことが伝わらなくて残念だと思う。

    背景

    記者に好まれる価値観(経済より命、効率より平等など)というものがあると思う。
    例えば、朝日新聞 「腸内環境を若く保つ」という記事では、都市化工業化、薬剤・化学物質、食品添加物は腸内環境を老いさせる要因と書いている。これには、食品安全情報ネットワーク(FSIN)から意見書を送り、「訂正しない」という返事をもらっている。
    遺伝子組換え、残留農薬、子宮頸がんワクチンなどの報道スタンスをみると、多くの科学者が安全を認め、少数の科学者が危険だというときに、記事にされる傾向があるようだ。

    政治家と市民団体のつながり

    このようなリスクに関する報道を見ると、政治家とのつながりの影響もありそうだ。子宮頸がんワクチンの場合、与党の側にHPVワクチン接種を押し進める目的で集まった議員連盟があり、野党にも同ワクチンに反対する議連があり、対立の構図がある。食品添加物や農薬のリスクを正しく理解してもらうことを目的とする議連はない。
    本GLに関しては、3月15日の議員会館で行われた食品添加物不使用表示GLに関する説明会(事業者を困惑させ、消費者の選択の幅を狭めるという考え方)は、記者にそれなりに影響を与え、これは記事になった。
    事業者のパワーバランスも働いているのではないか。無添加表示を行うことで、子どもに食べさせたい安全で安心な食材、食品添加物不使用、有機野菜、化学農薬化学肥料不使用をセールスポイントにする一部の生協などは利益を得るだろう。
    自身を肯定するよりも、相手を悪く言うことでビジネスが成り立っている側面がある。

    これから

    食のリスクに関する正確な情報を提供しようとしている企業もある。グルタミン酸ナトリウムの理解を進める「味の素」は「食と健康のみらいフォーラム」を継続している。山崎製パンは「イーストフード、乳化剤不使用表示」に対する意見を表明した。このように、メーカーが自信を持ってアクションを起こすとちゃんと掲載されるので、事業者も情報発信をしてほしい。
    GLができて、消費者団体が不適切な表示例をメディアに示したりすることも予想される。消費者庁は10の類型をニュースにしてもらう努力をしてほしい。
    国立がん研究センターは継続して、記者セミナーを開き、自分も含めて200人以上のメディアががんの治療、統計、有意差の計算方法を学んだ。消費者庁もサウンドバイト(20秒以内でいかに上手に言えるか!わかりやすく記憶に残る情報を出せるか)なども採り入れ、記者レクを行い、メディアをひきつけてほしい。

    パネルディスカッション

    参加者、講師は、SFSS山崎毅理事長のファシリテーションのもと、事前質問を中心に意見交換を行いました。

    • 明らかに類型にはずれたものについて
      →容器包装上の表示だけがGLの対象。景品表示法の優良誤認などで取り締まることは考えられるかもしれない。2年後からは行政処分ということはありえない。
    • 食品添加物のリテラシー向上について
      →消費者庁の研修会は実施している。消費者、事業者、自治体の依頼で講演を行っており、添加物とはという話から始めている。こういう機会を繰り返していく。
    • 食品添加物表示の豆知識に、今回の不使用GLも加えてほしい。
    • 違反時に罰則と東京新聞にでたが、本当ですか
      →食品表示基準第9条には指示、命令、罰則はあるが。9条の解釈を示したGLなので、類型に該当するだけで9条に抵触したということではなく、全体的な考察が必要と考えている。
    • 学校教育関係の連携は
      →厚労省、農水省と消費者庁は常に密に連絡をとりあっている。学校関係はそう密ではないが、パブコメで学校給食関する意見が出たので、これは文科省と共有した。
    • 家庭科の授業で無添加が推奨されているというが
      →家庭科の教科書には食品添加物の最新情報が載っているので問題はそんなにないと思う。家庭科は時間数が少なく、教員不足でもある。高齢の非常勤講師には情報がリバイスされていない人もいるかもしれない。
    • 食品表示基準9条に抵触するかどうかの線引きについて
      →すべて不使用表示を網羅できているわけではなく、ケースバイケースで考えるので、GLで線引きはできていない。
    • 表示の市場調査について→消費者庁では継続して調査していく。
    • 本当はすぐに変えてほしいところだが、実施可能性の点から2年後までに見直すとしたことへの説明
      →基準改正ではないので即スタートと考えていたが、パブコメで意見を活かして、表示は安全性に直結しているわけではないこともあり、2年を目途とした。

    食品添加物を、消費者が納得して選んでいけるように、くらしとバイオプラザ21も活動していきたいと思います。

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